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正体を明かしましょう。
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クレアは赤面したまま、またそっとカーテンを元に戻した。
恥ずかしさでとてもエドガーを揶揄う気にはなれなかったので、スルーを決め込むことにする。
よし、私は何も見ていないわ。
でもエドの顔を普通に見られる自信が失くなったわ……。
どうしようかとため息を吐いていたら、誰かが部屋に入ってくる音がした。
扉はエドガーが少し開けたままにしてくれていた為、うさぎのクレアでも出入り自由だ。
使用人かと思ってクレアが見上げると、そこにはエドガーの母、マクレーン伯爵婦人が楽しそうな表情でクレアを見下ろしていた。
『おばさま!』
プッと音を出すと、艶やかに微笑みながら、夫人がクレアを抱き上げた。
「あなたが『うさ』ちゃんね?あらぁ、モフモフ。本当にクレアちゃんみたいなうさぎちゃんなのねぇ。あの子ったら私には会わせないなんて意地悪を言うから、自分で会いに来ちゃったわ。さあ、私のお部屋でお茶でもしましょうね~」
クレアを抱いたまま、夫人は滑るように歩き出した。
もちろんクレアは反対することも出来ずに、撫でられながらただ連れられていくしかなかった。
そうだったわ、おばさまは美人で押しが強い方なのよ。
顔はアイリーンと似ているのに、性格はマクレーン最強だと言われているのよね。
昔から自由で活発なクレアは、夫人にとても可愛がられていた。
クレアも夫人のことが大好きだったが、最近はマクレーンの屋敷から足が遠のいていた為、少し後ろめたく感じてしまう。
夫人の部屋には既にお茶の準備がされており、テーブルには空のスープ皿も置かれている。
『うさ』用のティーカップ代わりらしい。
「さぁ、好きに召し上がれ。クレアちゃんの好きなお菓子をとり揃えたのよ?」
え、私の好きなお菓子?
何故そんなことを……。
「クレアちゃんのうさぎなら、きっと好みも似ているはずだものね。ーー普通のうさぎはお菓子は食べないけれど」
夫人の瞳がキランと光った気がして、思わずビクンとなってしまった。
ば、バレてる?
私がクレアだとわかっているのかしら?
「あら、体がプルプル震えちゃって可愛いわねぇ。そんなに怯えなくても取って食いはしないわ」
オホホホと楽しげに笑っているが、クレアは少しも笑えない。
なんとか気分を落ち着かせようと紅茶を舐めてみたら、ぬるく冷ましてあった。
「私、最近クレアちゃんが全然遊んでくれなくて寂しかったのよ。攫われたと聞いたけれど、私の勘ではクレアちゃんは無事だと思うの」
はい、さすがおばさま。
その勘は正しいです。
遊びに来なくてごめんなさい。
クレアは紅茶をペロペロ舐めながら、「無」を装って聞いている。
「問題はエドガーよね。あの子、元気なふりをしているけれど、相当参ってるわよ。それはそうよね、大好きなクレアちゃんが行方不明なんだもの」
ブホォ!
クレアはあっさりと動揺し、紅茶を吹いた。
しかし夫人は平然と話を続けている。
「エドガー、騎士学校でようやく強くなれたから、クレアちゃんに告白とプロポーズをするって意気込んで出かけたのよ?」
へ?
大好き?告白?プロポーズ?
ーー私を!?
「なのにクレアちゃんには会えないし、ワンピースが残されていたなんて、とても気が気じゃないでしょうねぇ」
呑気にうさぎ生活を送っているクレアの心は、良心の呵責に苛まれ始めた。
「せめてクレアちゃんが無事なことだけでも証明出来たら、エドガーも安心するでしょうね」
うさぎのクレアを、夫人の瞳がジッと見つめている。
エドガーと同じチャコールグレーの瞳を見つめ返している内に、クレアの覚悟は決まっていた。
『わかりました。エドに全て伝えます』
プープーと鳴いて答えると、夫人は嬉しそうに美しく微笑んだのだった。
再びエドガーの部屋で独りになったクレアは、さきほどの夫人との会話を思い返し、首を傾げていた。
なんでおばさまにはバレていたのかしら?
今の私はどこから見ても立派な白うさぎよね?
おばさまはやっぱり最強なのだわ……。
約束を守らなければと、クレアはエドガーの帰りをひたすら待った。
夜更けになって、エドガーはやっと帰ってきた。
とても疲れた様子で、頬が少し痩けた気がする。
『おかえりなさい、エド』
「ただいま、うさ。まだ起きていたんだな。悪い、今日もクレアは見つからなかった。残党を捕らえたのにクレアを誘拐していないと言い張って、クレアの居場所はおろか、足どりさえ全くわからないんだ……」
ソファーにドカッと倒れ込み、頭を抱えるエドガー。
クレアは自分が無事なことを証明する為、葉っぱを手にすると、エドガーのズボンをパシパシと叩いた。
『エド、伝えたいことがあるから、ちょっとこっち向いて?』
「ん?うさ、そんな葉っぱ持ってどうしたんだ?」
おもむろにクレアは葉っぱを鼻に当てて擦ってみせた。
『ふぁ……ふぁ……ふぁックション』
「え!?は!?クレア?なんで…いや、その前にお前その格好!!」
「じゃーーん、『うさ』はクレアだったのでーす!!」
「バカ!!そんなことより早く体を隠せ!!」
真っ赤な顔で慌ててそっぽを向くエドガーをキョトンと不思議そうに見ていたクレアだったが、ようやく自分の状況に気が付いた。
私、下着姿だったのをすっかり忘れていたわ!!
じゃーんって自分から見せつけて馬鹿じゃないの!?
