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8)一生の不覚、かもしれない
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「っ!?」
唇を貪られているうちに、なにがなんだか判らなくなった。そうこうしている間も、唇を舌で舐められる。人生二度目のキスは、初めての時とは比べものにならないくらい、激しくて大人なものだった。
(なんで、この人に……食べられてるの、私っ!?)
「んんん、んんーっ!!」
ぶんぶんと頭を横に振ったけれど、彼の唇は離れなかった。
(く、苦し……っ!)
心臓がどくんと鳴る。手足を動かそうとしたけれど、上から押さえつけられて、動けないっ……! どうして!? なんで、いきなりっ……!!
――ちくり。下唇を甘噛みされて、思わず口を開けたら……なにかが入ってくるっ!?
ぬめりとした感触が歯茎に触れた。それからゆっくりと頬の内側をなぞるように舐め、私の舌を絡め取る。舌の表面が擦れ合う生々しい感覚に、背中がぴくんと軽く反った。舌を強く吸われて……一瞬気が遠くなる。頭の中がぐちゃぐちゃで……熱くて……なにも考えられない……
「やっ……はあ、は、ん……」
ようやく自由になった唇からは――もう、吐息しか出ない。涙目で見上げた私は……自分を縫い留める、ぎらぎら光る瞳に身体が竦んで動けなくなった。
「……っ!?」
ひやり、とした感触が肌に触れた。バスローブの合わせ目から……大きな手が侵入してるっ!? 左胸をふにっと掴まれて、思わず腰が跳ねる。
「なななっ、なにしてるんですかぁぁぁっ!」
一気に熱くなった私の顔を見て、狼がにっこりと黒く笑った。
「胸、揉んでるだけだが?」
「そそそ、そんな事、笑顔で言わな……やあんっ!」
先端を指で弾かれて、びくっと震えてしまう。そんな私の耳元に、熱い吐息と悪魔の囁きが降ってきた。
「小田原には触らせたくせに」
小田原くん!? ……それって、あの時……?
「は、あ、えっ……あ、あれは事故で……やああ、ん!」
こんな風に触られてませんっ! こんな……どうにかなりそうな、感じじゃ……!
そうしている間にも、彼の指がうねうねと動いて、膨らみを揉みしだいていく。長い指が先端を擦るたびに、「ああんっ!」と身体が揺れた。
「じゃあ、これも事故だと思っておけ」
「ち、違っ……やめ……ああんっ」
自分の声が、自分のじゃないみたい。触られるたびに洩れるのは……どこか甘い、喘ぎ声。
敏感になった先をきゅっと抓まれて、びくんと腰が揺れた時……バスローブがするりと素肌を滑った。ひんやりとした空気が、直接、胸に触れる。外気に触れた事と相まって、高ぶり始めた胸の先を親指でしごかれる感覚に、かああっと身体が熱くなる。
「ひゃん! やだあっ……あああ、ん」
「嫌だという割には、硬くなってるぞ。肌もうっすら桜色になって……気持ちいいのか?」
気持ちいい? この熱くて、痺れるような感覚が? そんなの、よく判らない。けれど、触られるたびに、びくりと反応してしまう姿を見られ、たまらなく恥ずかしくなる。
「そ、んな事……言わない、で、やああんっ!」
ぎゅっと強めに抓まれた後、大きな手のひらで膨らみを持ち上げられた。やわやわと指が膨らみに沈み込む間に、ちくっ、と軽い痛みが首元を襲う。彼は熱い舌を鎖骨の辺りに這わせ、ちろちろと舐めていた。
「お前……甘いな……」
会社では聞いた事のない、副社長の掠れた色っぽい声も……身体の芯を揺さぶった。肌に吸いつく唇の感触に、身体はますます熱くなる。こんなの……知らない。やだ、怖い……っ!
