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おしゃまな女の子。
しおりを挟むドレスを選ぶ様子を静かに眺めていた父親の伯爵は、エミリアが本当に理解しているかのように、意思を持って的確に指を差す姿に驚きを隠せなかった。
まさか、わかって差しているのか?
一歳にも満たないのに?
試しに私もエミリアに選んでもらってみるか。
「エミリアー、私にも教えておくれ。どちらの方が、たくさん売れると思うかな?今度うちの商会で、独占的に販売しようと思っていてね。」
伯爵はエミリアに近付くと、南方から取り寄せた二種類のフルーツを、それぞれの手に持って尋ねてみた。
◆◆◆
エミリアは、じっと観察するような父親の視線を感じていた。
うーん、赤ちゃんなのに話が通じすぎて、とうとう不審がられたかな?
普通に考えたら、怪しい子だもんね。
でも、しっかり者だと思わせて、早く独り立ちしないと。
こう見えて、中身アラサーだし。
伯爵は急に部屋から出ていくと、何かを両手に持って再び戻り、エミリアに見せてきた。
あら、お父さんまで。
私って、二択でサッカーの勝敗を占ってみせたタコみたいじゃない?
まあ私の意見でよければ、いつだって訊いてちょうだいな。
失敗しても、責任は持てないけれど。
私、赤ちゃんだし。
エミリアは伯爵の手元を見るなり、驚いた。
父の右手にある物が、前世で好きだったマンゴーだったのである。
「だっ、そっ、マッゴー!!」
マンゴーを凝視し、興奮しながら手をパタパタさせる娘に、伯爵も熱が入る。
「おおっ、これか!これはマンゴリラという、南方の国のフルーツだよ。オレンジ色が綺麗で、味もいい。私もこちらかと思っていたが、そうか、エミリアもそう思うか!」
満足そうにマンゴーを、いや、マンゴリラを眺めながら、一人納得している。
ぶふっ、マンゴリラって・・・!!
いや、惜しいけれど!!
エミリアは爆笑していた。
キャッキャッと喜んでいるように見えているらしいが、内心はそんな可愛い反応ではなかった。
ネーミングセンス!
なんでそんなゴツい感じになっちゃったかなぁ。
なおも笑い続けるエミリアに、伯爵は宣言する。
「エミリア、私はこのマンゴリラに人生を賭ける!販売を成功させて、商会を大きくして見せるからな。このマンゴリラで!!」
あははは!!
マンゴリラを連呼しないでー。
ついでに、人生も賭けないでー。
キリッとした表情で伯爵が出ていき、ようやく笑い止んだエミリアは、マンゴーを食べ損なったことに気付いた。
まあ、まだ食べられないから仕方がないのだが。
エミリアは早く成長したいと強く思った。
一歳になり、多少喋ったり、動けるようになってからのエミリアは、より活躍の場を広げた。
選択肢を与えられなくても、拙い言葉とジェスチャーで、伝える術を身に付けたのである。
母のドレスも、たくさんの中から引っ張って選んだり、もっとこういうものがいいと、仕立てから参加するようになった。
父のビジネスに関しても、商品陳列の仕方を提案したり、店のレイアウトに口出しをし始めた。
両親ともバカにすることなく、意見を取り入れた結果、バートン家は社交界でも、経済界でも成功を収めるようになった。
「エミリアはすごいなぁ。かわいいし、あたまもいいし、じまんのいもうとだよ。」
兄からも可愛がられ、順風満帆のまま五歳になった。
「パパ、しょうかいのあたらしいてんぽは、もっとりっちをかんがえたほうがいいとおもうの。ママ、おうひさまにいらいされたどれすは、さゆう、あしんめとりーにして、すそにかけてぐらでーしょんをいれたいわ。」
五歳のエミリアは、いよいよ大人顔負けの話し方になっていた。
まだ舌足らずで可愛い分、内容とのギャップが激しく、それが微笑ましくもあった。
「おお!そうか、確かに下調べが甘かったかもな。住人の年齢分布や、嗜好についてもう少し調査してみよう。」
エミリアは前世のアパレル業界での新規出店や販売促進、新規開拓などの知識を、父のビジネスに活かしていた。
すでに商会の『影のボス』と呼ばれている。
「エミリアちゃんってば、また難しい言葉を使って。ママにもわかるように説明してちょうだい?」
エミリアが、バートン夫人が急に垢抜けた理由だと突き止めた王妃は、自身の専属コーディネーターにエミリアを抜擢した。
最初は五歳児に?と、前代未聞な出来事に慌てふためいていた大人達も、誰も考え付かない発想でドレスだけでなく、髪型や着方を生み出すエミリアに、今は期待を持って見守っていた。
大人びた、おしゃまな少女として世間で有名になってきたこの年、エミリアは運命の出会いを果たすのである。
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