上 下
2 / 25

おしゃまな女の子。

しおりを挟む

ドレスを選ぶ様子を静かに眺めていた父親の伯爵は、エミリアが本当に理解しているかのように、意思を持って的確に指を差す姿に驚きを隠せなかった。

まさか、わかって差しているのか?
一歳にも満たないのに?
試しに私もエミリアに選んでもらってみるか。

「エミリアー、私にも教えておくれ。どちらの方が、たくさん売れると思うかな?今度うちの商会で、独占的に販売しようと思っていてね。」

伯爵はエミリアに近付くと、南方から取り寄せた二種類のフルーツを、それぞれの手に持って尋ねてみた。


◆◆◆


エミリアは、じっと観察するような父親の視線を感じていた。

うーん、赤ちゃんなのに話が通じすぎて、とうとう不審がられたかな?
普通に考えたら、怪しい子だもんね。
でも、しっかり者だと思わせて、早く独り立ちしないと。
こう見えて、中身アラサーだし。

伯爵は急に部屋から出ていくと、何かを両手に持って再び戻り、エミリアに見せてきた。

あら、お父さんまで。
私って、二択でサッカーの勝敗を占ってみせたタコみたいじゃない?
まあ私の意見でよければ、いつだって訊いてちょうだいな。
失敗しても、責任は持てないけれど。
私、赤ちゃんだし。

エミリアは伯爵の手元を見るなり、驚いた。
父の右手にある物が、前世で好きだったマンゴーだったのである。

「だっ、そっ、マッゴー!!」

マンゴーを凝視し、興奮しながら手をパタパタさせる娘に、伯爵も熱が入る。

「おおっ、これか!これはマンゴリラという、南方の国のフルーツだよ。オレンジ色が綺麗で、味もいい。私もこちらかと思っていたが、そうか、エミリアもそう思うか!」

満足そうにマンゴーを、いや、マンゴリラを眺めながら、一人納得している。

ぶふっ、マンゴリラって・・・!!
いや、惜しいけれど!!

エミリアは爆笑していた。
キャッキャッと喜んでいるように見えているらしいが、内心はそんな可愛い反応ではなかった。

ネーミングセンス!
なんでそんなゴツい感じになっちゃったかなぁ。

なおも笑い続けるエミリアに、伯爵は宣言する。

「エミリア、私はこのマンゴリラに人生を賭ける!販売を成功させて、商会を大きくして見せるからな。このマンゴリラで!!」

あははは!!
マンゴリラを連呼しないでー。
ついでに、人生も賭けないでー。

キリッとした表情で伯爵が出ていき、ようやく笑い止んだエミリアは、マンゴーを食べ損なったことに気付いた。
まあ、まだ食べられないから仕方がないのだが。
エミリアは早く成長したいと強く思った。


一歳になり、多少喋ったり、動けるようになってからのエミリアは、より活躍の場を広げた。
選択肢を与えられなくても、拙い言葉とジェスチャーで、伝える術を身に付けたのである。

母のドレスも、たくさんの中から引っ張って選んだり、もっとこういうものがいいと、仕立てから参加するようになった。
父のビジネスに関しても、商品陳列の仕方を提案したり、店のレイアウトに口出しをし始めた。
両親ともバカにすることなく、意見を取り入れた結果、バートン家は社交界でも、経済界でも成功を収めるようになった。

「エミリアはすごいなぁ。かわいいし、あたまもいいし、じまんのいもうとだよ。」

兄からも可愛がられ、順風満帆のまま五歳になった。


「パパ、しょうかいのあたらしいてんぽは、もっとりっちをかんがえたほうがいいとおもうの。ママ、おうひさまにいらいされたどれすは、さゆう、あしんめとりーにして、すそにかけてぐらでーしょんをいれたいわ。」

五歳のエミリアは、いよいよ大人顔負けの話し方になっていた。
まだ舌足らずで可愛い分、内容とのギャップが激しく、それが微笑ましくもあった。

「おお!そうか、確かに下調べが甘かったかもな。住人の年齢分布や、嗜好についてもう少し調査してみよう。」

エミリアは前世のアパレル業界での新規出店や販売促進、新規開拓などの知識を、父のビジネスに活かしていた。
すでに商会の『影のボス』と呼ばれている。

「エミリアちゃんってば、また難しい言葉を使って。ママにもわかるように説明してちょうだい?」

エミリアが、バートン夫人が急に垢抜けた理由だと突き止めた王妃は、自身の専属コーディネーターにエミリアを抜擢した。
最初は五歳児に?と、前代未聞な出来事に慌てふためいていた大人達も、誰も考え付かない発想でドレスだけでなく、髪型や着方を生み出すエミリアに、今は期待を持って見守っていた。

