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男性首脳陣による密談
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アンリが自室で寛いでいる頃、国王のディランは宰相のストーン、騎士団長のセガール、司祭のクラウスを、今回の遠征や留守の間の出来事、今後について話し合う為に秘密裏に集めていた。
ハリソンは客室に案内し、休んでもらっている。
「殿下がお留守の間は特に変わったことはありませんでした。街も活気付いておりましたし。強いて言えば、聖女様が不在ということで、王宮の使用人達の士気が下がっていたくらいですね。なあ、クラウス?」
「ええ、その通りです。アンリ様がいらっしゃらないと皆張り合いがないようで、火が消えたように物寂しげな雰囲気でしたね」
ストーンの報告に、クラウスが頷きながら同調する。
「嬢ちゃんの人気は凄まじいな。グランタールの人間まで虜にしちまって、このままいけば世界征服とか出来るんじゃねーか?」
セガールが自分の立場も忘れ、適当なことを言って笑っている。
「仮にアンリ様が世界征服されたとしても、そこは穏やかで優しい世界なのでしょうね」
「そうだな。国が富めば争いも起きにくくなる。アンリなら理想の平和な世界を作れるだろうな」
クラウスの言葉にディランが賛成したが、その顔には憂愁の影が差していた。
すかさずストーンが体調を案じて尋ねた。
「殿下、お疲れなのでは?あまり顔色が優れません」
「いや、体調は悪くない。ただ……」
三人は静かにディランの言葉の続きを待った。
「この国は確実に復興の道を歩んでいる。いや復興どころか、以前より発展を遂げている。全てアンリのお陰だ。しかし、アンリはいつまでこの国、この世界に留まってくれるだろうか?最近アンリが元の世界に戻る日を想像すると、恐ろしくなる自分がいるのだ。おかしいだろう?国王の身で……」
アンリが現れるまで決して弱さを見せず、全て己の力で切り開こうとしてきた男の言葉とは思えず、三人は目を見張った。
いつの間に我らの王は、こんなにも人間臭くなっていたのだろうか。
「クッ……クックック、アッハッハ!!ディラン、お前嬢ちゃんにゾッコンなんだな。いや、いいよ。俺はすげーいいと思うぜ?」
セガールが我慢できないといった風に肩を揺らして笑い出し、嬉しそうにディランの背中をバシバシ叩き始めると、ストーンも続けて言った。
「私も好ましい変化だと思います。全てを独りで背負ってしまわれるのが時々歯痒かった我々としては、心を寄せる相手が出来たのは喜ばしい限りです。クラウス、文献では今までの聖女様は、召喚されて務めを果たされた後はどうされたのだ?」
「多くの例は残されてはいませんが、戻られた方も、残られた方もいらっしゃるようです。結局は聖女様のお気持ちひとつなのかと」
「じゃあ、ディランが『俺のために残ってくれないか?』とか言えば、嬢ちゃんも残るんじゃないか?」
セガールの軽い口調に、ディランが眉をひそめる。
ーーいや、背中を叩かれ出した時から既に不機嫌ではあったのだが。
「それはもうプロポーズだろう。いや、別にプロポーズ自体は、やぶさかではない。むしろ想いを伝えて俺の為に残ってくれるなら、こんなに嬉しいことはない」
「やぶさかじゃねーのかよ!!」
セガールが突っ込んだが、それをスルーしてクラウスが話し始めた。
「アンリ様がグランタールの女王になることを承諾されたということは、しばらくはまだこちらにいらっしゃるという意思ですよね?」
「私もそう思いますね。まあ、聖女様にも残してきた家族や友人がおられるでしょうから、そう簡単なことでもないのでしょうが……」
家族か……。
ディランはアンリが召喚された日の事を思い出していた。
あの日、アンリの頬は確かに腫れていた。
まるで誰かに叩かれたかのように……。
アンリは転んだと言っていたが、様子もおかしかった気がする。
まさか、家族に……?
