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二人でお茶を(+ペンタン)
しおりを挟む「それでは父上、母上、お先に失礼します。カスト、いい仕事だった。」
それだけ告げると、王子は由美を横抱きにしたまま扉に向かって歩き出す。
やっぱりコスプレじゃなくて、あの二人は本物の王様と王妃様だったのね。
そして、長老らしきおじいちゃんが、カストっていう名前なんだろうな。
「ああ。ユミを頼んだぞ。」
「ユミさん、疲れたでしょうから、ゆっくり休んでちょうだいね。」
「王子!ありがたき幸せ!!」
国王と王妃の二人は、由美を労るような微笑みを向け、見送ってくれる。
ペンタンの着ぐるみ姿で現れて怪しさ満点だった上に、根っからの庶民の私に優しい言葉をかけてくれるなんて、いい人達だ!
あの王様と王妃様がいれば、こっちで生きていけそう。
由美が二人に、王子の腕の中から身を乗り出して、感謝を込めてペコッと頭を下げて挨拶をすると、国王が歯を見せて笑い、王妃はヒラヒラと手を振ってくれた。
由美も嬉しくなって、軽く手を振り返してみる。
カストは王子に誉められ、有頂天らしい。
王子も、登場した時はあんなに召喚に反対して怒っていたというのに、手のひら返しも甚だしいが、カストが満足そうだから良しとしよう。
由美が笑顔で手を振り続けていると、王子が面白くなさそうに拗ねた声音で言う。
「ユミ様、私の腕の中にいるのに、何故他の者に愛らしい笑顔を振り撒くのですか?私には見えないではないですか。」
は?
見たいの?
面白い冗談だわ。
由美は王子の方に顔を戻し、至近距離で笑顔を作ると、両手を顔の横で振ってみた。
27歳にもなると、冗談でこのくらいならへっちゃらで出来てしまう。
「王子様ー、どうですかー?」
手を振りながら訊いてみれば、廊下を歩いていた王子が突然立ち止まり、由美を抱いたまましゃがみ込んでしまった。
「か、可愛い過ぎる・・・」
マジかー!
この王子様って、目が悪いの?
毛色が違う私が珍しいとか?
由美が呆然と王子を見つめていると、王子が立ち直った。
「失礼致しました。早く部屋へ向かいましょう。」
「お願いします・・・」
王子は由美を見ないようにしているのか、明後日の方角を見ながら歩みを進めている。
由美も、これ以上は余計なことはしないでおこうと心に決め、大人しく体を委ねた。
◆◆◆
王子の部屋らしき場所へ辿り着いた。
とても広いし、家具が高価なことはわかるが、ザ・シンプル!といった飾り気のない部屋である。
当たり前だが、王子の部屋など初めて足を踏み入れたので、お行儀が悪いと思いつつも思わずキョロキョロとしてしまう。
「殺風景で、何も面白味がない部屋で申し訳ありません。さあ、どうぞこちらのソファーへ。」
色はグレーで地味だが、座り心地の良いソファーに下ろしてもらうと、王子が由美の正面に座った。
そして、何故か王子の隣にペンタンが置かれた。
きちんと床に足が揃えられ、ソファーに胴体が置かれ、頭部が乗せられる。
ペンタンまで座らせなくてもいいんじゃ・・・
三人でお茶って、そういうこと?
由美が考えていると、王子と由美の前だけでなく、ペンタンの前にも湯気をあげた紅茶が並べられる。
やっぱり、そう来るのね。
ペンタンも飲めると本気で思ってるのかもしれない。
もったいないし、早く説明しなきゃ。
って!
なんて豪華なお菓子の山!!
さすが王子様!!
由美の責任感は、あっさりお菓子の誘惑に負けた。
まるでケーキバイキングのような、色とりどりのケーキや焼き菓子に、由美の気持ちは一気に持って行かれてしまったのである。
わかりやすい由美の嬉しそうな表情に、王子も明るい声で促した。
「何がお好きかわからなかったので、様々用意してみました。お口に合えばいいのですが。」
本当に食べていいの?という、キラキラした目で王子を見る由美。
王子が目を細めて頷いた為、由美はケーキをいただくことにした。
すでにペンタンのことは忘れている。
いただきますと挨拶し、まずはラズベリーのムースを口に運ぶ。
「美味しーい!!滑らかなムース。甘酸っぱさが堪らない!」
「こちらのピスタチオのケーキもオススメですよ。」
「ピスタチオ!大好きですー!!」
気付けば、一口分乗せられたフォークが差し出され、我を忘れてパクっと食べてしまう。
思ったより着ぐるみを着ていて疲れ、甘いものを欲していたらしい。
由美が満足するまで王子の「あーん」は続けられ、壁の側に立つメイド達は、普段とはまるで別人のように甲斐甲斐しい王子の様子に、目を疑うことしか出来なかった。
ペンタンの存在は、由美にはすっかり忘れられていたが、王子が由美にケーキを食べさせる合間に愛おしげに撫でていたことも、メイド達だけはしっかり見ていた。
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