大人びた、おしゃまな少女として世間で有名になってきたこの年、エミリアは運命の出会いを果たすのである。




しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

社蓄女子は、異世界陰陽師から逃げられない

櫻野くるみ
恋愛
「貴女は陰陽師?陰陽師なのですね!?」 いやいや、そんなト◯ロみたいに言われても。私はしがない観光客なんだけど……。 突然有給を取らされることになった社畜女子、水島花菜は、京都へ一人旅に出かけた。 陰陽師が昔から好きだったことから、晴明神社を訪れた帰り、気付けばなぜか異世界へ。 そこには自称陰陽師のイケメンがおり、日本から来た花菜を陰陽師だと思い込む。 もちろん否定したのに、式神を出したり、見よう見まねで魔物を追い払ってしまう花菜。 「え?私、陰陽師の才能あった?」 共に陰陽師として戦うようになるが、イケメン陰陽師は花菜を日本に帰したくないらしい。 「私、有給終わっちゃうんで、そろそろ帰りたいんですけど」 「そんなことを許せるはずがないだろう」 異世界唯一の陰陽師に執着され、溺愛される花菜のお話。 短編です。 ゆるい話な上、なんちゃって陰陽師です。ご容赦くださいませ。

懸賞大好きアラサー女子、異世界で懸賞始めたら伯爵様が当たりました。

櫻野くるみ
恋愛
斉藤春菜は、懸賞大好きなアラサー女子。 ある日、スマホのSNSでビールの懸賞に当たり、うきうきとコンビニに引き換えに行く途中で階段から落ちてしまった。 気付けば異世界。 どうしようかと悩んでいたところ、川に身を投げようとしている老夫婦をたまたま救う。 聞けば、パン屋の商売がうまくいっていないらしい。 お世話になる代わりにパン屋を手伝うことになった春菜は、売上アップを目指し、懸賞やキャンペーンを行うことをすすめる。 新しい販売促進は話題となり、偶然視察に来ていた伯爵の目に留まり、売り子をしていた春菜は伯爵に見染められてしまい? 領地の経済回復の為に力を借りたいと理由を付けつつ、狙いは春菜自身の伯爵に溺愛されてしまう。 無意識に今までで一番の大物を当てていた春菜が、異世界で幸せになるお話。 ご都合主義の、気楽に読める話です。

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

【完結】断りに行ったら、お見合い相手がドストライクだったので、やっぱり結婚します!

櫻野くるみ
恋愛
ソフィーは結婚しないと決めていた。 女だからって、家を守るとか冗談じゃないわ。 私は自立して、商会を立ち上げるんだから!! しかし断りきれずに、仕方なく行ったお見合いで、好みど真ん中の男性が現れ・・・? 勢いで、「私と結婚して下さい!」と、逆プロポーズをしてしまったが、どうやらお相手も結婚しない主義らしい。 ソフィーも、この人と結婚はしたいけど、外で仕事をする夢も捨てきれない。 果たして悩める乙女は、いいとこ取りの人生を送ることは出来るのか。 完結しました。

【コミカライズ決定】無敵のシスコン三兄弟は、断罪を力技で回避する。

櫻野くるみ
恋愛
地味な侯爵令嬢のエミリーには、「麗しのシスコン三兄弟」と呼ばれる兄たちと弟がいる。 才能溢れる彼らがエミリーを溺愛していることは有名なのにも関わらず、エミリーのポンコツ婚約者は夜会で婚約破棄と断罪を目論む……。 敵にもならないポンコツな婚約者相手に、力技であっという間に断罪を回避した上、断罪返しまで行い、重すぎる溺愛を見せつける三兄弟のお話。 新たな婚約者候補も…。 ざまぁは少しだけです。 短編 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」

氷雨そら
恋愛
「どうしてよりによって、18歳で破滅する悪役令嬢に生まれてしまったのかしら」  こうなったら引きこもってフラグ回避に全力を尽くす!  そう決意したリアナは、聖女候補という肩書きを使って世界樹の塔に引きこもっていた。そしていつしか、聖女と呼ばれるように……。  うまくいっていると思っていたのに、呪いに倒れた聖騎士様を見過ごすことができなくて肩代わりしたのは「18歳までしか生きられない呪い」  これまさか、悪役令嬢の隠し破滅フラグ?!  18歳の破滅ルートに足を踏み入れてしまった悪役令嬢が聖騎士と攻略対象のはずの兄に溺愛されるところから物語は動き出す。 小説家になろうにも掲載しています。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

【完結】愛を信じないモブ令嬢は、すぐ死ぬ王子を護りたいけど溺愛だけはお断り!

miniko
恋愛
平凡な主婦だった私は、夫が不倫旅行で不在中に肺炎で苦しみながら死んだ。 そして、自分がハマっていた乙女ゲームの世界の、どモブ令嬢に転生してしまう。 不倫された心の傷から、リアルの恋愛はもう懲り懲りと思っている私には、どモブの立場が丁度良い。 推しの王子の幸せを見届けよう。 そう思っていたのだが、実はこのゲーム、王子の死亡フラグが至る所に立っているのだ。 どモブでありながらも、幼少期から王子と接点があった私。 推しの幸せを護る為、乱立する死亡フラグをへし折りながら、ヒロインとの恋を応援する!と、無駄に暑苦しく決意したのだが・・・。 ゲームと違って逞しく成長した王子は、思った以上に私に好意を持ってしまったらしく・・・・・・。 ※ご都合主義ですが、ご容赦ください。 ※感想欄はネタバレの配慮をしてませんので、閲覧の際はご注意下さい。

処理中です...