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1巻試し読み
1)私、不運なんです
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――私、寿幸子は――会社で『社内一不運な女』と呼ばれている。
元々、私のひいひいおじいちゃんが、祈祷師だかなんだかの一派で、そこで起こった跡目争いに巻き込まれて……呪いをかけられ、この『不運力』を授かった(?)と言われている。だから、寿家には、『不運な人間』がたまに生まれてくるのだとか。……つまり、私の『不運』は筋金入りなのだ。
思えば幼少の頃から、入園・入学、卒業時の集合写真で、隅っこの小さな枠に収まらなかった事はない。どんなに元気でも、当日になると、発熱、嘔吐、下痢、インフルエンザで欠席……
好きな男の子の前でずっこけて膝小僧をすりむき、その手当てをしてくれた私の親友に、その男の子が一目惚れ……なんて事は、日常茶飯事。いつもちゃんとやってる宿題をたまたま忘れた日に、先生からあてられる事も、しょっちゅうだった。
中学入試は、遅刻しそうになり、焦ったせいで答えを書く欄が一つずつずれて、不合格。高校入試は、会場に向かう途中で事故渋滞に巻き込まれたけれど、ギリギリセーフで滑り込んだ。かと思ったら試験の途中でお腹が痛くなり、退席……不合格。そして、第一志望の大学入試は……やめよう。不毛な話だ。
第二志望の短大に進んだ後の就職も、難難難難を極め……数えきれないほどの会社に落ちた。不運体質の上に、おっちょこちょいな性格も兼ね備えている私は、緊張するとドジを踏んでしまう。就職活動でも、その能力を遺憾なく発揮し、何度も面接官の目を丸くさせた。
なんとか今のKM株式会社に入社できたのは、おじいちゃんの知り合いの知り合いが、KM社の誰かと知り合いだった、とかいうコネ(?)とも言えないような御縁があったから。
KM社は元々建築会社だったけれど、今では市街計画や百貨店改築等のコンセプトを提案する、中堅の総合建築コンサルティング企業だ。総務部や人事部といったスタッフ部門も充実してるから、そういう目立たない部署で縁の下の力持ちとして役に立ちたいと希望を出したのに……新人研修後に配属されたのは、男性社員の憧れ+美人で仕事がばりばりできる女性社員が揃ってる、秘書室だった。挨拶の時、先輩秘書のおねーさま方の顔には『どうして、こんな子が秘書室にっ!?』って書いてあったよね……はあ。
(配属先まで、不運……)
とはいえ、役員の皆さんが気さくなのは幸運だった。小柄な私は『娘か孫のようだ』と古参の役員さん達に飴をもらったりして、可愛がってもらっている。そんな役員さん達のためにも、会社に貢献できるよう一生懸命頑張ろう。そう思ってるのに、やっぱり不運属性が発現し、ここぞという場面で誰かにぶつかって書類を撒き散らしたり……派手にやらかしてしまう。
(そう……特に……)
――鋭い目付きの鉄仮面を思い出し、私は溜息をついた。あの人の前だと酷いんだよね、ドジが。苦手意識があるからか、自意識過剰なだけなのか……いっつも睨まれている気が……する。最近は、なにかドジを踏むたびに、ぽかっと小突かれるようにまでなってきた。そんな事する役員は彼しかいない。なんなんだろう、あの人は。
(きっと、相性が悪いんだよね……うん)
鉄仮面の攻撃にもめげずに七年間、頑張ってなんとかここまで来たけれど……はあ。
明日は、一番仲が良い同期の女の子の結婚式。多分寿退職してしまう。これで何人目だろう……
当然ながら(?)私に彼氏はいない。私の『不運』は、恋愛関係だとほぼ百パーセントの割り合いで発動する。いい雰囲気になっても、絶対に邪魔が入ってだめになるのだ。反対に、私の親しい友人は恋が成就する割合が高く……「幸子って幸運のマスコットかも!」と言われた事もあったなあ。
「はあ……」
一人暮らしのアパートに、溜息だけが響く。私は気を取り直してクローゼットを開き、薄いクリーム色のワンピースを手に取った。
「これ着るの、何回目かなあ……」
ついでに、あと何回着るのかな。それで一体……
「……いつ、自分の結婚式ができるのかなあ」
好きな人もいない状態からじゃあ……まだまだだよねえ。
私はまた、深い溜息をついた。
――自分の筋金入りの『不運』が、とんでもない悲劇を引き寄せようとしてるとは……この時まるで気が付いていなかった。
元々、私のひいひいおじいちゃんが、祈祷師だかなんだかの一派で、そこで起こった跡目争いに巻き込まれて……呪いをかけられ、この『不運力』を授かった(?)と言われている。だから、寿家には、『不運な人間』がたまに生まれてくるのだとか。……つまり、私の『不運』は筋金入りなのだ。
思えば幼少の頃から、入園・入学、卒業時の集合写真で、隅っこの小さな枠に収まらなかった事はない。どんなに元気でも、当日になると、発熱、嘔吐、下痢、インフルエンザで欠席……
好きな男の子の前でずっこけて膝小僧をすりむき、その手当てをしてくれた私の親友に、その男の子が一目惚れ……なんて事は、日常茶飯事。いつもちゃんとやってる宿題をたまたま忘れた日に、先生からあてられる事も、しょっちゅうだった。
中学入試は、遅刻しそうになり、焦ったせいで答えを書く欄が一つずつずれて、不合格。高校入試は、会場に向かう途中で事故渋滞に巻き込まれたけれど、ギリギリセーフで滑り込んだ。かと思ったら試験の途中でお腹が痛くなり、退席……不合格。そして、第一志望の大学入試は……やめよう。不毛な話だ。
第二志望の短大に進んだ後の就職も、難難難難を極め……数えきれないほどの会社に落ちた。不運体質の上に、おっちょこちょいな性格も兼ね備えている私は、緊張するとドジを踏んでしまう。就職活動でも、その能力を遺憾なく発揮し、何度も面接官の目を丸くさせた。
なんとか今のKM株式会社に入社できたのは、おじいちゃんの知り合いの知り合いが、KM社の誰かと知り合いだった、とかいうコネ(?)とも言えないような御縁があったから。
KM社は元々建築会社だったけれど、今では市街計画や百貨店改築等のコンセプトを提案する、中堅の総合建築コンサルティング企業だ。総務部や人事部といったスタッフ部門も充実してるから、そういう目立たない部署で縁の下の力持ちとして役に立ちたいと希望を出したのに……新人研修後に配属されたのは、男性社員の憧れ+美人で仕事がばりばりできる女性社員が揃ってる、秘書室だった。挨拶の時、先輩秘書のおねーさま方の顔には『どうして、こんな子が秘書室にっ!?』って書いてあったよね……はあ。
(配属先まで、不運……)
とはいえ、役員の皆さんが気さくなのは幸運だった。小柄な私は『娘か孫のようだ』と古参の役員さん達に飴をもらったりして、可愛がってもらっている。そんな役員さん達のためにも、会社に貢献できるよう一生懸命頑張ろう。そう思ってるのに、やっぱり不運属性が発現し、ここぞという場面で誰かにぶつかって書類を撒き散らしたり……派手にやらかしてしまう。
(そう……特に……)
――鋭い目付きの鉄仮面を思い出し、私は溜息をついた。あの人の前だと酷いんだよね、ドジが。苦手意識があるからか、自意識過剰なだけなのか……いっつも睨まれている気が……する。最近は、なにかドジを踏むたびに、ぽかっと小突かれるようにまでなってきた。そんな事する役員は彼しかいない。なんなんだろう、あの人は。
(きっと、相性が悪いんだよね……うん)
鉄仮面の攻撃にもめげずに七年間、頑張ってなんとかここまで来たけれど……はあ。
明日は、一番仲が良い同期の女の子の結婚式。多分寿退職してしまう。これで何人目だろう……
当然ながら(?)私に彼氏はいない。私の『不運』は、恋愛関係だとほぼ百パーセントの割り合いで発動する。いい雰囲気になっても、絶対に邪魔が入ってだめになるのだ。反対に、私の親しい友人は恋が成就する割合が高く……「幸子って幸運のマスコットかも!」と言われた事もあったなあ。
「はあ……」
一人暮らしのアパートに、溜息だけが響く。私は気を取り直してクローゼットを開き、薄いクリーム色のワンピースを手に取った。
「これ着るの、何回目かなあ……」
ついでに、あと何回着るのかな。それで一体……
「……いつ、自分の結婚式ができるのかなあ」
好きな人もいない状態からじゃあ……まだまだだよねえ。
私はまた、深い溜息をついた。
――自分の筋金入りの『不運』が、とんでもない悲劇を引き寄せようとしてるとは……この時まるで気が付いていなかった。
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