クレアはその場に座り込むと、腕で体を覆いながら、自分の愚かさに泣きそうになっていた。
恥ずかしさでとてもエドガーを揶揄う気にはなれなかったので、スルーを決め込むことにする。
よし、私は何も見ていないわ。
でもエドの顔を普通に見られる自信が失くなったわ……。
どうしようかとため息を吐いていたら、誰かが部屋に入ってくる音がした。
扉はエドガーが少し開けたままにしてくれていた為、うさぎのクレアでも出入り自由だ。
使用人かと思ってクレアが見上げると、そこにはエドガーの母、マクレーン伯爵婦人が楽しそうな表情でクレアを見下ろしていた。
『おばさま!』
プッと音を出すと、艶やかに微笑みながら、夫人がクレアを抱き上げた。
「あなたが『うさ』ちゃんね?あらぁ、モフモフ。本当にクレアちゃんみたいなうさぎちゃんなのねぇ。あの子ったら私には会わせないなんて意地悪を言うから、自分で会いに来ちゃったわ。さあ、私のお部屋でお茶でもしましょうね~」
クレアを抱いたまま、夫人は滑るように歩き出した。
もちろんクレアは反対することも出来ずに、撫でられながらただ連れられていくしかなかった。
そうだったわ、おばさまは美人で押しが強い方なのよ。
顔はアイリーンと似ているのに、性格はマクレーン最強だと言われているのよね。
昔から自由で活発なクレアは、夫人にとても可愛がられていた。
クレアも夫人のことが大好きだったが、最近はマクレーンの屋敷から足が遠のいていた為、少し後ろめたく感じてしまう。
夫人の部屋には既にお茶の準備がされており、テーブルには空のスープ皿も置かれている。
『うさ』用のティーカップ代わりらしい。
「さぁ、好きに召し上がれ。クレアちゃんの好きなお菓子をとり揃えたのよ?」
え、私の好きなお菓子?
何故そんなことを……。
「クレアちゃんのうさぎなら、きっと好みも似ているはずだものね。ーー普通のうさぎはお菓子は食べないけれど」
夫人の瞳がキランと光った気がして、思わずビクンとなってしまった。
ば、バレてる?
私がクレアだとわかっているのかしら?
「あら、体がプルプル震えちゃって可愛いわねぇ。そんなに怯えなくても取って食いはしないわ」
オホホホと楽しげに笑っているが、クレアは少しも笑えない。
なんとか気分を落ち着かせようと紅茶を舐めてみたら、ぬるく冷ましてあった。
「私、最近クレアちゃんが全然遊んでくれなくて寂しかったのよ。攫われたと聞いたけれど、私の勘ではクレアちゃんは無事だと思うの」
はい、さすがおばさま。
その勘は正しいです。
遊びに来なくてごめんなさい。
クレアは紅茶をペロペロ舐めながら、「無」を装って聞いている。
「問題はエドガーよね。あの子、元気なふりをしているけれど、相当参ってるわよ。それはそうよね、大好きなクレアちゃんが行方不明なんだもの」
ブホォ!
クレアはあっさりと動揺し、紅茶を吹いた。
しかし夫人は平然と話を続けている。
「エドガー、騎士学校でようやく強くなれたから、クレアちゃんに告白とプロポーズをするって意気込んで出かけたのよ?」
へ?
大好き?告白?プロポーズ?
ーー私を!?
「なのにクレアちゃんには会えないし、ワンピースが残されていたなんて、とても気が気じゃないでしょうねぇ」
呑気にうさぎ生活を送っているクレアの心は、良心の呵責に苛まれ始めた。
「せめてクレアちゃんが無事なことだけでも証明出来たら、エドガーも安心するでしょうね」
うさぎのクレアを、夫人の瞳がジッと見つめている。
エドガーと同じチャコールグレーの瞳を見つめ返している内に、クレアの覚悟は決まっていた。
『わかりました。エドに全て伝えます』
プープーと鳴いて答えると、夫人は嬉しそうに美しく微笑んだのだった。
再びエドガーの部屋で独りになったクレアは、さきほどの夫人との会話を思い返し、首を傾げていた。
なんでおばさまにはバレていたのかしら?
今の私はどこから見ても立派な白うさぎよね?
おばさまはやっぱり最強なのだわ……。
約束を守らなければと、クレアはエドガーの帰りをひたすら待った。
夜更けになって、エドガーはやっと帰ってきた。
とても疲れた様子で、頬が少し痩けた気がする。
『おかえりなさい、エド』
「ただいま、うさ。まだ起きていたんだな。悪い、今日もクレアは見つからなかった。残党を捕らえたのにクレアを誘拐していないと言い張って、クレアの居場所はおろか、足どりさえ全くわからないんだ……」
ソファーにドカッと倒れ込み、頭を抱えるエドガー。
クレアは自分が無事なことを証明する為、葉っぱを手にすると、エドガーのズボンをパシパシと叩いた。
『エド、伝えたいことがあるから、ちょっとこっち向いて?』
「ん?うさ、そんな葉っぱ持ってどうしたんだ?」
おもむろにクレアは葉っぱを鼻に当てて擦ってみせた。
『ふぁ……ふぁ……ふぁックション』
「え!?は!?クレア?なんで…いや、その前にお前その格好!!」
「じゃーーん、『うさ』はクレアだったのでーす!!」
「バカ!!そんなことより早く体を隠せ!!」
真っ赤な顔で慌ててそっぽを向くエドガーをキョトンと不思議そうに見ていたクレアだったが、ようやく自分の状況に気が付いた。
私、下着姿だったのをすっかり忘れていたわ!!
じゃーんって自分から見せつけて馬鹿じゃないの!?
クレアはその場に座り込むと、腕で体を覆いながら、自分の愚かさに泣きそうになっていた。
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