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Ⅱ
7:アビエルの想い
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レオノーラが辺境領に立ってからもう2カ月になる。
アビエルは厩舎の入り口にもたれかかり、自分の愛馬であるアルカシードとレオノーラの愛馬のイスカが、馬房越しに鼻を寄せ合うのを見ていた。
・・・・・・
『イスカは南の馬なので、寒さに弱いし、連れて行かないことにしました。厩舎長のライナスさんが代わりにこの子、カルフィーソを連れて行くといいって。若くてこれからまだ大きくなるし、重種とのかけ合わせで寒さにも強いからと 』
レオノーラが寂しげにそう言っていたのを思い出す。
イスカはレオノーラと同じ歳だ。アビエルがこの厩舎を初めて訪れた時からレオノーラが乗っていた馬。細身の馬だがバネがありとても足が早い。皇室が南王国から献上された馬をガイアスが掛け合わせて何頭か産ませたもののうちの一頭らしい。
レオノーラへの処分を決める審議会は、グレゴールの怒りによって掻き回され続けた。もちろん予想はしていた。他の従者の責任がなるべく軽くなるように、レオノーラ以外は誰かと一緒にいる状況になるよう、彼女が強く望んだからだ。
グレゴールは、手引きしたのはレオノーラに違いないと言い続けた。物的証拠は何も出てこないことはわかっている。そんなヘマはしない。しかし、有能なレオノーラがフロレンティアの異変に気づかない筈がないこと。ましてや、自分とレオノーラの関係は学院に在籍していたものから聴取すればすぐに漏れる。
おそらくグレゴールはアビエルの関与も相当に疑っていただろう。グレゴールだけでなく他の宰相や大臣も疑いを持っていたかもしれない。ただ、皇太子にそれを突きつけられないだけだ。
審議会では、グレゴールと一部の大臣が、帝国の威信を傷つける重大事案であり、皇太子の権威を著しく貶める不敬罪に他ならない、厳罰に処すべきだと言い続けた。証拠が無く本人が否定しているのに罪には問えない、と何度言っても取り合わなかった。結局、亡命の声明と西共和国の通達によって、グレゴール自身が火の粉をかぶることになり、歯軋りをしながら引き下がったような形になった。
辺境領送致は最も妥当な処分だった。アビエル自身がそう結論づけた。レオノーラを守り、議会や国民に納得をさせるにはこの方法しかなかった。『しかし‥‥』初めて会った日からこれほど離れて過ごすことは初めてだった。『離れたくない』この決定に至るまでに身が千切れるほどの葛藤があった。
帝都へ戻ってからは、亡命に向けて慎重に準備をしていたため、自由に会話をすることもままならなかった。処分が決まった後は、それが覆されないようより注意を払って接した。アビエルは、夢のように過ごした学院での最後の2週間を噛み締めるように思い出しては、自分を慰め続けた。
レオノーラが辺境へ出発する1週間前、たまらず厩舎に会いに来た。いつものように、馬の世話をしながら、たあいのない話をしていると、レオノーラが不意に、タネール語で話しかけた。
「夜に厩舎に来ることはできますか?」
まだまだ追求の目の厳しいところはあるが、必ず出て来ようと約束すると、
「明日の夜、天気が良ければここで一緒に星を見ませんか?」
そう微笑んだ。
次の日の夜、警備の目をくぐって厩舎までやってくると、入り口にパンと果物と瓶の水をカゴに持った彼女が待っていた。厩舎の中のハシゴを昇り厩の上に上がると、そこは敷料の藁がたくさん保管してあった。レオノーラはその上に着ていたマントを敷いて、アビエルに座るように促すと、天井にある窓を開け、その向こうの満点の星空を披露した。
「この窓から星がとても綺麗に見えるの 」
