上 下
30 / 32
4章 とある姫の運命

姫の運命2

しおりを挟む
「ようこそ、世界樹の図書館へ」

 アルブルヘムは毎度のように感情のない声で、訪問者に言った。彼女はアルブルヘムの姿を一瞥すると言った。

「あなたが運命の女神か? 私は力が欲しいんだ。運命を討ち果たす力だ。もう、これ以上人を死なせたくはないのだ」

 力の籠もった言葉を発する女性だとハトは思った。そんな彼女にアルブルヘムはゆっくりとした口調で答えた。

「私は女神なんかではありませんよ。ただの図書館の管理人です。名前はアルブルヘム。貴女の名前をお聞かせ願いませんでしょうか?」

 アルブルヘムは促すように掌を返してみせた。

「これは失礼した。話を急いでしまった。私はアイリスベル。アイリと呼んでくれて構わない」

「では、アイリさん。何か事情があるようですね。話してみてくれませんか?私は女神ではないですが、ここは運命に深く関わる場所です。何かお力になれるかもしれません」

 アルブルヘムの問いにアイリスベルは答えた。

「私の国ジルバンド王国は悲しいことに内乱になってしまった。なんとか火種が小さいうちに鎮静化できないかと、私も戦場を奔走したのだが、どうにもならんのだ。私ももうこれ以上自国の民が傷つくのが耐えられん。運命の女神ならもしかしてと思い、探しておったのだ」

「それはそれは。大変でしたね。そして、過度な期待を持たせてしまい、申し訳ありませんでした」

 アルブルヘムは感情の篭っていない言葉を発した。アルブルヘムはさらに説明を続けた。

「ここには様々な世界の運命の書が集まった図書館です。運命の書にはあらゆるモノの過去、現在、未来そして運命をも記した書です。上手く活用できれば、貴女の力になれるかもしれません」

 ハトにはジルバンドという国も、アイリスベルという名前も聞いたことがなかった。全く知らない世界の知らない人だ。この先、どんな運命が待っているのか。

「その運命の書とやらで、どんなことが出来るんだ?」

 アイリスベルは聞いた。それにアルブルヘムが淡々と答える。

「運命の書を使って出来ることはそれほど多くはありません。書を読むことによって、物事の過去や未来を知ったり、項目自体を削除するくらいです」

「削除?」

「ええ。運命の書は人の手で書き換えることが出来ません。しかし、項目自体を運命の書から削除することができます。ページを切り取ってしまうんですね。例えば、内戦をしている片方の陣営を丸ごと消してしまうこともできます」

 アルブルヘムはさらりと恐ろしい事を言う。アイリスベルは唇を噛みしめながら言った。

「それは、出来ない。対立している陣営。どちらも私の実の兄なのだ」

 兄弟同士の争い。後継者争いだろうか? ハトは嫌な気持ちになっていた。

「私はジルバンド王国の王ガルムントの第3子だ。上には兄が二人いる。父上が急死され、次期国王の座をめぐる争いが、内戦となってしまったのだ」

「権力にしがみつくために、兄弟で争うなんて、どうかしてます」

 ハトは悲しそうな声で言った。

「私もそう思う。こんなことのために、民の命を犠牲にしてはいかんのだ」

 そう決意を込めて言うアイリスベルの横顔は、凛として美しかった。

「では、少しアイリさんの国、ジルバンド王国の運命について、運命の書で調べてみましょう。少し、調べるお時間をいただきたいです。ハトさん。アイリさんを客間に案内して、休ませてあげてください」

 そう言うと、アルブルヘムは運命の書を探し始めた。

「では、アイリさん。こちらへどうぞ」

 ハトはアイリスベルを連れて歩き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が追放されてから21年後-紫花が咲く學院の三人の姬

Kiwi
ファンタジー
21年前、バスティア王国では悪しき幻霊魔法使いに対する処刑が行われました。 かつて幻霊魔法使いに陥れられ、悪役令嬢として名を汚された女性が王都に戻り、王子と再び結ばれました。 21年後、両親の顔を見たことのないピノは、幼い頃から優れた魔法の才能を持ち、バスティアの王妃の護衛として育ちましたが、ある事故で職を解かれます。王妃によって最高の魔法学校で翡翠学院に送られたピノは、そこで2人の友人を知ります。 1人は、潮国の王女である珊瑚で、元奴隷の父と類似した容姿のために国内の貴族から排斥され、将来に迷っています。 もう1人は、閉鎖的な国で育ち、魔法について何も知らない「花葉」という新興の衣料品店の店主の姪である夜星です。彼女は、女性の床を引く長いスカートを5センチ短くすることを主張しています。 学院の魔法戦大会が開催される間、彼女たちを取り巻く陰謀、戦い、そして彼女たち自身が知らない暗い過去が徐々に明らかになっていきます。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...