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1章 逆転移編

19話 元奴隷はグラトニースライムに追い掛けられる

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ムタイの作戦を実行すると決めてからは、ムタイと一旦分かれて行動することになった。
それが作戦の成功率を少しでも上げるからだ。

元々最初に入った駅は、モールから一番近い駅から5駅程進んだ駅だった。
なので、グラトニースライムに気が付かれないだろうと予想出来るモールに一番近い駅は覗いた駅の魔物を掃討した。
まあ、それぞれの駅はそこまで大きくなかったこともあり、合計5体しか魔物は居なかったが。

その後で、最後に掃討した駅でグラトニースライムの動きを見ながらムタイを待っていた。
だが、ムタイを待っている間にも、グラトニースライムは食事を続けており、既にモールに一番近い駅と、俺が居る駅の中間地点まではグラトニースライムが近づいていた。

ムタイの作戦を聞き、半々だが上手く行けばグラトニースライムを倒せる案に乗った。
だが、今はかなり緊張している。
それはグラトニースライムの食う速さが予想以上だからだ。

もしも作戦が失敗しても、ムタイを火傷させてしまう事を覚悟して、全力で不死鳥の炎で飛んで逃げる気で居た。
だが、一軒家が3秒ほどで溶かされ切っているのを見ると、作戦が失敗してグラトニースライムに触れられれば逃げる間も無く溶かされて消化されるだろう。

ムタイの作戦はグラトニースライムをギリギリまで引き付ける必要はあるが、準備が終わらなければ、下手をするとそのまま飲まれる。
それを意識すると、無意識の内に準備をしているだろう方向を向いてしまう。

「ムタイ、まだか?」

数秒ムタイが準備しているだろう方向を見ていたが、合図が来なかった。
出来れば早く準備してもらいたいが、まだ終わらないらしい。

「くっそ、俺が時間を稼ぐ事になる自体にはならないでくれよ」

そう言ってムタイが準備をしているだろう方向を見ていると、突然俺に影が指した。

「は?」

それに気が付いて、急いで振り返ると俺の目の前にグラトニースライムが居た。
それを理解した瞬間に、俺は不死鳥の炎を全身から全包囲に噴射した。

「うっ、おおぉ~!!」

不死鳥の炎を噴射したが、グラトニースライムは一瞬だけ炎の勢いで押し返されたが、その後は不死鳥の炎のすら飲み込み、そのまま一切怯まずに俺を飲み込もうとしてきた。

それを理解した瞬間、最初に入った駅の方に走り出していた。


ムタイからの合図が出ていない以上、まだ作戦の準備は終わっていないが、それでもグラトニースライムが通常通りの動きをしていないのだから仕方ない。

グラトニースライムは基本的には知性がない。
というよりも物が体に触れれば、何をおいてもそれを食うという生態をしている。
だから、下手な攻撃をしない限りは、注意を引かないはず。

それなのにモールから、さっき俺が居た駅までは、まだ食べる建物が残っていたのに、何故こっちを狙ってきた!?

俺は不死鳥の炎を使って、全力で走りながら、後ろを振り返るとグラトニースライムは凄い勢いで追ってきていた。
グラトニースライムの速度は、俺の全速力と同等程度の早さ。
たが、こちらには体力の上限がある以上、引き離せなければ、追い付かれて死ぬ。

それならグラトニースライムを倒したいが、まだ準備を終えていない状態から、作戦を遂行するのは、無理だとしか言えない。
だからこそ、俺は俺の判断で撤退する時の合図である、不死鳥の炎を上空に打ち上げ、爆発させる事をした。

撤退の合図をしたが、俺が最初の駅に着くまで掛かる時間は1分もない。
その時間で準備に集中しているだろうムタイが駅に、来れるかと聞かれれば否と答えるしかない。

それなら、撤退するために俺がグラトニースライムを倒す準備をするために、街の何処かに居るムタイを見つけなければならない。
その事実を認識して、悪態をついた。

「くっそ!!」

俺が悪態をついた時、最初に入った駅を中心としたモールと同じ程の高さで、線路に沿う様に縦長な氷の長方形の物が出来上がった。
それを見て、『準備がギリギリ間に合ったか!?』と、この状況での希望を見出だせた。

その希望を見出だせたタイミングで、最初の駅が視界に入った。
そこではムタイが膝を付いて、肩で息をしていた。

それを見て、『流石に作戦通りにはいかないかのか』と焦った。


そもそもの作戦はグラトニースライムの核を一点集中で壊すという単純な物。
詳しい作戦は、モールから10駅先までの線路は高架橋になっている為、線路の上に氷の長方形であるが中は空洞の物を作り、長方形の外側にグラトニースライムを張り付けさせる事で、その中からグラトニースライムの核を探し壊すという物が本来の作戦だった。

もちろん、グラトニースライムの全体を氷に貼り付けさせるとなると、それなりの大きさの長方形を作ることになる。
そうなると、ムタイは魔力を使い切って倒れてしまうが、そこはなんとか持ち堪えて、ムタイが1つだけ持っているらしい魔力回復薬を使って、ムタイもグラトニースライムを核を探す予定だった。


こんな作戦を立てたのは、グラトニースライムの生態として、食べれる物をゆっくりと全て食いながら来るので、なんとかグラトニースライムを張り付けさせる事が出来る氷を作り出せると、判断したからだ。
因みに、線路が高架橋の上に無ければ、魔力が足りな過ぎて、こんな作戦は立てられないと言っていた。


準備が終わり、ムタイが合図であった火球を空に打ち上げたら、俺がグラトニースライムを引き連れて来る予定だった。

それが合図が来る前にグラトニースライムに狙いを付けられ、作戦中止と撤退と合図を出したのに、ムタイは気付かずに作戦を続けた。
それでムタイは魔力不足で倒れている。

俺はこの瞬間に、ムタイを救うか、救わずに作戦を続行するか、ムタイを救わずに作戦の続行もせずに逃げるという、3つの選択を迫られた。

「ちっ!!」

3つの選択肢を頭で理解した瞬間には、ムタイを救うという選択肢を取っていた。
地面に膝をついているムタイを全力で走っている中で抱き抱えて、そのまま氷の長方形を足場にして上空に飛んだ。

本来ならば、両手を不死鳥の翼に変えるのだが、両手にはムタイを抱いているので、両足と背中から無理矢理に不死鳥の炎を噴射して、全力で上空に上がっていった。
雲に届くか、届かないかという高さで上昇を辞めた。

「はぁ、はぁ。ロキ、すまない、魔力の消費が、思ったよりも、多くてな。右足のポケットに、入っている、丸薬型の薬を」

ムタイが真っ青な顔をして、途切れ途切れになりつつも言った言葉通りに、右足にあるポケットに手を入れて探さてみると丸いものがあった。
それをポケットから出してみると、色は黄緑で、それを顔の前に持って来て、これが薬かと疑問に思っているとムタイはその薬を俺の指毎、無理矢理口に放り込んだ。

俺が驚いて、急いでムタイの口から指抜くと、ムタイが薬を飲み込むだのか、喉から唾を呑んだときの様な音を鳴らした。
それにより少し顔色が元に戻り、俺がムタイに『大丈夫か』と聞こうとした所で、ムタイが叫んだ。

「ロキ!!下だ!!」

ムタイが叫んだ瞬間、足の膝から下の感覚が消えた。
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