「本当だ、すごいな 」
「ふふふ、綺麗でしょう。天下の皇太子殿下もこんな場所は絶対にご存知ないと思って 」
二人で手を繋ぎ、肩を寄せ合って星を見た。レオノーラが静かに言葉を続けた。
「毎晩、星を、月を眺めるわ。どんなに離れていても見ているものが同じなら一緒にいるのと同じだから 」
胸を掴まれるような痛みが走った。目を瞑り、握ったレオノーラの手の甲を口元に寄せ唇を落とす。アビエルの閉じた瞼にレオノーラが口づけをしてそれはさらに唇に落ち、いつしか深いものとなっていった。
彼女がそっと肩に両手を置いて自分に体重をかけるのに合わせて、背をおろす。目を開けるとレオノーラの愛に溢れた表情が目に入った。
「レオニー・・・」
言葉が出てこなかった。『おまえを愛してしまってすまない』『愛を求めてしまってすまない』『どうしようもなく縋ってすまない』『辛い思いをさせてすまない』自分と共に生きると言ってくれた彼女に、無数の謝罪が沸く。自分が生きるためにそこにいてくれる彼女に、自分はなんと傲慢かと思えて仕方がなかった。
レオノーラがアビエルのシャツのボタンを外し始める。アビエルもレオノーラのシャツをズボンから引き出し、腰の辺りから体をさすり始める。レオノーラは胸当てをつけていなかった。頭からシャツを抜き去り、腰を立たせてズボンを下ろしてやる。月明かりの星空を背に、この世のものとは思えない美しい女が自分のためにそこにいた。
レオノーラがアビエルの胸をさすり体を下ろし、首筋から逞しい胸に口づけを繰り返す。彼女の髪がさらりとアビエルの肩に落ち、彼女の胸の先が腹を撫でる。その感覚に震えが走る。彼女の滑らかな背中と細い肩を撫で、手を滑らせて胸を下から揉みしだく。親指で尖った胸の先端を押すようにさすると、彼女の口から小さな呻きが漏れた。
「んぅ・・あ」
アビエルの愛撫に震えながらレオノーラの唇は、アビエルの腹筋をたどりさらに下へ降りていく。アビエルのズボンの前を寛がせ、苦しそうな彼を解放する。そしてそれをそっと慰めるようにさすり、唇を寄せた。
「レオニー。そんな‥‥」
激しい興奮に、ダメだというように、もっとというようにレオノーラの肩を掴んだ。レオノーラは、先端から溢れる雫を優しく舌ですくって、チュゥっと吸い付く。小さな口にアビエルの雄心を含むと吸い上げるように愛撫し、舌を絡めた。
「レオニー‥‥ダメだ、我慢できなくなってしまう 」
掠れた声でそう言うと、
「ダメなの?」
小さく興奮した声が少し意地悪そうに返ってきた。その一言で達しそうになる。
「‥‥悪い子だ。」
そう言いながら肩に手を回し彼女の体を胸に引き寄せる。腰を掴み熱い昂りを彼女の足の間に擦り付ける。クチクチと間から濡れた音がこぼれる。
「お願いだ。私をおまえの中に入れてくれ。」
レオノーラは体を起こし、アビエルの熱い昂りを自分の蜜口にあて、ゆっくりと腰を落としていく。
「あ‥‥ん」
隘路をゆっくりと熱いものが進んでいく。熱くて狭いその感覚に、アビエルが苦痛に耐えるように眉間に皺を寄せる。レオノーラは目の下を赤く染めながら下唇を噛んで、体を分け入ってくる圧迫感に浅い呼吸を繰り返しながら腰を下ろしていく。少し進むたびに興奮で中が締まり、うまく進まない。励ますようにアビエルがレオノーラの腰をさする、
「‥‥そんなに締めないで‥‥あぁ」
アビエルの漏らす妖しい声に、さらにレオノーラの中がギュゥっと締まる。
「あ、アビエル‥‥アビエル‥‥もうムリ。お願い助けて」
苦しさと快感で声を震わせてレオノーラが助けを求めた。その声に、アビエルは腰に当てた手に力を入れ、グッとレオノーラの体を押し下げた。自重とアビエルの手の動きで、最奥まで一気に貫かれる。
「あぁぁぁ」
白い首を後ろにのけぞらせて、レオノーラが細い叫び声を上げる。アビエルはその姿を目に焼き付ける。『綺麗だ』人魚が水から跳ね上がったように胸を逸らし、興奮で震えるその体に手を回し支えた。
