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3章 とある魔王の運命
魔王の運命4
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魔王ゾーディアスがこの世に誕生したのは300年前だった。数多くの魔物の中の一体としてこの世に誕生するが、すぐに頭角を現し、周りの魔物を従え、人間の領土を侵略していった。誕生して200年。ハドホックの世界のほとんどを支配するまでになった。人間は魔王の奴隷として生かされるか、世界の片隅でひっそりと暮らすかだった。
しかし、そこに、魔王にとってイレギュラーな存在、勇者が現れた。その圧倒的力で、魔王軍を追い詰めていった。追い詰められた魔王は、最後の力を使い、異世界であるゲーテルの世界に逃げ込んだ。
現在までのシュンの運命の書を読み、ハトは息を溢した。あの少年は、やはり、魔王ゾーディアスだったのだ。ハドホックの人類の敵、ゾーディアス。ハトも学問所の教本の中のことしか知らないが、ハドホックの人間の遺伝子に、その恐怖はしっかりと刻み込まれていた。
「確かに、あの少年が魔王というのは間違いなさそうですね。もう少し見てみましょうか?」
ハトが見守る中、アルブルヘムはページをめくった。
どのくらい読んでいただろうか、アルブルヘムとハトはその手を止めた。信じられなかった。この本に書いてある運命が、本当にあの魔王と同一人物のものかどうか、ハトには信じられない。
「こ、こんなことって」
「ええ。少し、予想外ですね。こんな、悲しい物語が、あの少年を待っているのですね」
ハトは、シュンに同情しているようだ。運命の書を読み、今は魔王というよりは、一人の少年シュンへ、心を寄せていた。
「アルブルヘムさん……」
「ええ、ハトさん。あなたの言いたいことはわかっていますよ。行ってください。シュンさんの元に」
「ありがとうございます」
「今回も、何もできず、傷つくだけかもしれませんよ?」
アルブルヘムが心配の眼差しを向ける。
「ええ。僕はちっぽけな、ただの人間です。何かを変えられるとは思っていません。しかし、アルブルヘムさんも言っていましたよね? 見守ることは、できると」
「はい」
アルブルヘムはハトの決意を受け止めるかのように、うなずいた。
「では、準備をします」
そう言い、木の精霊に合図を送ろうとしていたハトをアルブルヘムが呼び止めた。
「ハトさん。以前に渡した宝石は持っていますか?」
「もちろんですよ。これがないと、ここへは帰ってこれませんから」
以前、アルブルヘムにもらった、世界樹の力が込められた宝石だ。念じれは、どこにいようと、世界樹の図書館に戻ってくることができる。
「貸してください」
アルブルヘムはハトから宝石を受け取ると、世界樹に向かい、祈りを捧げた。宝石が青白く光る。
「終わりました」
5分ほど、祈っていただろうか?そう言うと、アルブルヘムは宝石をハトに手渡した。みたところ、変化と呼べるものはない。ハトが宝石を不思議そうに眺めていると、アルブルヘムが説明してくれる。
「宝石に2つの能力を込めました。一つはハトさんの見た目がその世界の住人のように見える事です」
確かに、シュンを見てハトも思った。服装が全く違う。多分、ハトの服装で他の世界に行ったら、周りから奇妙な目で見られるかもしれない。
「それと、もう一つです。言語を共有できるようにしました。ここはどこの世界にも属していない世界樹ですので、言語の概念がありません。そのため、他の世界の人同士が普通に会話ができています。しかし、外の世界ではそうはいきません。そこで、この宝石を持っていると、世界樹にいるときと同じように、他の世界の人と、普通に会話ができるように力を込めました」
「ありがとうございます。これで安心して、他の世界に旅立てます」
ハトは歩き出した。
「ハトさん。他の世界はあなたの、今までの常識が通用しない場面も多くあるでしょう。以前も言いましたが、もし、危険と感じたら、すぐに帰ってきてくださいね」
ハトは、歩き出した足を止めた。今なら、アルブルヘムの気持ちに触れられる気がした。
「アルブルヘムさんは、どうしてそこまで、僕を……」
アルブルヘムはゆっくりと笑顔を作った。まるで、ハトに言葉にならない何かを伝えようとしているようだった。
「気をつけて、行ってください」
ハトはその笑顔が見れただけで、十分な気がした。ハトは世界樹の出口に向かって歩き出した。
目の前では、外の世界への扉が、怪しく光っていた。
しかし、そこに、魔王にとってイレギュラーな存在、勇者が現れた。その圧倒的力で、魔王軍を追い詰めていった。追い詰められた魔王は、最後の力を使い、異世界であるゲーテルの世界に逃げ込んだ。
現在までのシュンの運命の書を読み、ハトは息を溢した。あの少年は、やはり、魔王ゾーディアスだったのだ。ハドホックの人類の敵、ゾーディアス。ハトも学問所の教本の中のことしか知らないが、ハドホックの人間の遺伝子に、その恐怖はしっかりと刻み込まれていた。
「確かに、あの少年が魔王というのは間違いなさそうですね。もう少し見てみましょうか?」
ハトが見守る中、アルブルヘムはページをめくった。
どのくらい読んでいただろうか、アルブルヘムとハトはその手を止めた。信じられなかった。この本に書いてある運命が、本当にあの魔王と同一人物のものかどうか、ハトには信じられない。
「こ、こんなことって」
「ええ。少し、予想外ですね。こんな、悲しい物語が、あの少年を待っているのですね」
ハトは、シュンに同情しているようだ。運命の書を読み、今は魔王というよりは、一人の少年シュンへ、心を寄せていた。
「アルブルヘムさん……」
「ええ、ハトさん。あなたの言いたいことはわかっていますよ。行ってください。シュンさんの元に」
「ありがとうございます」
「今回も、何もできず、傷つくだけかもしれませんよ?」
アルブルヘムが心配の眼差しを向ける。
「ええ。僕はちっぽけな、ただの人間です。何かを変えられるとは思っていません。しかし、アルブルヘムさんも言っていましたよね? 見守ることは、できると」
「はい」
アルブルヘムはハトの決意を受け止めるかのように、うなずいた。
「では、準備をします」
そう言い、木の精霊に合図を送ろうとしていたハトをアルブルヘムが呼び止めた。
「ハトさん。以前に渡した宝石は持っていますか?」
「もちろんですよ。これがないと、ここへは帰ってこれませんから」
以前、アルブルヘムにもらった、世界樹の力が込められた宝石だ。念じれは、どこにいようと、世界樹の図書館に戻ってくることができる。
「貸してください」
アルブルヘムはハトから宝石を受け取ると、世界樹に向かい、祈りを捧げた。宝石が青白く光る。
「終わりました」
5分ほど、祈っていただろうか?そう言うと、アルブルヘムは宝石をハトに手渡した。みたところ、変化と呼べるものはない。ハトが宝石を不思議そうに眺めていると、アルブルヘムが説明してくれる。
「宝石に2つの能力を込めました。一つはハトさんの見た目がその世界の住人のように見える事です」
確かに、シュンを見てハトも思った。服装が全く違う。多分、ハトの服装で他の世界に行ったら、周りから奇妙な目で見られるかもしれない。
「それと、もう一つです。言語を共有できるようにしました。ここはどこの世界にも属していない世界樹ですので、言語の概念がありません。そのため、他の世界の人同士が普通に会話ができています。しかし、外の世界ではそうはいきません。そこで、この宝石を持っていると、世界樹にいるときと同じように、他の世界の人と、普通に会話ができるように力を込めました」
「ありがとうございます。これで安心して、他の世界に旅立てます」
ハトは歩き出した。
「ハトさん。他の世界はあなたの、今までの常識が通用しない場面も多くあるでしょう。以前も言いましたが、もし、危険と感じたら、すぐに帰ってきてくださいね」
ハトは、歩き出した足を止めた。今なら、アルブルヘムの気持ちに触れられる気がした。
「アルブルヘムさんは、どうしてそこまで、僕を……」
アルブルヘムはゆっくりと笑顔を作った。まるで、ハトに言葉にならない何かを伝えようとしているようだった。
「気をつけて、行ってください」
ハトはその笑顔が見れただけで、十分な気がした。ハトは世界樹の出口に向かって歩き出した。
目の前では、外の世界への扉が、怪しく光っていた。
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