上 下
2 / 20

片眼鏡の執事も脳筋です

しおりを挟む
屋敷の玄関から外に出ると、そこには整然と並んだ騎士達で一杯だった。
なかなか圧巻の光景だ。
そしてさすがの侯爵家、無駄に敷地が広いのがよくわかる。
門が遥か彼方に見えている。

あ、そうだった。
今からお父さんが騎士団連れて出陣するから、出陣式するんだっけ。
って、「お父さん」って呼び方もどうなの?
普通の令嬢は「お父様」とか呼ぶものじゃないの?
なんか庶民的なんだよなぁ。
「親父」じゃなくてまだ良かったか。
私が「お嬢」じゃ、お父さんは「親分」とか「おやじ」とか呼ばれててもおかしくないもんね。
「おやっさん」ってのもあるかもしれない。

騎士達を玄関のポーチの上から見下ろして……って言っても、みんな背が高いから全然見下ろせてはないけど、つらつらとくだらないことを考えていたら、隣に執事長のトーマスが立った。

「ねぇ、トーマス、今回はどこの国と戦うんだっけ?向こうの戦力は?」

我が王国、アカネイルは海にも面しているが、内陸側は3つの国と接している為、小競り合いから戦争まで、昔から争い事は日常茶飯事だ。
ガルシア家はアカネイルの武力の要であり、王国騎士団に匹敵するほどのガルシア騎士団を所有している。
彼らは主に領地で鍛練を積んでいるのだが、父の一声でどこへでも遠征し、その迷いのない戦いっぷりは『アカネイルの守護神』と呼ばれている。
……って、単に脳筋なだけじゃね?
よく言えば命令に忠実だけど、あやつらは絶対に勢いだけで戦ってるって!

諸々な事情に不安を感じていると、トーマスから返答があった。
ちなみにトーマスは片眼鏡にグレイヘアの、『ザ・執事』な男である。

「今回はグレモナ相手ですな。騎士、傭兵など300人ほどが国境に押しかけているそうです」

へぇー、敵は300か。
……え?

「いやいや、ここに集まっている騎士だけでもっといるよね?」

「そうですな。ざっと5000ほどかと」

は?
300人に対して5000人?
多すぎじゃね?
というか、もはやここってライブ会場じゃん!
ここから「調子はどうだ!」とかやってみたい。

「これだけ居るなら、今回はガルシアから応援は呼ばないんだよね?」

すでに大幅に戦力が勝っているのだ。
ガルシア領にいるうちの騎士団を呼ぶ必要がない……はずだ。

「もちろん合流致します。10000ほどですが」

はぁぁ!?
なんで呼ぶ必要があるんだよ!
相手300だよ?
あ、もしかして相手の援軍が後からわんさか駆けつけるのか?

「グレモナは援軍が来る予定があるの?それとも今の300人は囮だとか?援軍が別のルートから攻めて来るんなら、うちも兵力を分散させないとね!」

たった300の相手に、15000で迎え撃つ理由が何かあるはずだと色々考えてみたのだが。

「お嬢、さっきから何を仰っているのです?我が主はどんな戦いでも注げるだけの戦力で挑みます。分散なんてとんでもない。全戦力を一点集中!!先祖代々の教えではありませんか」

あーほーかーーー。

思わずクラっとしてしまった。

でもそうだった、うちはずっと馬鹿みたいにそのやり方、つまり無策で戦ってきたんだった。
よく勝ち続けてこられたもんだ。
よその国、馬鹿なの?
トーマスも、片眼鏡なんてしてるからてっきりインテリかと見せかけて、思いっきり脳筋じゃん!!

呆れていると、兄のテオドールが近付いてきた。

「ルー、見送りありがとな。今回も思いきり蹴散らしてやるから安心してな!」

『イケ夢』の立ち絵通りのテオドールだ。
騎士団の制服にハチマキ、赤茶色の短い髪がワイルドな長身イケメンだけども……。
ハチマキって何!?
お前は体育祭の応援団長か!!

