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Ⅱ
37:アビエルの焦燥
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「アビエル様、どうかされましたか? 何か問題でも?」
ただならぬ表情のアビエルの顔を見て、この休戦協定の件で何かあったのかと不安がよぎる。貴賓室の扉を開けて中に入った瞬間に扉に押しつけられた。激しく唇を奪われ息ができない。
「ん‥‥」
まるで攻めるように口中を蹂躙される。舌と舌が絡まり互いの唾液を吸い合う。息が苦しくて頭の奥が痺れたようになった時に、ようやく唇が解放された。
「どうして‥‥どうして私の傍にいないんだ」
アビエルがレオノーラの鎖骨に額をおき呟く。長い口づけの後の余韻で呼吸を整えていたレオノーラは一瞬言葉が出てこなかった。しばらくして顔を伏せたままレオノーラの腰を抱きしめているアビエルの頭に両手をやり、優しく宥めるように撫でた。
「すみませんでした。皆さま歓談なさっていたから、もうご用は無いかと思って。お腹が減っていたので食事を取りにフロアへ降りてしまって」
再び、アビエルが顔を上げ今度は先ほどとは違った穏やかで優しい口づけを始める。腰に回した手がレオノーラの背中を上がり背筋を撫で上げる。
「どこへも行かないでくれ。ずっと私の傍に居てほしい」
唇を合わせたままアビエルがそう呟く。レオノーラは慰めるように諭すように囁く。
「あなたの傍に居て、命ある限りあなたを守るわ。私はずっとあなたの傍から離れませんから」
アビエルが大きなため息をついた。
「‥‥本当に、自分の理性の弱さが恨めしいな。ドミニクと嬉しそうに話すおまえを見たらどうしようもなくなった」
そうしてレオノーラの顎を上げて口づけを繰り返す。唇を喰むように離すと首筋に唇を落とす。腰に回した手がシャツを手繰り、中に差し入れられる。
「アビエル、黙って晩餐会を抜けて出てきてしまったわ」
アビエルの首筋から背中を撫でながらレオノーラは掠れた声でそう聞いた。
「今日は皆浮かれているから大丈夫だろう。きっと居ないことにも気づかない」
「さすがに皇太子がいないのには気づくと思うわよ」
小さく笑いながら言うレオノーラの腰を掴み、抱きしめて自分の興奮をわからせる。
「もう、挨拶も終わったし、いなくても大丈夫だ」
「本当? ウィレム王太子のお相手は? お部屋に下がるなら、伯爵様たちには何かお伝えした方がいいんじゃないかしら」
心配そうにレオノーラは告げる。
「‥‥レオニーは真面目で正論を言い過ぎだと思うよ」
憮然とした表情でアビエルはそう言うと、しばらく黙った後、
「ここで待っていてくれるか?」
そう言ってじっとレオノーラの目を見つめる。レオノーラはその頬に手を当てて優しく撫でながら微笑んで答えた。
「はい、お待ちしております」
その答えに深く口づけを返した後、アビエルはものすごい速さで部屋を出ていった。その急ぎっぷりに思わず笑いが漏れた。
大きく開いた窓の方へ向かい、外を眺める。すでに外は真っ暗で城壁門の入り口の松明や森の向こうの城郭の上で監視が持つ灯りの光だけが見えた。まるでこの城は暗闇に浮いているようだ。
ソファに座ってこれまでを振り返った。三年前の夏、アビエルが辺境伯領に視察に来て流入者の問題にテコ入れをした。その後は怒涛のように色々なことが変化した。
もちろん、まだ、解決しなければならない問題はある。とはいえ、アビエルの行動力と治政力には並々ならぬものがあると感じる。彼は望んでいないかもしれないけれど、やはり彼は皇帝になるべくして生まれた人なのだ。
「私は‥‥何になるべくして生まれたのかしらね」
そう声に出してみると、自分が何者にもなれないことに気づき、なんと陳腐なセリフかと感じた。そして、ふと、心に浮かんだ言葉を口に出す。
「私は、アビエルに会うために生まれたの」
あまりに子どもじみて、お話の中のセリフのようで笑ってしまった。でも、笑いながら妙にそれがしっくりきて、もう、何かになろうとしなくていいかと思えた。出会った人と思いを遂げた。一緒にいると幸せだ。他に何がいるだろう。そうだ、自分は厚かましい人間なのだ。何かになれずとも、何かを為せずとも、彼が望む限り一緒にいると誓ったのだから、こんな出来損ないの自分でももういいのだ。
「そうか~~」
そう言葉にすると、なんだか心の中が全部緩んで、急に眠気が襲ってきた。少し酔ったのかもしれない。アビエルはまだ戻ってこない。誰かに掴まってきっと話が弾んでいるのだろう。今日は大きな仕事が達成された善き日だもの・・・・高級なソファの快適な心地よさにレオノーラはいつしか体を沈めて眠りこんでいた。
アビエルは広間に戻るやいなや、今後の流れですが、と言うウィレム王太子やルーテシアの外務大臣に掴まってしまった。なんとか話の区切りで、疲れたので部屋に下がりたいと意思表示をしようとしたがうまくいかず、次々と他の要人からも話を求められ、結局、そろそろ晩餐会をお開きにしようというところで、ベルトルドから最後に参列者への挨拶まで求められた。
「今後、近隣諸国間で緊密な連携を取り、平和で互いの益となる国交が永く久しく続くことを願う」
頭の中が部屋で待つレオノーラのことでいっぱいで、自分の中では良いのか悪いのかよくわからない締めの挨拶だったが、盛大な拍手だったのでまぁいいのだろう。
足早に広間を去ろうとして、ルイスを見つけ、自分の世話はもういいので、湯だけ部屋に持ってくるように頼んでくれ、と伝える。
急いで部屋に戻るとソファでレオノーラが眠りこんでいた。
「レオニー‥‥」
声をかけると、ん‥‥という様子でゆっくりと体を起こして、ぼんやりしている。
「すまない、すっかり遅くなってしまって。待たせてしまったな」
焦点の合わない様子で自分を見つめるレオノーラの頬を撫でた。レオノーラは、その手のひらに顔を乗せるようにしてうっすらと微笑みながら、
「大丈夫よ。‥‥寝てました」
まるで小さな子どものように分かりきった様子を伝える。そのぼんやりした姿が可愛くて唇を寄せようとしたところで部屋がノックされ、使用人が湯桶を持って現れた。いつもなら飛び上がって姿を隠すのに、まだ半分眠っているのか、レオノーラは座ったままぼんやりしている。使用人が下がった後、
「湯を使うか? それとももう眠りたい?」
そう聞くと、目を瞑ってそのまま眠ってしまったのかと思うほどの後、
「一緒が‥‥いい‥‥」
そう呟いた。まるで眠くてたまらないのに頑張って何かを話そうとしている子どものようだ。
「じゃあ、一緒に湯に入ろう。そのほうがゆっくり眠れる」
ブーツを脱がし、上着を取ってシャツのボタンを外す。そうしている間に気づけば彼女はスゥスゥと寝息を立て始めている。衣類を全部取り払い、自分の服も脱いで、レオノーラの腕を首に回し、抱き抱えて湯桶に入る。
レオノーラは、湯が体に触れた瞬間に目を開けた。しかし、ぼんやりとした頭ではどうやら状況が飲み込めない様子で、湯船をジッと見つめて何やら考えている。
「目が覚めた? 」
膝に彼女を乗せて背中に湯をかけながら優しく聞く。アビエルの肩に頭を置いたまま、何かを言おうと口を開いたが、またそれを閉じてジッと湯船を見ている。アビエルは撫でるように湯を掬ってはレオノーラの背中にかけた。
「川‥‥」
レオノーラが小さな声で一言つぶやく。ため息をつくように息を吐いてさらにアビエルの肩にもたれかかる。
「川?」
聞き返すと、口元に笑みを浮かべて、ふふ、と笑う。
「目を開けるとね、ガラスの中にいるみたいなの」
肩に頬を擦り付けて、アビエルの胸元を手で撫で始める。どうやら昔、川で泳いだ時のことを思い出しているようだ。レオノーラが体を寄せるので、その胸の先がアビエルの胸に触れる。優しく湯をかけながらアビエルは理性を総動員していた。
「‥‥綺麗だった。すごく」
「覚えてるよ。レオニーを女の子だって初めて知った」
思い出して、笑みが溢れた。
「すごくびっくりした。でも、その後ずっとそのことばかり考えてた。その時からずっとレオニーのことが好きだったんだと思う」
そう囁いて、可愛い唇にキスをした。レオノーラは目を瞑ったまま、ふふふふ、と得意げに笑う。
「じゃぁ、私の勝ち」
嬉しそうに微笑みさらにアビエルの体にすり寄る。アビエルは、自分の体を刺激するその胸の柔らかい感触にたまらず触れ始めた。
「勝ちって何の勝ち? 男の子だって思わせていたこと?」
掠れた声で聞く。レオノーラはアビエルが胸に触れてその蕾を親指で擦り上げると、はぁ、と吐息を吐いた。
「私はアビエルが初めて厩舎に来た時からずっと好きなの。だから私の勝ち」
そう言って、さらに得意げに口元を弓なりにして微笑んだ。その愛しい姿にアビエルの理性は崩壊した。微笑む唇に深い口づけを落とす。レオノーラを抱いたまま湯桶から出て、そのまま床が濡れるのも気にせず寝台へ向かう。
寝台にゆっくりとレオノーラを下ろすと、その艶かしい美しい姿に心を奪われる。レオノーラが手を差し出して自分を誘う。あぁ、もう、こんな幸せがあるだろうか。美しい彼女を掻き抱いて、繰り返し愛を告げる。
「レオニー、レオニー、愛しているよ」
首筋に唇を寄せて吸い上げる。レオノーラの体が美しくしなる。その体は、まるで、アビエルの体に沿うように作られたかのようにピタリとくっつきあう。膝を足の間に割り入れると、その細い腰がアビエルの太ももにあたり、レオノーラの蜜が太ももを濡らした。
胸の頂の熟れた赤い蕾を唇で弄びながら、太ももを動かして秘所を刺激すると、小さな声で喘ぎ始める。自然と腰が動いているのがわかる。淫靡な水音を立ててレオノーラの秘所がアビエルの脚に吸い付き、気持ちの良いところを擦り付ける。
「あぁ‥ん」
身体中を火照らせながら、縋り付くその姿にアビエルは激しい欲求で熱くなった。快楽に揺れているその腰を両手で支えると、一気に最奥まで自分の猛りを突き込んだ。その衝撃にレオノーラは体を逸らして震えた。
「あぁぁぁんっ」
悲鳴とも嬌声ともつかない声で叫んだ後、アビエルの肩にしがみついて粗い息を繰り返した。アビエルは自分を包み蠢くレオノーラの中の心地よさに呻き声を上げた。
「あっあぁ…レオニー、どうしてこんなに…いくらでもおまえが欲しくなる」
大きく腰を引いた後、さらに奥へ突き込む。最奥にゴツンと当たりその快感でレオノーラの体が震える。最奥を開こうとするかのように強く穿ちながら、胸を揉みしだき、その頂を弄ぶ。
「んっ、んっ、あぁん」
突かれるたびに呻きが止まらず、快感の中でレオノーラは意識を飛ばしていた。赤く腫れた唇を薄く開き、とろけるように自分を見つめるその瞳を見つめて、唇をむさぼり舌を絡め合いながら、アビエルは喜びに我を忘れて腰を振り続けていた。
「‥‥アビエル、んっ、あっ、アビエル」
レオノーラが譫言のようにアビエルの名前を呼び、アビエルの打ち付ける腰の動きに合わせて腰を揺らす。動くたびに中が締まり、行き来する雄心を扱く。
「レオニー、レオニー、あぁっ」
アビエルの背中を一気に快感が駆け上がり、レオノーラの体から己を抜き白濁を撒いた。粗い息を吐きながらゆっくりとシーツに沈む。そしてレオノーラの体を抱きしめた。軽く痙攣するように震える彼女の背中をさすりながら、火照った頬にキスを落とす。
