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2章 とある兵士の運命

兵士の運命7

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 木剣のぶつかり合う乾いた音が、訓練場のだだっ広い空間に響いた。ドラデラとオーランはしばらくの時間、互いの剣を打ち合っていた。ドラデラは、弟の生存を噛みしめるように、その気持ちを顔に滲ませていた。

 気分が良くなってきたドラデラは、思い切った攻撃に出た。相手を出し抜くような奇襲攻撃だ。しかし、オーランの方が一枚も二枚も上手であった。ドラデラの攻撃を見事に避け切ると、身を優雅に反転させ、いとも簡単にドラデラの背後をとった。

「いや~。兄さんにしては、見事な判断だったよ。驚いた。腕をあげたね」

 そう言うと、オーランは兄ドラデラに向けていた、木剣を下ろした。

「その、渾身の一撃も、お前には全く届かなかったがな。さすが、自慢の弟だよ」

 ドラデラも笑顔だった。側から見たら、とても幸せそうな兄弟に見える。ハトはこの先の運命のことを考えると、胸が苦しくなった。自分にはなにもできない。自分にはなにもできないと言い聞かせる。


 ドラデラたちは移動を始めた。再会を祝して酒場に繰り出すようだ。ハトも後を追った。
 酒場についたドラデラたちは、豪快に樽に入った酒を煽った。上機嫌に笑い声を上げながら、会話を楽しんでいた。ハトは少し離れた席に座り、その様子をボーッと眺めていた。

「騎士団の生活はどうだ?」

 ドラデラがオーランに聞いた。

「身が引き締まる思いだよ。程よい緊張感と、切磋琢磨する仲間がいるからね。毎日が充実しているよ」

「お前は真面目だよな。好みの女の一人や二人いないのかね」

「それは兄さんこそだろ。今まで、仕事、仕事できたろ?そろそろ身を固めて僕を安心させてよ」

「ワハハハ。お前も言うようになったな」

 ドラデラは上機嫌に顔を赤くさせ、笑った。

「それはそうとよ。……確か、同じ騎士団にガードルという騎士はいなかったか?」

 ドラデラは急に真面目な顔になって聞いた。酔いに任せたのか、本当に歴史が変わっているのかを確かめようとしていた。ハトもそのあとのオーランの返事に意識を集中させた。

「ん?ガードル?そんな人、騎士団にいたかな?少なくとも、僕の小隊にはいないな」

「お前の上司はなんて名前だったかな?副隊長の……」

「ジュロンさんだよ。僕が入隊した時に、兄さん、一緒に挨拶に言ったろ?」

 確かに、歴史は変わっていた。弟である、オーランが生きていたことでわかるが、今回の話でもはっきりとドラデラは確信した。ガードルという人物がいなくなっている。副隊長の人物も入れ替わっている。

「いや、すまねぇ。変なこと聞いたな。忘れてくれ。それより、樽が空いちまったな。もう一個いくか?」

「いいけど、兄さん飲み過ぎてない?大丈夫?」

 二人の話を聞きながら、ハトはこの世界に来る前のアルブルヘムとのやりとりを思い出していた。


 ガードルがいなくなった後に、アルブルヘムは自分が座るカウンターの引き出しを開けたのだ。ちょうど本が1冊だけ入る、小さな引き出しだった。中には金の表紙の本が入っていた。うっすらと輝くその本は、金属のようにも見えるが、絹のように柔らかそうにも見える。はたまた、雲のように実態がないような、そんな不思議な色合いの本だった。

「これは?」

 ハトが聞くと、アルブルヘムはゆっくりと、その本の表紙をめくった。一本の大きな樹が描かれたページがあった。

「これは運命の書を束ねる存在の書。この世界樹の運命が書かれた、運命の書です」
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