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平家伝説財宝殺人事件✨✨
お蘭✨✨✨
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深夜になり、信乃介は源内邸の屋根の上で寝転んで夜空を眺めていた。
夜空には無数の星が瞬いて見える。
今夜の満月はヤケに明るく大きい。
妖しく蒼白い光りを帯びている。
いにしえより満月の夜は妖怪《あやか》しが出ると云われていた。
だが信乃介はこうして夜空を仰ぎ星を眺めるのが好きだ。
なにか神秘的な感じがする。
「……」
静かにお蝶のことを考えていた。あの身のこなしは間違いなくくノ一だろう。
だとすると土蜘蛛衆による裏切り者への制裁なのだろうか。詳細はわからないが、事態は切迫しているようだ。不吉な予感がする。
不意に階下から心配そうなお蘭の声が聞こえた。
「信さん、またそんなトコで寝てたら危ないわよ。
落っこちたら、どうするのよ……」
「フフゥン、落っこちたらお蘭が抱き止めてくれるんだろう」
相変わらず信乃介は軽口を叩いた。
「無理ムリ……、信乃介先生みたいなワガママな子なんて抱き止められないわ」
お蘭もゆっくりと屋根の上に昇ってきた。
「フフ、そうか……。そりゃァ、残念だったな」
「なによ。またあのキレイな女の人のことが好きになったんでしょ。信さんがお気に入りの女の方でしょう」
お蘭は文句を云いながらすぐ隣りに腰を下ろした。かすかに甘い匂いが信乃介の鼻孔をくすぐっていく。
「ンうゥ……、お気に入りッて、お蝶のことか?」
「そうよ。でもお生憎様ねえェ……。お蝶さんはキヨさんのことを、ご執心みたいよ。今夜もキヨさんの長屋へ泊まるらしいわ」
「フフゥン、そうだな……。俺が助けたって言うのに、色男のキヨに横からカッさわられた気分だぜ。シャクにさわるが、なァ」
信乃介も苦笑いを浮かべた。
「ねェ、信さん……? キヨさんは本当に平家の血筋なのかしら」
「ううゥン、どうかな。キヨからは何となく高貴で気品が感じられるからなァ。満ざら嘘ではないかもしれないなァ」
未だに信乃介も半信半疑だ。
嘘だとは決めつけていないが、さりとて話だけでは真実とも思えない。
何か、もう少し手がかりがあればとは思っている。
不意に、お蘭が謳い始めた。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、バカ僧侶の花の色、盛者必衰のことわりをあらわす。
おごれる人はひさしからず……」
平家物語りの一説を詠んだ。
「フフゥン、よく知っているなァ。お蘭」
「え、何がァ……」
「平家物語りの一説だろォ。まァ、ひと言云わしてもらえばバカ僧侶じゃなくて『沙羅双樹』だけどな」
信乃介が一部を訂正した。
「へえェ……、そうなの。なにしろ平家に非ずば人に非ずなんでしょ!」
「フフゥン、まァねェ……」
「酷いわよねえェ。だから『おごる平家はひさしからず』なのよ」
ザマァ見ろという顔だ。
「まァ、たいていの者は権力を握ると自分たちの都合の良いように世の中を動かしたくなるものさ。それが世の常だよ」
少し自嘲気味に笑ってみせた。
「じゃァ、信長もかしら……?」
「え……?」思わず信乃介は目を丸くして、お蘭を見つめた。
「フフ……」
お蘭は知らん顔をして夜空を見上げ微笑んでいる。
「そうだな。なにしろ『鳴かぬなら殺してしまおうホトトギス』だからな……。より良い自分の国を築くために、思い通りにならないヤツ等を排除していく。いつの時代でも人の欲望に際限はない」
「フフゥン……、だから信長の子孫は傾奇者でウツケ者なのかしら」
「ええェ……、さァ、そうかもしれないな」
信乃介は苦笑いを浮かべた。
「でも私は先生の方がずっと好きよ」
お蘭は信乃介に抱きついた。
身体じゅうが熱く火照ってくるようだ。全身から汗が滲んできた。
思わず心臓がドキドキしてくる。まだ子供かと思っていたが、身体はすでに大人になりかけている。
このまま勢いに任せて抱きしめてしまいたい。
「ハッハハ、そうか。嬉しいよ。お蘭が、もう少し大人になったら考えてやるよ」
だが信乃介も自重し、優しくお蘭の頭を撫でて上げた。
「フフゥン、信さん。子供扱いしないで。もうお蘭も大人よ。どう確かめてみる?」
美少女は熱い眼差しで信乃介を見つめた。
「おいおい、止めとけよ。ほらほらァ、もう子供は寝る時間だろう」
剣の腕前は超一流の信乃介も可憐な美少女には形無しだ。すぐさま、しっぽを巻いて逃げ出した。
