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第11話 プロポーズ
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「お久しぶりです。ガリア王子」
国王が返ったのち、程なくして扉がノックされる。「どうぞ」と返すと、ガリア王子とお付きの男性が1人姿を現す。
王妃がよろしくと言っていたので、現れるのはまあ分かってはいたが……近くで見ると、その顔色の良さがやはり目に付く。間違いなく国王の能力だろう。そうでなければ、あの状態でこうも元気そうな様子は考えられない。
「やあ、見事な歌声だったよカレン。やはり君の歌声は素晴らしい」
「お誉め頂き、光栄です」
両手を広げハグをしてこようとしたので、さり気無く身を躱す。
気安く触んじゃねぇ。このぼけがと口に出来たらどれだけ幸せか。
「随分と嫌われてしまったね」
当然だ。そもそもそれ以前に、抱き着かれる様な間柄ではない。
「御病気の方はもう宜しいのですか?大変だったとお伺いしていますが」
「ああ、視力と耳鼻がいかれてしまってね。一時はは大変だったよ」
王子は肩を竦めてお道化て見せる。こっちの予定では、一時ではなく一生背負ってもらう予定だったのだが。運のいい奴だ。
「まあだが慣れだ。慣れてしまえばどうって事はないさ」
「は?……えっと、御病気は治られたのでは?」
「いや、残念ながら。医者でも手の打ちようがないそうだ」
え?どういう事?
治ってないという事は……
視界――人間全員化け物。
嗅覚――汚物の匂い。
味覚――吐しゃ物。
この三つを克服したって事か?
視覚と嗅覚はある程度慣れで耐えられる様にはなるだろう。だが味覚に関しては、水ですらのその味がするようになっているのだ。それを克服したというのが本当ならば、とんでもない強メンタルの持ち主という事になる。
「ははは、人間開き直れば何とでもなる物だ」
ガリア王子は笑う。その笑顔が無駄に眩しくとんでもなく爽やかなため、思わず毒気を抜かれてしまう。どちらにせよ、これ以上王子に手出しは出来ないのだ。過去の諍いの事は頭から追い出すとしよう。
「それで。君も知っているとは思うが、実は病気のごたごたでコーウェン伯爵令嬢との婚約が流れてしまってね」
「存じておりますわ。大変残念なお話ですが、きっとガリア王子にはもっと相応しい相手が見つかる筈です。どうか気を落とされずに」
「君は優しいね。カレン」
嫌味に決まってるだろ。言葉通り受け止めるとか、馬鹿かこいつは。
こういう鈍感な人間だから、呪いを克服できたのだろう。
「もし君さえよければ、もう一度僕と婚約して頂けないだろうか」
そう言うと王子は跪き。俺の手を取ってその甲に浮き付けを落とす。
一瞬ぞわっとなり。背筋に寒気が走る。
人の事を散々不細工呼ばわりしておいて、よくもまあそんな事が言えるもんだ。まあこいつからすりゃ、ビジュアルは人間全部化け物に変わってしまってる訳だから、顔の美醜はもうどうでも良くなったって事なのだろうが……
「お戯れを……王子」
掴まれていた手を、素早く引っ込める。出来ればハンカチで手の甲を拭きとりたいところだが、流石にそれは不敬に当たるので辞めておいた。
「僕は本気だ」
こっちも本気で嫌なので。考えるまでもありません。
「申し訳ありませんが……」
「そうか。まあ君に対するこれまでの態度を考えれば当然か」
当然です。
ていうかちゃんと理解してたのか。
だったら顔見世んなよな。
「だけど、僕はそう簡単には諦めないよ」
王子は真剣な目でそう告げる。その目に映る俺の姿は化け物のはずなのに、よくそんな真面目な顔で言えるなと感心する。まあ感心するだけで、答えは依然ノーのままな訳だが。
「……」
「今日はもう帰るよ。だけど僕は本気なんだ。考えておいてくれ」
そう言うと王子は部屋から出て行った。
そのしおらしい態度を見て思う。
ひょっとしたら、やっぱり呪いで心が壊れてしまったのではないかと。
