18 / 32
2章 とある兵士の運命
兵士の運命7
しおりを挟む
木剣のぶつかり合う乾いた音が、訓練場のだだっ広い空間に響いた。ドラデラとオーランはしばらくの時間、互いの剣を打ち合っていた。ドラデラは、弟の生存を噛みしめるように、その気持ちを顔に滲ませていた。
気分が良くなってきたドラデラは、思い切った攻撃に出た。相手を出し抜くような奇襲攻撃だ。しかし、オーランの方が一枚も二枚も上手であった。ドラデラの攻撃を見事に避け切ると、身を優雅に反転させ、いとも簡単にドラデラの背後をとった。
「いや~。兄さんにしては、見事な判断だったよ。驚いた。腕をあげたね」
そう言うと、オーランは兄ドラデラに向けていた、木剣を下ろした。
「その、渾身の一撃も、お前には全く届かなかったがな。さすが、自慢の弟だよ」
ドラデラも笑顔だった。側から見たら、とても幸せそうな兄弟に見える。ハトはこの先の運命のことを考えると、胸が苦しくなった。自分にはなにもできない。自分にはなにもできないと言い聞かせる。
ドラデラたちは移動を始めた。再会を祝して酒場に繰り出すようだ。ハトも後を追った。
酒場についたドラデラたちは、豪快に樽に入った酒を煽った。上機嫌に笑い声を上げながら、会話を楽しんでいた。ハトは少し離れた席に座り、その様子をボーッと眺めていた。
「騎士団の生活はどうだ?」
ドラデラがオーランに聞いた。
「身が引き締まる思いだよ。程よい緊張感と、切磋琢磨する仲間がいるからね。毎日が充実しているよ」
「お前は真面目だよな。好みの女の一人や二人いないのかね」
「それは兄さんこそだろ。今まで、仕事、仕事できたろ?そろそろ身を固めて僕を安心させてよ」
「ワハハハ。お前も言うようになったな」
ドラデラは上機嫌に顔を赤くさせ、笑った。
「それはそうとよ。……確か、同じ騎士団にガードルという騎士はいなかったか?」
ドラデラは急に真面目な顔になって聞いた。酔いに任せたのか、本当に歴史が変わっているのかを確かめようとしていた。ハトもそのあとのオーランの返事に意識を集中させた。
「ん?ガードル?そんな人、騎士団にいたかな?少なくとも、僕の小隊にはいないな」
「お前の上司はなんて名前だったかな?副隊長の……」
「ジュロンさんだよ。僕が入隊した時に、兄さん、一緒に挨拶に言ったろ?」
確かに、歴史は変わっていた。弟である、オーランが生きていたことでわかるが、今回の話でもはっきりとドラデラは確信した。ガードルという人物がいなくなっている。副隊長の人物も入れ替わっている。
「いや、すまねぇ。変なこと聞いたな。忘れてくれ。それより、樽が空いちまったな。もう一個いくか?」
「いいけど、兄さん飲み過ぎてない?大丈夫?」
二人の話を聞きながら、ハトはこの世界に来る前のアルブルヘムとのやりとりを思い出していた。
ガードルがいなくなった後に、アルブルヘムは自分が座るカウンターの引き出しを開けたのだ。ちょうど本が1冊だけ入る、小さな引き出しだった。中には金の表紙の本が入っていた。うっすらと輝くその本は、金属のようにも見えるが、絹のように柔らかそうにも見える。はたまた、雲のように実態がないような、そんな不思議な色合いの本だった。
「これは?」
ハトが聞くと、アルブルヘムはゆっくりと、その本の表紙をめくった。一本の大きな樹が描かれたページがあった。
「これは運命の書を束ねる存在の書。この世界樹の運命が書かれた、運命の書です」
気分が良くなってきたドラデラは、思い切った攻撃に出た。相手を出し抜くような奇襲攻撃だ。しかし、オーランの方が一枚も二枚も上手であった。ドラデラの攻撃を見事に避け切ると、身を優雅に反転させ、いとも簡単にドラデラの背後をとった。
「いや~。兄さんにしては、見事な判断だったよ。驚いた。腕をあげたね」
そう言うと、オーランは兄ドラデラに向けていた、木剣を下ろした。
「その、渾身の一撃も、お前には全く届かなかったがな。さすが、自慢の弟だよ」
ドラデラも笑顔だった。側から見たら、とても幸せそうな兄弟に見える。ハトはこの先の運命のことを考えると、胸が苦しくなった。自分にはなにもできない。自分にはなにもできないと言い聞かせる。
ドラデラたちは移動を始めた。再会を祝して酒場に繰り出すようだ。ハトも後を追った。
酒場についたドラデラたちは、豪快に樽に入った酒を煽った。上機嫌に笑い声を上げながら、会話を楽しんでいた。ハトは少し離れた席に座り、その様子をボーッと眺めていた。
「騎士団の生活はどうだ?」
ドラデラがオーランに聞いた。
「身が引き締まる思いだよ。程よい緊張感と、切磋琢磨する仲間がいるからね。毎日が充実しているよ」
「お前は真面目だよな。好みの女の一人や二人いないのかね」
「それは兄さんこそだろ。今まで、仕事、仕事できたろ?そろそろ身を固めて僕を安心させてよ」
「ワハハハ。お前も言うようになったな」
ドラデラは上機嫌に顔を赤くさせ、笑った。
「それはそうとよ。……確か、同じ騎士団にガードルという騎士はいなかったか?」
ドラデラは急に真面目な顔になって聞いた。酔いに任せたのか、本当に歴史が変わっているのかを確かめようとしていた。ハトもそのあとのオーランの返事に意識を集中させた。
「ん?ガードル?そんな人、騎士団にいたかな?少なくとも、僕の小隊にはいないな」
「お前の上司はなんて名前だったかな?副隊長の……」
「ジュロンさんだよ。僕が入隊した時に、兄さん、一緒に挨拶に言ったろ?」
確かに、歴史は変わっていた。弟である、オーランが生きていたことでわかるが、今回の話でもはっきりとドラデラは確信した。ガードルという人物がいなくなっている。副隊長の人物も入れ替わっている。
「いや、すまねぇ。変なこと聞いたな。忘れてくれ。それより、樽が空いちまったな。もう一個いくか?」
「いいけど、兄さん飲み過ぎてない?大丈夫?」
二人の話を聞きながら、ハトはこの世界に来る前のアルブルヘムとのやりとりを思い出していた。
ガードルがいなくなった後に、アルブルヘムは自分が座るカウンターの引き出しを開けたのだ。ちょうど本が1冊だけ入る、小さな引き出しだった。中には金の表紙の本が入っていた。うっすらと輝くその本は、金属のようにも見えるが、絹のように柔らかそうにも見える。はたまた、雲のように実態がないような、そんな不思議な色合いの本だった。
「これは?」
ハトが聞くと、アルブルヘムはゆっくりと、その本の表紙をめくった。一本の大きな樹が描かれたページがあった。
「これは運命の書を束ねる存在の書。この世界樹の運命が書かれた、運命の書です」
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる