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余興はあっさり劇に決まりました

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アメリアの通う学院の生徒会には、代々伝わる伝統の行事がある。

卒業パーティーで、生徒会メンバー全員で余興を行うのだ。
卒業生である3年生を中心に、毎年趣向を変えて行われる余興は、パーティーでもメインイベントであり、皆の期待も大きい。

今年3年生で副会長のアメリアも、今まで2回参加してきたが、1年時の怪盗が現れる劇も、2年時のマジックショーも大変な盛り上がりを見せた。
特に怪盗の劇は、当時の会長による怪盗の扮装姿がとても格好良かった為、今でも語られるほどである。


卒業を3か月後に控えた現在、現生徒会メンバーは今日も生徒会室で頭を悩ませていた。

「卒業パーティーの出し物、いい加減決めないとまずいと思うのですが・・・。」

2年の現会計で、次期生徒会長に決まっているフレディが書類を整理しながら切り出す。

フレディは伯爵令息で、身長が高く、体格もいい。
一見怖そうに見える風貌だが情に厚く、気遣いが出来るので彼が次期生徒会長なら学院も安泰だろう。

「そうは言っても、やっぱりインパクトって大切でしょー?悩んじゃうのよねぇ。」

同じく2年のセレンが、髪を指で遊びながら答える。
どうやらまた仕事をサボっているようだ。

生徒会は1年時に男女各1名ずつ選ばれ、特に問題がなければそのまま3年間任命される。
人数の割に仕事量が多く、少数精鋭となっている。

セレンは現書記で、来年度はアメリアから副会長の仕事を受け継ぐことに決まっていた。

子爵令嬢であり、美しい金髪に可愛らしい顔立ちのセレンは学院でも有名人だ。
しかし庇護欲をくすぐる見た目とは裏腹に、自分の魅力を理解した上でそれを最大限に生かし、群がる男子生徒を翻弄して楽しむ小悪魔的な女の子なのだ。

学院の女子からはその奔放さを疎まれ、遠巻きにされがちだが、アメリアとは学院に入学する前からの知り合いの為、とても懐いている。
だからこそ、姉のように慕うアメリアの為にも、手を抜いた余興で送り出したくないと気合いが入っているようだ。

「僕達は初めてなので、先輩達の決めたものなら何でも頑張ります!」

「私もカイルと同じ意見です。」

1年生ペアのカイルとエレーナが、二人でアンケートの仕分けをしながら話に加わる。

お調子者で好奇心旺盛だが、落ち着きのないカイルと、真面目でしっかり者のエレーナ。

まだ先のことだが、この代では、今までには珍しい女性生徒会長が誕生するのでは?と期待されている。


「アメリアは何か希望はあるかい?」

生徒会長のクロードが、書類から目を上げながらアメリアに問いかけた。
アメリアの婚約者であるクロードは、そうやっていつでもアメリアを気にかけていた。

「私は出来れば劇がいいです。私達6人、見た目も性格もバラバラでしょう?面白い劇が出来るかもと思って。素敵な思い出になりそうですし。あ、もちろん皆がそれで良ければなのですが・・・。」

我儘を言ってしまったのではと自信が無くなり、段々アメリアの声は小さくなっていく。

「では劇に決まりだな。」「じゃあ劇でけってーい!」

クロードとセレンの声が重なる。

「え、そんな簡単に・・・」

戸惑うアメリアだったが、

「アメリア様の意見は決定事項ですからね。」

「もちろん賛成しますよ。」

カイルとエレーナにも了承され、あっさりと劇に決まってしまう。
皆の寛容さに驚きながら、アメリアは「ありがとうございます」と笑顔でお礼を述べた。

「では劇の題材は、各自明日までに考えてくるということで。今日は時間も遅いし、解散だ。」

クロードが告げ、皆が帰り支度を始める。

「アメリアは送っていくから一緒に帰ろう。これだけ片付けてしまうから、少しだけ待っていてくれ。」

クロードの誘いにアメリアが笑顔で頷いていると、

「またイチャイチャしてるしぃ。ご馳走さまですぅー。」

「いつものことだろう。」

「はいはい、羨ましくなんてないですよ。」

「皆さん、お二人の邪魔はいけません。」

アメリアとクロードをからかいながら、1、2年生の四人が足早に生徒会室の扉を出ていった。
二人に気を遣っているのかもしれない。
アメリア達はクスクス笑いながら、「お疲れ様」と四人の背中に声をかけた。


この時のアメリアは、まさかこの後に前世の自分の記憶が戻るなんて、夢にも思わずにいた。



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