「レオニー‥‥可愛い私のレオニー」
アビエルの腕にすっぽりと包まれたまま、レオノーラは達した興奮でまだぼんやりしていた。しばらくして、ふと背中のシーツの感触に気づき少しずつ我にかえる。ガバッと起き上がってシーツを掴む。
「アビエル、どうしましょう。シーツがびしゃびしゃだわ‥‥」
その真剣な表情とさっきまでの恍惚感との落差に、アビエルは思わず吹き出してしまった。
「ちょっと、笑い事じゃないわ。大変、どうしたらいいの? 今からどこかに干すわけにもいかないし。ねぇ、笑っていないで起きて。ここはクレイン領の城よ」
自分の横で正座をしてシーツを握って焦っているレオノーラの姿が、可愛くて可笑しくて笑いが止まらない。
「あぁ、もう、レオニーといないと笑い方を忘れているんだろうな。一緒にいるとどうしてこんなに幸せに笑えるのか。ククク、ハハッ」
「もう、真剣に考えて。アビエル、こんなびしょびしょのシーツで今夜どうやって眠るの? だいたいなんでこんなにびしょびしょになったのかと思われてしまうわ」
レオノーラが、テラスの方を見て、どうやら本気でテラスにシーツを干そうと考え始めているようなので、その体を引き寄せて、
「大丈夫だよ。使用人を呼んでベッドにデカンタの水をこぼしたから、シーツを替えてくれって言えばいい」
そう言ってその可愛いつむじにキスをする。レオノーラは言われたことを理解すると、今度は慌てていた自分が恥ずかしくなったのか肩の先までほんのり赤くなった。それがまた堪らず可愛くて笑いが溢れる。
笑い続けているアビエルの体を押しのけながら眉間に皺を寄せてレオノーラが不愉快そうに言う。
「私には、いつでもなんでも使用人にしていただけるという感覚がないの。はぁ、もう」
ぬるくなった湯桶で体を綺麗にした後、使用人を呼んで湯桶を下げてもらいシーツの交換をお願いした。もちろん、その間レオノーラは衣装部屋で息を潜めて隠れていた。それがまた可笑しくて、アビエルはずっと笑い続けていた。
ただならぬ表情のアビエルの顔を見て、この休戦協定の件で何かあったのかと不安がよぎる。貴賓室の扉を開けて中に入った瞬間に扉に押しつけられた。激しく唇を奪われ息ができない。
「ん‥‥」
まるで攻めるように口中を蹂躙される。舌と舌が絡まり互いの唾液を吸い合う。息が苦しくて頭の奥が痺れたようになった時に、ようやく唇が解放された。
「どうして‥‥どうして私の傍にいないんだ」
アビエルがレオノーラの鎖骨に額をおき呟く。長い口づけの後の余韻で呼吸を整えていたレオノーラは一瞬言葉が出てこなかった。しばらくして顔を伏せたままレオノーラの腰を抱きしめているアビエルの頭に両手をやり、優しく宥めるように撫でた。
「すみませんでした。皆さま歓談なさっていたから、もうご用は無いかと思って。お腹が減っていたので食事を取りにフロアへ降りてしまって」
再び、アビエルが顔を上げ今度は先ほどとは違った穏やかで優しい口づけを始める。腰に回した手がレオノーラの背中を上がり背筋を撫で上げる。
「どこへも行かないでくれ。ずっと私の傍に居てほしい」
唇を合わせたままアビエルがそう呟く。レオノーラは慰めるように諭すように囁く。
「あなたの傍に居て、命ある限りあなたを守るわ。私はずっとあなたの傍から離れませんから」
アビエルが大きなため息をついた。
「‥‥本当に、自分の理性の弱さが恨めしいな。ドミニクと嬉しそうに話すおまえを見たらどうしようもなくなった」
そうしてレオノーラの顎を上げて口づけを繰り返す。唇を喰むように離すと首筋に唇を落とす。腰に回した手がシャツを手繰り、中に差し入れられる。
「アビエル、黙って晩餐会を抜けて出てきてしまったわ」
アビエルの首筋から背中を撫でながらレオノーラは掠れた声でそう聞いた。
