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念願のカニクリームコロッケ
しおりを挟むレゴラスが仕事に戻っていってから、一時間ほどが経過した。
由美がシャロンにお願いごとをしていたその時。
トントン、バタン!
「ユミ様、きちんと仕事を終わらせてきました。約束通り、キリンを描いて下さい!」
戸口に達成感を纏ったレゴラスが立っていた。
後ろでフィーゴがゲッソリとしている。
余程仕事を詰め込んだのだろう。
「キリンはー、首が長くてー」
描きながら説明をすると、隣に座りながらレゴラスが好奇心旺盛な顔で、由美の手元を見つめている。
まるで子供だ。
「ユミ様の世界には不思議で可愛い動物がたくさんいるのですね。なぜそんなに詳しいのですか?」
「動物園が好きで。あ、色々な動物が一度に見られる施設なんです。子供の時は、遠足でも行ったり。」
「遠足?」
由美は尋ねられるまま答えていく。
レゴラスは興味深そうに聞いていたが、描き終わったキリンを見ながら言った。
「私が動物園を作ったら、ユミ様は一緒に遠足に行ってくれますか?」
え?作るの?
この年になって、遠足?二人で?
突っ込みどころ満載で、由美は思わず笑ってしまった。
「あははは!!レゴラス様って可愛いですね!!」
笑い続ける由美を見て、レゴラスが嬉しそうに言った。
「ユミ様が初めて自然に笑って下さった。可愛いのはあなたですよ。」
レゴラスも笑い始め、二人の笑い声が部屋に響き渡っていた。
その日の夕食、由美とレゴラスとペンタンは再び食堂にいた。
国王達は会食の予定があり、別にとるらしい。
「いただきます。」
今日の由美のディナーのメインは、ステーキである。
こちらの世界の牛肉は、とても味が良く、肉質も柔らかい。
こっちにも牛がいて良かったー。
このステーキ、最高!!
由美がふとペンタンの前に並んだ料理に目をやると、そこには由美とは違ったメイン料理が置かれていた。
由美とレゴラスは同じステーキだが、ペンタンは魚が好きだと伝えた為、考慮してくれたらしい。
あれって、カニクリームコロッケじゃない!?
ペンタンの前で、誰も口を付けないカニクリームコロッケが美味しそうに鎮座している。
小ぶりのコロッケが三つ、トマト系のソースの上に並んでいた。
うわ、私の大好物!!
志織ちゃんと約束したまま、食べられなかった幻のカニクリームコロッケ!!
そんなに食べたいのなら、コックに言えば由美の分もすぐに用意して貰えただろう。
もしくはマナーは悪いが、「ペンタン、一口ちょうだい」と言って、食べてしまえば良かっただけのことだ。
わかってはいたが、『どうせペンタンは食べないのだから』と思った由美は、暴挙に出た。
よし、王子様がコックさんと話してる今がチャンス!
メイドさんも誰もこっち見てないよね?
フォークを掴んでペンタンの皿に体を寄せると、一つのカニクリームコロッケに刺し、一気に口に頬張った。
美味しい~~!!
このカニクリームコロッケ、絶品過ぎるー!!
バレないように一口で口に入れたコロッケは、由美の口から溢れそうになっている。
「ユミ様?」
異変に気付いたレゴラスが由美に振り返り、由美のパンパンになっている頬っぺたと、一つ少ないペンタンのカニクリームコロッケを見て、すぐに状況を悟ったらしい。
必死に平静を装う由美がおかしく、レゴラスも笑いを堪えていたが。
「ほがぁい」
呼び掛けへの返事だろうか、「はい」もうまく言えず、モゴモゴしている由美に、とうとうレゴラスも吹き出した。
ブフォッ、コホコホ・・・
慌てて咳のふりをしているが、気付かれて笑われたのは一目瞭然である。
自業自得であるが、由美がレゴラスをジトッと見ていると、今度はペンタン担当のコックが大きな声を出した。
「ああっ!ペンタン様のコロッケが減っています!!ペンタン様が私の料理を召し上がって下さった!!嬉しくて涙が・・・。ちょっと失礼します。」
泣きながら退室したコックは、余程嬉しかったのだろう。
廊下で会った別の人に話しているのが聞こえてくる。
ヤバイ。
私が出来心でつまみ食いしたことが、大事になってしまった・・・
いよいよレゴラスは我慢することなく大笑いをすると、ハンカチで由美の口許を拭ってくれた。
「ふふっ、ユミ様、トマトのソースが付いていますよ。」
うん、バレバレだよね。
気まずそうにする由美の頬っぺたを、レゴラスが楽しそうにつつく。
「ユミ様のここにはたくさん入るのですね。プニプニしていて可愛いです。」
結局、「いっそ、全部食べてしまえばいいのでは?」というレゴラスの悪魔の囁きに負け、やけっぱちで全部いただいてしまった。
嬉しそうに由美が頬張る度に、レゴラスの肩が揺れ、「ユミ様との食事は楽しいです」と、レゴラスは呟いた。
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