【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

櫻野くるみ

文字の大きさ
上 下
7 / 25

少女との出会い。

しおりを挟む

時を遡ること三日前。
無事に祝賀パレードを終え、馬から降りた騎士のダニエルは、フゥっと一つ息を吐いた。
すかさず、同僚のルシアンがニヤニヤ笑いながら声をかけてくる。

「どうした?浮かない顔して。パレード中もずっとそんな様子だったな。変なものでも食ったか?」

心配しているのか、からかっているのかわからない台詞に、ダニエルはルシアンの脇腹をズンッと肘で突くと、町に向かって歩きだした。

「休憩してくる。また後でな。」

「いってぇぇぇーー、後で覚えてろよ!!」

ルシアンの叫びを背中で聞きながら、ダニエルは賑わう通りを抜け、通い慣れた公園へと向かった。
小さな公園はベンチがあるだけで、まるで忘れ去られた空間のように、いつ訪れても人がいない。
いつものようにベンチに座ると、父の形見の短剣を取り出し、眺めた。

親父が死んで、一年か。
生きていれば、今日のパレードも、親父が一番讃えられ、感謝されていたはずなのに。
まだまだ働けるはずの年齢で、さぞ無念だっただろう。
全部俺のせいだ。

今でも、自分を助ける為に駆けつけた父親の姿は、はっきりと目に焼き付いている。
独断で無茶をしたことへの怒りと、ダニエルが生きていることへの安心が混ざったような表情だった。
怪我を隠し、王都の家まで辿り着いてから倒れた精神力には感服するが、息子の自分にまで辛さを悟らせず、弱音を吐かない姿にはもどかしさも感じた。

俺のせいで怪我をして、誇りを持っていた騎士も続けられず、結局悪化して死んで・・・
全て俺が悪いのに、俺にも周囲にも、何も言わずに逝ってしまった。
何も言いたくないほどに、俺に呆れて、恨んでいたんだろうな。

ダニエルが短剣を握りしめ、後悔の念に押し潰されそうになっていた時、人の気配を感じた。
いつの間にか俯いていた顔を上げると、小さな女の子が立っている。

こんな場所に珍しいな。
迷子か?

五歳くらいに見える少女は、可愛らしいくりくりとした目でこちらを見ている。
ピンクのワンピースがよく似合っているが、仕立ての良さと雰囲気から、身分の高い貴族の令嬢だとすぐに気付いた。

「なんだ、お前迷子か?こんなところに一人じゃ危ないぞ。」

パレードの賑わいの影で、悪さを企む連中がうろついている時期だ。

「おまえでも、まいごでもありません。おにいさん、となりにすわってもいいですか?」

思いがけず、しっかりとした口調の少女に驚いた。
可愛い見た目とのギャップに、一瞬他の者が喋ったのかと思ったが、あいにく公園にはダニエルと少女しか居ない。
変わった少女の登場に、珍しく興味が湧いた。

「レディー、よろしかったらどうぞこちらへ。」

普段の乱暴な口調を引っ込め、あえて女性が好きそうな、社交界慣れした男のようにレディーと呼び、ハンカチを広げてみる。
すると、少女もダニエルのノリに付き合い、年頃の令嬢のように振る舞ってくれた。
やり慣れない動作に二人で笑い出すと、まるで以前からの知り合いのような居心地の良さを感じた。

騎士で、人当たりが決して良くないダニエルに近付いてくる子供など今まで居なかったが、少女は違うようだ。
見た目通り5歳らしいが、難しい言葉を話し、堂々とした様子はとても5歳には見えない。
それを本人も自覚しているのが面白かった。

「ぱれーどのときにつらいかおをしていました。りゆうがきになって。」

そう言われた時には、強い衝撃を受けた。
年端もいかない少女に痛いところを指摘され、騎士のくせに動揺した。

いくらでも誤魔化せたのかもしれないが、思慮深く、全てを包み込むような少女の視線から逃れることなど出来なかった。
いや、逃げようなどとは少しも思わず、気付けばダニエルは母にも同僚にも話したことのない父の事実を、初対面の五歳の少女に語っていたのだった。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。 ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。 あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…? ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの?? そして婚約破棄はどうなるの??? ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

婚約して三日で白紙撤回されました。

Mayoi
恋愛
貴族家の子女は親が決めた相手と婚約するのが当然だった。 それが貴族社会の風習なのだから。 そして望まない婚約から三日目。 先方から婚約を白紙撤回すると連絡があったのだ。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

21時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

嫌われていると思って彼を避けていたら、おもいっきり愛されていました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のアメリナは、幼馴染の侯爵令息、ルドルフが大好き。ルドルフと少しでも一緒にいたくて、日々奮闘中だ。ただ、以前から自分に冷たいルドルフの態度を気にしていた。 そんなある日、友人たちと話しているルドルフを見つけ、近づこうとしたアメリナだったが “俺はあんなうるさい女、大嫌いだ。あの女と婚約させられるくらいなら、一生独身の方がいい!” いつもクールなルドルフが、珍しく声を荒げていた。 うるさい女って、私の事よね。以前から私に冷たかったのは、ずっと嫌われていたからなの? いつもルドルフに付きまとっていたアメリナは、完全に自分が嫌われていると勘違いし、彼を諦める事を決意する。 一方ルドルフは、今までいつも自分の傍にいたアメリナが急に冷たくなったことで、完全に動揺していた。実はルドルフは、誰よりもアメリナを愛していたのだ。アメリナに冷たく当たっていたのも、アメリナのある言葉を信じたため。 お互い思い合っているのにすれ違う2人。 さらなる勘違いから、焦りと不安を募らせていくルドルフは、次第に心が病んでいき… ※すれ違いからのハッピーエンドを目指していたのですが、なぜかヒーローが病んでしまいました汗 こんな感じの作品ですが、どうぞよろしくお願いしますm(__)m

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

処理中です...