「今日は皆浮かれているから大丈夫だろう。きっと居ないことにも気づかない」
「さすがに皇太子がいないのには気づくと思うわよ」
小さく笑いながら言うレオノーラの腰を掴み、抱きしめて自分の興奮をわからせる。
「もう、挨拶も終わったし、いなくても大丈夫だ」
「本当? ウィレム王太子のお相手は? お部屋に下がるなら、伯爵様たちには何かお伝えした方がいいんじゃないかしら」
心配そうにレオノーラは告げる。
「‥‥レオニーは真面目で正論を言い過ぎだと思うよ」
憮然とした表情でアビエルはそう言うと、しばらく黙った後、
「ここで待っていてくれるか?」
そう言ってじっとレオノーラの目を見つめる。レオノーラはその頬に手を当てて優しく撫でながら微笑んで答えた。
「はい、お待ちしております」
その答えに深く口づけを返した後、アビエルはものすごい速さで部屋を出ていった。その急ぎっぷりに思わず笑いが漏れた。
大きく開いた窓の方へ向かい、外を眺める。すでに外は真っ暗で城壁門の入り口の松明や森の向こうの城郭の上で監視が持つ灯りの光だけが見えた。まるでこの城は暗闇に浮いているようだ。
ソファに座ってこれまでを振り返った。三年前の夏、アビエルが辺境伯領に視察に来て流入者の問題にテコ入れをした。その後は怒涛のように色々なことが変化した。
もちろん、まだ、解決しなければならない問題はある。とはいえ、アビエルの行動力と治政力には並々ならぬものがあると感じる。彼は望んでいないかもしれないけれど、やはり彼は皇帝になるべくして生まれた人なのだ。
「私は‥‥何になるべくして生まれたのかしらね」
そう声に出してみると、自分が何者にもなれないことに気づき、なんと陳腐なセリフかと感じた。そして、ふと、心に浮かんだ言葉を口に出す。
「私は、アビエルに会うために生まれたの」
あまりに子どもじみて、お話の中のセリフのようで笑ってしまった。でも、笑いながら妙にそれがしっくりきて、もう、何かになろうとしなくていいかと思えた。出会った人と思いを遂げた。一緒にいると幸せだ。他に何がいるだろう。そうだ、自分は厚かましい人間なのだ。何かになれずとも、何かを為せずとも、彼が望む限り一緒にいると誓ったのだから、こんな出来損ないの自分でももういいのだ。
「そうか~~」
そう言葉にすると、なんだか心の中が全部緩んで、急に眠気が襲ってきた。少し酔ったのかもしれない。アビエルはまだ戻ってこない。誰かに掴まってきっと話が弾んでいるのだろう。今日は大きな仕事が達成された善き日だもの・・・・高級なソファの快適な心地よさにレオノーラはいつしか体を沈めて眠りこんでいた。
アビエルは広間に戻るやいなや、今後の流れですが、と言うウィレム王太子やルーテシアの外務大臣に掴まってしまった。なんとか話の区切りで、疲れたので部屋に下がりたいと意思表示をしようとしたがうまくいかず、次々と他の要人からも話を求められ、結局、そろそろ晩餐会をお開きにしようというところで、ベルトルドから最後に参列者への挨拶まで求められた。
「今後、近隣諸国間で緊密な連携を取り、平和で互いの益となる国交が永く久しく続くことを願う」
頭の中が部屋で待つレオノーラのことでいっぱいで、自分の中では良いのか悪いのかよくわからない締めの挨拶だったが、盛大な拍手だったのでまぁいいのだろう。
足早に広間を去ろうとして、ルイスを見つけ、自分の世話はもういいので、湯だけ部屋に持ってくるように頼んでくれ、と伝える。
急いで部屋に戻るとソファでレオノーラが眠りこんでいた。
「レオニー‥‥」
声をかけると、ん‥‥という様子でゆっくりと体を起こして、ぼんやりしている。
「すまない、すっかり遅くなってしまって。待たせてしまったな」
