6 / 20
推しが我が家へやって来た
しおりを挟む
はーーっ、昨日は精神的に疲れたわー。
死んだように眠ったお陰でバッチリ回復したけど、起きたらもうお昼を過ぎていた。
どんだけ消耗してたんだ、私!!
でもマリアベルの相手があのカイルだとはね……。
あいつは攻略対象者の中で圧倒的にチョロかったからな。
狙ってもないのに勝手に好感度は上がるし、望んでもないのにカイルルートに入ってたこと数回。
『イケ夢』はヒロインの誕生日に誰がプレゼントを持って会いに来たかで、どの個別ルートに入ったかがわかる仕組みになっていた。
何度狙ってもいないカイルが現れて、「お呼びじゃねーよ!!」と叫んだことか……。
つい優しい口調の選択肢を選んでしまう自分が悪いのだが、いくらゲームとはいえ無視や冷たいセリフは、波風立たないように生きていた私には罪悪感が強過ぎて……。
つまり、カイルさえ毅然とスルー出来れば、このゲームはすこぶる簡単なのである。
逆に言えば、心優しい選択肢を選んだ時点で、カイルエンディングへまっしぐらなのだが。
まさか、マリアベルもカイルから逃げられなくなっただけだったり?
……怖っ!!
しかもカイルの誕生日プレゼントって、チョーカーだったんだよね。
……さらに怖っ!!
まあ、うちの兄ルートだったとしても脳筋に染まるだけだし、人生何が幸せかなんてわからないよね、うん。
それに思ったんだけど、昨夜マリアベルがヒューゴ様ルートだったらどうなってたんだろ?
ヒューゴは立て続けに私とヒロイン相手に、2回も頭を撫でるシーンをやってたかもしれないってこと?
そんなの再放送じゃん!ヒューゴ、スケコマシじゃん!!
良かった、ヒューゴ様がスケコマシてなくて。
やっぱり推しにはモラルのあるヒーローでいてほしい。
なーんてことを、朝食をーーいや昼食をモグモグしながら考えていた。
母はとっくに食べ終わったらしく、いま私は食堂に1人で座っている。
派手に寝坊したのだから自業自得なのだが。
うん、今日のトマトスープも美味しい。
うちのコック達は何故か揃いも揃ってマッチョだけど、腕はいいんだよね。
「パワー!!」とか言いながらザバッと調味料を入れるくせに、絶妙で繊細な味付けになっている。
謎だ。
昼食をとり終わった直後、サリーがパタパタと駆け寄ってきた。
「お嬢!お嬢!大変です!!」
なんだなんだ、カチコミか!?
ガルシア相手に命知らずな!!
「コックス家のヒューゴ様がいらしてます!!」
「え?ヒューゴ様??なんでお兄ちゃんがいない時に。ヒューゴ様もお兄ちゃんが留守なことを知ってるんだけどな」
思わず「ヒュー」と呼ぶのも忘れていた。
ヒューゴが我が家を訪れることはあるが、公爵家全員で遊びに来るか、テオドールに会いにくることばかりだったからである。
「お母さんが応対してるの?」
「いえ、奥様は茶会へお出かけになりました。今は執事長がとりあえず応接室へご案内してます」
そうだった、今日はお母さんが茶会で婦人方に『アカネイルは大丈夫ですよアピール』をしてるんだった。
じゃあ私がヒューゴのお相手をしなくちゃいけないってこと?
あ!早く行かないと、執事長のトーマスが余計な脳筋発言をぶちかましそうな気がする……。
正直、これ以上ヒューゴに幻滅されたくはない。
そうだ、もしかして「ルーって、少しは会話が成立する相手なんだな。これからはもっと話しかけよう」とか思ってもらえるチャンスじゃないの?
私、頑張って知的な会話を目指します!!
ってなわけで、やって来ました応接室。
ヒューゴはソファーで優雅に紅茶を飲んでいらっしゃる。
「ああ、ルー。突然訪問してすまない。ルーに話したいことがあってね」
カップを丁寧に置いたヒューゴが、目を細めて私を見た。
え、私目当てにわざわざ来てくれたの?推しが私に会いに!?
いやーん、感動ーー!!
『知的なルイーザ大作戦』は、ヒューゴの先制攻撃によって遂行する前に呆気なく失敗した……と思われたが。
「う、ううん、大丈夫。お兄ちゃんが留守なのに珍しいなとは思ったけど。私に話ってなに?」
なんとか踏みとどまった。
脳筋キャラだけはなんとしてでも払拭しておきたい。
「少し話しておくべきことがあるんだ。あ、その前にこれお土産。ルー、好きだろ?」
差し出された紙袋には、見慣れたお店のマーク。
こ、これは……カステラおばさんのクッキー!!
もはやカステラなのかクッキーなのかわかりづらいが、アカネイルで一番人気のクッキー屋さんである。
もちろんルイーザもここのクッキーが大好物だ。
「ヒュー、覚えてたんだね!」
嬉しくなって満面の笑顔になってしまう。
「そりゃあね。いつも最初にチョコチップをあるだけ全部食べてたじゃないか」
ひぃぃ、それは言わないでーーっ!
確かにルイーザは、空気も読まずに好きなものを好きなだけ食べる派だったけど、今の私はちゃんと弁えられる大人ですからー!!
『知的な女性』への道程は前途多難らしい。
死んだように眠ったお陰でバッチリ回復したけど、起きたらもうお昼を過ぎていた。
どんだけ消耗してたんだ、私!!
でもマリアベルの相手があのカイルだとはね……。
あいつは攻略対象者の中で圧倒的にチョロかったからな。
狙ってもないのに勝手に好感度は上がるし、望んでもないのにカイルルートに入ってたこと数回。
『イケ夢』はヒロインの誕生日に誰がプレゼントを持って会いに来たかで、どの個別ルートに入ったかがわかる仕組みになっていた。
何度狙ってもいないカイルが現れて、「お呼びじゃねーよ!!」と叫んだことか……。
つい優しい口調の選択肢を選んでしまう自分が悪いのだが、いくらゲームとはいえ無視や冷たいセリフは、波風立たないように生きていた私には罪悪感が強過ぎて……。
つまり、カイルさえ毅然とスルー出来れば、このゲームはすこぶる簡単なのである。
逆に言えば、心優しい選択肢を選んだ時点で、カイルエンディングへまっしぐらなのだが。
まさか、マリアベルもカイルから逃げられなくなっただけだったり?
……怖っ!!
しかもカイルの誕生日プレゼントって、チョーカーだったんだよね。
……さらに怖っ!!
まあ、うちの兄ルートだったとしても脳筋に染まるだけだし、人生何が幸せかなんてわからないよね、うん。
それに思ったんだけど、昨夜マリアベルがヒューゴ様ルートだったらどうなってたんだろ?
ヒューゴは立て続けに私とヒロイン相手に、2回も頭を撫でるシーンをやってたかもしれないってこと?
そんなの再放送じゃん!ヒューゴ、スケコマシじゃん!!
良かった、ヒューゴ様がスケコマシてなくて。
やっぱり推しにはモラルのあるヒーローでいてほしい。
なーんてことを、朝食をーーいや昼食をモグモグしながら考えていた。
母はとっくに食べ終わったらしく、いま私は食堂に1人で座っている。
派手に寝坊したのだから自業自得なのだが。
うん、今日のトマトスープも美味しい。
うちのコック達は何故か揃いも揃ってマッチョだけど、腕はいいんだよね。
「パワー!!」とか言いながらザバッと調味料を入れるくせに、絶妙で繊細な味付けになっている。
謎だ。
昼食をとり終わった直後、サリーがパタパタと駆け寄ってきた。
「お嬢!お嬢!大変です!!」
なんだなんだ、カチコミか!?
ガルシア相手に命知らずな!!
「コックス家のヒューゴ様がいらしてます!!」
「え?ヒューゴ様??なんでお兄ちゃんがいない時に。ヒューゴ様もお兄ちゃんが留守なことを知ってるんだけどな」
思わず「ヒュー」と呼ぶのも忘れていた。
ヒューゴが我が家を訪れることはあるが、公爵家全員で遊びに来るか、テオドールに会いにくることばかりだったからである。
「お母さんが応対してるの?」
「いえ、奥様は茶会へお出かけになりました。今は執事長がとりあえず応接室へご案内してます」
そうだった、今日はお母さんが茶会で婦人方に『アカネイルは大丈夫ですよアピール』をしてるんだった。
じゃあ私がヒューゴのお相手をしなくちゃいけないってこと?
あ!早く行かないと、執事長のトーマスが余計な脳筋発言をぶちかましそうな気がする……。
正直、これ以上ヒューゴに幻滅されたくはない。
そうだ、もしかして「ルーって、少しは会話が成立する相手なんだな。これからはもっと話しかけよう」とか思ってもらえるチャンスじゃないの?
私、頑張って知的な会話を目指します!!
ってなわけで、やって来ました応接室。
ヒューゴはソファーで優雅に紅茶を飲んでいらっしゃる。
「ああ、ルー。突然訪問してすまない。ルーに話したいことがあってね」
カップを丁寧に置いたヒューゴが、目を細めて私を見た。
え、私目当てにわざわざ来てくれたの?推しが私に会いに!?
いやーん、感動ーー!!
『知的なルイーザ大作戦』は、ヒューゴの先制攻撃によって遂行する前に呆気なく失敗した……と思われたが。
「う、ううん、大丈夫。お兄ちゃんが留守なのに珍しいなとは思ったけど。私に話ってなに?」
なんとか踏みとどまった。
脳筋キャラだけはなんとしてでも払拭しておきたい。
「少し話しておくべきことがあるんだ。あ、その前にこれお土産。ルー、好きだろ?」
差し出された紙袋には、見慣れたお店のマーク。
こ、これは……カステラおばさんのクッキー!!
もはやカステラなのかクッキーなのかわかりづらいが、アカネイルで一番人気のクッキー屋さんである。
もちろんルイーザもここのクッキーが大好物だ。
「ヒュー、覚えてたんだね!」
嬉しくなって満面の笑顔になってしまう。
「そりゃあね。いつも最初にチョコチップをあるだけ全部食べてたじゃないか」
ひぃぃ、それは言わないでーーっ!
確かにルイーザは、空気も読まずに好きなものを好きなだけ食べる派だったけど、今の私はちゃんと弁えられる大人ですからー!!
『知的な女性』への道程は前途多難らしい。
38
お気に入りに追加
1,412
あなたにおすすめの小説
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
式前日に浮気現場を目撃してしまったので花嫁を交代したいと思います
おこめ
恋愛
式前日に一目だけでも婚約者に会いたいとやってきた邸で、婚約者のオリオンが浮気している現場を目撃してしまったキャス。
しかも浮気相手は従姉妹で幼馴染のミリーだった。
あんな男と結婚なんて嫌!
よし花嫁を替えてやろう!というお話です。
オリオンはただのクズキモ男です。
ハッピーエンド。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる