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騎士の宣言。

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お茶を淹れて戻ったシーラとルシアン姉弟に、エミリアは改めて仕事の説明を始めようとしたが、皆の意識がお土産のお菓子に向いている為、とりあえずお茶を楽しむことにした。

「エミリア様、このお菓子、とっても美味しいです!パティスリーで売っているものより全然。私、甘いものに目がなくて!!」

シーラだけでなく、若い騎士二人もお菓子が好きらしい。
稀に見る早さでクッキーとパウンドケーキが消えていく。

ふむふむ、お菓子をちらつかせれば、シーラ様は釣れそうな気がする。

悪い企みを思い付き、エミリアはポシェットから、ゴソゴソといわゆる募集要項の書類を出した。

「しーらさま、たべながらでいいので、こちらをごらんください。」

エミリアが書類を差し出すと、三人が覗き込む。

「エミィが書いたのか?相変わらずしっかりしてるな。ってか、待遇が良過ぎるだろ。」

「可愛いポシェットから、可愛い文字の手紙かと思いきや、内容がエグいな。本当、エミィちゃんいくつだよ?しかも俺が働きたいくらいだ。」

仕事内容、給料、休日、福利厚生について詳しく書いてあるが、往復の馬車付き、お茶の時間有りと、至れり尽くせりな環境である。
そもそも、この世界にこんな細かい内容の募集要項は存在せず、エミリアはホワイト企業だと自画自賛していた。

「ダメです!!」

シーラが突如叫んだ為、残りの三人は一斉にシーラを見た。

ダメ?
どこかダメなところあった?
あ、お菓子のこと言うの忘れてた。

「しーらさま、おちゃのじかんには、うちのおかしもつけるので・・・」

姑息な手を使い出したエミリアに、更に慄くシーラ。

「キャァアア!!ダメですよ、エミリア様!待遇が良過ぎます。きちんとした経験がない私なんぞに、こんな内容は勿体ないです!お菓子には未練を感じますが。」

そっちのダメか!
しかも、お菓子に未練があるの!?

「ないようはみなおしますが、うちのちーむではたらくいしはありますか?」

シンプルに訊いてみれば、思いっきり頷いてくれた。

「私の腕をかって下さるのは嬉しいのですが、テストなどしなくていいのでしょうか?」

不安がるシーラに、エミリアは思い付いた。

「あ、このあっぷりけ、わんぴーすにつけてください。てすとがわりです。」

ダニエルに買ってもらったリンゴのアップリケを取り出すと、ダニエルは喜び、シーラ姉弟は戸惑った顔をした。

「こんな素敵なワンピースに付けてしまっていいのですか?」

「五歳なら付けてて当たり前なんだけど、あんな書類を書いた子だと思うと、リンゴとのアンバランスさがなんとも。」

抵抗を感じている二人とは逆に、ダニエルもオレンジのアップリケを出すと言った。

「シーラ、前にボタン付け頼んだシャツに、このオレンジ付けてくれ。エミィとお揃いなんだ。」

「そのシャツなら、今日返そうと思って今持っていますが・・・本気ですか?」

若干引き気味だったが、無事にアップリケを縫ってもらい、エミリアとダニエルはご機嫌だった。

「お似合いの二人かもな。」

ルシアンが呟き、シーラは笑っていた。


その後、シーラはエミリアの縫製チームに加わった。
バートン家の一室で作業をしている為、シーラは馬車で屋敷に通ってくる。
エミリアとシーラは姉妹のように仲良くなり、非番の日にはダニエルとルシアンも顔を出し、四人で過ごした。
騎士二人は、我が家に顔パスである。

ダニエルがシーラと一緒に過ごせるように、エミリアは二人の仲を見守っていた。
しかし進展は無さそうで、エミリアは不思議だった。



◆◆◆


三年が経ち、エミリアは八歳になった。
父の事業も好調で、今では王都一の大商会に登り詰めた。
エミリアの縫製チームも、父の商会の一部門として新たに発足し、王妃だけでなく、貴族御用達として大盛況である。

そんなある日、エミリアがいつものようにシーラとお茶を楽しんでいると、シーラがモジモジしながら何か言いたそうにしている。

「シーラさん、どうかした?何かあったの?」

思わずエミリアから訊いてしまう。
三年でシーラとの仲が深まり、二人の会話も遠慮が無くなってきた。

「あのね、エミィ様、私、結婚することになって。」

結婚!?
一体いつの間に、そんなことに?
全然気付かなかったよー!!

紅茶を詰まらせそうになりながら、エミリアがやっとの思いで言った。

「おめでとう!!私、全然気付かなかったわ。ダニー様も何も言わないんだもの。」

「ふふっ、ダニエル様はまだ知らないので。」

ん?
ダニー様が知らないって、当事者なのに?

「シーラさん、お相手って、ダニー様じゃないの?」

思わず怪訝そうに問いかけると、今度はシーラが詰まらせかけた。

「ええっ!?なんでダニエル様が?ダニエル様の大切な方は別にいらっしゃるでしょう?」

チラッとエミリアを見た。

「そうなの?シーラさんを好きなのかとずっと思ってた。」

シーラが気の毒そうな顔をしたが、エミリアは意味がわからなかった。

その翌日、お茶の時間に四人が揃った。

「私、ダニー様がシーラさんのこと好きだと思ってたから、てっきりお相手がダニー様だと思って!」

エミリアの爆弾発言に、一瞬静寂が広がった後。

「ブフッ!マジか!!エミィちゃん、最高だな。いやー、笑える。ブハハッ」

「ルシアン!笑ってはダメよ!ダニエル様、落ち込まないで下さい!」

吹き出すルシアンに、ダニエルを励ますシーラ。
ダニエルは俯き、ショックを受けている。

あれ?
変な空気になっちゃった。

「あ、ダニー様、まだシーラさんの結婚がショックなの?ごめんなさい、デリケートなことなのに。」

エミリアが謝ると、ダニエルが立ち上がった。

「ちがーう!まさかそんな勘違いされていたとはな。いや、俺も悪かったかもしれない。」

何を言っているのだとエミリアが首を傾げていると、
ダニエルがエミリアに向けて宣言した。

「エミィ!覚悟してろよ!!」

エミリアは益々意味がわからなかったが、シーラとルシアンがニヤニヤ笑って見ていた。
















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