助けを求めて右手を伸ばした。その手を、大きな手が掴む。少し怯んだ私の顔を見た彼が、目を見開いた。
「お前、初めてか?」
こくんとうなずいた私をなだめるように、優しいキスが唇に落ちてくる。ぼうっとしている間に、掴まれた腕がゆっくりと頭の上に動かされた。無防備になった脇の部分を容赦なく舌で攻められる。膨らみの裾野をじわじわと舐められて、触れられてもいないその先端が、じんじんと熱くなった。
「あ……ん……っ!」
じれったい。じれったくて、堪らない。背中を仰け反らせた私を見る瞳が……満足げに光る。
「ひ、ひゃあっ……あああああんっ!」
おもむろに、副社長が右胸にかぶり付いた。充分すぎるほどに焦らされ、とっくに硬くなっていた先端を強く吸われて、舌で弄ばれて……全身にびくびくと震えが走った。歯で甘く噛まれるたびに襲ってくる痺れで……頭の中が真っ白になる。
「あっ、やあんっ……あ、あああっ……ひゃん」
触られてるのは胸なのに……身体の奥からマグマのような熱が生まれてきた。じれったくて太股を擦り合わせると、とろりとなにかが流れる感触がした。やだ、なに!? 恥ずかしくて、ぎゅっと目を瞑る。
「幸子……」
胸元から聞こえる低い声だけで、身体が震えた。口から洩れる甘い声も、じわじわと追い詰められた身体も……もう、自分でコントロールなんてできない。
小刻みに震える太股の間に、いつの間にか長い指が侵入してきた。一本の指が、下から上へとすっとなぞる。
「ひうっ!?」
衝撃に思わず目を開けた。それと同時にびくんとしなった身体を、また器用な指がなぞっていく。
「ああっ、あっ、あああああんっ!」
悲鳴に近い声が洩れた直後に、ぬちゃりと厭らしい水音がした。
それを聞いた副社長が、嬉しそうな声でつぶやく。
「濡れてるな。よく滑る……」
「あんっ、やあああんっ!」
首を横に振って逃げようとしても、甘い熱さからは逃れられなかった。指が滑らかに動くたび、ねちゃねちゃという音が響く。
その音は、とても淫らで耳さえも彼に侵されているようで、おかしくなりそうだった。
襲ってくる快感に必死で耐えていた私だったけれど、きゅ、とある箇所を抓まれた時、頭のてっぺんからつま先まで電気が走った。
「ああああっ、そ、そこっ……!」
や、やだあっ、熱いっ……!
一層強くなった甘い刺激に、ぎゅっと思わずシーツを掴んだ。
「ここがいいのか? 硬くなって……触って下さいと言ってるみたいだ」
親指の腹で、敏感な部分をぐりぐりと押された。
「あ、ああああああああっ!」
思わず仰け反った反動で前に突き出した左胸が、右胸を貪っていた唇に捕まる。先端をちゅくりと吸われるのと同時に、敏感な部分をまた指で擦られて、私は「あうっ」と悲鳴を上げた。
「あああんっ! や、ああっ……んん……あっ……あああああっ!」
――熱い。熱くて堪らない。震えが止まらない。
それでも彼の指も唇も、動きを止めてくれない。触られて、抓まれて、吸われて、舐められて……どこもかしこも痺れて……訳が判らない……
「怖がるな……ほら」
耳元で甘く意地悪に囁かれ、私の中のなにかがぶつりと切れた。
「ああ、あ、ああああああああ――っ――……!!」
――びくん! と身体が大きくしなり、世界が真っ白になる。
張りつめた身体から一気に力が抜け、ぐったりとベッドに沈み込んだ。乱れた吐息を洩らす私の耳たぶを、不埒な唇が優しく引っ張った。
「敏感だな。あれだけで、イッたのか?」
イ、ク……って? え……今、私イッちゃったの? 彼に問おうと、うっすらと目を開けてみたけれど、もやがかかったみたいに、ぼんやりとしか見えない。
「はあっ……は……」
太股の隙間を、とろりとしたものが伝う。身体の奥は、なにかを求めてびくんびくんと蠢く。なにがなんだか判らないでいる私に……妖しく微笑む悪魔は軽くキスをした。
「はあ、ふ、え……?」
まだぼうっとしていると、くすくす笑う声が耳に入ってきた。
「『貴史』、って呼べよ。さもないと……続き、始めるぞ」
「え……」
どこか面白がってる瞳の色を見ていたら……少しだけ、理性が戻ってきた。
続き……続き……続きっ!? だだだ、だめっ、絶対だめーっ!!
私は必死に声を絞り出した。
「たたた、貴、史……さ、ん……?」
「……もう一度。ちゃんと言え」
「たっ、貴史さんっ!」
私を見下ろす副社長――貴史さんは、ふわりと笑った。その顔を見た途端、心臓が痛いくらいに跳ねた。
「今日のところは、これで勘弁してやる。まだ体調も悪いだろうしな。ただし……」
ごくり、と唾を呑み込んだ私に、黒い笑顔の人は囁く。
「次、俺の前であんな姿見せたら……遠慮なく丸ごと喰うからな。覚えておけ」
喰う!? 丸ごと!?
「うわあっ、はははははいっ!!」
慌てて返事をする私に、また軽くキスをした後、貴史さんはベッドを下りた。
「着替えを用意するから、少し待ってろ」
そのまま寝室を出て行った彼の背中を見て……へなへなと力が抜けてしまった。
「た、助かった……??」
完全に助かった訳じゃないけど。とりあえず死刑執行まで猶予期間をもらえた……らしい。
「ふはあ……」
――私はぐてっとベッドに突っ伏して……盛大な溜息をついた。
***
「……すご、い」
ホテルを出た後、貴史さんの車に乗り込んだ私は、呆然と窓の外を流れる景色を見ていた。
本当に……『強運』なんだ。いつも赤信号で引っかかったり、渋滞に巻き込まれてばかりの私とは違う。朝の通勤タイムなのに渋滞をすらすらとかわし、ものすごくスムーズに車が走っていた。本当に凄いんだなあ、と思いながら、運転席の方を見たら……
(……うっ!?)
綺麗な横顔を見るだけで、かあああっと頬に血が上った。心臓がどきどきして、慌てて顔を横に逸らす。もうこの人の顔、まともに見れないかも……っ。
(こここ、これから……どうしたらいいの、私!?)
――あれからすぐ、クリーニングに出していた服が届いた。ドレスだけでなく、下着までクリーニングに出してもらってたなんて……恥ずかしすぎるっ!?
(それって、つまり……つまりっ!!)
――この人が全部脱がせて……身体を洗ってくれた、って事っ!?
(いやあああああああっ!)
悶えすぎてなにも言えなかった。そもそも、自業自得だし。もう一生お酒飲まないーっ!
余裕なこの人の前で、これ以上うろたえるのは癪だったから、必死に平静さを装ってなんでもない事のように振る舞ってみた。けど……くすくす笑ってたところを見ると……やせ我慢はバレていたような気がする。そうして、ドレス姿のままでは出社できないからって、家まで車で送ってもらってるんだけど……
(ううう……一生の不覚……っ)
不運、ここに極まれり。あんまりだ。だっ、大体この人……モテモテだし、私みたいな地味子に手を出さなくったって、いいじゃない! すごい美人が選り取り見取りなんだから!
――そこで、ハタ、と気付く。私にとっては、なにもかもが……キスだって貴史さんとしたのが初めてで……ものすごく……その、痺れるような経験だったけど、もしかして。
(女性馴れしてる、この人にとっては……なんて事なかったのかも……?)
そうだよね。なんか、余裕の態度だったし。これだけハイスペックの人なら、過去に恋人だって何人もいたんだろうし……据え膳を美味しく頂いたりするのも日常茶飯事だったのかも。もしそうなら、私みたいなちんくしゃの身体なんて、どうって事なかったよね、きっと……
「……」
それはそれで、ちょっとむっとするんだけど。
「……」
こっちは全身蕩けるようで、触られた部分が熱く痺れて……そんなの生まれて初めてで、全然抵抗できなかったのに。
「おい」
……どうせ、あなたと違ってモテませんでしたよ。男運もなくて、失恋ばっかりだったし。素敵だなーって思う男性といいムードになりかけると、必ず邪魔が入ったし。恋愛に関してはとりわけ、『最強の不運』だったんだから。
「おい、なにを考えてる」
その声で我に返り、ふっと横を見ると、貴史さんが私を見ていた。ドキドキしている事を悟られないように、視線をさっと逸らす。
「……別に」
横を向き視線を合わせない私に、はあ、という溜息が聞こえた。
「どうせ、くだらない事考えてたんだろ。……言っておくが、幸子」
うっ、幸子って名前で呼ぶの、止めてーっ! 心臓発作起こしそうっ……
「逃げるなよ? 逃げても……無駄だからな」
「え……」
ままま、また背後にダークオーラがああっ! あまりの迫力に息を呑み、そーっと顔の向きを変えて様子を窺った私を、貴史さんが横目で睨む。
「俺はお前を逃さない。判ったか?」
……怖い。怖すぎるっ! 同意しないと車に監禁されそうで……思わず首をこくこくと縦に動かしていた。
「判ったなら……それでいい」
満足したように運転に集中する貴史さんから、なるべく距離を取りたくてドア側に身を縮こまらせる。
(ううう……どうしよう……)
自分の不運さを呪いながら……私は心地良い車の振動に身を任せていた。
唇を貪られているうちに、なにがなんだか判らなくなった。そうこうしている間も、唇を舌で舐められる。人生二度目のキスは、初めての時とは比べものにならないくらい、激しくて大人なものだった。
(なんで、この人に……食べられてるの、私っ!?)
「んんん、んんーっ!!」
ぶんぶんと頭を横に振ったけれど、彼の唇は離れなかった。
(く、苦し……っ!)
心臓がどくんと鳴る。手足を動かそうとしたけれど、上から押さえつけられて、動けないっ……! どうして!? なんで、いきなりっ……!!
――ちくり。下唇を甘噛みされて、思わず口を開けたら……なにかが入ってくるっ!?
ぬめりとした感触が歯茎に触れた。それからゆっくりと頬の内側をなぞるように舐め、私の舌を絡め取る。舌の表面が擦れ合う生々しい感覚に、背中がぴくんと軽く反った。舌を強く吸われて……一瞬気が遠くなる。頭の中がぐちゃぐちゃで……熱くて……なにも考えられない……
「やっ……はあ、は、ん……」
ようやく自由になった唇からは――もう、吐息しか出ない。涙目で見上げた私は……自分を縫い留める、ぎらぎら光る瞳に身体が竦んで動けなくなった。
「……っ!?」
ひやり、とした感触が肌に触れた。バスローブの合わせ目から……大きな手が侵入してるっ!? 左胸をふにっと掴まれて、思わず腰が跳ねる。
「なななっ、なにしてるんですかぁぁぁっ!」
一気に熱くなった私の顔を見て、狼がにっこりと黒く笑った。
「胸、揉んでるだけだが?」
「そそそ、そんな事、笑顔で言わな……やあんっ!」
先端を指で弾かれて、びくっと震えてしまう。そんな私の耳元に、熱い吐息と悪魔の囁きが降ってきた。
「小田原には触らせたくせに」
小田原くん!? ……それって、あの時……?
「は、あ、えっ……あ、あれは事故で……やああ、ん!」
こんな風に触られてませんっ! こんな……どうにかなりそうな、感じじゃ……!
そうしている間にも、彼の指がうねうねと動いて、膨らみを揉みしだいていく。長い指が先端を擦るたびに、「ああんっ!」と身体が揺れた。
「じゃあ、これも事故だと思っておけ」
「ち、違っ……やめ……ああんっ」
自分の声が、自分のじゃないみたい。触られるたびに洩れるのは……どこか甘い、喘ぎ声。
敏感になった先をきゅっと抓まれて、びくんと腰が揺れた時……バスローブがするりと素肌を滑った。ひんやりとした空気が、直接、胸に触れる。外気に触れた事と相まって、高ぶり始めた胸の先を親指でしごかれる感覚に、かああっと身体が熱くなる。
「ひゃん! やだあっ……あああ、ん」
「嫌だという割には、硬くなってるぞ。肌もうっすら桜色になって……気持ちいいのか?」
気持ちいい? この熱くて、痺れるような感覚が? そんなの、よく判らない。けれど、触られるたびに、びくりと反応してしまう姿を見られ、たまらなく恥ずかしくなる。
「そ、んな事……言わない、で、やああんっ!」
ぎゅっと強めに抓まれた後、大きな手のひらで膨らみを持ち上げられた。やわやわと指が膨らみに沈み込む間に、ちくっ、と軽い痛みが首元を襲う。彼は熱い舌を鎖骨の辺りに這わせ、ちろちろと舐めていた。
「お前……甘いな……」
会社では聞いた事のない、副社長の掠れた色っぽい声も……身体の芯を揺さぶった。肌に吸いつく唇の感触に、身体はますます熱くなる。こんなの……知らない。やだ、怖い……っ!
助けを求めて右手を伸ばした。その手を、大きな手が掴む。少し怯んだ私の顔を見た彼が、目を見開いた。
「お前、初めてか?」
こくんとうなずいた私をなだめるように、優しいキスが唇に落ちてくる。ぼうっとしている間に、掴まれた腕がゆっくりと頭の上に動かされた。無防備になった脇の部分を容赦なく舌で攻められる。膨らみの裾野をじわじわと舐められて、触れられてもいないその先端が、じんじんと熱くなった。
「あ……ん……っ!」
じれったい。じれったくて、堪らない。背中を仰け反らせた私を見る瞳が……満足げに光る。
「ひ、ひゃあっ……あああああんっ!」
おもむろに、副社長が右胸にかぶり付いた。充分すぎるほどに焦らされ、とっくに硬くなっていた先端を強く吸われて、舌で弄ばれて……全身にびくびくと震えが走った。歯で甘く噛まれるたびに襲ってくる痺れで……頭の中が真っ白になる。
「あっ、やあんっ……あ、あああっ……ひゃん」
触られてるのは胸なのに……身体の奥からマグマのような熱が生まれてきた。じれったくて太股を擦り合わせると、とろりとなにかが流れる感触がした。やだ、なに!? 恥ずかしくて、ぎゅっと目を瞑る。
「幸子……」
胸元から聞こえる低い声だけで、身体が震えた。口から洩れる甘い声も、じわじわと追い詰められた身体も……もう、自分でコントロールなんてできない。
小刻みに震える太股の間に、いつの間にか長い指が侵入してきた。一本の指が、下から上へとすっとなぞる。
「ひうっ!?」
衝撃に思わず目を開けた。それと同時にびくんとしなった身体を、また器用な指がなぞっていく。
「ああっ、あっ、あああああんっ!」
悲鳴に近い声が洩れた直後に、ぬちゃりと厭らしい水音がした。
それを聞いた副社長が、嬉しそうな声でつぶやく。
「濡れてるな。よく滑る……」
「あんっ、やあああんっ!」
首を横に振って逃げようとしても、甘い熱さからは逃れられなかった。指が滑らかに動くたび、ねちゃねちゃという音が響く。
その音は、とても淫らで耳さえも彼に侵されているようで、おかしくなりそうだった。
襲ってくる快感に必死で耐えていた私だったけれど、きゅ、とある箇所を抓まれた時、頭のてっぺんからつま先まで電気が走った。
「ああああっ、そ、そこっ……!」
や、やだあっ、熱いっ……!
一層強くなった甘い刺激に、ぎゅっと思わずシーツを掴んだ。
「ここがいいのか? 硬くなって……触って下さいと言ってるみたいだ」
親指の腹で、敏感な部分をぐりぐりと押された。
「あ、ああああああああっ!」
思わず仰け反った反動で前に突き出した左胸が、右胸を貪っていた唇に捕まる。先端をちゅくりと吸われるのと同時に、敏感な部分をまた指で擦られて、私は「あうっ」と悲鳴を上げた。
「あああんっ! や、ああっ……んん……あっ……あああああっ!」
――熱い。熱くて堪らない。震えが止まらない。
それでも彼の指も唇も、動きを止めてくれない。触られて、抓まれて、吸われて、舐められて……どこもかしこも痺れて……訳が判らない……
「怖がるな……ほら」
耳元で甘く意地悪に囁かれ、私の中のなにかがぶつりと切れた。
「ああ、あ、ああああああああ――っ――……!!」
――びくん! と身体が大きくしなり、世界が真っ白になる。
張りつめた身体から一気に力が抜け、ぐったりとベッドに沈み込んだ。乱れた吐息を洩らす私の耳たぶを、不埒な唇が優しく引っ張った。
「敏感だな。あれだけで、イッたのか?」
イ、ク……って? え……今、私イッちゃったの? 彼に問おうと、うっすらと目を開けてみたけれど、もやがかかったみたいに、ぼんやりとしか見えない。
「はあっ……は……」
太股の隙間を、とろりとしたものが伝う。身体の奥は、なにかを求めてびくんびくんと蠢く。なにがなんだか判らないでいる私に……妖しく微笑む悪魔は軽くキスをした。
「はあ、ふ、え……?」
まだぼうっとしていると、くすくす笑う声が耳に入ってきた。
「『貴史』、って呼べよ。さもないと……続き、始めるぞ」
「え……」
どこか面白がってる瞳の色を見ていたら……少しだけ、理性が戻ってきた。
続き……続き……続きっ!? だだだ、だめっ、絶対だめーっ!!