焦点の合わない様子で自分を見つめるレオノーラの頬を撫でた。レオノーラは、その手のひらに顔を乗せるようにしてうっすらと微笑みながら、
「大丈夫よ。‥‥寝てました」
まるで小さな子どものように分かりきった様子を伝える。そのぼんやりした姿が可愛くて唇を寄せようとしたところで部屋がノックされ、使用人が湯桶を持って現れた。いつもなら飛び上がって姿を隠すのに、まだ半分眠っているのか、レオノーラは座ったままぼんやりしている。使用人が下がった後、
「湯を使うか? それとももう眠りたい?」
そう聞くと、目を瞑ってそのまま眠ってしまったのかと思うほどの後、
「一緒が‥‥いい‥‥」
そう呟いた。まるで眠くてたまらないのに頑張って何かを話そうとしている子どものようだ。
「じゃあ、一緒に湯に入ろう。そのほうがゆっくり眠れる」
ブーツを脱がし、上着を取ってシャツのボタンを外す。そうしている間に気づけば彼女はスゥスゥと寝息を立て始めている。衣類を全部取り払い、自分の服も脱いで、レオノーラの腕を首に回し、抱き抱えて湯桶に入る。
レオノーラは、湯が体に触れた瞬間に目を開けた。しかし、ぼんやりとした頭ではどうやら状況が飲み込めない様子で、湯船をジッと見つめて何やら考えている。
「目が覚めた? 」
膝に彼女を乗せて背中に湯をかけながら優しく聞く。アビエルの肩に頭を置いたまま、何かを言おうと口を開いたが、またそれを閉じてジッと湯船を見ている。アビエルは撫でるように湯を掬ってはレオノーラの背中にかけた。
「川‥‥」
レオノーラが小さな声で一言つぶやく。ため息をつくように息を吐いてさらにアビエルの肩にもたれかかる。
「川?」
聞き返すと、口元に笑みを浮かべて、ふふ、と笑う。
「目を開けるとね、ガラスの中にいるみたいなの」
肩に頬を擦り付けて、アビエルの胸元を手で撫で始める。どうやら昔、川で泳いだ時のことを思い出しているようだ。レオノーラが体を寄せるので、その胸の先がアビエルの胸に触れる。優しく湯をかけながらアビエルは理性を総動員していた。
「‥‥綺麗だった。すごく」
「覚えてるよ。レオニーを女の子だって初めて知った」
思い出して、笑みが溢れた。
「すごくびっくりした。でも、その後ずっとそのことばかり考えてた。その時からずっとレオニーのことが好きだったんだと思う」
そう囁いて、可愛い唇にキスをした。レオノーラは目を瞑ったまま、ふふふふ、と得意げに笑う。
「じゃぁ、私の勝ち」
嬉しそうに微笑みさらにアビエルの体にすり寄る。アビエルは、自分の体を刺激するその胸の柔らかい感触にたまらず触れ始めた。
「勝ちって何の勝ち? 男の子だって思わせていたこと?」
掠れた声で聞く。レオノーラはアビエルが胸に触れてその蕾を親指で擦り上げると、はぁ、と吐息を吐いた。
「私はアビエルが初めて厩舎に来た時からずっと好きなの。だから私の勝ち」
そう言って、さらに得意げに口元を弓なりにして微笑んだ。その愛しい姿にアビエルの理性は崩壊した。微笑む唇に深い口づけを落とす。レオノーラを抱いたまま湯桶から出て、そのまま床が濡れるのも気にせず寝台へ向かう。
寝台にゆっくりとレオノーラを下ろすと、その艶かしい美しい姿に心を奪われる。レオノーラが手を差し出して自分を誘う。あぁ、もう、こんな幸せがあるだろうか。美しい彼女を掻き抱いて、繰り返し愛を告げる。
「レオニー、レオニー、愛しているよ」
首筋に唇を寄せて吸い上げる。レオノーラの体が美しくしなる。その体は、まるで、アビエルの体に沿うように作られたかのようにピタリとくっつきあう。膝を足の間に割り入れると、その細い腰がアビエルの太ももにあたり、レオノーラの蜜が太ももを濡らした。
胸の頂の熟れた赤い蕾を唇で弄びながら、太ももを動かして秘所を刺激すると、小さな声で喘ぎ始める。自然と腰が動いているのがわかる。淫靡な水音を立ててレオノーラの秘所がアビエルの脚に吸い付き、気持ちの良いところを擦り付ける。