こちらに召喚されてから一度も帰りたいという言葉を聞いていないことや、自己評価が低過ぎることを考えると、答えは自ずと出た気はした。
しかし、この世界に留まるかどうかは、やはり本人に気持ちを確認するしかない。
もしも帰ると言われたら、自分の想いを伝えて全力で引き留めるまでだ。
「アンリときちんと話し合ってみようと思う。結果によっては、俺はしばらく使い物にならなくなる可能性もあるが、よろしく頼む」
いつもお堅いディランの、冗談とも本気ともつかない発言に、三人は呆気にとられた後クスッと笑い、「御意」と答えたのだった。
ハリソンは客室に案内し、休んでもらっている。
「殿下がお留守の間は特に変わったことはありませんでした。街も活気付いておりましたし。強いて言えば、聖女様が不在ということで、王宮の使用人達の士気が下がっていたくらいですね。なあ、クラウス?」
「ええ、その通りです。アンリ様がいらっしゃらないと皆張り合いがないようで、火が消えたように物寂しげな雰囲気でしたね」
ストーンの報告に、クラウスが頷きながら同調する。
「嬢ちゃんの人気は凄まじいな。グランタールの人間まで虜にしちまって、このままいけば世界征服とか出来るんじゃねーか?」
セガールが自分の立場も忘れ、適当なことを言って笑っている。
「仮にアンリ様が世界征服されたとしても、そこは穏やかで優しい世界なのでしょうね」
「そうだな。国が富めば争いも起きにくくなる。アンリなら理想の平和な世界を作れるだろうな」
クラウスの言葉にディランが賛成したが、その顔には憂愁の影が差していた。
すかさずストーンが体調を案じて尋ねた。
「殿下、お疲れなのでは?あまり顔色が優れません」
「いや、体調は悪くない。ただ……」
三人は静かにディランの言葉の続きを待った。
「この国は確実に復興の道を歩んでいる。いや復興どころか、以前より発展を遂げている。全てアンリのお陰だ。しかし、アンリはいつまでこの国、この世界に留まってくれるだろうか?最近アンリが元の世界に戻る日を想像すると、恐ろしくなる自分がいるのだ。おかしいだろう?国王の身で……」
アンリが現れるまで決して弱さを見せず、全て己の力で切り開こうとしてきた男の言葉とは思えず、三人は目を見張った。
いつの間に我らの王は、こんなにも人間臭くなっていたのだろうか。
「クッ……クックック、アッハッハ!!ディラン、お前嬢ちゃんにゾッコンなんだな。いや、いいよ。俺はすげーいいと思うぜ?」
セガールが我慢できないといった風に肩を揺らして笑い出し、嬉しそうにディランの背中をバシバシ叩き始めると、ストーンも続けて言った。
「私も好ましい変化だと思います。全てを独りで背負ってしまわれるのが時々歯痒かった我々としては、心を寄せる相手が出来たのは喜ばしい限りです。クラウス、文献では今までの聖女様は、召喚されて務めを果たされた後はどうされたのだ?」
「多くの例は残されてはいませんが、戻られた方も、残られた方もいらっしゃるようです。結局は聖女様のお気持ちひとつなのかと」
「じゃあ、ディランが『俺のために残ってくれないか?』とか言えば、嬢ちゃんも残るんじゃないか?」
セガールの軽い口調に、ディランが眉をひそめる。
ーーいや、背中を叩かれ出した時から既に不機嫌ではあったのだが。
「それはもうプロポーズだろう。いや、別にプロポーズ自体は、やぶさかではない。むしろ想いを伝えて俺の為に残ってくれるなら、こんなに嬉しいことはない」
「やぶさかじゃねーのかよ!!」
セガールが突っ込んだが、それをスルーしてクラウスが話し始めた。
「アンリ様がグランタールの女王になることを承諾されたということは、しばらくはまだこちらにいらっしゃるという意思ですよね?」
「私もそう思いますね。まあ、聖女様にも残してきた家族や友人がおられるでしょうから、そう簡単なことでもないのでしょうが……」
家族か……。
ディランはアンリが召喚された日の事を思い出していた。
あの日、アンリの頬は確かに腫れていた。
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まさか、家族に……?
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しかし、この世界に留まるかどうかは、やはり本人に気持ちを確認するしかない。
もしも帰ると言われたら、自分の想いを伝えて全力で引き留めるまでだ。
「アンリときちんと話し合ってみようと思う。結果によっては、俺はしばらく使い物にならなくなる可能性もあるが、よろしく頼む」
いつもお堅いディランの、冗談とも本気ともつかない発言に、三人は呆気にとられた後クスッと笑い、「御意」と答えたのだった。
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