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1章 逆転移編

20話 元奴隷は『名付き』と遭遇する

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俺の膝から下の感覚が無くなって、次の瞬間にはガクンという落下の感覚と膝から下が何かに引き千切られた感覚が、俺を襲って来た。

「ぐっ、がぁぁあ~!!」

落ちる感覚と突然の痛みの感覚で、思考が上手く纏められず背中から出していた不死鳥の炎を制御出来なくなり、飛んでいた動力が全て消えてしまった。

それにより本格的な落下が始まったが、その次の瞬間にはその落下が止まり、声が聞こえてきた。

「ロキ!!痛みは分かるが、早く再生しろ!!グラトニースライムがこの高さまで届くなら、もう飲み込まれる高さだ!!お前の飛行能力が無ければ、何も出来ずに終わるぞ!!」

その声を聞いて、すぐにスライム系の魔物がよく持っている再生のスキルを使用して、膝から下を再生させた。

そして、鈍い痛みが走っているものの、不死鳥の炎を制御出来るくらいには思考を纏め、足と背中から再び不死鳥の炎を出した。
それから、更に高度を上げて、雲の下に居た所から、雲の上まで移動した。

そこまで移動し、十分に下を警戒しつつ、ムタイに謝った。

「はぁ、はぁ、ムタイ、助かった。ありがとう、もう『ガブィアスの双杖』の『浮遊』を解除しても大丈夫だ」

俺がそう言うと、ムタイは頷いてから俺の体を支えていた『ガブィアスの双杖』の『浮遊』を解除して手に持った。
そして、ムタイは『ガブィアスの双杖』を片方だけ手に持ったままにして、俺に謝ってきた。

「いや、私も思ったよりも魔力を使ってしまったし、あのグラトニースライムが『名付き』になる寸前の可能性を考えていなかった。

私の方こそ悪かった」

ムタイが謝ってきたのは驚いたが、それよりも気になる言葉があった。

「『名付き』になる寸前?」

「ああ、『名付き』は魔物がただ生き続けているだけで成れるほど、安い存在では無い。魔物が『名付き』に成るには、十分な強さときっかけが要る。

そして、おそらくだがロキの足が食われた事が、きっかけになる可能性が高い」

ムタイがそう言った所で、何処から『ピロン』という音が聞こえてきた。
それに驚き、俺が体をビクリと反応させた所で、ムタイが声を掛けてきた。

「ロキ。悪いが、少し警戒したままで居てくれ。おそらく、ワールドメッセージだ。ワールドメッセージが来たら、すぐに読まなければ不利益を被る事が多い。

だから、少しの間だけ頼むぞ」

「ああ、分かった。任せろ」

俺はムタイにそう言って、『気配察知』を使用した。
本来ならば『気配察知』により、地面付近にいるグラトニースライムの巨大な反応を捉える事が出来るが、地面に居たグラトニースライムの反応が急速に小さくなった。

おおよそ、人と同じくらいの大きさになった。
スライムや形を変えられる類の魔物ならばおかしい事ではないが、さすがにモールと同じかそれ以上に大きい体を持った魔物が『人化』というスキル以外で、人程の大きさまで小さくなった事は無かった。

なので、おかしいと思い、鳥系の魔物が持っていることが多い『遠目』というスキルを使用しようとした所で、ムタイが叫んだ。

「ロキ!!気をつけろ!!あのグラトニースライムは『名付き』になった!!強さが跳ね上がるぞ!!」

ムタイが叫んだタイミングで、俺の真下の雲から凄い勢いで何かが飛び出してきた。
それを背中の不死鳥の炎を勢い良く噴射する事で咄嗟に避けたが、避けると同時に背中に凄まじい打撃が叩き込まれた。

「がっ!?」

背中に叩き込まれた凄まじい打撃は右肩の少し下の辺りに叩き込まれたので、自分の体に斜め前の回転が掛かってしまった。
それにより斜め下に回転しながら落ちてしまい、雲の下に行く頃に不死鳥の炎を下方向に噴射する事で、ようやく空中で停止する事が出来た。

それから自分が望んだ訳では無い、唐突な回転だったので酔ってしまいながらも、ムタイに声をかけた。

「ム、ムタイ。うっ、大丈夫か」

「うぷ、ああ、大丈夫だ。それよりも『名付き』は?」

「あそこで、こっちを見下してるな」

俺はムタイの問い掛けに、先程まで俺達が居た場所を指さした。
そこには全身が真っ黒で、顔の部分も凹凸がなにもない人型の何かが居た。

それを見て、ムタイは笑いながら言った。

「あれが『名付き』のグラトニースライムだな。名前は『神獣喰らい・デーチェトス』だ。ステータスは判らないが、ロキがギリギリ反応出来ないレベルとなると、かなり強いな」

「あれは仕方無くないか?雲の下からだぞ?『気配察知』ではグラトニースライムの大きな気配を探ってたから、いきなり小さくなって驚いたしな」

そんな事を話していると、デーチェトスは俺達の方に突っ込んできた。
それを見てから避け、デーチェトスを目で追っていると、再びこちらに突っ込んできた。

それも避けると、左手に小さい切り傷が走った。
おそらく、避け切れなかったということだろう。
一瞬、少しだけだが、何かが左手に当たった様な気がしたし、間違いない。

それを感じ、苦虫を口に入れられたような顔をした。

「っ!!ふぅ、あれ速すぎないか?不死鳥の炎で飛んだ時の最高速度の8割はあるんだけど?」

「それは私を抱えているからだ。私を下に投げて、ロキは戦闘に集中してくれ」

「は!?わかってるのか?アレは空を飛んでいる。それなら純粋な飛行能力がなく、『ガブィアスの双杖』でかろうじて飛べるムタイは良い的、死ぬだけだぞ」

「分かってる。それでもだ、それに私は、ここまで付き合ってくれたロキを信じてる」

俺にはムタイが何を考えているのか見当が付かなかったが、それでもやらなければ追い詰められて死ぬのは目に見ていた。

「分かった。次にデーチェトスと交差したら下に投げる。準備しとけ」

「分かった」

俺達がそんな会話をしている内に、デーチェトスは形を変えていた。
先程まではただ空中に浮いているだけだったが、今は両手に加えて、両翼が存在した。

いくらこちらが話をしていて仕掛ける素振りがないとはいえ、戦闘中に数秒も掛けて両翼を作り出した事に眉を顰めて警戒している。
デーチェトスが再びこちらに突っ込んで来る体勢になった。

それを見て避けようとしたが、その前にデーチェトスが視界から消え、その次の瞬間には左手の肘から先が吹き飛ばされていた。
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