【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

召喚されたペンタン(を着た私)

なんなの！？この状況は！！

由美は焦っていた。

気付けば、まるでバッキンガム宮殿のような(よく知らないけれど)豪華な広間に、着飾った人々。
何故か狭い視界の中、キョロキョロと見渡せば、壁の鏡に映る謎の黒い物体。

ん？なんでこんな華やかな色彩の中に、あんな黒々とした物体が・・・
あれ？でもなんだか見覚えがある気もするわね。

試しに自分の片手を上げてみれば、鏡の中の黒い塊も、手らしきものが上に動くのが見えた。

もしかしなくても、あの黒いのって私か！！
これってペンタンじゃない！？
私、なんでペンタンの着ぐるみ着てるの！？
どうりで視界が狭いはずだわ。

まるで舞踏会のような雰囲気の中、立ちつくす黒いペンギンの着ぐるみ・・・

って！！

いやいやいや、シュール過ぎるでしょ！！
みんな遠巻きに困った顔で見てるじゃん。
そりゃそうだよね。
私だって困っちゃうよ。

広間を包むあまりの静寂と人々の困惑の目に、由美がどうするべきか困っていた時だった。

「コ、コホン、召喚の儀式は無事成功じゃ！！皆の者、喜ぶと良い！！」

背後から、強引に場を盛り上げようとする年配らしい人の声が聞こえた。
だが、それは無駄な努力と言えそうだ。
みんな引きつった顔を隠そうともせず、誰も声を発しようとしない。

そんな中、由美は今の状況を少しでも理解しようと色々考えていた。

私って、召喚されたの？
ペンギンの着ぐるみ着たまま！？
それはみんな動揺して当然だよね。
こんな得体の知れないのが突然現れたんだから。
でも何の為に召喚されたんだろ？
戦うのとか無理だし、この着ぐるみ、防御力もないからね？

動かしにくい体を、なんとか半分だけ向きを変え、声がした方をチラッと見る。

「・・・」

うん、正面から初めてペンタンを見て、衝撃を受けてますね？
失礼な。
結構可愛いと思うんだけどな。

長老みたいな長いあごひげのおじいちゃんが、声も出せずに目を丸くしてこちらを見ている。
魔法使いみたいな格好だ。
その奥に、いかにも『王様と王妃様』みたいなコスプレをした、四十代位のカップルがいるが、そちらもポカンとした顔をしている。

ここはファンタジーの世界なのかしら？
私、めっちゃ浮いてるよね。
ううう・・・帰りたい・・・

由美は、思わず手をバタバタさせてしまった。
つまり、ペンタンの手がパタパタ動いたことになるのだが。
すると、見ていた人々がビクッとしたかと思うと、口々に言い出した。

「も、もしや、我々に挨拶をなさっているのではないか？」
「な、なんと気さくな！」
「さすが異世界から召喚された方！気品と威厳に溢れた姿・・・のような気がする！！」

ブハッ！！
由美は着ぐるみの中で吹き出していた。

気品と威厳って、そんなものがあるかい！！
ペンタンにあるのは愛嬌と癒しでしょ。

しかし、挨拶をされたと勘違いをした人々が、一斉に頭を下げ始めた。
王様や長老っぽい人達まで腰をかがめている。

やーめーてー。
私はただのペンギンの着ぐるみを着た、どこにでもいる事務職の女なんですー！！

由美はペンタンの中から無言の抗議を試みたが、それは誰にも伝わらなかった。