私は必死に声を絞り出した。
「たたた、貴、史……さ、ん……?」
「……もう一度。ちゃんと言え」
「たっ、貴史さんっ!」
私を見下ろす副社長――貴史さんは、ふわりと笑った。その顔を見た途端、心臓が痛いくらいに跳ねた。
「今日のところは、これで勘弁してやる。まだ体調も悪いだろうしな。ただし……」
ごくり、と唾を呑み込んだ私に、黒い笑顔の人は囁く。
「次、俺の前であんな姿見せたら……遠慮なく丸ごと喰うからな。覚えておけ」
喰う!? 丸ごと!?
「うわあっ、はははははいっ!!」
慌てて返事をする私に、また軽くキスをした後、貴史さんはベッドを下りた。
「着替えを用意するから、少し待ってろ」
そのまま寝室を出て行った彼の背中を見て……へなへなと力が抜けてしまった。
「た、助かった……??」
完全に助かった訳じゃないけど。とりあえず死刑執行まで猶予期間をもらえた……らしい。
「ふはあ……」
――私はぐてっとベッドに突っ伏して……盛大な溜息をついた。
***
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ホテルを出た後、貴史さんの車に乗り込んだ私は、呆然と窓の外を流れる景色を見ていた。
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(……うっ!?)
綺麗な横顔を見るだけで、かあああっと頬に血が上った。心臓がどきどきして、慌てて顔を横に逸らす。もうこの人の顔、まともに見れないかも……っ。
(こここ、これから……どうしたらいいの、私!?)
――あれからすぐ、クリーニングに出していた服が届いた。ドレスだけでなく、下着までクリーニングに出してもらってたなんて……恥ずかしすぎるっ!?
(それって、つまり……つまりっ!!)
――この人が全部脱がせて……身体を洗ってくれた、って事っ!?
(いやあああああああっ!)
悶えすぎてなにも言えなかった。そもそも、自業自得だし。もう一生お酒飲まないーっ!
余裕なこの人の前で、これ以上うろたえるのは癪だったから、必死に平静さを装ってなんでもない事のように振る舞ってみた。けど……くすくす笑ってたところを見ると……やせ我慢はバレていたような気がする。そうして、ドレス姿のままでは出社できないからって、家まで車で送ってもらってるんだけど……
(ううう……一生の不覚……っ)
不運、ここに極まれり。あんまりだ。だっ、大体この人……モテモテだし、私みたいな地味子に手を出さなくったって、いいじゃない! すごい美人が選り取り見取りなんだから!
――そこで、ハタ、と気付く。私にとっては、なにもかもが……キスだって貴史さんとしたのが初めてで……ものすごく……その、痺れるような経験だったけど、もしかして。
(女性馴れしてる、この人にとっては……なんて事なかったのかも……?)
そうだよね。なんか、余裕の態度だったし。これだけハイスペックの人なら、過去に恋人だって何人もいたんだろうし……据え膳を美味しく頂いたりするのも日常茶飯事だったのかも。もしそうなら、私みたいなちんくしゃの身体なんて、どうって事なかったよね、きっと……
「……」
それはそれで、ちょっとむっとするんだけど。
「……」
こっちは全身蕩けるようで、触られた部分が熱く痺れて……そんなの生まれて初めてで、全然抵抗できなかったのに。
「おい」
……どうせ、あなたと違ってモテませんでしたよ。男運もなくて、失恋ばっかりだったし。素敵だなーって思う男性といいムードになりかけると、必ず邪魔が入ったし。恋愛に関してはとりわけ、『最強の不運』だったんだから。
「おい、なにを考えてる」
その声で我に返り、ふっと横を見ると、貴史さんが私を見ていた。ドキドキしている事を悟られないように、視線をさっと逸らす。
「……別に」
横を向き視線を合わせない私に、はあ、という溜息が聞こえた。
「どうせ、くだらない事考えてたんだろ。……言っておくが、幸子」
うっ、幸子って名前で呼ぶの、止めてーっ! 心臓発作起こしそうっ……
「逃げるなよ? 逃げても……無駄だからな」
「え……」
ままま、また背後にダークオーラがああっ! あまりの迫力に息を呑み、そーっと顔の向きを変えて様子を窺った私を、貴史さんが横目で睨む。
「俺はお前を逃さない。判ったか?」
……怖い。怖すぎるっ! 同意しないと車に監禁されそうで……思わず首をこくこくと縦に動かしていた。
「判ったなら……それでいい」
満足したように運転に集中する貴史さんから、なるべく距離を取りたくてドア側に身を縮こまらせる。
(ううう……どうしよう……)
自分の不運さを呪いながら……私は心地良い車の振動に身を任せていた。
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