プレイ中は特に疑問を感じなかったけど、実際に見るとすごい違和感を感じる。
そして、そこはかとなく漂う脳筋臭……。

「ご、ご武運をお祈りしています。あ、お兄ちゃん、敵がもし予定外の行動を取ったらどうするの?一応いくつか作戦があったほうが良くないかなーなんて」

あまりに無策過ぎて不安になり、つい口出しをしてしまった。

「作戦?そんなのは臨機応変にやるさ!」

いやいや、あなたのは「臨機応変」じゃなくて、「行き当たりばったり」って言うんだよ。
ほんとよく今まで無事だったなー。

そうこうしていると、騎士団長の父が颯爽と姿を現した。
長い黒のマントが格好いい。
そもそもうちの家族って、見た目はいいんだよな。
もちろん私もね。

私に気付くと一瞬目を細め、柔らかい表情になった父。
うん、うちの男性陣は相変わらず私に甘い。

マントを靡かせて騎士達を見下ろすお父さん。
しかし、その時私は目にしてしまったのだ。
マントに刺繍された『闘魂』の二文字を!!

ぶはっ!!
なに『闘魂』って?
猪○?アントニオ猪○なの!?

むせて咳き込む私の背中を、サリーがさすってくれていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】気づいたら異世界に転生。読んでいた小説の脇役令嬢に。原作通りの人生は歩まないと決めたら隣国の王子様に愛されました

hikari
恋愛
気がついたら自分は異世界に転生していた事に気づく。 そこは以前読んだことのある異世界小説の中だった……。転生をしたのは『山紫水明の中庭』の脇役令嬢のアレクサンドラ。アレクサンドラはしつこくつきまとってくる迷惑平民男、チャールズに根負けして結婚してしまう。 「そんな人生は嫌だ!」という事で、宿命を変えてしまう。アレクサンドラには物語上でも片思いしていた相手がいた。 王太子の浮気で婚約破棄。ここまでは原作通り。 ところが、アレクサンドラは本来の物語に無い登場人物から言い寄られる。しかも、その人物の正体は実は隣国の王子だった……。 チャールズと仕向けようとした、王太子を奪ったディアドラとヒロインとヒロインの恋人の3人が最後に仲違い。 きわめつけは王太子がギャンブルをやっている事が発覚し王太子は国外追放にあう。 ※ざまぁの回には★印があります。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

虐げられるのは嫌なので、モブ令嬢を目指します!

八代奏多
恋愛
 伯爵令嬢の私、リリアーナ・クライシスはその過酷さに言葉を失った。  社交界がこんなに酷いものとは思わなかったのだから。  あんな痛々しい姿になるなんて、きっと耐えられない。  だから、虐められないために誰の目にも止まらないようにしようと思う。  ーー誰の目にも止まらなければ虐められないはずだから!  ……そう思っていたのに、いつの間にかお友達が増えて、ヒロインみたいになっていた。  こんなはずじゃなかったのに、どうしてこうなったのーー!? ※小説家になろう様・カクヨム様にも投稿しています。

【改稿版】婚約破棄は私から

どくりんご
恋愛
 ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。  乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!  婚約破棄は私から! ※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。 ◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位 ◆3/20 HOT6位  短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

悪役令嬢と攻略対象(推し)の娘に転生しました。~前世の記憶で夫婦円満に導きたいと思います~

木山楽斗
恋愛
頭を打った私は、自分がかつてプレイした乙女ゲームの悪役令嬢であるアルティリアと攻略対象の一人で私の推しだったファルクスの子供に転生したことを理解した。 少し驚いたが、私は自分の境遇を受け入れた。例え前世の記憶が蘇っても、お父様とお母様のことが大好きだったからだ。 二人は、娘である私のことを愛してくれている。それを改めて理解しながらも、私はとある問題を考えることになった。 お父様とお母様の関係は、良好とは言い難い。政略結婚だった二人は、どこかぎこちない関係を築いていたのである。 仕方ない部分もあるとは思ったが、それでも私は二人に笑い合って欲しいと思った。 それは私のわがままだ。でも、私になら許されると思っている。だって、私は二人の娘なのだから。 こうして、私は二人になんとか仲良くなってもらうことを決意した。 幸いにも私には前世の記憶がある。乙女ゲームで描かれた二人の知識はきっと私を助けてくれるはずだ。 ※2022/10/18 改題しました。(旧題:乙女ゲームの推しと悪役令嬢の娘に転生しました。) ※2022/10/20 改題しました。(旧題:悪役令嬢と推しの娘に転生しました。)

恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~

めもぐあい
恋愛
 公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。  そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。  家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――

処理中です...