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可愛いもの好きな王子様

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ペンタンは『着ぐるみ』なんです!!

って言いたいけど、そもそも『着ぐるみ』が伝わらないんだよね。

由美が言葉を選びながら悶々としていると、レゴラスが由美の胸元をチラチラと見ながら、落ち着かない様子をしているのに気付いた。
何が気になっているのだろうか。

「レゴラス王子様?どうかなさいました?何か気になることでも?」

由美が視線を感じた自分の胸元を見やりながら尋ねると、レゴラスが慌てて弁明を始めた。

「女性の胸の辺りをジロジロ見るなどと、失礼なことをして申し訳ありません。いえ、由美様の胸のポケットから出ているものが気になりまして。それはペンタン様では?あ、私のことはレゴラスとお呼び下さい。『王子』や『様』は必要ありません。」

いやいや、そんな呼び方出来ないでしょう。
で、ポケットって?
ああ、ペンタンのボールペンね。

丹波冷蔵の創立記念に向け、関係者に配る為にペンタングッズが色々と作られた。
ありがちだが、ボールペンや、メモ帳、消しゴム、ピンバッジなどがあり、全部由美がイラストを描いたものだ。
作成者なこともあり、試作品を含めて由美は多めに貰えたので、宣伝かねて自ら事務服のポケットに挿して使っているのである。

ボールペンのノックする部分にペンタンが付いているけど、ペンタンの頭は丸いから押しても痛くなくていい感じなんだよね。
可愛いからポケットに三本も挿してみたら、志織ちゃんには『どれだけペンタン推しなんですか!』って笑われたけど。

「これはペンタンのボールペンです。って、ボールペンがわからないですよね。書くものなんですけど、ちょっと待って下さいね。ペンタンのメモ帳がスカートのポケットに・・・」

スカートからペンタンのメモ帳を取り出し、ボールペンで書いて見せようとするが、手を掴まれてしまった。

え?
書けないんですけど・・・

見上げて驚く由美に、レゴラスが少し怒ったような声音で言ってきかせる。

「紙ならありますから!ペンタン様を汚したら可哀想です。」

いやいや、普通のメモ帳だから。
何枚もあるし。

全く腑に落ちなかったが、用意された厚手の紙に、ボールペンで試しに猫を描いてみる。

「これはボールペンと言って、私の世界の一般的な筆記具なんですけど、ペンタンをデザインして・・・って、どうしましたか!?」

由美の手の動きを見ていたレゴラスの様子が、明らかにおかしい。
由美の言葉が耳に入っていないようで、由美がさらさらと描きあげた猫のイラストを、まじまじと見ては小さく震えている。

「レゴラス王子様?」

もう一度由美が声をかけるのと同時にガバッと顔をあげ、由美の手を握ってきた。

「由美様、素晴らしいです!!これは猫ですよね!?なんて可愛らしい猫だ!!他にも!他にも描けますか?」

すごい迫力で迫って来られ、由美は無言でコクコクと頷くと、勢いに押されて別のイラストも猫の隣に描いていく。
犬、くま、リス・・・

「リス!!これはリスですよね!?全部可愛いですが、このリスはとくにたまりませんね。」

うっとりと、由美が描いたイラスト達を眺め、撫で始めた。

この人、大丈夫かしら。
私の描いた絵を喜ぶなんて、五歳の甥っ子みたい。

「レゴラス様、額をお持ちしました。」

「ああ、良さそうだな。作業机と、ベッドの横、大きめのものも欲しいな。」

壁際に立っていた男性が、絵を飾る小さい額を持って現れ、レゴラスに勧めている。

は?
飾るの?
冗談で描いたイラストを額に入れて?

由美が呆気に取られていると、レゴラスが新しい紙を用意し、由美に頼み込んできた。

「こちらに、大きめのペンタン様を描いてもらえませんか?執務室に飾るので。」

ペンタンの絵?
頼まれれば、ケーキもたくさん食べさせてもらったことだし、いくらでも描きますけども・・・
薄々思ってたけど、もしかしてこの王子様って。

「良かったらこのボールペン、一本差し上げます。」

由美がレゴラスにボールペンを差し出す。

「いいのですか!?こんな可愛くて、貴重なものを!!ああ、なんて可愛いんだ!」

レゴラスはボールペンを受け取ると、頬擦りをしている。

うん、決定。
この王子様、可愛いものに目が無いわ。




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