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甘える氷の王子様
しおりを挟む「ユミ様!?突然どうされました?何か困ったことでも?」
執務室へ予告なしに押しかけた由美に、レゴラスは相当驚いたようだ。
心配そうな顔をされてしまったので、慌ててレゴラスの手を取り、手のひらにクッキーを乗せた。
「これは・・・ペンタン様のクッキー!?」
目を見開いた後、レゴラスは恍惚とした表情でクッキーを眺めると、慈しむように捧げ持ったまま動かなくなった。
「レゴラス様?おーい、レゴラスさまー。食べないんですかー?」
微動だにしないレゴラスが心配になり、由美が立ち尽くすレゴラスの耳元へ向けてジャンプする。
「こんな可愛らしいペンタン様を食べるなんて、そんな非情なことは出来ません!!」
「いやいや、今更『氷の王子』が何を言ってるんですか。レゴラス様が食べないなら、私が先に・・・」
フィーゴがからかいながらレゴラスの手からクッキーをサッと奪うと、自分の口に運ぶふりをした。
もちろん彼なりの冗談だったのだが、ペンタンを盗られたレゴラスは途端に冷気を纏い、腰の剣に手をかけた。
「フィーゴ、お前は許されざる罪を犯した。死をもって償え!」
ヒエーッ、たかがクッキーひとつで!
まだたくさんあるのに。
というか、なにこの茶番・・・
フィーゴさん、ヘラヘラしてるし。
「レゴラス様、こっちのペンタンも可愛いですよ?はい、アーン。」
何故か責任を感じた由美は、状況改善に向けて一肌脱ぐことにした。
勢いでレゴラスの口にクッキーを詰め込み、すかさず猫やクマのクッキーも見せる。
「他の形もあるんですよ?可愛いでしょう。」
猫のクッキーを目にしたレゴラスは剣から手を離し、クッキーを飲み込むと、由美の方に向き直り優しい声で話し始めた。
「ユミ様、可愛くてとても美味しいです。ペンタン様の型を作るなんて素晴らしい発想ですね。」
態度が豹変し、穏やかな空気を醸し出すレゴラスを見て、フィーゴとシャロンが口々に言った。
「よっ!さすが、王子使い!」
「今日も王子の扱いが冴え渡ってますね!」
なんだそれ。
猛獣使いみたいな言い方になってるし、なんか軽い。
甘えるように口を開けるレゴラスに、由美は大人しくクッキーを与え続けながら、シャロンの知り合いに型を作ってもらったこと、他の型も欲しいことを伝えた。
「なるほど、それは早急に作らせましょう。フィーゴ、シャロン、今すぐ頼む。他にもユミ様が使いそうな道具があれば、まとめて注文してきてくれ。」
え?今から行くの?
不自然に思った由美が二人を見れば、二人も不思議そうな顔をしていたが、すぐに返事をすると部屋から出ていった。
突如二人きりにされた由美。
こんなことは始めてでソワソワしていると、レゴラスがペンタンに近付き、撫でた。
ペンタンは今日も由美と一緒に移動しているのだ。
「ユミ様、甘えついでにお願いがあるのですが。」
さっきはやっぱり甘えていたらしい。
「何ですか?」
「ペンタン様の中に入って欲しいのです。実はずっと、もう一度ユミ様がペンタン様を動かすところが見たくて。人払いもしましたし、お願いできませんか?」
さっきのは人払いだったのね。
別に見られても構わない二人だけど。
「いいですよ。今日のドレスは比較的動きやすいですし。」
由美がさっさとペンタンの頭部を脇に寄せると、レゴラスがタイミング良く由美を持ち上げ、ペンタンの中に入れてくれた。
足の部分を履き、ファスナーと頭部をレゴラスに頼むと、あっという間にペンタンに変身し終わった。
「じゃーん。どうですか?可愛い?」
なぜかペンタンを着ると、テンションが上がってしまうらしい。
頼まれてもいないのに、次々と軽快にポーズをとってしまう。
「ああ!!やはりユミ様が動かしていると、ペンタン様の可愛らしさが圧倒的に桁違いですね!愛おしくて堪りません。」
まるで愛の告白のように言われたので、由美は照れてつい余計なことを言ってしまった。
「こうやって調子に乗っていると、またうっかり死んじゃったりして。」
「え?それはどういう・・・」
由美はまだ、召喚されるまでに起きた出来事を話していなかったことに気付いた。
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