体を起こし、レオノーラと向かい合うようにして抱きしめる。耳元に密かな声で、
「自分で動ける?」
そう聞くと、浅い呼吸を繰り返し、ぐったりと頭を肩にもたれかけたレオノーラは言葉なく首を横に振った。
「じゃぁ、しばらくこうしていようか 」
そう言って肩にキスを落とした。このままずっと繋がっていたら、もしかしたら一つに溶け合えるかもしれない。
レオノーラの腰のあたりを撫でさすりながら、静かな夜の空気の中で下にいる馬たちが動く気配を感じる。脈打つ熱い杭に呼応するようにレオノーラの体が反応しているのがわかる。少しゆすって刺激を与えると、小さく、ん・・と呟いて眉間に皺を寄せ、キュゥっと締め付ける。
「レオニー・・気持ちいい?」
そう耳元で囁くと、恥ずかしげに顔を肩に隠そうとする。また、少しゆすって刺激を与える。
「は、あぁ」
ため息とも吐息ともつかない声を出して、中が締まる。心よりも体が素直に白状する。
「言って。気持ちいい?」
イヤイヤをするように肩に顔を擦り付けて、顔を隠そうとする。腰に手をあてて前後に大きくゆすってやる。レオノーラの頭がビクンと上がり、胸をアビエルにくっつけるように反らして声を上げた。
「あぁぁぁん。あっ・・いい」
言葉を失ったように何をされても敏感に反応する。乱れるその姿にアビエルの吐精欲が一気に中で膨れ上がる。レオノーラの腰を持ち上げて擦り付けるように再び落としながら、下からも突き上げる。溺れる人のようにアビエルの首にすがりつきながら、レオノーラは夢中で名前を呼び続けた。
「アビエル‥‥アビエル‥‥」
「レオニー、レオニー、愛してる‥‥」
激しくなる腰の動きに、密の溢れる湿った音と、体が響かせる打擲音が混じる。
「あぁっ」
アビエルが苦し気に呻いて、己を引き抜き、レオノーラと自分の足が絡まるところに白い精を撒いた。レオノーラは、体を固くしてアビエルの首に縋り付いた。
しばらく固くお互いを抱きしめあった後、アビエルがゆっくりと背を下ろし、レオノーラを自分の上に引き寄せる。その引き締まって細い腰を撫でながら、乱れた艶やかな黒髪を耳にかけてやり、額に軽く唇をつける。そして、自分の肩の窪みに頭を置いてやり、愛を交わした後の興奮で色づいた美しい姿を堪能した。
目を瞑ったままのレオノーラの唇が弓なりになり、小さな笑いがこぼれた。
「どうした?」
「ふふふ、幸せだなって思ってしまって 」
長いまつ毛を震わせて目をあけアビエルの顔を見上げると、愛に満ち溢れた笑顔で顎の下にキスをした。
「レオニー‥‥」
アビエルは、堪らない気持ちになった。レオノーラだけが自分をこんな気持ちにさせる。卑屈な自分を誰よりも幸せだと思わせてくれる。
「アビエル、ちゃんと眠って、ちゃんと食べて、ちゃんと笑って過ごしてね 」
レオノーラは、顔を上げてアビエルの頬をさすりながら、以前より少し痩せて、クマの濃くなった顔を確かめるように見つめた。
アビエルは、帝都に戻ってから政治に深く関わるようになり、多くの会合や会談に臨んだ。さらに、ここ数ヶ月は亡命の準備も並行していたため、ほとんど眠れていない。傍にレオノーラのいない夜が苦しくて、あえて自分を追い込んでしまったところもある。
頬をさする手を握り、その手のひらにそっとキスをする。
「おまえのいない毎日をちゃんと過ごせる自信がないな‥‥」
彼女の前でだけ、どこにも出せない弱音を吐いてしまう。弱い自分ごと全て受け入れてくれる彼女に甘えてしまうのだ。
「どうやって‥‥どうやって笑えばいいかもわからない 」
涙がこぼれそうになり、目を瞑って堪える。するとレオノーラが体をアビエルの上に乗せて、頬を両側から引っ張った。
「ほら、こうやって笑えばいいのよ。先に笑顔を作れば、その後、心もちゃんと笑うわ 」
