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2章 とある兵士の運命

兵士の運命6

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「あんまりですよ。これでは、ドラデラさんはなんのために……」

 ハトの言葉をアルブルヘムは悲しそうな顔で聞いているだけだった。

「……これが、運命なんですね」

「行ってみますか?ドラデラさんのところに」

「えっ?」

 ハトの呟きにアルブルヘムが答えた。

「ドラデラさんの運命を見届けに、ですよ」

「で、でも……」

 ハトは躊躇っている。今度こそ、悲しい結果にしかならない事がわかっているからだ。

「ええ。ハトさんの考えている通りです。ハトさんが行ったところで、なにもできないでしょう」

「それなら、僕が行く意味が……」

「そうですね。意味はないのかもしれません。しかし、その運命を見届けることはできると思いますよ」

 すごく優しい顔だった。さっきまで訪問者と対峙していた冷たい顔が嘘のようだ。

「そうですね。僕、ドラデラさんに会ってきます」

 ハトは見届ける決意を固めたようだ。以前の救えなかった少女のことが頭にあったのだろう。関わりを持ったのだ。せめて見届けるくらいはしたいとハトは思っていた。

「やっぱり優しいですね。ハトさんは」

 アルブルヘムは言った。その柔らかい笑顔でそんなことを言われると、ハトは自分の気持ちが分からなくなってくる。これは自分の優しさなのか、アルブルヘムに笑顔を向けてほしいからの感情なのか。
 アルブルヘムは続けた。

「今回も、ハトさんには辛い体験になってしまうでしょう。けど、ハトさんにはもっと知ってほしいのです。運命の残酷さを。そして、それに抗うものの力強さを」

「はい。行ってきます」

「お気をつけて」

 ハトはアルブルヘムに背を向け、歩き出した。


 ハドホックの世界に帰ってきたハトは、ドラデラの話を思い出しながら目的地を考えた。ドラデラは弟の生存を確かめに行ったはずだ。と言うことは、目的地は一つしかない。この世界唯一の大国、アートラク王国だ。

 アートラク王国はハドホックの世界のちょうど中心に位置している。かなり大きな国で、以前に行ったモノタリの街とは比べ物にならない。人口も3000万人をゆうに超える。

 ハトは、とりあえず王国の騎士団が常駐している場所に向かった。ハトもハドホックの世界で暮らしていた時は旅の途中でアートラク王国に立ち寄ったことは何度もあった。そのため、国の形や主要な場所はなんとなく知っている。しかし、かなり広い国だ。ドラデラ達を見つけられるか心配ではあった。
 そんな心配をよそに、ドラデラと弟のことはすぐに見つけることができた。騎士団の基地の隣にある大きな訓練場。そこに二人の姿があった。ハトは少し離れた位置から、二人のやりとりを観察した。

「オーラン。オーランなのか?」

 どうやら、ドラデラも世界樹の図書館から戻り、生きている弟には会ったばかりのようだ。

「兄さん?なに言ってるんだ。この間、任務の合間に、兄さんの街に会いに行ったばかりだろ?」

 オーランと呼ばれた弟は兄の態度に不思議そうな顔をしていた。

「い、いや。すまん。ちょ、ちょっと騎士の立派な格好をしていたのでびっくりしただけだ」

「そう?ただの訓練用の鎧だよ。それより、兄さんはどうしたの?傭兵団の仕事はいいの?」

「あ、ああ。ちょっとまとまった休みが取れたんだ。それで、お前に会いにきたんだ」

「わざわざいいのに。このところ兄さんは働き詰めだったろ?ゆっくりするのに、ちょうどよかったんじゃないの?」

 その声や表情からも、兄を気遣う気持ちが伝わってきた。本当に優しい青年なのだろう。

「そう言うなよ。たった一人の家族じゃないか。それより、訓練していたのか?」

 ドラデラはオーランの手に持っている木剣を見つめて言った。

「うん。今日は非番の日だからね。腕を磨いておかないと、騎士団ではやっていけないからね」

「ふふ。相変わらず、努力家だな。お前は」

 ドラデラも優しい表情をしている。復讐のために世界樹の図書館を訪れた時と同一人物とは思えなかった。ドラデラは近くに立て掛けてある木剣を手に取るとオーランに言った。

「よし。お前がどの程度腕を上げたか、俺が確かめてやるよ」

 そう言うと、ドラデラは木剣を構えた。

「なに言ってるんだよ。僕の方で、兄さんが鍛錬を怠っていなかったか、しっかり確かめてあげるよ」

 オーランはドラデラに応じるように、木剣を握りしめた。

 ハトだけが知っていた。二人に運命の影が、刻一刻と迫って来ているのを。
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