宝石のお姫さま

近衛いさみ

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宝石姫と村娘

宝石姫と村娘4

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「ありがとうございます。ベリルさん。私のお母さんを救っていただきまして」

 シンスは涙を流して喜んでいました。

「宝石の力を借りただけですよ。でも、まだこれだけでは、二人が暮らしていくには足りませんね」

 そう言うと、ベリルは考え込みます。少しばかりの黄金と、永遠に消えない火を手に入れても、すぐにお金も食べる物もなくなってしまいます。ベリルは窓の外を見ました。外には広い砂漠が広がっています。これは使えるかもしれません。

「この宝石たちに力を借りましょうか。メノウ。手伝ってくれるかしら?」

「もちろんだよ。姫さま」

 そう言うと、メノウはベリルから宝石を一つ受け取ると、風のように体を滑らせ、窓の外に出ていきました。

「あの宝石はターコイズです。よく見かける宝石ですね。同じ宝石でも、様々な表情を見せてくれるんですよ。ターコイズの宝石は生命力がすごいんです。そんな宝石の力を借りていきます」

 メノウが砂漠の中に宝石を投げ入れました。その宝石にベリルが語りかけます。

「ターコイズの宝石さん。この親子に豊かな恵みを与えてあげて」

 砂漠の砂が光に包まれていきました。

 するとどうでしょう。目の前に豊かな黄金色の麦畑が現れました。

「砂漠で作物を育てるのは大変です。けど、ターコイズの力を借りて砂漠の中に麦畑を作りました。毎年、美しい麦が収穫できるはずです。自分たちで食べてもいいですし、お金に変えることもできると思いますよ」

 シンスとお母さんは目を見開いて驚いています。

「おい。姫さま~。これもだろ?」

 麦畑の中でメノウが大きな声をあげています。

「俺も一つ宝石を提供するよ。仲のいい宝石なんだ」

「ありがとう。メノウお願い」

 ベリルの合図でメノウが宝石をもう一つ、砂漠に埋めました。

「砂漠の村で生きていくなら、豊かな水は欠かせませんね。あの宝石はアクアマリンです。名前のとおり、水の力を持った宝石です。深い青が美しいですよね」

 にっこりと微笑むと、ベリルは今度はアクアマリンに語りかけました。

「アクアマリンの宝石さん。この、乾いた大地に、潤いを与えてください」

 ベリルの願いが聞き入れられたようです。みるみる砂漠の砂の中から、水が湧き上がってきました。

 10分とかからずに、麦畑の隣には、大きなオアシスができたのです。

「これで生活には困らないでしょう」

 ベリルは親子に優しく微笑みかけました。

「なんとお礼を言ったらいいか」

 シンスとお母さんはベリルとメノウに向かって何度も頭を下げ、お礼を言いました。

「私は何もしてませんよ」

 ベリルは優しくシンスの方に手を置き、言いました。

「全部宝石の力です。しいて言えば、この子のおかげでしょうか?」

 そう言うと、一粒の宝石をシンスに渡した。美しく透き通った透明の中に、うっすらと黄色が入った宝石でした。

「こ、これは?」

 シンスが聞きました。

「ジルコンです。あなたのお母さんの大切な宝石です。この宝石には、人と人を繋いでくれる、不思議な力があるんですよ」

 ベリルはそういい、宝石をシンスの手に握らせました。

「だって、あの宝石は……」

「うふふ。少し、騙しました。あの黄金は、私からのプレゼントです」

 そう言うと、ベリルはいたずらに笑いました。


 月の光に照らされながら、ベリルとメノウは歩いています。とても晴れやかな顔をしています。そんなベリルにメノウは聞きました。

「今日はお城に帰るのか?」

 ベリルは答えます。

「そうね。でも、今日は気分がいいわ。美しい月明かりの中で、宝石たちと語り合いたいの」

 ベリルはキラキラした瞳で答えます。

「そうだね。俺も、今日は気分がいいよ。姫さま」
 二人は石の町の裏路地にある、小さな宝石店に帰っていきます。

 今度はどんな出会いが待っているでしょう。あなたも、町の宝石店をのぞいてみては? 不思議な力が込もった宝石たちが、あなたを待っているかもしれませんよ。
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