上 下
4 / 27

[4] 修行

しおりを挟む
 その日から早速りっちゃんは強くなるための修行をはじめた。
 といっても何か大きく生活が変化しただとかそういうことはなかった。
 りっちゃんは活発に遊びまわる子だったのでもとよりその生活自体が修行のようなものだった。遊戯と鍛錬が混在して暮らしていたところその割合が多少鍛錬の方に傾いた、その程度のことだった。
 ただし新しく生活の中に入ってきたものがあってそれはいわゆる『概念決闘』だった。

 魔法使い同士による脳内模擬戦。
 互いの脳を魔術的に接続、イメージを共有することで実戦さながらの魔法戦闘を脳内で展開させる。自身の身体及び精神能力はそのまま反映されるしスタミナもがっつり消耗する。
 違いがあるとすれば身体に傷を負うことがない、それぐらいだろう。
 つまりは目隠し将棋のようなものといえばいいのか。
 いやだいぶ違う気がする。そもそも私、将棋まともに指したことないし、まあそれはいいや。

 とにかくりっちゃんがそれにはまった。
 日が落ちて孤児院に戻ってきてから、四六時中暇があれば私は概念決闘を挑まれることになった。
 相手をできるのが私ぐらいだったからしょうがないと言えばしょうがないことだった。
 りっちゃんの1日をだいたいまとめると、朝起きてさんざん外で遊びまわって帰ってきて、私相手に何度も何度も概念戦闘を繰り返して、はじめのうちはりっちゃんが勝つんだけど、そのうち私の勝ち星が増えてきて最後は倒れるように意識を失って眠る、そんな感じだった。

 もともと才能にあふれていた上に、だれに強制されるわけでもなく自分から本気でそんな生活を送っているわけだから、りっちゃんはめきめき強くなっていった。
 ついでに私も。
 りっちゃんとおんなじことをやってたわけだから当然と言えば当然だ。概念決闘のちょうどいい練習相手になることができたから私にとってもそれはうれしいことだった。

 毎日毎日りっちゃんの魔法に触れる中で私にはわかったことがあった。魔法適性測定器具がなぜこわれたのかということ。
 別段難しいことじゃない。りっちゃんの魔法展開速度が規格外すぎたのだ。
 人はそれぞれ自分の中に魔力タンクを持っていてそれを外部に展開、操作することで魔法を発動させる。
 りっちゃんはとにかくその魔力を外に引き出すスピードが速い。速すぎる。
 私は多分普通ぐらいだと思うけれど私が1つ魔法を発動させる間に、りっちゃんは5つか6つ同時に魔法を発動させている。
 そんな話まったく今まで聞いたことも読んだこともなかった(おそらくはまだまだりっちゃんは成長途中でさらに速くなる可能性もある。末恐ろしい)。
 予測されるよりずっともっと大きな速度で魔力を流し込めば器具が壊れてしまってもおかしくはないだろう。

 そして1年ぐらいそういう生活をしたころに私は私についても大きな発見をすることになった。
 概念決闘を連戦していつも疲れて寝るのはりっちゃんの方で私はほとんとくたびれていない。
 はじめはりっちゃんの方が年下だからとか、本気で取り組んでるからとかそんな風に思っていたけれど、何かがおかしいと気づいた。
 そういえば私は一応転生者のはしくれでつまり周りと大きく違ったとしても不思議ではないのである。
 みんなが寝静まったのをみはからって私はそっと抜け出すと誰もいない森へと入った。
 上空に向かって風の形にして全力で魔法を放出していく。自分の魔力の底がどこにあるのか私は確かめたかった。

 魔力容量に個人差はほとんどないとされている。
 それこそ将棋の例えで言えば、歩が1枚多いとか少ないとかその程度の違いしかない。うん、この例えはわりと悪くない気がする。わかりやすい。
 けれども私とりっちゃんの間にあった容量差はとてもその程度で説明できるものではなかった。あきらかな異常。それも他の人を見てわかったことだがりっちゃんでなくて私の異常。
 その日、私は3時間ほどぶっつづけてで逆巻く風を夜空に放出しつづけてやっとあきらめた。ちっとも疲れてる感じがなくて魔力が切れそうになかったから。

 これは多分バグなんだなと私は考えた。
 りっちゃんみたいに世界に望まれた英雄という感じでなくて、ただ生まれた時の何かの手続き失敗で容量がおかしくなってるみたいな。
 そう思う理由を端的に言ってしまえばなんだかこの力は私にはふさわしくない気がするから。
 まあいいや。使える力は存分に使わせてもらおう。
 普通の考えでは魔力容量に個人差は小さい。私みたいな人間の存在は想定されていない。
 私だけ駒を1000枚ほど持った状態で将棋を始めるようなものだ。圧倒的有利。

 これに勝てるとすれば、私がまった考えない手を指してくるような天才をつれてくるしかない。それこそりっちゃんレベルの。
 今のりっちゃん相手なら問題なくあしらえる。けれどもこのままりっちゃんが成長しつづければどうなるのか、私には読み切れない。
 今だってりっちゃんの魔法の扱いには理解できない部分がある。そしてそれは多分今後加速度的に増えてくはず。
 だとしてもその未来をなんら気にすることはないだろう。りっちゃんが私を倒すとすればりっちゃんが正しく、そして私はそうあることを望むから。

 私は私の異常性に気付いてもそれをだれにも言わず、また生活を変えることもなかった。
 さらに1年がすぎて試練の時が訪れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【百合】転生聖女にやたら懐かれて苦労している悪役令嬢ですがそのことを知らない婚約者に「聖女様を虐めている」と糾弾されました、死刑だそうです

砂礫レキ
恋愛
「リリーナ・ノワール公爵令嬢、聖女サクラの命を狙った咎でお前を死刑に処す!」 魔法学校の卒業パーティーの場。 リリーナの婚約者であるリアム王子は桃色の髪の少女を抱き寄せ叫んだ。 彼が腕に抱いているのはサクラという平民上がりの男爵令嬢だ。 入学早々公爵令嬢であるリリーナを悪役令嬢呼ばわりして有名になった人物である。 転生ヒロインを名乗り非常識な行動をしでかす為学校内の嫌われ者だったサクラ。 だが今年になり見事難関聖女試験に合格して周囲からの評価は一変した。 ちなみに試験勉強を手助けしていたのはリリーナである。 サクラとリリーナは奇妙な友人関係にあったのだ。 そのことを知らないリアム王子は大勢の生徒と捕えた聖女の前で捏造したリリーナの罪を晒し上げる。 それが自分たちの破滅に繋がることを、そして誰が黒幕であるかすら知らずに。 

恋人を寝取られた挙句イジメられ殺された僕はゲームの裏ボス姿で現代に転生して学校生活と復讐を両立する

くじけ
ファンタジー
 胸糞な展開は6話分で終わります。 幼い頃に両親が離婚し母子家庭で育った少年|黒羽 真央《くろは まお》は中学3年生の頃に母親が何者かに殺された。  母親の殺された現場には覚醒剤(アイス)と思われる物が発見される。  だがそんな物を家で一度も見た事ない真央は警察にその事を訴えたが信じてもらえず逆に疑いを掛けられ過酷な取調べを受ける。  その後無事に開放されたが住んでいた地域には母親と自分の黒い噂が広まり居られなくなった真央は、親族で唯一繋がりのあった死んだ母親の兄の奥さんである伯母の元に引き取られ転校し中学を卒業。  自分の過去を知らない高校に入り学校でも有名な美少女 |青海万季《おおみまき》と付き合う事になるが、ある日学校で一番人気のあるイケメン |氷川勇樹《ひかわゆうき》と万季が放課後の教室で愛し合っている現場を見てしまう。  その現場を見られた勇樹は真央の根も葉もない悪い噂を流すとその噂を信じたクラスメイト達は真央を毎日壮絶に虐めていく。  虐められる過程で万季と別れた真央はある日学校の帰り道に駅のホームで何者かに突き落とされ真央としての人生を無念のまま終えたはずに見えたが、次に目を覚ました真央は何故か自分のベッドに寝ており外見は別人になっており、その姿は自分が母親に最期に買ってくれたゲームの最強の裏ボスとして登場する容姿端麗な邪神の人間体に瓜二つだった。  またそれと同時に主人公に発現した現実世界ではあり得ない謎の能力『サタナフェクティオ』。  その能力はゲーム内で邪神が扱っていた複数のチートスキルそのものだった。  真央は名前を変え、|明星 亜依羅《みよせ あいら》として表向きは前の人生で送れなかった高校生活を満喫し、裏では邪神の能力を駆使しあらゆる方法で自分を陥れた者達に絶望の復讐していく現代転生物語。

ダンシング・オン・ブラッディ

鍵谷 雷
ファンタジー
 セレスタ・ラウは帝国魔術学院で魔術を学び、優秀な成績で卒業した。帝国魔術師団への入団も間違いなしと言われていたが、帝国から遠く離れた村の教会に配属を希望する。  ある夜、リュシールという女吸血鬼と出会う。彼女はセレスタを気に入ったと告げ、とある計画への協力を求める。  "光"の魔術師と"闇の住人"である吸血鬼、二人の冒険と戦いと日常を書いたファンタジー。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

偶然が生んだ最強種

大路
ファンタジー
神が世界の危機に人類に与えた希望。 それは「転移」・・・ その転移に選ばれたのは愛犬家の心優しい青年。 地方都市に暮らす門口 直樹。 しかし「転移」を行なったのは愛犬のテツ! テツに与えられた能力は 「進化」 異世界で強力なモンスターの討伐 様々な人物との出会い 全ての行いが進化素材になる! 進化する為により強力な進化素材を探し 幻獣として異世界をチワワから進化しながら 旅をするテツと相棒が送るファンタジー小説 です!

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

処理中です...