10 / 11
私、お嫁さんになります。
しおりを挟むソフィーは今、生まれて初めて国境を超え、感動していた。
ここが隣の国!!
自由時間はもらえるかしら?
お土産はもちろん買いたいけど、名産の織物も見に行きたい!
あわよくば、織っているところが見てみたいわ!!
そわそわと落ち着かないソフィーに、ライアンが宥めるように落ち着いた声で話しかけた。
「今日の商談さえ終われば、好きに行動してくれて構わない。短期間に無理をさせてしまったからな。せめてもの償いだ。」
いえいえ、好きな服を作って、国外に連れていってもらえて、好きに過ごせる時間があるなんて、待遇良すぎですってば!
私、ライアン様に出会ってから、いいことづくめでは?
そして、ライアン様はいい人だったわ。
ちっちゃい男と言ったのは訂正します。
「商談、頑張りましょうね!」
「ああ、今回こそ具体的な話に持っていくつもりだ。しかし、まさか女性の君を頼る日が来るとはな。人生わからないものだ。」
ライアンは瞳を優しく細めながら、ソフィーの頭をポンポンと叩いた。
私だって、ライアン様に優しく触れて貰える日が来るとは思わなかったですよ。
ほんと、人生ってわからない。
そして、今のライアン様の残像だけで、何着でも作れてしまいそう・・・
到着した宿泊先のホテルで、二人はソフィーが商談用に仕立てた服に着替えた。
ライアンは、まだソフィーのドレスを見たことがなかった。
着替え終わった二人はお互いを見つめた。
「ライアン様、少し屈んで下さい。」
ソフィーは屈んでくれたライアンの襟元を直した後、隅々までチェックしていく。
ライアンの服は、いつものシンプルなものとは全く違い、むしろ飾りがうるさいほどに付いている。
飾りのポケットや、飾りのボタン、わざと裏地を見せていたり、違う素材の布を多用している。
色数を抑え、ライアンの聡明な印象を計算し、品が悪く見えないギリギリを攻めてみた。
「うん、いい感じですね。これで私が並んで立つと・・・」
ソフィーは言いながら、ライアンの隣に立った。
ライアンの衣装の素材の切り返しや飾りは、並ぶとソフィーの服に繋がるように出来ている。
色味も同じで、誰が見ても連れだとわかるだろう。
「凄いな。立ち位置まで考えてあるのか。」
「やり過ぎましたか?今まで築き上げたイメージが・・・」
心配するソフィーだったが、ライアンは満足げだ。
「これでもう、真面目とは言わせない。」
わざとキリッとした顔で言うので、ソフィーも笑ってしまった。
◆◆◆
結果、商談はビックリするほど上手く行った。
お相手の貴族は、ライアンの姿を見た途端に饒舌に話しかけ、斬新な服だと絶賛した。
最終的には『面白い男だ』と言われ、独占的に輸入させて貰えることに決まった。
ソフィーのセンスも誉められ、服の依頼も入り、織物の工場まで連れていってくれた。
別れ際、その男性は言った。
「君達夫婦とは長い付き合いになりそうだ。次は私がそちらの国へ行こう。楽しみにしている。」
夫婦?
婚約者にも驚いたのに、夫婦って・・・
チラッとライアンを見たソフィーだったが、ライアンは動じることなく、当たり前のように返事をしていた。
「私達も楽しみにしていますよ。妻の服が出来上がったら送ります。」
妻!?
妻ってお嫁さんだよね?
私、第二関門突破したってこと?
ライアン様の専属デザイナーになれるの??
帰国する為に馬車に乗り込み、しばらく経ってからライアンが、ソフィーに真剣な口調で話し始めた。
「ソフィー嬢、いや、ソフィー。約束通り、結婚しよう。ん?違うな。私と結婚して下さい。一生私の傍に居て欲しいんだ。」
真摯な瞳で見つめられ、ソフィーは嬉しさで涙が溢れてきた。
「はい!ライアン様は一生私のミューズです!!私も約束通りお仕事の邪魔はしないので、お顔は見せて下さいね。」
「ソフィーを邪魔だと思うはずがない。顔くらい好きなだけ見ればいい。」
「嬉しいです!!ああ、もう、作りたい服のイメージが涌き出し過ぎて困ってしまいます。」
「ははっ、ほどほどにな。式の準備もあるし。」
「タキシード!!腕が鳴りますー。」
この時の二人はまだ気付いていなかった。
お互いの『結婚』が大きくかけ離れていることを・・・
二人が食い違いに気付くのは、もう少し先の話だった。
10
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
あなたのそばにいられるなら、卒業試験に落ちても構いません! そう思っていたのに、いきなり永久就職決定からの溺愛って、そんなのありですか?
