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騎士の作戦。

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公園から騎士団へと戻ったダニエルに、待ってましたとばかりに同僚のルシアンが近付いてきた。

「おい、ダニエル!さっきはよくも・・・って、町で何かあったのか?嬉しそうな顔をして。お前のそんな顔、久しぶりに見たな。」

ルシアンがダニエルを見て、目を丸くしている。

俺、そんなにわかりやすいか?
もしかして、こいつにも心配かけてたのかもしれないな。
いや、ルシアンのことだから面白がってるだけか。

「ちょっとな。お前、バートン家って知ってるか?」

「は?なんだいきなり。バートン伯爵家なら、貴族で知らないやつなんていないだろ。伯爵はマンゴリラで大成功、夫人は社交界のファッションリーダー。しかも両方、娘が影で親を動かしてるっていう噂じゃないか。」

娘?
エミリア嬢か?
しかし、さすがに五歳で商会を牛耳るのには無理があるだろ。
姉がいるのか?

「娘っていくつだ?」

「お前が貴族に興味を持つなんて珍しいな。確か、五歳になったくらいか?名前はエミリア嬢とかなんとか。」

やっぱりエミリア嬢本人か。
話しぶりが普通の子供ではないとは思ったが、末恐ろし過ぎるだろ。

思わずため息を吐くと、ルシアンが楽しい事を見つけたという表情を隠しもせずに、ダニエルの肩に腕を回してきた。

「なんだなんだ、何があった?俺様が相談に乗ってやってもいいぜ?」

こいつにだけは相談したくないと思いつつ、一番付き合いが長く、根は悪い奴ではないので、話を聞いてもらうことにする。

「エミリア嬢に町でハンカチを借りたんだ。お礼をどうしようか考えているん・」

「そういうことなら俺に任せとけ!お前が女の話とはビックリだし、更に相手が五歳とはたまげたが、お前が楽しそうなのも、女に興味を持つのも珍しいからな。俺が協力してやる。」

「ルシアン・・・」

若干心配は残るが、ダニエルが一人で悩むよりは遥かにマシに思えた。

結局、ルシアンが自分の姉に刺繍を頼み、可愛らしいハンカチを用意することが出来た。
また、ルシアンはダニエルに繰り返し助言をした。

「いいか、ダニエル。伯爵家の人間を相手にするなら、とにかく愛想と礼儀正しさを肝に命じろ!愛想の良さと、紳士らしさが大切なんだ。お前はむさ苦しい男ばかりの中で暮らしてきたからな。絶対守れよ?」

そうなのか。
俺はそういうのに疎いからな。

ダニエルがルシアンの言葉を胸に刻むと、「うまくやれよ!」という言葉と共に、油断していた脇腹に、一発肘鉄を喰らった。


ダニエルがどうやってハンカチをエミリアに渡すかを悩んでいたところ、絶好の機会が訪れた。
エミリアの父、バートン伯爵がダニエルに会いに来たのである。

「これはこれは、バートン伯爵。このような場所までお越しいただき、感謝申し上げます。私もエミリア嬢に大変お世話になったのです。エミリア嬢は賢く、可愛らしいお嬢さんですね。」

ルシアンに言われた通り、爽やかな青年貴族らしく振る舞ってみると、娘を褒められた親バカの伯爵は、すぐにダニエルに心を開いてくれた。
ルシアンも協力してくれ、うまく伯爵邸に訪問し、エミリアに直接お礼を渡すところまでこぎつけた。

よし!上手くいった!
これでもう一度エミリア嬢に会える。

喜び勇んで伯爵に着いていったが、三日ぶりに会えたエミリアは、なんだか余所余所しい。
まるで不審者を見るような目でこちらを見ている。

ようやく二人きりになれたと思った瞬間、警戒しながらエミリアが口を開いた。

「だにえるさま、うさんくさいです。どうしてむりしてわらって、そんなあやしいくちょうなのですか?」

う、胡散臭い!?
ルシアンに言われて、良かれと思って好感度が高そうな優男を演じたのに?

全てが馬鹿馬鹿しくなり、笑ってしまった。

「あはは!悪かった。そうだよな!エミリア嬢はそういう子だから気になるんだった。馬鹿だな、俺。」

いつものダニエルに戻ると、エミリアは三日前と同じ、ダニエルが見たかった笑顔を見せてくれた。

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