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涙を拭ってくれる人
しおりを挟む「また死んでしまうとは、どういうことですか?」
「それは、えっと・・・」
いけない!
私、まだ元の世界で死んでること言ってなかったよね。
こんな話、重いし、聞きたくないんじゃ。
しかし、重ねて問いかけるレゴラスの瞳は真剣そのもので、とても誤魔化せる雰囲気ではない。
動きを止めた由美は、悩みつつも日本で最後に起きたことを全て話すことにした。
ペンタンの中にいると、レゴラスの顔を直接見なくて済むのが救いであった。
「ということは、その女神の息子のイタズラによって、ユミ様の大切な命が失われ、その後ここへいらしたと?」
「そうなんですよね。この格好で今みたいにポーズ取ってたら、ペンタンごと潰されちゃったみたいで。いやー、参っちゃいますよね。間抜けな最後で。もう元の世界にも帰れないし。」
わざと明るく伝えてみたが、レゴラスは再び剣に手をかけ、激しく怒り出した。
「なんてことを!女神の息子といえど、許しはしない!ユミ様の代わりに私がこの手で!!」
由美の前ではいつも朗らかなレゴラスが、ものすごい剣幕で上空を睨んでいる。
「あ、あの、大丈夫です!もちろんショックでしたけど、きっと寿命だったのだと思います。今はこちらで良くしてもらっていますし。」
なんとかレゴラスを宥めようと、ペンタンの手をパタパタとさせていると、レゴラスがゆっくりと剣から手を離し、言った。
「酷いのは私も同じですね。あなたから元の世界に帰りたいと言われるのが怖くて、今まで経緯を聞けずにいました。私はユミ様を失うのが怖くてたまらないのです。」
「レゴラス様・・・」
自分で思っていた以上に、私は大切に思われてるみたい。
ペンタンのオマケだと思っていたけど、私自身もちゃんと見てくれてるのね。
「ユミ様、辛かったですね。泣いていいのですよ。」
「ふふっ、泣きませんよ。仕方のないことですし・・・」
言いながら、目が涙で潤んでくる。
あれ?なんで今更涙が出てくるんだろ。
だってもう死んじゃってるんだから、どうにもできないことだし。
家族や友達がどうしてるか、仕事がどうなったか、気になることはたくさんあるけど、考えないようにしてきた。
考えたら、悲しくて潰されちゃいそうで。
「ううぅ・・・」
本格的に涙が溢れてくる。
気付けばペンタンの頭がはずされ、由美の濡れる頬にレゴラスの手が添えられていた。
「私の前では無理をしないで好きなだけ泣いて下さい。私がいつだって涙を拭いますから。」
「王子様みたいなセリフ・・・」
本物の王子相手なのだが、泣くのが恥ずかしくてつい冗談めかして言ってしまう。
「フフッ、王子なので。本当はユミ様だけの王子になりたいのですけどね。」
「王子様ってすぐ愛を囁いたり、プロポーズしたりしますよね。格好いいけど。」
いつもサラッとキザなことを言うレゴラスに、憎まれ口を叩く由美。
実際は甘い雰囲気に呑まれそうなのを、必死に抗っていた。
「あはは!ユミ様は手強いですね。でも私も『優しいだけの王子』ではないので、ユミ様に帰る場所がないことをいいことに、あなたを私のものにするつもりです。時間をかけて、心ごと。」
え?
とりあえず保留にしてたけど、本気で私を奥さんにするつもりってこと?
レゴラスは指で由美の涙を拭うと、由美を抱き締めた。
小柄な由美の体は、レゴラスの長身と長い腕ですっぽりと覆われてしまう。
うわぁぁ、抱き締められてる!
まあ首から下はペンタンだから、そんなに密着してないけど・・・って、そういう問題でもないし!
「涙は止まったようですね。これからもずっと傍にいて、あなたを笑顔にします。」
由美の後頭部を撫でながらレゴラスは言ったが、急に撫でている手が止まり、小さい声が聞こえた。
「あ、遠出の仕事があった・・・。いや、ユミ様とペンタン様を置いていくなど、考えられない!一緒に連れていくか?でも険しい道だしな・・・」
プッ。
ずっと傍にって言っちゃったばかりだから、困ってるのね。
そんなの、実際は無理なんだから、気にしなくていいのに。
「お仕事、頑張ってきて下さい。ペンタンとお留守番しているので。」
レゴラスの腕から抜け、目を見て言うと、レゴラスは情けない顔をした。
「お二人と離れるなんて、寂しくて耐えられません・・・」
「何を言ってるんですか。フィーゴさん達も困りますよ?」
「最近フィーゴは調子に乗っているので、困ればいいのです。以前は真面目で大人しいヤツだったのに。」
またそんなこと言って。
でもフィーゴさん、最近くだけてきたと思ってたけど、やっぱりキャラ変してたのか。
お城の人達、全体的に気安くなってきてるよね。
レゴラス様が怖い人じゃないってわかってきたのかな。
以前のレゴラスは知らないが、由美の知る今のレゴラスは、度を越えて可愛いものが好きな、イケメンで優しくて、ちょっと困った可愛い人である。
戻ってきたフィーゴが、遠出の仕事など嫌だと駄々をこねるレゴラスに困り果て、由美にチラチラと助けを求めてきた。
「レゴラス様、お守りがわりにペンタンの小さなマスコットを作りますから、それで我慢して下さい。」
「ユミ様手作りの小さいペンタン様!?行きます!速攻行って、終わらせます!!」
なんてチョロい・・・
でもこの感じ、クセになるんだよね。
いつの間にか笑顔になっている自分に気付く。
フィーゴが視界の端で、由美を拝んでいた。
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