そう言って、さらに頬を引っ張る。目の前のいたずらする子どものようなレオノーラの笑顔につられて思わず笑いがこぼれる。そしてギュッと胸に抱き込んで、そのつむじにキスをする。
「愛してる。レオニー。どれほど伝えても伝え足りない。愛してるよ、私のレオニー 」
まだ夜には肌寒い春の空気に、互いを温め合うように抱きしめあって、上からアビエルのマントをかけて二人でウトウトとした。
「アビエル‥‥起きて。ここで寝入ってしまったら大変。厩舎の朝は早いわ。上から寝乱れた皇太子が下りてきたら、みんな驚いてしまう 」
囁くような声で起こされる。冷たい瓶の水で布巾を濡らして体を拭いた後、のろのろと着替えてはしごを下りた。厩舎の入り口で別れ、城に向かって数歩歩いた後、振り向いて
「明日もまた来る 」
と告げる。じっとアビエルを見送っていたレオノーラは、
「はい、お待ちいたしております 」
と、いつぞやと同じ満面の笑顔で返した。その夜、アビエルは幸せな夢の中で数ヶ月ぶりによく眠った。その日からレオノーラの出発前夜まで、夜会と会合のあった夜を除いて、二人で星を見て過ごした。出発当日、アビエルはレオノーラを見送らなかった。
・・・・・・
「殿下、おはようございます。朝の遠乗りに行かれますか?急いで鞍をつけますので!」
背後から厩舎の下働きの少年の声が聞こえ、思いから覚めた。
「そうだな、そうしてくれ。最近、イスカは誰か面倒をみているのか?」
「あ、はい。厩舎のみんなで世話はしていますが、特に、訓練場に来ているジョスリンさんが、レオさんに頼まれていると言って、訓練に使ったり、よく外に連れて行っったりしてくれてます 」
「そうか。今から、イスカも一緒に連れて出る 」
「わかりました。では、イスカに頭絡と引手をつけますか?」
「いや、いらんだろう。彼女はアルカシードの傍から離れないから 」
そうして、アビエルは朝の冴えた空気の中を城郭内の小川のある草原まで馬を走らせた。
アビエルは厩舎の入り口にもたれかかり、自分の愛馬であるアルカシードとレオノーラの愛馬のイスカが、馬房越しに鼻を寄せ合うのを見ていた。
・・・・・・
『イスカは南の馬なので、寒さに弱いし、連れて行かないことにしました。厩舎長のライナスさんが代わりにこの子、カルフィーソを連れて行くといいって。若くてこれからまだ大きくなるし、重種とのかけ合わせで寒さにも強いからと 』
レオノーラが寂しげにそう言っていたのを思い出す。
イスカはレオノーラと同じ歳だ。アビエルがこの厩舎を初めて訪れた時からレオノーラが乗っていた馬。細身の馬だがバネがありとても足が早い。皇室が南王国から献上された馬をガイアスが掛け合わせて何頭か産ませたもののうちの一頭らしい。
レオノーラへの処分を決める審議会は、グレゴールの怒りによって掻き回され続けた。もちろん予想はしていた。他の従者の責任がなるべく軽くなるように、レオノーラ以外は誰かと一緒にいる状況になるよう、彼女が強く望んだからだ。
グレゴールは、手引きしたのはレオノーラに違いないと言い続けた。物的証拠は何も出てこないことはわかっている。そんなヘマはしない。しかし、有能なレオノーラがフロレンティアの異変に気づかない筈がないこと。ましてや、自分とレオノーラの関係は学院に在籍していたものから聴取すればすぐに漏れる。
おそらくグレゴールはアビエルの関与も相当に疑っていただろう。グレゴールだけでなく他の宰相や大臣も疑いを持っていたかもしれない。ただ、皇太子にそれを突きつけられないだけだ。
審議会では、グレゴールと一部の大臣が、帝国の威信を傷つける重大事案であり、皇太子の権威を著しく貶める不敬罪に他ならない、厳罰に処すべきだと言い続けた。証拠が無く本人が否定しているのに罪には問えない、と何度言っても取り合わなかった。結局、亡命の声明と西共和国の通達によって、グレゴール自身が火の粉をかぶることになり、歯軋りをしながら引き下がったような形になった。
辺境領送致は最も妥当な処分だった。アビエル自身がそう結論づけた。レオノーラを守り、議会や国民に納得をさせるにはこの方法しかなかった。『しかし‥‥』初めて会った日からこれほど離れて過ごすことは初めてだった。『離れたくない』この決定に至るまでに身が千切れるほどの葛藤があった。
帝都へ戻ってからは、亡命に向けて慎重に準備をしていたため、自由に会話をすることもままならなかった。処分が決まった後は、それが覆されないようより注意を払って接した。アビエルは、夢のように過ごした学院での最後の2週間を噛み締めるように思い出しては、自分を慰め続けた。
レオノーラが辺境へ出発する1週間前、たまらず厩舎に会いに来た。いつものように、馬の世話をしながら、たあいのない話をしていると、レオノーラが不意に、タネール語で話しかけた。
「夜に厩舎に来ることはできますか?」
まだまだ追求の目の厳しいところはあるが、必ず出て来ようと約束すると、
「明日の夜、天気が良ければここで一緒に星を見ませんか?」
そう微笑んだ。
次の日の夜、警備の目をくぐって厩舎までやってくると、入り口にパンと果物と瓶の水をカゴに持った彼女が待っていた。厩舎の中のハシゴを昇り厩の上に上がると、そこは敷料の藁がたくさん保管してあった。レオノーラはその上に着ていたマントを敷いて、アビエルに座るように促すと、天井にある窓を開け、その向こうの満点の星空を披露した。
「この窓から星がとても綺麗に見えるの 」
「本当だ、すごいな 」
「ふふふ、綺麗でしょう。天下の皇太子殿下もこんな場所は絶対にご存知ないと思って 」
二人で手を繋ぎ、肩を寄せ合って星を見た。レオノーラが静かに言葉を続けた。
「毎晩、星を、月を眺めるわ。どんなに離れていても見ているものが同じなら一緒にいるのと同じだから 」
胸を掴まれるような痛みが走った。目を瞑り、握ったレオノーラの手の甲を口元に寄せ唇を落とす。アビエルの閉じた瞼にレオノーラが口づけをしてそれはさらに唇に落ち、いつしか深いものとなっていった。
彼女がそっと肩に両手を置いて自分に体重をかけるのに合わせて、背をおろす。目を開けるとレオノーラの愛に溢れた表情が目に入った。
「レオニー・・・」
言葉が出てこなかった。『おまえを愛してしまってすまない』『愛を求めてしまってすまない』『どうしようもなく縋ってすまない』『辛い思いをさせてすまない』自分と共に生きると言ってくれた彼女に、無数の謝罪が沸く。自分が生きるためにそこにいてくれる彼女に、自分はなんと傲慢かと思えて仕方がなかった。
レオノーラがアビエルのシャツのボタンを外し始める。アビエルもレオノーラのシャツをズボンから引き出し、腰の辺りから体をさすり始める。レオノーラは胸当てをつけていなかった。頭からシャツを抜き去り、腰を立たせてズボンを下ろしてやる。月明かりの星空を背に、この世のものとは思えない美しい女が自分のためにそこにいた。
レオノーラがアビエルの胸をさすり体を下ろし、首筋から逞しい胸に口づけを繰り返す。彼女の髪がさらりとアビエルの肩に落ち、彼女の胸の先が腹を撫でる。その感覚に震えが走る。彼女の滑らかな背中と細い肩を撫で、手を滑らせて胸を下から揉みしだく。親指で尖った胸の先端を押すようにさすると、彼女の口から小さな呻きが漏れた。
「んぅ・・あ」
アビエルの愛撫に震えながらレオノーラの唇は、アビエルの腹筋をたどりさらに下へ降りていく。アビエルのズボンの前を寛がせ、苦しそうな彼を解放する。そしてそれをそっと慰めるようにさすり、唇を寄せた。
「レオニー。そんな‥‥」
