12 / 23
婚約者との仲が深まりました
しおりを挟むクロード、お話ししておかなければならないことがあるのです。」
私は意を決し、手のひらをギュッと握り込むとクロードの瞳を見つめた。
馬車の外の景色は緩やかに移ろい、夕日が差し込んでいた。
クロードは、私の真剣な様子に一瞬目を見張ったが、何かを察したのだろう。
真摯な眼差しで私を見つめ返して言った。
「ああ、何でも話してほしい。どんなことでも受け止めてみせるから。」
私は、一連の出来事を全て語った。
階段を踏み外した衝撃で前世の記憶が戻ったこと、前世は理亜という名前で理亜が持っていた記憶のこと、アメリアの記憶はちゃんと残っていること・・・
すぐには受け入れられない話だろう。
転生ものの小説を読んで、僅かながら耐性があった私でも目を疑う出来事だったのだから。
私は一息つくと、クロードの様子を伺った。
クロードは一言も発さず、難しい顔をしてずっと俯いたままである。
まあ、当然の反応だ。
「あの、クロード?きっと簡単には信じてもらえないと思うのです。」
「いや、もちろん信じるさ。アメリアが嘘をつくとは思っていない。まあ、にわかには信じがたい話ではあるが、そういうこともあるのだろう。」
え?
そんな簡単に私の話を信じてくれるの?
クロードが信じてくれる。
それだけでたくさんの味方を得たような、大きな安心感に包まれた。
前世の記憶を一人で抱えていることに、思っていた以上に寂しさと不安を感じていたらしい。
理解者が側に居てくれることが泣きそうな位嬉しく思えた。
でも私にはまだ心配事が残っている。
勇気を振り絞って訊いてみた。
「私のこと、気持ち悪くないですか?それに、今の私は理亜の意識が強いみたいで。こんなのアメリアじゃないって嫌いになりませんか?」
それがずっと心に重くのしかかっていたのだ。
理亜の記憶が戻ったアメリアを、クロードは今までと同じように愛してくれるのだろうか。
「嫌いになどなるはずがないだろう。前世の記憶が戻ろうと、アメリアはアメリアだ。理亜の記憶ごと愛すよ。」
私の杞憂だったようで、当然のことのように受け入れられてしまった。
嬉しさと安堵で、涙が溢れてくる。
「僕の方こそ心配だ。前世の理亜の世界は、ここより栄えているようだし、理亜は知識も経験も豊富みたいだ。僕のようなつまらない男は、すぐ飽きられて捨てられてしまいそうだ。」
「そんなわけないよ!クロードはめっちゃカッコいいもん!」
言ってしまってからハッとする。
否定の思いが強すぎて、つい思いっきり理亜の言葉で喋ってしまった。
「いえ、クロードは素敵な人なので・・・」
赤くなりながら、慌てて誤魔化すように言い直そうとしたが、大笑いにかき消されてしまった。
「あははははははは!!」
クロードがお腹を抱えて笑っている。
こんな彼は見たことがない。
ポカンとしている私に、クロードはなおも笑いながら、
「なるほどな。最近口数が減ったのはその口調を隠す為だったんだな。僕は気にしないよ。むしろ砕けた話し方の君は可愛い。」
可愛いって・・・
ますますアメリアは赤くなった。
「これからは何でも話してほしい。嫌われたのではなくて良かった。」
「じゃあ何でも話します。クロードがイケメン過ぎて近寄れなかっただけで、今、もっとクロードのことが大好きになりました。」
私だけ照れていることが悔しくなり、少しヤケになりながら言うと、クロードも顔を赤く染め、私をそっと抱き寄せた。
「アメリア、『めっちゃ』ってどういう意味?」
「えっと、とてもという意味で・・・」
おでこにキスをされる。
「じゃあ、『いけめん』は?」
今度は頬にキスをされた。
「えっと、顔が整っていて・・・って、もう無理!!こんなの恥ずかしい!!」
思わず手のひらで顔を隠した。
アメリアの叫び声と、クロードの楽しそうな笑い声が馬車に響き渡り、御者は今日も平和だと微笑んだ。
結局、周りを混乱させない為に私の口調は変えないことに決めた。
でも秘密を共有しているからか、クロードとの仲は更に深まった気がする。
二人きりになると、クロードが私に砕けた口調を求めて、甘い空気を出してくるのが困る
だなんて、我ながら幸せな悩みだと思う。
婚約破棄されてしまう可哀想な悪役令嬢の私は、劇の中にしか存在しない。
私は幸せだった。
12
お気に入りに追加
167
あなたにおすすめの小説
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
闇黒の悪役令嬢は溺愛される
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。
今は二度目の人生だ。
十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。
記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。
前世の仲間と、冒険の日々を送ろう!
婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。
だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!?
悪役令嬢、溺愛物語。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。
みゅー
恋愛
王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。
いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。
聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。
王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。
ちょっと切ないお話です。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
乙女ゲームとは違う世界~新たな人たちと関係を築いて、私は生き残る~
キョウキョウ
恋愛
それは、とある乙女ゲームの物語と似た世界。
だけど、そこはゲームの世界とは違う現実だった。
乙女ゲームに登場したキャラクターの他にも、数多くの人たちが存在している。
そのことを理解した女と、理解していない女。
現実だと認識して生き残ろうと備える彼女と、ゲームの世界にどっぷりハマって楽しむ彼女。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる