上 下
53 / 118
那奈……✨✨✨

那奈……✨✨✨

しおりを挟む
 いきなりショーリは立ち上がって勝手にブルーレイを起動させ自分のディスクを入れ替えた。


 リモコンで選びだしたのは場違いな激しいロックだ。



 派手なビジュアル系ミュージシャンが歌っている。
「何、この曲……」どういう選曲だ。



「ロケットダイブだよ」
 ショーリは画面のライブ演奏を見て嬉しそうだ。
 かぶりつくように見ている。



「そりゃァ、知っているけど……」
 元X JAPANのヒデさんの楽曲だ。彼も横須賀出身の伝説のミュージシャンだ。
 


 突き抜けるような疾走感が心地よい。


 ギタリストのヒデさんの楽曲なので、同じバンドメンバーのヨシキさんの楽曲とは全く違っていた。



「嫌なコトがあった時、ヒデさんのこの曲を聴くとスカッとするんだ」
 ショーリはノリノリだ。


「ううゥ……」こっちの気持ちも知らずに。
 いい気なものだ。まったく。


 確かに躍動感があってヒデさんの曲では一番好きだ。




「ふぅ……、やっぱリアルに考えて、隠れてどうにか出来る問題じゃないよ」
 ショーリはテレビの画面を見たままつぶやいた。


「ええェ……、そんなこと。なんでショーリが言えるのよ」



「リアルな問題……。産むにしても、堕胎おろすにしてもかなり金が必要かかるだろォ」




「えェ……」それは、そうなのだが。 



「秘密にして、どうこう出来る問題じゃないじゃん。
 軽く二、三十万くらいは掛かるし……。
 産むにしたら、受験はどうするとか」



「ううゥン……」私も唸るしかない。
 彼の言うとおりだ。



「どうせ、本城のヤツはバックレる気だろうし……」
 ショーリは吐き捨てるようにつぶやいた。



「あ!  そうよ。こうなったのも本城譲ユズ君の責任じゃん。彼のトコ行って、決着カタつけようよ」
 思わず私は立ち上がりかけた。


「無理だッて。そんなの」
 とっさにサンタは私を引き止める。


「彼も今、受験で大事な時だから……」
 那奈も熱くなった私をなだめてきた。



「ぬうぅ……、そんなァ、大事なのは那奈の身体の方だろォ。このままバックレるのは許せねえェよ……」
 彼氏の本城譲だけ受験で逃げるのは納得できない。




「そうだけど」サンタも困惑した顔で私を見つめた。



「オレも今、金はないけど……、どうしてもッて言うなら親御さんに一緒に頭を下げてもいいぜ」
 ショーリは人懐っこい笑顔で励ました。



「え……!」那奈も私たちもびっくりした。

 



「まァ、二、三発殴られるのは覚悟しないとな」
 頬を自分の指先で突っついた。



「いえ、そんなショーリ君に……」



「まァ殴られるのはイチゴに何発も殴られてるから。馴れてるよ」
 また人懐っこい笑顔で茶化した。


「おいおい、私が何発も殴るか。知らない人が聞いたら、本気にするだろう」



「ヘッヘ、知っている人が聞いたら納得するじゃん」
 彼がおどけて言うと、少しだけ場が和んだ。
 どうやらショーリの方が一枚ウワテのみたいだ。


 目先のことだけでなく未来も見据えているようだ。

 

「フフ……」サンタも苦笑をした。


「あのねえェ……。こいつの言うことは気にしないで。那奈ちゃん」
 私も懸命に言い訳をした。


「ハイ……」



「それから、良く知らないけど同意書とか必要なんだろ。ああ言うのって」
 

「うゥン……」那奈は沈痛な面持ちでうなだれた。



「そう言うのも用意しておかないと」
 


「そうか……」私は全然、そう言うコトを考えていなかった。


 ひたすら那奈のコトを心配することしかできない。









 ☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚


しおりを挟む

処理中です...