激しい興奮に、ダメだというように、もっとというようにレオノーラの肩を掴んだ。レオノーラは、先端から溢れる雫を優しく舌ですくって、チュゥっと吸い付く。小さな口にアビエルの雄心を含むと吸い上げるように愛撫し、舌を絡めた。
「レオニー‥‥ダメだ、我慢できなくなってしまう 」
掠れた声でそう言うと、
「ダメなの?」
小さく興奮した声が少し意地悪そうに返ってきた。その一言で達しそうになる。
「‥‥悪い子だ。」
そう言いながら肩に手を回し彼女の体を胸に引き寄せる。腰を掴み熱い昂りを彼女の足の間に擦り付ける。クチクチと間から濡れた音がこぼれる。
「お願いだ。私をおまえの中に入れてくれ。」
レオノーラは体を起こし、アビエルの熱い昂りを自分の蜜口にあて、ゆっくりと腰を落としていく。
「あ‥‥ん」
隘路をゆっくりと熱いものが進んでいく。熱くて狭いその感覚に、アビエルが苦痛に耐えるように眉間に皺を寄せる。レオノーラは目の下を赤く染めながら下唇を噛んで、体を分け入ってくる圧迫感に浅い呼吸を繰り返しながら腰を下ろしていく。少し進むたびに興奮で中が締まり、うまく進まない。励ますようにアビエルがレオノーラの腰をさする、
「‥‥そんなに締めないで‥‥あぁ」
アビエルの漏らす妖しい声に、さらにレオノーラの中がギュゥっと締まる。
「あ、アビエル‥‥アビエル‥‥もうムリ。お願い助けて」
苦しさと快感で声を震わせてレオノーラが助けを求めた。その声に、アビエルは腰に当てた手に力を入れ、グッとレオノーラの体を押し下げた。自重とアビエルの手の動きで、最奥まで一気に貫かれる。
「あぁぁぁ」
白い首を後ろにのけぞらせて、レオノーラが細い叫び声を上げる。アビエルはその姿を目に焼き付ける。『綺麗だ』人魚が水から跳ね上がったように胸を逸らし、興奮で震えるその体に手を回し支えた。
体を起こし、レオノーラと向かい合うようにして抱きしめる。耳元に密かな声で、
「自分で動ける?」
そう聞くと、浅い呼吸を繰り返し、ぐったりと頭を肩にもたれかけたレオノーラは言葉なく首を横に振った。
「じゃぁ、しばらくこうしていようか 」
そう言って肩にキスを落とした。このままずっと繋がっていたら、もしかしたら一つに溶け合えるかもしれない。
レオノーラの腰のあたりを撫でさすりながら、静かな夜の空気の中で下にいる馬たちが動く気配を感じる。脈打つ熱い杭に呼応するようにレオノーラの体が反応しているのがわかる。少しゆすって刺激を与えると、小さく、ん・・と呟いて眉間に皺を寄せ、キュゥっと締め付ける。
「レオニー・・気持ちいい?」
そう耳元で囁くと、恥ずかしげに顔を肩に隠そうとする。また、少しゆすって刺激を与える。
「は、あぁ」
ため息とも吐息ともつかない声を出して、中が締まる。心よりも体が素直に白状する。
「言って。気持ちいい?」
イヤイヤをするように肩に顔を擦り付けて、顔を隠そうとする。腰に手をあてて前後に大きくゆすってやる。レオノーラの頭がビクンと上がり、胸をアビエルにくっつけるように反らして声を上げた。
「あぁぁぁん。あっ・・いい」
言葉を失ったように何をされても敏感に反応する。乱れるその姿にアビエルの吐精欲が一気に中で膨れ上がる。レオノーラの腰を持ち上げて擦り付けるように再び落としながら、下からも突き上げる。溺れる人のようにアビエルの首にすがりつきながら、レオノーラは夢中で名前を呼び続けた。
「アビエル‥‥アビエル‥‥」
「レオニー、レオニー、愛してる‥‥」
激しくなる腰の動きに、密の溢れる湿った音と、体が響かせる打擲音が混じる。
「あぁっ」
アビエルが苦し気に呻いて、己を引き抜き、レオノーラと自分の足が絡まるところに白い精を撒いた。レオノーラは、体を固くしてアビエルの首に縋り付いた。