「あぁ‥ん」
身体中を火照らせながら、縋り付くその姿にアビエルは激しい欲求で熱くなった。快楽に揺れているその腰を両手で支えると、一気に最奥まで自分の猛りを突き込んだ。その衝撃にレオノーラは体を逸らして震えた。
「あぁぁぁんっ」
悲鳴とも嬌声ともつかない声で叫んだ後、アビエルの肩にしがみついて粗い息を繰り返した。アビエルは自分を包み蠢くレオノーラの中の心地よさに呻き声を上げた。
「あっあぁ…レオニー、どうしてこんなに…いくらでもおまえが欲しくなる」
大きく腰を引いた後、さらに奥へ突き込む。最奥にゴツンと当たりその快感でレオノーラの体が震える。最奥を開こうとするかのように強く穿ちながら、胸を揉みしだき、その頂を弄ぶ。
「んっ、んっ、あぁん」
突かれるたびに呻きが止まらず、快感の中でレオノーラは意識を飛ばしていた。赤く腫れた唇を薄く開き、とろけるように自分を見つめるその瞳を見つめて、唇をむさぼり舌を絡め合いながら、アビエルは喜びに我を忘れて腰を振り続けていた。
「‥‥アビエル、んっ、あっ、アビエル」
レオノーラが譫言のようにアビエルの名前を呼び、アビエルの打ち付ける腰の動きに合わせて腰を揺らす。動くたびに中が締まり、行き来する雄心を扱く。
「レオニー、レオニー、あぁっ」
アビエルの背中を一気に快感が駆け上がり、レオノーラの体から己を抜き白濁を撒いた。粗い息を吐きながらゆっくりとシーツに沈む。そしてレオノーラの体を抱きしめた。軽く痙攣するように震える彼女の背中をさすりながら、火照った頬にキスを落とす。
「レオニー‥‥可愛い私のレオニー」
アビエルの腕にすっぽりと包まれたまま、レオノーラは達した興奮でまだぼんやりしていた。しばらくして、ふと背中のシーツの感触に気づき少しずつ我にかえる。ガバッと起き上がってシーツを掴む。
「アビエル、どうしましょう。シーツがびしゃびしゃだわ‥‥」
その真剣な表情とさっきまでの恍惚感との落差に、アビエルは思わず吹き出してしまった。
「ちょっと、笑い事じゃないわ。大変、どうしたらいいの? 今からどこかに干すわけにもいかないし。ねぇ、笑っていないで起きて。ここはクレイン領の城よ」
自分の横で正座をしてシーツを握って焦っているレオノーラの姿が、可愛くて可笑しくて笑いが止まらない。
「あぁ、もう、レオニーといないと笑い方を忘れているんだろうな。一緒にいるとどうしてこんなに幸せに笑えるのか。ククク、ハハッ」
「もう、真剣に考えて。アビエル、こんなびしょびしょのシーツで今夜どうやって眠るの? だいたいなんでこんなにびしょびしょになったのかと思われてしまうわ」
レオノーラが、テラスの方を見て、どうやら本気でテラスにシーツを干そうと考え始めているようなので、その体を引き寄せて、
「大丈夫だよ。使用人を呼んでベッドにデカンタの水をこぼしたから、シーツを替えてくれって言えばいい」
そう言ってその可愛いつむじにキスをする。レオノーラは言われたことを理解すると、今度は慌てていた自分が恥ずかしくなったのか肩の先までほんのり赤くなった。それがまた堪らず可愛くて笑いが溢れる。
笑い続けているアビエルの体を押しのけながら眉間に皺を寄せてレオノーラが不愉快そうに言う。
「私には、いつでもなんでも使用人にしていただけるという感覚がないの。はぁ、もう」
ぬるくなった湯桶で体を綺麗にした後、使用人を呼んで湯桶を下げてもらいシーツの交換をお願いした。もちろん、その間レオノーラは衣装部屋で息を潜めて隠れていた。それがまた可笑しくて、アビエルはずっと笑い続けていた。
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