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1章 逆転移編

15話 元奴隷はスマホを手に入れる

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 フォレストウルフ達を殺して、マジックバックに収納してから、おそらく俺の前衛としての能力を試していたムタイに半目を向けつつ聞いた。

「それで?俺は前衛として合格か?」

「ああ、後衛との連携を取ろうとしなかったのは少し減点だが、動き自体には問題なかった。それと気配を感じ取ってからは、すぐに私の前に立ったことは前衛として高得点だな」

『良い前衛とパーティーを組めた』とニコニコ笑いながら続けたムタイに俺は半目を抜け続けた。
 そもそもの話し、ムタイがフォレストウルフを感知出来ないほうがおかしいのだ。

 なにせ、何処から感知したか知らないが、俺が雲の上を飛んでいたのに、その俺を地面に叩き落とせる戦闘能力をしているのだ。
 そんなムタイが、こちらに襲いかかろうと近付いて来ていたフォレストウルフ如きを感知出来ないわけがない。

 つまり、ムタイはフォレストウルフを感知出来ていた上で、俺の前衛としての能力と後衛が居る状態での立ち回りを見たかったがために、自分はあえて何もしなかったのだ。
 このことに、フォレストウルフを倒して回っている最中に気が付いたものの、もうほとんど終わりだったので、そのまま片付けた。

 まあ、俺は雲の上から地面まで落とされたから、ムタイの実力がどの程度かは大体分かるが、ムタイは実際に目にした訳ではなかったから見たかったのだろう。

 そう自分で納得していると、ムタイは俺に笑いかけなら言った。

「それじゃあ、これからモールに向かうが、ここからは全速力で移動する。だが、ロキは昼抜きで、夜に昼の分まで食べる感じで大丈夫か?駄目なら、何処かで食べなければならないが」

「いや、少しだがオークを食い溜めれているから問題無い」

「分かった。それなら最速でモールに向かうぞ」

「分かった」

 ムタイは俺の返事を聞くと、モール方面に疲れない範囲の全速力で移動を始めた。



 ◇
 モールに到着したのは日が沈み始めた頃だった。
 中々のハイペースで移動していたが、俺もムタイも息は上がっていない。

 ただムタイが走っていたペースでも、俺は息が上がってしまうペースまでは、ある程度余裕があったので、やはり身体能力自体は俺の方が高いのは分かった。

 そのため道すがら邪魔な魔物も居たが、そこだけ俺が先行して、倒した処理せずにそのままポーチに入れていたので、足を止めずに走り続けられたのも日が沈み始めた頃に着けた要因だ。
 ムタイと予想よりも早く着けたと言っていたので、そこは確かだ。

 しかし、ここを出てから1日しか経っていないんだが、まさか拠点を確保する目処が立ってから戻って来るとは思っていなかった。
 それに自分一人では、ここには戻ってこれなかっただろう(空中で戦闘があった際に、どちらから来たか分からなくなった)事を考えると、何処か感慨深い気がしないでもない。

 そんな無駄な事を考えていると、先にモールの入り口に居たムタイが振り返った。

「おい、ロキ。食事の先にスマホを手に入れるんだから、早く来い。ロキに一番必要なのは常識よりもスマホなんだから、確保出来なかったら不味いぞ」

「ああ、分かった。すぐに行く」

 そう、ここに戻って来た一番の理由は、俺がスマホを手に入れる為、2番目の理由はオークの群れが壊滅している今の内にマジックバックで、物資を根こそぎ掻っ攫う為だ。


 スマホは、今生き残っている人間には必需品の為、持っていないだけで論外なのだとか。
 一応、ムタイがリーダーをしている集団の拠点にもスマホはあるが、『拠点にあるスマホは、生まれてきた子供達用のなので、数を減らしたくない。逆に出来ればこの機会に補充したい』と言っていた。

 それにムタイという集団のトップとパートナー(3人以上居ればパーティーという)を組むのに、スマホを持っていない人間だと、反対意見が凄いと予想できるらしい。
 理由としては、スマホで自分のステータスを見ることが出来る事、更に最近では少なくなったがワールドアナウンスとやらもメールという形で来るらしいので、単純に持って居ないと不便だという理由もある。

 そのスマホも昨日見せてもらったが、真っ黒い薄い画面とやらが、横のボタンを押すだけで光ったり、書いてあるものが変わったりと凄かった。
 そのついでに、俺のステータスも見ようとしたが、『世界に魔物が現れてからはスマホが完全個人用になった関係で、自分だけのスマホを手に入れないと見ることが出来ない』と言われた。

 俺の世界には無かったステータスだが、表示される物は、名前、年齢、レベル、称号、体力、防御力、攻撃力、魔力、脚力、装備、スキル、固有スキルの12項目らしい。
 脚力だけ少し浮いてないかとムタイに質問したが、その脚力のステータスは移動速度や蹴りの攻撃力、他にも踏ん張りと言った感じで多方面に影響が出るステータスだから、意外とばかに出来ないのだとか。


 ムタイのステータスは見せてもらってないが、『電撃』を俺に打ち込みまくっていたのを考えると、魔法関連の固有スキルを所持しているのは確定だろう。
 ムタイは俺がスマホを手に入れてから、お互いのステータスを見せ合う事を約束しているので、もうすぐ見れるだろう。


 次に物資を根こそぎ掻っ攫う件だが、俺が回収した物をムタイに教えると、回収するべき物の3分の1程しか回収出来て居なかったのが分かった。

 俺が使うだろう物だけを上げたとしても、シャンプーやリンスと言った髪を洗う為の物や俺が何が入っているか分からずに手を付けなかったレトルト食品、それに移動手段や魔物に投げつける用に車、簡単に上げただけでも、これだけ出てくる。
 大体の使えるものは回収したつもりだったのだが、意外と1人では気付けない物、いや知らないものが多かった。


 それらを道すがらで回収しながら、ついに俺達はスマホがある場所に辿り着いた。
 俺にはスマホなんて使った経験がないので、ムタイにどのスマホが良いかを選んでもらった。
 何台ものスマホがあったが、ムタイは他の物よりも一回り画面が大きいものを持ってきた。

「これが良いだろうな。スマホを操作することはあまりないが、完全に無いわけではないからな。画面は大きい方がいい」

 そう言って、ムタイは俺に持ってきたスマホを渡してきた。
 渡されたスマホは裏面は黒いスマホだった。
 そのスマホの横のボタンを押した瞬間、スマホは凄い光を放って、それを直視した俺はすぐに目を瞑った。

 光が収まってから目を開けると、スマホの真ん中に『ようそこ、始動の世界へ』と書かれていた。
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