しばらく固くお互いを抱きしめあった後、アビエルがゆっくりと背を下ろし、レオノーラを自分の上に引き寄せる。その引き締まって細い腰を撫でながら、乱れた艶やかな黒髪を耳にかけてやり、額に軽く唇をつける。そして、自分の肩の窪みに頭を置いてやり、愛を交わした後の興奮で色づいた美しい姿を堪能した。
目を瞑ったままのレオノーラの唇が弓なりになり、小さな笑いがこぼれた。
「どうした?」
「ふふふ、幸せだなって思ってしまって 」
長いまつ毛を震わせて目をあけアビエルの顔を見上げると、愛に満ち溢れた笑顔で顎の下にキスをした。
「レオニー‥‥」
アビエルは、堪らない気持ちになった。レオノーラだけが自分をこんな気持ちにさせる。卑屈な自分を誰よりも幸せだと思わせてくれる。
「アビエル、ちゃんと眠って、ちゃんと食べて、ちゃんと笑って過ごしてね 」
レオノーラは、顔を上げてアビエルの頬をさすりながら、以前より少し痩せて、クマの濃くなった顔を確かめるように見つめた。
アビエルは、帝都に戻ってから政治に深く関わるようになり、多くの会合や会談に臨んだ。さらに、ここ数ヶ月は亡命の準備も並行していたため、ほとんど眠れていない。傍にレオノーラのいない夜が苦しくて、あえて自分を追い込んでしまったところもある。
頬をさする手を握り、その手のひらにそっとキスをする。
「おまえのいない毎日をちゃんと過ごせる自信がないな‥‥」
彼女の前でだけ、どこにも出せない弱音を吐いてしまう。弱い自分ごと全て受け入れてくれる彼女に甘えてしまうのだ。
「どうやって‥‥どうやって笑えばいいかもわからない 」
涙がこぼれそうになり、目を瞑って堪える。するとレオノーラが体をアビエルの上に乗せて、頬を両側から引っ張った。
「ほら、こうやって笑えばいいのよ。先に笑顔を作れば、その後、心もちゃんと笑うわ 」
そう言って、さらに頬を引っ張る。目の前のいたずらする子どものようなレオノーラの笑顔につられて思わず笑いがこぼれる。そしてギュッと胸に抱き込んで、そのつむじにキスをする。
「愛してる。レオニー。どれほど伝えても伝え足りない。愛してるよ、私のレオニー 」
まだ夜には肌寒い春の空気に、互いを温め合うように抱きしめあって、上からアビエルのマントをかけて二人でウトウトとした。
「アビエル‥‥起きて。ここで寝入ってしまったら大変。厩舎の朝は早いわ。上から寝乱れた皇太子が下りてきたら、みんな驚いてしまう 」
囁くような声で起こされる。冷たい瓶の水で布巾を濡らして体を拭いた後、のろのろと着替えてはしごを下りた。厩舎の入り口で別れ、城に向かって数歩歩いた後、振り向いて
「明日もまた来る 」
と告げる。じっとアビエルを見送っていたレオノーラは、
「はい、お待ちいたしております 」
と、いつぞやと同じ満面の笑顔で返した。その夜、アビエルは幸せな夢の中で数ヶ月ぶりによく眠った。その日からレオノーラの出発前夜まで、夜会と会合のあった夜を除いて、二人で星を見て過ごした。出発当日、アビエルはレオノーラを見送らなかった。
・・・・・・
「殿下、おはようございます。朝の遠乗りに行かれますか?急いで鞍をつけますので!」
背後から厩舎の下働きの少年の声が聞こえ、思いから覚めた。
「そうだな、そうしてくれ。最近、イスカは誰か面倒をみているのか?」
「あ、はい。厩舎のみんなで世話はしていますが、特に、訓練場に来ているジョスリンさんが、レオさんに頼まれていると言って、訓練に使ったり、よく外に連れて行っったりしてくれてます 」
「そうか。今から、イスカも一緒に連れて出る 」
「わかりました。では、イスカに頭絡と引手をつけますか?」
「いや、いらんだろう。彼女はアルカシードの傍から離れないから 」
そうして、アビエルは朝の冴えた空気の中を城郭内の小川のある草原まで馬を走らせた。
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