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ペンタンとの出会い(回想)

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王子はまたしても跪くと、サッと由美の手を取り、訊ねた。

「あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?ペンタン様ではなく、あなたのお名前を。」

やっぱりこの流れなのね。
ほぼ再放送のやり取りだわ。

「由美です。笠原由美。あ、ユミ・カサハラって言えばいいのかな?」

「ユミ様と仰るのですね!!素敵なお名前です。ユミ様、召喚の儀に応じて下さり、ありがとうございます。ぜひ私の妻になって下さい。」

展開はやっ!
私が「はい、喜んで」とか言ったら、トントン拍子にハッピーエンドになっちゃうやつ・・・
確かにイケメンだし、イケメンは大好物だけど、私は案外堅実派なのよ。
出会ったばかりの人と結婚なんて出来っこない。
大体、なんでこんなことになってるんだっけ?

由美はこの世界に召喚される前のことを思い出していた。


◆◆◆


「由美さん、今日の日替わりランチのハンバーグ、美味しかったですねー。でも見ました?来週の水曜日の日替わり、カニクリームコロッケみたいですよ。厨房のカレンダーが見えちゃいました。由美さん、好きですよね?」

「え、ほんと!?好き好き!!志織ちゃん、来週の水曜日にまた食べに行かない?」

「いいですよー。私もカニクリームコロッケ好きですし。」

そんな会話をしながら、由美は会社の後輩の志織と、会社に戻る道を歩いていた。
冷蔵会社の総務部で働く笠原由美は、現在27歳。
同じ総務部の後輩、谷口志織と定食屋で楽しいランチタイムを過ごしてきたところだ。
13時前のオフィス街は賑やかで、由美や志織のような事務服姿の女性も多く見られた。

「戻ったら、『ペンタン』届いてますかね?」

並んで歩く志織が、由美に尋ねてくる。
志織の背が由美より高い為、由美は斜め上を向きながら答える。

「届いてるといいんだけど。あー、楽しみだけど、ドキドキするー!!」

本当は今日の午前中に届く予定だったが、配達が遅れているらしい。

「由美さんがデザインした着ぐるみですからね。写真では良さそうでしたから、きっと大丈夫ですよ!」


『ペンタン』とはペンギンの着ぐるみである。
由美の働く丹波冷蔵株式会社が、もうすぐ創立100周年記念を迎えるのだが、社長が記念事業を社内で募集した際、総務部からも何か案を出さなければいけなくなった。
総務が一番忙しい時期だったこともあり、イラストが上手い由美がその場しのぎでゆるキャラを作成し、提出したのである。
まさか社長が気に入り、着ぐるみまで作ることになるとは・・・

一応、ペンタンの『タン』は丹波の『タン』だったり、ペンギンの裾が波形になっていたりと、なんとなくの体裁は調えたのだが、着ぐるみまで実現してしまうとは思わなかった。
結果が社内メールで回ってきた時は、驚きすぎて変な声が出てしまった。

着ぐるみ化も必然的に由美主導で行われ、何度もメーカーとの打ち合わせを経て、今日ようやく実物が届くのである。
社長も気にしているようなので、届き次第チェックをしなければと朝から意気込んでいた。

会社に着き、歯磨きなどの身支度をしてから部署に入っていくと、課長から声をかけられた。
課長は男性だが、フレンドリーないい上司だ。

「笠原さん、お待ちかねのペンタンが届いたよ。倉庫に運んでもらったから。」

納品書らしきものをペラペラと振っている。

「ありがとうございます!すぐ確認に行きます!!」

「僕も行くよ。社長に報告しないと。谷口さんも一緒にいいかな?」

「はーい。やった!スマホ持っていきましょうね。写真も撮りましょう。」

さすが志織。
出来る後輩である。

3人で倉庫に向かうと、入ってすぐの棚の横に大きなダンボールが見えた。

「これですね。開けてみます。」

由美が胸ポケットに差してきたカッターでダンボールを開封すると、まずペンタンの頭が見える。

「へーっ、いい素材じゃないか。毛並みに艶があって、高そうに見える。安っぽい着ぐるみじゃ、社長に何言われるかわからないからな。」

課長が感心しながら、取り出してくれた。
男手があって良かったと由美は思った。

パーツを全て取り出し、確認する。

思ったより可愛いかも!
バランス的にはわざと頭が大きく、目もクリクリ、お腹もぷっくり、何よりあざとい表情が目を惹く。

「あ~、やっぱり誰かに着てもらいたいですね!動いているところが見たくなります。」

由美が課長に向かって笑顔で話しかけると、思いがけない言葉が返ってきた。

「笠原さんが着てみたらいいじゃない。笠原さんなら着られるでしょ。」

そう言って志織の方を見やり、二人で頷いている。
志織は由美より背が10センチ以上高い。
ペンタンは小柄な人間ではないと着られない大きさなので、この三人の中では身長153センチの由美しか着られないだろう。

「由美さん、せっかく由美さんがデザインしたペンタンなんですから、最初に着る権利がありますって。」

いや、むしろ誰かが着ている姿を外から見たいんだけど・・・

しかし、今は他に人がいない。
由美は大人しくペンタンの中に入ることにした。



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