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2章 拠点編

40話 元奴隷は眼鏡を殴る

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「はぁ、はぁ。なんで、群れの中核を始末してから、こんな疲れないといけないんだ」

俺は張り付いていたキラーアント種を全部始末してから、軽く肩で息をしながら、愚痴を言いつつ行った。

というか、3階よりも上にある結界の外に誰も居ないのに驚いた。
周りにはキラーアント種の血である緑色一色で、人間の血は見つからなかった。

それからなんでこんな事になっているんだと、文句を言おうと結界に近寄ったが、結界の中は一切見えず、俺が触れても結界の中に入れなかった。

まさか、俺の『暴飲暴食』の効果の変身の余波で入れないのかと思ったが、流石にそれは無いかと思い直した。
それなら何故入れないのかと思い、とりあえず結界に一番近づける階段や止まっているエスカレーターを全て回ってみた。

しかし、その何処からも入ることは出来なかった。
それから首を捻りながら、外からも侵入を試したが、入れる場所は無かった。

そんなこんなをしていると、外が完全に暗くなってしまった。
キラーアント種の巣から出た時点で、外は夕方だったが、今はもう完全に真っ暗だ。

流石に、明かりもなくうろつくのは危険だが、明かりを灯したら星の光くらいしかない暗闇のせいで、周囲の魔物に自分の位置を教えるようなもの。
それなら下手に動かない方がいいと、俺は結界の上に乗って、ポーチからキラーアントを取り出して食った。

それに昨日は気づかなかったが、あの結界は中が軽く発光していたらしい。
ただ、今日の結界は外が光ってないので、内側だけ光仕様なのだろう。
魔物を通さない結界だけでも凄いのに、その結界を発光させるなんて、ワタナベは天才だったんだな。

そんな事を考えていた時、突如として足元の結界のヒビが広がった。
それに気付き、『浮遊』という浮くだけのスキルを使い、結界に体重を乗せるのを止めた。

しかし、結界のヒビはどんどん広がり、ついに結界が割れた。
それに驚いて目を見開いていると、結界の中はミリキラーアントで溢れていて、ムタイや戦闘員が非戦闘員を背中に庇って、なんとか保たせている様な状態だった。

それを見て、すぐにムタイや戦闘員達とミリキラーアントの前に割り込んだ。
それから即座に不死鳥の炎を全開で噴射してミリキラーアントを焼き払った。

念を入れて、もう2回不死鳥の炎を噴射してミリキラーアントを焼き払った。
それをしてから、振り返ってムタイに質問した。

「おいムタイ。これは一体全体どういうことだ?」

「はぁ、はぁ、すまない、ロキ。私達が躊躇ったせいで」

かなり疲労していた戦闘員を含めた全員が、顔色を暗くして俯いた。
それだけで俺は何があったのかを察した。

「ちっ、馬鹿が」

それだけ言って顔を顰めると、元気な眼鏡が前に出てきた。

「ふざけるなよ、お前!!お前が結界の外でキラーアントを狩っていれば、この結界だって張る必要はなかったんだ!!そうしたら、もっと広い空間で逃げられたんだ!!」

俺はそれを聞いた瞬間、眼鏡を殴った。
それを見て、非戦闘員からは悲鳴が上がり、ムタイや戦闘員達は仕方無いという感じで顔を伏せていた。

しかし、眼鏡は殴られた意味が分からないのか、キレている表情をして叫んだ。

「ふ、ふざけるな!!僕をなぐっていいと思って、ぶっ!!」

俺はまだ巫山戯たことをぬかしそうな馬鹿を、左手で押さえつけて、殴った。
それからも何発も殴り、顔がパンパンになってから眼鏡を開放した。

俺は馬鹿眼鏡を開放してから非戦闘員を見回し、ワタナベを見つけると近寄った。
ワタナベはかなり酷い顔をしていた。

あの馬鹿が無駄なことを叫ぶ前は、多少マシな顔はしていたが、今は自責の念を感じている顔をしていた。
そんなワタナベに微笑みかけながら声をかけた。

「あの短時間で、あの結界を作った能力。天才だな」

俺の言葉にワタナベは俯いて、首を横に振るだけだった。

「おいおい、あの結界があったからこそ、俺はキラーアント共の巣に乗り込めたんだぞ?

それに、あの巣の中にはキラーアントクイーンが居座っていたからな。どちらにしろ、乗り込まなければならなかった。

そうなると、あの結界は必須だからな。お前のお陰で、無駄な被害は無しだ」

俺の言葉にワタナベが顔を上げた。
その顔は呆然としていた。
だから俺は言葉を続けた。

「いいか?ミリキラーアントが出たのは、ミリキラーアントが居ると分かっているのに、何故か躊躇った奴らのせいだ。まあ、その火力がなかったのかもしれないが、それだって、どうにかすればなんとか出来た筈だ。

だから、お前はここを無数のキラーアント共から守ったことを誇れ」

「でも、」

俺が誇れと言っても、まだ酷い顔をしていたので、俺はワタナベの顔を両手で叩くように挟んで叫んだ。

「でもも、なにも無い!!誇れ!!いいな!?」

俺がそう叫ぶと、ワタナベはビクンと反応してから何度も頷いた。
それを見て、頷いてからまだ少し息が上がっているムタイに話し掛けた。

「よろしい。ムタイ!!ここからはどうする?」

「はぁ、はぁ、どうする?いや、この拠点の話か」

「ああ、中を見たが、中はキラーアント共に荒らされていた。1日や2日なら大丈夫かもしれないが、長期間の滞在は無理だと思うぞ。

とりあえず、戦闘が出来る奴総出で、モールの中は点検した方がいいな」

俺がそう言うと、今まで気を抜いていた戦闘員達は全員、気を入れ直した。
それを顔を見てから、後は視線でムタイに任せると言うと、ムタイも頷いて答えた。

それを確認してから、まだ泣き顔だったワタナベに話し掛けた。

「ワタナベ、モールを覆うようにしていた結界はもう一度張れるか?」

俺がそう質問すると、ワタナベは腕で顔を拭いてから、気合を入れた表情で俺を見てきた。

「あの結界の起動には、魔物の上位種、しかもある程度の強さを持っている魔物の魔石が必要なの。されさえあれば、今からでも結界を作る魔道具を30分で作れるよ」

「さすが天才。これは使えるか?」

俺はワタナベの話を聞いて、いくつかは解体していてたキラーアントナイトの魔石を、ワタナベに放り投げた。
ワタナベはそれをチャッチし、魔石を見ると目を見開いた。

「ロキ、こんなのを倒したの?遊撃部隊のトップパーティーで一体狩れるかどうかなのに」

「まあ、キラーアントクイーンを守ってた魔物の一体だからな。それくらいの強さは持ってるだろ。

それで?使えるのか?」

「もちろんだよ。これなら前よりも強力な物が作れる」

「それなら、移動型にできるか?」

「移動型?っ!!分かった、やってみる」

「それなら、これも使え」

俺がもう1つキラーアントナイトの魔石を渡すと、ワタナベは目を見開いてから、笑った。

「私はこんなのをホイホイ出せるロキの方が、天才だと思うけどな」

「ん?そうか?」

「うん、そうだよ」
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