石河 翠
恋愛
騎士を養成する騎士訓練校の卒業試験で、不合格になり続けている少女カレン。彼女が卒業試験でわざと失敗するのには、理由があった。 彼女は、教官である美貌の騎士フィリップに恋をしているのだ。
本当は料理が得意な彼女だが、「料理音痴」と笑われてもフィリップのそばにいたいと願っている。
ところがカレンはフィリップから、次の卒業試験で不合格になったら、騎士になる資格を永久に失うと告げられる。このままでは見知らぬ男に嫁がされてしまうと慌てる彼女。
本来の実力を発揮したカレンはだが、卒業試験当日、思いもよらない事実を知らされることになる。毛嫌いしていた見知らぬ婚約者の正体は実は……。
大好きなひとのために突き進むちょっと思い込みの激しい主人公と、なぜか主人公に思いが伝わらないまま外堀を必死で埋め続けるヒーロー。両片想いですれ違うふたりの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
“代わりに結婚しておいて”…と姉が手紙を残して家出しました。初夜もですか?!
みみぢあん
恋愛
ビオレータの姉は、子供の頃からソールズ伯爵クロードと婚約していた。
結婚直前に姉は、妹のビオレータに“結婚しておいて”と手紙を残して逃げ出した。
妹のビオレータは、家族と姉の婚約者クロードのために、姉が帰ってくるまでの身代わりとなることにした。
…初夜になっても姉は戻らず… ビオレータは姉の夫となったクロードを寝室で待つうちに……?!
婚約破棄の慰謝料を払ってもらいましょうか。その身体で!
石河 翠
恋愛
ある日突然、前世の記憶を思い出した公爵令嬢ミリア。自分はラストでざまぁされる悪役令嬢ではないかと推測する彼女。なぜなら彼女には、黒豚令嬢というとんでもないあだ名がつけられていたからだ。
実際、婚約者の王太子は周囲の令嬢たちと仲睦まじい。
どうせ断罪されるなら、美しく散りたい。そのためにはダイエットと断捨離が必要だ! 息巻いた彼女は仲良しの侍女と結託して自分磨きにいそしむが婚約者の塩対応は変わらない。
王太子の誕生日を祝う夜会で、彼女は婚約破棄を求めるが……。
思い切りが良すぎて明後日の方向に突っ走るヒロインと、そんな彼女の暴走に振り回される苦労性のヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:29284163)をお借りしています。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
「小賢しい」と離婚された私。国王に娶られ国を救う。
百谷シカ
恋愛
「貴様のような小賢しい女は出て行け!!」
バッケル伯爵リシャルト・ファン・デル・ヘーストは私を叩き出した。
妻である私を。
「あっそう! でも空気税なんて取るべきじゃないわ!!」
そんな事をしたら、領民が死んでしまう。
夫の悪政をなんとかしようと口を出すのが小賢しいなら、小賢しくて結構。
実家のフェルフーフェン伯爵家で英気を養った私は、すぐ宮廷に向かった。
国王陛下に謁見を申し込み、元夫の悪政を訴えるために。
すると……
「ああ、エーディット! 一目見た時からずっとあなたを愛していた!」
「は、はい?」
「ついに独身に戻ったのだね。ぜひ、僕の妻になってください!!」
そう。
童顔のコルネリウス1世陛下に、求婚されたのだ。
国王陛下は私に夢中。
私は元夫への復讐と、バッケル伯領に暮らす人たちの救済を始めた。
そしてちょっとした一言が、いずれ国を救う事になる……
========================================
(他「エブリスタ」様に投稿)
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
はずれの聖女
おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。
一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。
シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。
『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。
だがある日、アーノルドに想い人がいると知り……
しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。
なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。
うるさい!お前は俺の言う事を聞いてればいいんだよ!と言われましたが
仏白目
恋愛
私達、幼馴染ってだけの関係よね?
私アマーリア.シンクレアには、ケント.モダール伯爵令息という幼馴染がいる
小さな頃から一緒に遊んだり 一緒にいた時間は長いけど あなたにそんな態度を取られるのは変だと思うの・・・
*作者ご都合主義の世界観でのフィクションです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる