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私、お嫁さんになります。

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ソフィーは今、生まれて初めて国境を超え、感動していた。

ここが隣の国!!
自由時間はもらえるかしら?
お土産はもちろん買いたいけど、名産の織物も見に行きたい!
あわよくば、織っているところが見てみたいわ!!

そわそわと落ち着かないソフィーに、ライアンが宥めるように落ち着いた声で話しかけた。

「今日の商談さえ終われば、好きに行動してくれて構わない。短期間に無理をさせてしまったからな。せめてもの償いだ。」

いえいえ、好きな服を作って、国外に連れていってもらえて、好きに過ごせる時間があるなんて、待遇良すぎですってば!
私、ライアン様に出会ってから、いいことづくめでは?
そして、ライアン様はいい人だったわ。
ちっちゃい男と言ったのは訂正します。

「商談、頑張りましょうね!」

「ああ、今回こそ具体的な話に持っていくつもりだ。しかし、まさか女性の君を頼る日が来るとはな。人生わからないものだ。」

ライアンは瞳を優しく細めながら、ソフィーの頭をポンポンと叩いた。

私だって、ライアン様に優しく触れて貰える日が来るとは思わなかったですよ。
ほんと、人生ってわからない。
そして、今のライアン様の残像だけで、何着でも作れてしまいそう・・・


到着した宿泊先のホテルで、二人はソフィーが商談用に仕立てた服に着替えた。
ライアンは、まだソフィーのドレスを見たことがなかった。

着替え終わった二人はお互いを見つめた。

「ライアン様、少し屈んで下さい。」

ソフィーは屈んでくれたライアンの襟元を直した後、隅々までチェックしていく。
ライアンの服は、いつものシンプルなものとは全く違い、むしろ飾りがうるさいほどに付いている。
飾りのポケットや、飾りのボタン、わざと裏地を見せていたり、違う素材の布を多用している。
色数を抑え、ライアンの聡明な印象を計算し、品が悪く見えないギリギリを攻めてみた。

「うん、いい感じですね。これで私が並んで立つと・・・」

ソフィーは言いながら、ライアンの隣に立った。
ライアンの衣装の素材の切り返しや飾りは、並ぶとソフィーの服に繋がるように出来ている。
色味も同じで、誰が見ても連れだとわかるだろう。

「凄いな。立ち位置まで考えてあるのか。」

「やり過ぎましたか?今まで築き上げたイメージが・・・」

心配するソフィーだったが、ライアンは満足げだ。

「これでもう、真面目とは言わせない。」

わざとキリッとした顔で言うので、ソフィーも笑ってしまった。


◆◆◆


結果、商談はビックリするほど上手く行った。
お相手の貴族は、ライアンの姿を見た途端に饒舌に話しかけ、斬新な服だと絶賛した。
最終的には『面白い男だ』と言われ、独占的に輸入させて貰えることに決まった。
ソフィーのセンスも誉められ、服の依頼も入り、織物の工場まで連れていってくれた。

別れ際、その男性は言った。

「君達夫婦とは長い付き合いになりそうだ。次は私がそちらの国へ行こう。楽しみにしている。」

夫婦?
婚約者にも驚いたのに、夫婦って・・・

チラッとライアンを見たソフィーだったが、ライアンは動じることなく、当たり前のように返事をしていた。

「私達も楽しみにしていますよ。妻の服が出来上がったら送ります。」

妻!?
妻ってお嫁さんだよね?
私、第二関門突破したってこと?
ライアン様の専属デザイナーになれるの??

帰国する為に馬車に乗り込み、しばらく経ってからライアンが、ソフィーに真剣な口調で話し始めた。

「ソフィー嬢、いや、ソフィー。約束通り、結婚しよう。ん?違うな。私と結婚して下さい。一生私の傍に居て欲しいんだ。」

真摯な瞳で見つめられ、ソフィーは嬉しさで涙が溢れてきた。

「はい!ライアン様は一生私のミューズです!!私も約束通りお仕事の邪魔はしないので、お顔は見せて下さいね。」

「ソフィーを邪魔だと思うはずがない。顔くらい好きなだけ見ればいい。」

「嬉しいです!!ああ、もう、作りたい服のイメージが涌き出し過ぎて困ってしまいます。」

「ははっ、ほどほどにな。式の準備もあるし。」

「タキシード!!腕が鳴りますー。」

この時の二人はまだ気付いていなかった。
お互いの『結婚』が大きくかけ離れていることを・・・
二人が食い違いに気付くのは、もう少し先の話だった。




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