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2章 拠点編

44話 元奴隷は方法を話す

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俺はクラノスケの質問に首を傾げた。
どう殺しに慣れたかなんて、なぜ聞くのかと考えていると、クラノスケは頭を振って何かを振り払うようにしてから、再度質問してきた。

「すまない、言葉が足りなかったな。人を殺す事に慣れた理由を聞きたかったんだ」

俺はそこまでいわれて、クラノスケがようやく何を聞きたかったのかを理解した。
それからどう答えるべきかを少し考えて、クラノスケの質問に答えた。

「人殺しに慣れる方法は2つだけだ。だが、どちらの方法も危険過ぎるし、慣れる前に潰れる可能性の方が高い。止めておけ」

俺がそう言うと、俺の前に回り込んで頭を下げて来た。

「ま、待ってくれ。頼む、教えてくれ」

俺は必死な姿のクラノスケに疑問に思って、質問した。

「なぜ、そこまで慣れたい?」

「俺は、俺達は無代に頼り過ぎている。それは分かっているつもりだった。だが、今回は人殺しまで無代に押し付けてしまった。

今度があるなんて思いたく無い、だが舌苔が無い以上は、覚悟を決めておかないといけない。

別に殺人に慣れたい訳じゃない。どうやって覚悟を決めたのか、知りたかったんだ」

「なら、なおさら止めておけ。人を殺す覚悟は、人に言われて決めたりするものじゃない。

仮に、人に言われて覚悟を決めた奴が居たとしたら、そいつは覚悟をした気になっている奴か操り人形になってる奴だ」

俺がそう言うと、クラノスケは固まった。
それから、すぐにクラノスケは顔を上げて驚いた表情を見せた。

「ちょ、ちょっと待て。それなら、朝俺達に殺せと言ったのはなんでだ?」

「そんなもの、先に知っていたほうが、覚悟しやすいだろうからだ。まあ、あまり意味はなかったようだがな」

俺がそう言って、クラノスケを抜いて前に歩いて行こうとすると、クラノスケは俺の両肩を掴んで歩みを止めてきた。

「それでも頼む、教えてくれ」

クラノスケは再び必死に頭を下げて来た。
それを見て、俺は肩に乗っている手を除けてから、ため息をついた。

「はぁ~、分かったから頭を上げろ。人殺しに慣れる方法を教えよう。だが、実践はするなよ」

「助かる」

顔を上げてそう言ったクラノスケのは、俺が教えた方法をやりそうだったので、俺は少し口調を強めて言った。

「俺が知ってる方法は2つだけだ。だが、どちらもゴミみたいな方法だ。1つは狂う事、もう1つは何も感じなくなるまで繰り返す事だ」

「狂う?繰り返す?」

「ああ、どちらかといえば前者の方が簡単だ。因みに俺は前者で、狂った方法だが、人型の魔物を相手に痛ぶり殺したり、自分で残虐だと思う方法で殺したりする。

その後で、空想で魔物を人間に置き換えて、吐き気を催したり、罪悪感を感じなくなるまで繰り返すだけだ。

ただ魔物を痛ぶり殺す最中で、少しでも楽しいと思ったら、すぐに止めろ。そのまま続けると快楽目的で人間を殺しかねない

後者は、説明するまでもなく理解できるだろう?」

俺がそう言うと、クラノスケは有り得ない物を見る目で俺を見てきた。
俺はそんなクラノスケに戯けたように言った。

「まあ、どちらもやらないことだ」

「ろ、ロキは、それをやったのか?」

「それを聞くか?」

俺がそう言うと、クラノスケはフラフラとしながら何も言わずに建物の中に戻って行った。
それを見送ってから、俺は俺達の位置から影になって見えなかった場所を見ながら言った。

「おい、そこに居るのはムタイとワタナベだな?さっさと出て来い」

俺がそう言うと、2人は大人しく建物の影から出て来た。
それから気不味そうに顔を伏せて謝罪してきた。

「その、すまない、ロキ。立ち聞きしてしまって」

「ごめんなさい」

「別に構わないし、内心でどう思おうと勝手だが、態度には出してくれるなよ?」

「「もちろんだ(よ)」」

2人揃って言ったのを聞いて、それなら口止めも要らないかと思い、歩き出そうとしたが、2人はそんな俺の前に回り込んで言葉を続けた。

「だが、実際に慣れている訳ではないだろう?それくらいは、あの家の時に分かった」

「そうだね。あの時、そこまで顔に出して無かったけど、少し辛そうにしてたように見えたしね」

「それなら、その辛さを少しでも緩和させるだけだ。なにせ、私とロキはパーティーだからな」

「ハク程は強い理由がないけど、屋上で私を庇ってくれたからね。私もハクと同じで緩和させてあげる」

そう言って2人は笑った。
そんな2人が面白くて、少し吹いてしまった。

「ふっ、俺がお前らに慰められる程落ち込んでいるわけ無いだろ?

確かに、子供を殺すのは少しキツかったが、その後のキラーアント種のせいで、それも忘れてたくらいだ。

むしろ、お前ら2人が俺の傷に塩を塗り込んで来てる。お前らが俺の傷心に漬け込んでくる奴らだったなんて、俺は悲しいぞ?」

俺が小さく吹いてから、顔を隠して少し悲しそうな声で、言うと2人は今までに無い程慌てた。

「な、何!?そ、それはすまない。わ、悪気は無かったんだ。そ、そうだな、あまり思い出したくないに決まってるな」

「た、確かにそうだね。ごめんね、デリカシーが無かったよ」

2人が本気で反省している声で言ったのを聞いて、俺は顔を隠していた手を少しだけ除けた。
手を除けた場所から見えている2人が、まるで捨てられた子犬の様に見えて、つい吹き出してしまった。

「ぷっ、くっ、ふはっ」

俺が体を小さく震わせているのを見て、2人は俺にがからかわれた事を即座に理解したらしく、怖い笑顔で俺に笑いかけて来た。

「「ロキ?」」

そのあまりに低い声と怖い笑顔に体をビクリと反応させて、即座に弁明をした。

「ま、待て待て、そう怒るなよ。確かに今のは俺も悪かったが、それはお互い様だろ?」

俺の言葉に、それはそうかと2人は怖い笑顔を引っ込めた。
それを見て、俺は落ち着いてから2人に聞いた。

「それで?お前ら2人は、どうして俺の所に来たんだ?お前達も、何か聞きたいことがあったのか?」

「ああ、私がロキを探しているときに瀬里香と合流して、そのまま来たんだ」

「俺を探していた?なんでだ?」

俺の質問に、ムタイは少し困りながら言った。

「いや、何か違和感がないか?」

「違和感?特に感じないが、なんでだ?」

「ロキが帰って来る前から、感じていた事なんだが、少し胸が苦しい気がするんだ」

「はい?それは、あれか?俺に服を脱がせろとでも言ってるのか?」

俺がそう言うと、ムタイは驚いた様に体をビクリと反応させたが、ワタナベがムタイの変わりに話しだした。

「流石のハクでも、そこまでの冗談は言わないし、仮に言ったとしても、もう少しロマンチックな所で言うと思うよ?」

「それなら、ますます意味がわからないんだが?」

「ん~、なんて言ったらいいのかな?なんか、漠然とした不安があるんだよね」

「それは拠点を移動するからじゃなあのか?」

俺の言葉にワタナベと復活したムタイは首を横に振った。
俺がイマイチよく分からない事態に首を傾げていると、突然大きく地面が揺れた。



※明日から1日1回、16:50分の投稿のみになります
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