どう考えても真面じゃない。
まあ何にせよ。
厄介な事にならない様、願うばかりだ。
国王が返ったのち、程なくして扉がノックされる。「どうぞ」と返すと、ガリア王子とお付きの男性が1人姿を現す。
王妃がよろしくと言っていたので、現れるのはまあ分かってはいたが……近くで見ると、その顔色の良さがやはり目に付く。間違いなく国王の能力だろう。そうでなければ、あの状態でこうも元気そうな様子は考えられない。
「やあ、見事な歌声だったよカレン。やはり君の歌声は素晴らしい」
「お誉め頂き、光栄です」
両手を広げハグをしてこようとしたので、さり気無く身を躱す。
気安く触んじゃねぇ。このぼけがと口に出来たらどれだけ幸せか。
「随分と嫌われてしまったね」
当然だ。そもそもそれ以前に、抱き着かれる様な間柄ではない。
「御病気の方はもう宜しいのですか?大変だったとお伺いしていますが」
「ああ、視力と耳鼻がいかれてしまってね。一時はは大変だったよ」
王子は肩を竦めてお道化て見せる。こっちの予定では、一時ではなく一生背負ってもらう予定だったのだが。運のいい奴だ。
「まあだが慣れだ。慣れてしまえばどうって事はないさ」
「は?……えっと、御病気は治られたのでは?」
「いや、残念ながら。医者でも手の打ちようがないそうだ」
え?どういう事?
治ってないという事は……
視界――人間全員化け物。
嗅覚――汚物の匂い。
味覚――吐しゃ物。
この三つを克服したって事か?
視覚と嗅覚はある程度慣れで耐えられる様にはなるだろう。だが味覚に関しては、水ですらのその味がするようになっているのだ。それを克服したというのが本当ならば、とんでもない強メンタルの持ち主という事になる。
「ははは、人間開き直れば何とでもなる物だ」
ガリア王子は笑う。その笑顔が無駄に眩しくとんでもなく爽やかなため、思わず毒気を抜かれてしまう。どちらにせよ、これ以上王子に手出しは出来ないのだ。過去の諍いの事は頭から追い出すとしよう。
「それで。君も知っているとは思うが、実は病気のごたごたでコーウェン伯爵令嬢との婚約が流れてしまってね」
「存じておりますわ。大変残念なお話ですが、きっとガリア王子にはもっと相応しい相手が見つかる筈です。どうか気を落とされずに」
「君は優しいね。カレン」
嫌味に決まってるだろ。言葉通り受け止めるとか、馬鹿かこいつは。
こういう鈍感な人間だから、呪いを克服できたのだろう。
「もし君さえよければ、もう一度僕と婚約して頂けないだろうか」
そう言うと王子は跪き。俺の手を取ってその甲に浮き付けを落とす。
一瞬ぞわっとなり。背筋に寒気が走る。
人の事を散々不細工呼ばわりしておいて、よくもまあそんな事が言えるもんだ。まあこいつからすりゃ、ビジュアルは人間全部化け物に変わってしまってる訳だから、顔の美醜はもうどうでも良くなったって事なのだろうが……
「お戯れを……王子」
掴まれていた手を、素早く引っ込める。出来ればハンカチで手の甲を拭きとりたいところだが、流石にそれは不敬に当たるので辞めておいた。
「僕は本気だ」
こっちも本気で嫌なので。考えるまでもありません。
「申し訳ありませんが……」
「そうか。まあ君に対するこれまでの態度を考えれば当然か」
当然です。
ていうかちゃんと理解してたのか。
だったら顔見世んなよな。
「だけど、僕はそう簡単には諦めないよ」
王子は真剣な目でそう告げる。その目に映る俺の姿は化け物のはずなのに、よくそんな真面目な顔で言えるなと感心する。まあ感心するだけで、答えは依然ノーのままな訳だが。
「……」
「今日はもう帰るよ。だけど僕は本気なんだ。考えておいてくれ」
そう言うと王子は部屋から出て行った。
そのしおらしい態度を見て思う。
ひょっとしたら、やっぱり呪いで心が壊れてしまったのではないかと。
どう考えても真面じゃない。
まあ何にせよ。
厄介な事にならない様、願うばかりだ。
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