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二度目のプロポーズの返事は
しおりを挟む中庭を気持ちの良い風が通り抜けていった。
「ユミ様、一体何があったのですか?眠らされたとシャロンが言っていましたが、体は何ともありませんか?」
眉を下げながら由美の全身を確認し始めるレゴラスに、先程までの鋭さは全くなかった。
「大丈夫で・・・」
「あーーっ、膝に傷が!はっ、手首にも!!なんということだ・・。公爵家を潰す!!今すぐ根絶やしにしてやる!!」
再び怒り出したレゴラスを、苦笑いをしながら宥める由美。
「このくらい大したことないですよ。あ、気付いたらあそこの部屋にいたんですよー。手首は縛られてましたけど、私にはカッターがあったので。ほら、これです。切れ味抜群!」
カッターを見せて話題を変えようと試みたが、紐の跡が残ってしまった由美の手首を、レゴラスは自分が痛そうな顔で撫でている。
「ずっと傍にいて、笑顔にすると約束したのに・・・。不甲斐ないです。」
しょんぼりしてしまったレゴラスの胸元から、由美があげたペンタンマスコットが覗いていた。
由美はマスコットに手を伸ばして掴むと、レゴラスに向けてペンタンを動かしてみせる。
『由美もペンタンも元気だから、問題ないヨー。ボク達の為に戻ってきてくれてアリガトウー。ほら、笑ってー。』
少し高めの声で、ペンタンマスコットになりきって声をあててみた。
「ハハハッ、どういたしまして。やっぱり本物の可愛さには誰も敵いませんね。」
レゴラスはマスコットを軽く撫でると、そのまま由美を自分の腕に閉じ込めた。
「ユミ様、あなたが大切なんです。失ったら生きていけないほどに。」
耳に届く狂おしいほど切ない声と、包み込む温かさで、由美にもレゴラスの想いが痛いほど伝わってきた。
「でも私、インチキ詐欺女ですよ?」
この期に及んで可愛くないとは思うけど、もう何も隠したくないんだよね。
全部さらけ出したら、素直に飛び込んでいける気がする。
「フフッ、ユミ様がおっしゃると、不思議と可愛い存在に聞こえますね。私はユミ様なら、インチキ詐欺女でも全然構いませんが、ユミ様は私がインチキ詐欺男でも許してくれますか?」
え?
王子様がインチキ詐欺男??
「どういうことですか?」
由美が尋ねると、レゴラスは更にぎゅっと強く抱き締めながら言った。
「ユミ様はペンタン様を物理的に動かしているだけで、ペンタン様は大きなぬいぐるみのようなものだと最初から分かっていました。でもあなたを力のある特別な存在だと皆に思わせ、妃はユミ様しかふさわしくないと知らしめたかった。そしてあなたを守る口実を作って、誰よりも近くにいたかったのです。」
「えっと、召喚された当日から知ってたってことですよね?何故そんなに私を・・・」
「あなたがペンタン様から顔を出した時から、私はあなたの虜なのです。あ、ペンタン様を初めて見た時からというのが正しいですね。」
「プッ、それって、やっぱりペンタンが好きってことじゃないですか!」
レゴラスの腕の中は居心地が良く、ずっと張り詰めていた由美の心は自然と解け、クスクスと笑っていた。
「ペンタン様はもちろん可愛いですが、ユミ様が入っていたり、傍にいるからこその愛らしさなのです!さきほどのペンタン様は、ハッキリ言って気持ち悪くて可愛さ皆無でした。最初に会ったのがあのペンタン様だったら、私はプロポーズなどしていませんよ!」
そうだった。
この人、ペンタンを『私の花嫁』とか言ってたんだった。
ふふっ、笑える。
由美は笑いながら、レゴラスとの今までを振り返っていた。
最初はクールで怖かったのに、急に丁寧で優しい人になっちゃって。
いつだって私を大切にしてくれて、何をしても子供みたいに喜んでくれた。
チョロくて甘くて、でも涙を拭ってくれる王子様。
イケメンだし、可愛いし、女性ならみんな好きになっちゃう。もちろん私だって。
よし!たまにはこっちから口説いて、翻弄させてやりましょうか。
「レゴラス様、ちょっとしゃがんでもらえます?」
由美はレゴラスの腕から体を離すと、ニッコリ笑ってお願いをする。
レゴラスは首を傾げながらも、言われた通り膝を折った。
ふふっ、隙あり!!
由美は背伸びをして、レゴラスの唇に軽くキスをした。
チュッ
サッとレゴラスから距離をとり、はにかみながらレゴラスを見ると、目を見開いたまま固まっていた。
「レゴラス様、好きです!」
恥ずかしそうに、でもしっかりと由美が伝えると、ぎこちなく動き出したレゴラスに再び抱き締められてしまった。
「本当にユミ様はズルい・・・。手強いし。全く、こんなに私の心を揺さぶる人がいるなんて。可愛い・・・可愛すぎる・・・」
ブツブツ呟いていたが、由美の瞳を見つめると、甘く微笑みながら告げた。
「ユミ様、あなたを愛しています。私と結婚して下さい。」
「はい、喜んで!」
威勢良く答えた由美に吹き出しながらも、そっと由美の頬を撫でると、今度はレゴラスから口付けた。
由美からの短いキスとは違い、触れ合う唇からレゴラスの想いが流れ込んでくるのを感じる。
唇が離れてもお互い離れがたく、抱き合ったまま見つめあっているところに、フィーゴが現れた。
「いやー、あの令嬢、めちゃくちゃ暴れるんですけどー。ほら、引っ掻き傷がこんな・・・に・・・」
二人の状況に気付いたのか、途中で言葉を止めた。
「失礼しましたー!!」
慌てて逃げていく後ろ姿に、由美を抱く体勢はそのままに、レゴラスが文句を言った。
「やっぱり調子に乗っているな。」
「まあまあ、フィーゴさんの機転でさっきは助かったんですから。」
「ユミ様はフィーゴに甘いのではないですか?」
拗ねるレゴラスに、由美はまたペンタンマスコットを動かした。
『由美が甘やかしたいのは、レゴラス様だけだヨー。』
「本当にユミ様には敵わない。」
中庭に二人の笑い声が響いていた。
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