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6:辺境の日々1

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 田舎の娘さんは、どうしてこんな半分乳が出たようなブラウスを着るのだろうか、とレオノーラは腕に縋り付く少女を見ながら思っていた。

「レオさん、明日のルグレンの結婚式で私と絶対にダンスを踊ってね 」

 腕に縋りついてこちらを見上げる少女は、フィオナと言って同僚のゴードンの娘だ。クセのある赤毛が肩までふわふわとしてそばかすが鼻の頭に散っている。

 どうやらレオノーラはフィオナの好きな絵本に出てくる妖精の王子にそっくりなのだそうだ。まだ13歳なのに、発育が非常によろしい。

「いいですよ。私はこの村のダンスをよく知らないから、フィオナが教えてくださいね 」

 そういうと、フィオナの後ろにいる他の少女たちも、私も踊って!私も!とキャアキャアと騒ぎ始めた。レオノーラはどうやら都会から来た『青年』的な扱いを受けているように思う。

「おい、レオ、そろそろ出発するぞ 」

 同僚のクロイエムに声をかけられて、じゃあ、明日ね、と言って少女たちに手を振った。馬にまたがり領地の巡回に向かう。

「レオはさ、女が好きなの?」

 並んで歩きながらクロイエムが聞く。さっきの状況が気になったのだろう。

「性的嗜好は男性ですよ。でも、女の子は可愛いいって思いますけどね 」

「綺麗な顔してるからさ、モテていいなって思って 」

 耳を少し赤くして言う。クロイエムは茶色い髪に榛色はしばみいろの目をしていて、くましい体をした笑うと顔がクシャっとなる素朴な好青年だ。

「女の子たちが、好きだ、と言いやすいんです。一応、女ですからね。好きな男の子に言う前の練習みたいなものです 」

 多分、クロイエムはフィオナが好きなのだ。

 この村の女性は自由で奔放で明けけだ。そして、村の男性たちはそんな女性をとても好ましく思うようだ。家庭の中でも女性優位が良い家庭とされ、母ちゃんには頭が上がらない、と言って笑う男性が多い。そして、とてもシャイだ。クロイエムは22歳。年齢の割には真面目でシャイだからかあまり男っぽさを感じない。

「明日、いいなと思う女の子にダンスを申し込んでみるといいですよ。向こうからくるの待ってたら、実は向こうも来てくれるの待ってるってこともあるじゃないですか。こっちから行かないと 」

「そんなの、俺が誘ったって嬉しい女の子なんていないよ 」

 耳を赤くして拗ねたように顔を背けた。

「誘ってくれたから好きになるってこともあるでしょう?」

 そう言うと、そ、そうかな・・・と考え始めた。そんなクロイエムを微笑ましく見ていたが、ふと視線が違和感を捉える。

「クロイエム・・・あそこ 」

「あぁ、だいぶ不自然だな。降りて確認しようか 」

 領地の巡回には、多くの役割がある。特に辺境領の場合は、森の中で不法入国の足取りを見つけることも大事な仕事だ。山を越えてくる者が所々で休憩をしたり、茂みを分け入ったりした痕跡があれば、注意する必要がある。

 目にまった不自然に重なった枝を押し除けると石で組んだ中に黒い土の塊が見えた。

「どうやら火を使った後を隠そうとしたみたいだ。ここ2、3日ってところか。近くにはもういないかもな 」

「村の近くまで来ているかもしれませんね。ここから一番近い家に警戒を呼びかけておきましょう 」

 痕跡のあった場所の近辺を探索して、その他に何かないか確認した後、再び馬に乗って巡回を続けた。

・・・・・・

 ルグレンの結婚式の日は、初夏の心地良い一日だった。

 新婚家庭の庭には村人が集まり、新郎新婦の二人をにぎやかに祝う。小さな楽団が呼ばれていて、陽気な音楽を奏でていた。

「ルグレン、おめでとう。綺麗だね。素敵な花嫁姿が見られてとても嬉しいわ 」

「ありがとう、レオ。あなたがここにいて祝ってくれてとても嬉しい 」

 たくさんの人に祝福され、瞳を潤ませているルグレンは、とても幸せそうな花嫁だった。

 料理を堪能したり、花嫁と花婿をからかったりしているうちに、宴が盛り上がり、楽団がテンポの良い音楽を奏で始めると、それがダンスの合図だったようだ。

「レオさん、約束よ。一緒に踊って!」

 フィオナがやってきて、腕に縋った。他の人たちを見ながら、見よう見まねで踊ってみる。くるりと回って互いの手を合わせて叩くなど、軽快で楽しいダンスだ。少し踊った後、レオノーラは言った。

「ねぇ、フィオナ。私はこのダンスを踊ったことがないから、どうもうまく踊れないみたい。フィオナが他の人と踊っているのを見て、ちょっと練習したいんだけど、いい?」

 そう聞くと、「え~、上手に踊れてると思うけど」とフィオナは首をかしげた。レオノーラは、庭の柵に寄りかかって遠巻きに見ているクロイエムに声をかけた。

「クロイエム、お願い。私はこのダンスが初めてなの。フィオナとちょっと踊って、お手本を見せてくれない?」

 クロイエムは、耳を赤くしながら、「いいけど・・・」と渋々近寄ってフィオナの手を取った。さっきまで元気にはしゃいでいたフィオナが、急に照れたように静かになる。「なぁんだ。ほらね」とレオノーラは心の中で呟いた。

 その後、他の女の子たちとも何度か踊り、美味しいフルーツワインを堪能して、日が暮れるまでほろ酔い気分でご機嫌に過ごした。

 使用人寮に戻る頃には、雲一つない星の瞬く夜空に細い月が昇り、草むらでは夏の虫が鳴いていた。「帝都でも同じ星が見えているだろうか」そう思うと、胸の奥に少しだけ寂しさがよぎった。
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