「もぉ、待ってよ。信さん」
美少女が追いかけていく。
☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚
夜空には無数の星が瞬いて見える。
今夜の満月はヤケに明るく大きい。
妖しく蒼白い光りを帯びている。
いにしえより満月の夜は妖怪《あやか》しが出ると云われていた。
だが信乃介はこうして夜空を仰ぎ星を眺めるのが好きだ。
なにか神秘的な感じがする。
「……」
静かにお蝶のことを考えていた。あの身のこなしは間違いなくくノ一だろう。
だとすると土蜘蛛衆による裏切り者への制裁なのだろうか。詳細はわからないが、事態は切迫しているようだ。不吉な予感がする。
不意に階下から心配そうなお蘭の声が聞こえた。
「信さん、またそんなトコで寝てたら危ないわよ。
落っこちたら、どうするのよ……」
「フフゥン、落っこちたらお蘭が抱き止めてくれるんだろう」
相変わらず信乃介は軽口を叩いた。
「無理ムリ……、信乃介先生みたいなワガママな子なんて抱き止められないわ」
お蘭もゆっくりと屋根の上に昇ってきた。
「フフ、そうか……。そりゃァ、残念だったな」
「なによ。またあのキレイな女の人のことが好きになったんでしょ。信さんがお気に入りの女の方でしょう」
お蘭は文句を云いながらすぐ隣りに腰を下ろした。かすかに甘い匂いが信乃介の鼻孔をくすぐっていく。
「ンうゥ……、お気に入りッて、お蝶のことか?」
「そうよ。でもお生憎様ねえェ……。お蝶さんはキヨさんのことを、ご執心みたいよ。今夜もキヨさんの長屋へ泊まるらしいわ」
「フフゥン、そうだな……。俺が助けたって言うのに、色男のキヨに横からカッさわられた気分だぜ。シャクにさわるが、なァ」
信乃介も苦笑いを浮かべた。
「ねェ、信さん……? キヨさんは本当に平家の血筋なのかしら」
「ううゥン、どうかな。キヨからは何となく高貴で気品が感じられるからなァ。満ざら嘘ではないかもしれないなァ」
未だに信乃介も半信半疑だ。
嘘だとは決めつけていないが、さりとて話だけでは真実とも思えない。
何か、もう少し手がかりがあればとは思っている。
不意に、お蘭が謳い始めた。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、バカ僧侶の花の色、盛者必衰のことわりをあらわす。
おごれる人はひさしからず……」
平家物語りの一説を詠んだ。
「フフゥン、よく知っているなァ。お蘭」
「え、何がァ……」
「平家物語りの一説だろォ。まァ、ひと言云わしてもらえばバカ僧侶じゃなくて『沙羅双樹』だけどな」
信乃介が一部を訂正した。
「へえェ……、そうなの。なにしろ平家に非ずば人に非ずなんでしょ!」
「フフゥン、まァねェ……」
「酷いわよねえェ。だから『おごる平家はひさしからず』なのよ」
ザマァ見ろという顔だ。
「まァ、たいていの者は権力を握ると自分たちの都合の良いように世の中を動かしたくなるものさ。それが世の常だよ」
少し自嘲気味に笑ってみせた。
「じゃァ、信長もかしら……?」
「え……?」思わず信乃介は目を丸くして、お蘭を見つめた。
「フフ……」
お蘭は知らん顔をして夜空を見上げ微笑んでいる。
「そうだな。なにしろ『鳴かぬなら殺してしまおうホトトギス』だからな……。より良い自分の国を築くために、思い通りにならないヤツ等を排除していく。いつの時代でも人の欲望に際限はない」
「フフゥン……、だから信長の子孫は傾奇者でウツケ者なのかしら」
「ええェ……、さァ、そうかもしれないな」
信乃介は苦笑いを浮かべた。
「でも私は先生の方がずっと好きよ」
お蘭は信乃介に抱きついた。
身体じゅうが熱く火照ってくるようだ。全身から汗が滲んできた。
思わず心臓がドキドキしてくる。まだ子供かと思っていたが、身体はすでに大人になりかけている。
このまま勢いに任せて抱きしめてしまいたい。
「ハッハハ、そうか。嬉しいよ。お蘭が、もう少し大人になったら考えてやるよ」
だが信乃介も自重し、優しくお蘭の頭を撫でて上げた。
「フフゥン、信さん。子供扱いしないで。もうお蘭も大人よ。どう確かめてみる?」
美少女は熱い眼差しで信乃介を見つめた。
「おいおい、止めとけよ。ほらほらァ、もう子供は寝る時間だろう」
剣の腕前は超一流の信乃介も可憐な美少女には形無しだ。すぐさま、しっぽを巻いて逃げ出した。
「もぉ、待ってよ。信さん」
美少女が追いかけていく。
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