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27:ルーテシア外交4

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 翌日の会談では、王と王太子に加え、財務大臣と外務大臣、そして国軍の将軍も参加していた。

 帝国側からの提案は、現在帝国内で進んでいる幹線道路が国境まで通るのに合わせて、ルーテシア国内でも運河のあるヘレイラと王都の二つの拠点からそれぞれ主要道路を整備できないかというものだ。

「それにはいくつか問題がありますな」

 財務大臣が困った顔をする。

「まず、ヘレイラは現在、戦時下にありますから、まぁ、実質の戦地はゴルネア側ですので、運河自体が使えなかったり、被害を受けたりはしておりませんが、道路整備に関わる人夫を集めることができませんな」

 さらにウィレムが重ねて言う。

「戦地が近いので、皆、他の地域からは行きたがらないでしょう。安定して工事を進めるのは難しいですね」

「もう一つは戦時下で道路工事に割く予算がそれほど無いということもあります」

 財務大臣も続けてこの件の難点を話す。

「それについては、帝国側から融資の提案がある。幹線道路を有効に使うための提案なので、これは我々に大きなメリットがあるのだ。だからこそ協力は惜しまない。ただ、戦時下の問題については、こちらからはどうにもしようがないので・・・・」

 アビエルが、融資の話を持ちかけた上で、戦争の件を引き出そうとする。

「国内の道路整備は、国益を増やす上では不可欠だと私も常々思っています。ただ、かなり長く戦争が続いてしまい、軍備や戦争手当にその支出の多くを持っていかれているのです」

 ウィレムが悩ましげに言う。

「現在の戦況はどのような状況ですか?」

 アビエルがそれとなくその状況を聞くと、将軍と王が顔を見合わせる。

「国境の紛争地帯では緊張した状態が続いていますが、常に戦闘が行われているわけでは無いのです。あいつらは、思いついたように時折攻撃をしてきますが、なんというか、いつも突発的で、長く何も攻撃してこないかと思うと、急に夜明けから攻めてきたりする。こちらはほぼそれに対して防戦するだけで、戦地はほぼ向こうの領土ですし、深入りはしておりません。こちらに侵入さえしてこなければ、別に我々が向こうを攻める意味は無いと考えています」

 将軍が戦況の地図を持ち出して説明を始める。

「おおよそこうした川を挟んだ向こう岸と沼地を進んでくるわけですが、向こうの最前線にいるのはおそらく農民を駆り集めた者たちで戦闘の仕方もロクに知らない。地の有利など全く考えておらんのですな。適当に進んでくるのですよ。こちらが防戦する前に自滅するものも多くいます。目も当てられません」

 王がため息をつきながら、憤懣やるかたないという表情をする。

「どう考えてもあの国がこの戦争をやり続ける意味がわからんのだな。こんな状況で本当にヘレイラを手に入れられると思っているのだろうか。さっさと諦めれば良いものを」

 ウィレムがアビエルに向き直って聞く。

「殿下は先日ゴルネアの特使と会談を持たれたのでしょう? それは辺境領での流入者に対する賠償問題と聞き及んでいます。あいつらはそれにどのように対応するつもりなのか、差し支えなければお聞かせ願えますか?」

 アビエルは少し考える様子を見せて口を開いた。

「今回のゴルネアとの会談では、決定事項というのはまだ無いのです。なにぶん、帝国もゴルネアとの直接の交渉は今回が初めてなので、まずはお互いの提案についてカードを出し合っただけです。ただ・・・・これは私個人の意見ではありますが、ゴルネアの国内も戦争に随分と疲弊を見せているのではないかと感じました。先ほどの将軍のお話を聞くとさもありなんという感じですね」

 困りますね、という顔でウィレムを見やる。

「殿下、昔の休戦締結のように帝国が仲介をして、なんとかこの戦争を終わらせることはできないでしょうか?」

 ウィレムがアビエルに訴えかける。将軍も王もその答えを待っているようだ。アビエルはウィレムの訴えに少し驚いた顔をして、その後考え込むと、こう答えた。

「この場ですぐにそのご相談に乗ることは難しいですね。一度、帝都に持ち帰って皇帝や宰相たちと相談をしないと。私としてもお力になりたいと心から思いますが、帝国は諸外国の戦争に関わらないと決めているのです。休戦や停戦の仲立ちであってもどちらか片方だけを取り持てば不均衡になりますから」

 ウィレムはアビエルの快諾かいだくを期待していたのか少し肩を落とす。アビエルはその様子を見て言葉を続ける。

「できれば良いタイミングでゴルネアからも休戦について提案があれば、その仲立ちは私が率先して行いましょう。向こうの国の経済状況を考えてもそう長くはもたないように感じます 」

 そう穏やかに微笑んだ。その後、話は王都からの道路建設を進めるにあたってどのくらいの費用が必要かに移った。

 午後になり会談は昼食を挟んで明日に持ち越され、その後はウィレムに案内されて城郭内の施設を見に行くことになった。
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