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念願の京都へ

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有給休暇一日目。

休みなのにいつも通りに目が覚めてしまった花菜は、二度寝をすることもなく起き上がった。
一人旅への好奇心で、とても寝ていられなかったのである。

「おーっ、いい天気。あっちも晴れみたいだし、ラッキー」

昨日の内に新幹線とホテルは予約済みなのだが、旅行に備えて賞味期限が近いものを昨晩食べ尽くしてしまった為、食べるものがない。
花菜はさっさと出発して、駅のコーヒーショップで朝食をとることにした。

みんなが出勤していく様子を眺めながらの優雅な朝食……。
これって最高に贅沢じゃない!?

玉子サンドをホットコーヒーを飲みつつゆっくり味わった後、新横浜の駅に向かった。
京都駅へは新横浜駅から新幹線の『のぞみ』で二時間ほどである。
九時過ぎに乗った新幹線は、十一時頃時間通りに京都駅に到着した。

来たよーっ!京都だよーっ!!

花菜はスーツケースを元気に転がすと、まずは荷物を預けようとホテルへと向かった。
観光先をまだ決め終わってないので、とりあえず京都駅近くのホテルを三泊分予約したのである。

無事に荷物を預けて身軽になった花菜は、ショルダーバッグひとつで駅に戻り、混んでしまう前に駅ナカでランチを楽しむことにした。
午後は早速観光に出かける為、手早く済ませようーーと思いつつ、せっかくの京都なのでおばんざいの店に入ってみた。

おいしかった~。京都って感じだよ~。

体に染み渡るお惣菜の美味しさに満足した後、バス乗り場へと足を向ける。
今から念願の「晴明神社」に向かうのだ。

晴明神社、ずっと気になってたんだよね。
陰陽師といったら安倍晴明だし!

花菜は小さいときに陰陽師の映画を観てから、ずっと陰陽師が好きだった。
と言っても、ドラマや漫画をチェックするくらいのライトなファンである。
安倍晴明を演じていた俳優が印象的だったせいか、凛とした佇まいと美しい所作、何より知的な格好良さに心を奪われてしまったのだ。
つまり、とってもありがちなミーハーな理由で「安倍晴明」にハマったのである。

バスを降りたらすぐに神社があった。
鳥居がいかにもといった風情で、途端にテンションが上がってしまう。
花菜はパワースポットと言われている理由がわかる気がした。

平日だから人が少なくて嬉しいな。
ほんと、有給休暇サマサマだわ。
今頃みんなは仕事をしてるんだよね。

内部告発の犯人と思われる真里には「お土産を買っていくからね」と、心の中で感謝をしておいた。


パンフレット片手に本殿や晴明の像などを巡り、ご神木を眺め、隅々まで堪能した後、花菜は神社の授与所へ立ち寄ることにした。

やっぱりお守りは絶対買わないと!
あ、御札も欲しいし、この鈴めっちゃ可愛いーっ。

悩んだ挙げ句、花菜は御札と、陰陽のマークが入ったお守り、星が描いてある鈴を購入した。

この陰陽のお守り、見た目で選んじゃったけど本当は縁結び用なんだよね……。
今まで仕事ばっかりだったから、ちょうど良かったのかな?
いい人に巡り会えますように!

買ったものをしまおうとして、鈴はバッグにつけてみようと思い立った。
紐をバッグの金具に引っかけて、確認するように揺らすとチリンと清らかな音が鳴った。

うんうん、いいんじゃないの?
五芒星の鈴なんて最高じゃん。

ルンルンで出口に向かうと、さっきは気付かなかったお店が出ていた。

あれ?こんな店あったっけ?
ここも晴明神社が経営してるお店なのかな?

近付くと、巫女姿のおばあちゃんが声をかけてきた。
どうやら式神を模した付箋を売っているらしい。

うわぁ、式神の付箋じゃん。
これさえあれば陰陽師ごっこが出来ちゃうってこと!?

人の形を表した紙人形の式神が、50枚綴りの付箋になっている。

「おひとついかがですか?今ならサービスでこちらの30枚綴りの試供品も差し上げますよ」

見た目と比べ、思いがけず若々しい声に少し驚いたが、花菜の視線は並べられた付箋に釘付けだった。

おおーっ、それはお得だわ。
会社でパソコンにメモとして貼ってたら気分が上がりそう。

「ひとつください!」

お金を払うと、おばあちゃんが付箋を花菜へと手渡しながら意味深に言った。

「きっとこの子達が守ってくれるわ」

この子達?
ああ、付箋の式神が悪いことから守ってくれます的な?
なんか可愛いーっ。

嬉しくなって、笑顔でお礼を言って立ち去った。
次は一条戻橋に向かう予定だ。

一条戻橋はあの世とこの世を繋ぐと言われていたり、安倍晴明の式神が橋の下に隠されていたという伝説が残っている場所である。
晴明神社からも近いので、花菜は絶対寄ろうと思っていたのだ。

おおっと、橋ってこれじゃないの?
「戻橋」って書いてあるもんね。
では早速……。

花菜が橋へと足を踏み出した時だった。
ブワッと生暖かい風が吹きつけ、鞄につけた鈴の音がチリリンと響き渡る。
思わず足を止めて目を閉じる花菜ーー。

風が止んだ後、橋に花菜の姿はなかった。

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