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王子妃候補、手のひらで転がす

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結局、由美は何も訂正することも、うまく説明することも出来なかった。

ううっ、不甲斐ない・・・

足取り重く、部屋へと戻る途中であるが、やはりペンタンのご飯が無駄になることだけは心苦しい。
フードロスは日本でも問題視されていた。

「あの、ペンタンのご飯なのですが・・・」

相変わらず、由美をエスコートするように手を握っているレゴラスに話しかけるが、レゴラスは全てお見通しらしい。

「安心して下さい。ペンタン様への食事は、コックも『お供え』だと理解し、見た目は減らないことを理解しています。しかし、ペンタン様の精神が召し上がって下さるのはわかっているので、それで満足なのです。」

えっと、意味がわかりません。
精神も肉体も、着ぐるみなので食べられませんが。

しかし、せっかく任命されたコックの彼がクビになるのは避けたいし、お供えと考えれば許せる範囲だと思った由美は、レゴラスにお願いした。

「それでは、ペンタンの分は、誰かに食べてもらえますか?冷めたり、固くなっていたら申し訳ないのですが、やはり勿体なく感じてしまって・・・」

「ユミ様のそういう無駄にしないところ、私は好ましく思いますよ。伝えておきましょう。ペンタン様にお出しした物なら、皆有り難がってお下がりをいただくでしょう。」

いや、ペンタンは神様とかご先祖様じゃないんだけど・・・
でも無駄にならないならいいか。

「レゴラス王子様、ありがとうございます。よろしくお願いします。」

頭を下げる由美に、レゴラスも笑顔で頷いていたが、急に話題が変わった。

「ところで、いつになったら私を呼び捨てにして下さるのでしょうか。口調も他人行儀ですし。」

またその話か!
無理って断ったのに・・・

「いえいえ、昨日も言いましたが、王子様相手にそんな失礼なこと無理です。むしろ私に敬語を使う王子様の方がおかしいですよね?」

「却下です。こんな可愛らしいユミ様の耳に、野蛮な言葉が聞こえでもしたら、ユミ様が壊れます。ユミ様は大切に慈しむべき存在なのです。」

「もう!私、そんな弱い人間じゃありません。レゴラス様は王子様なんですから、威厳が大事だと言ってるんです!」

「では、皇太子を辞めます。それでしたら構わないでしょう?」

「何言ってるんですか!構うに決まってるでしょ!!もうもうっ!!」

プリプリ怒っている由美を、レゴラスが愛おしげに眺めているのを、廊下を歩く使用達が驚愕の表情で見ていた。
ただの迷惑なカップルの会話だったが、レゴラスは今まで無駄を嫌い、女性と話すことも、廊下で誰かと立ち話をすることもなかったのである。
それが、この内容の薄い会話である。
好きな女性とだったらいくらでも無駄な会話をしたいなんて、レゴラスも若い男だったのだなーと、人々の視線はだんだんと生暖かいものへと変わっていくのであった。


不毛な会話の後、レゴラスは泣く泣く仕事へと向かった。
ペンタンの額と一緒に。

由美はシャロンに城を案内してもらったり、この国について教えてもらったりして、自由に過ごしていた。
間にレゴラスの側近のフィーゴが何度も由美の様子を伺いに立ち寄り、思わず彼に同情すると、「仕方がないです」と苦笑していた。
毎回「こちらは変わりないです」と答えることも申し訳がなかったので、何回めかの時にゾウのイラストをさらっと描いて渡したのだが、それがいけなかったらしい。
レゴラス本人が仕事を放って現れた。

「ユミ様!この鼻の長い生き物は何ですか?変わっているが、なんてキュートなんだ・・・」

失敗したわ。
この人、動物に興味持ちすぎなのよ!

「それはゾウです。鼻が長く、大きな耳が特徴で、体も大きくて重いです。鼻を使って器用にリンゴを掴んだり、たまに絵を描いたりするゾウもいるんですよ。」

「この鼻で!?なんて魅力的な・・・」

まずい。
絶対仕事が溜まってるんだ。
フィーゴさんがジェスチャーでなんとかしてくれって言ってる・・・

「レゴラス様、お仕事の途中ですよね?今日の分が終わったら、キリンを描きますから。」

なんだ、この提案。
甥っ子相手に話してるみたいになっちゃったよ。

しかし、由美の作戦は上手くいった。

「キリン!?そちらも気になります。フィーゴ!!さっさと終わらせるぞ!」

「はいっ!!」

レゴラスがダッシュで戻っていき、フィーゴも由美にペコペコと感謝を表しながら去っていった。

なんだこれ。
コントか?

「ユミ様、レゴラス王子の扱いが神がかってます!!まるで手のひらで転がすように・・・。さすが王子妃候補、感動しました!!」

シャロンが興奮している。

あの王子様が単純なだけだと思う。
でも可愛いところもある人なんだよね。

今まで『氷の王子』を恐れ、怖がっていた城勤めの者達は、由美のおかげでレゴラスの性格が丸くなりそうだと喜んでいた。
由美は召喚二日目にして、知らないうちに城内での人気を確立していたのだった。

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