最後の人生、最後の願い

総帥

文字の大きさ
上 下
84 / 111
第3章 アカデミー5年生

11 特殊魔法試験

しおりを挟む


 さてさて特殊魔法の試験です。今日は飛行と転移。精神操作は教わる前に適性を試す必要があるらしい。俺もう学んじゃってるけど…それはまた後で。まずは筆記か。

 



 なぜ特殊魔法に分類されるか、か。

 んーと。特殊魔法の3つはまず危険度が高い。まあどの魔法にも危険は付きものだが、特殊魔法は根本が違う。
 まず通常の魔法は大気中の魔力、大源マナを使ったもの。特殊魔法は身体の中の小源オドを使用する。ただしこの違いを知らない人は多い。知る必要がないからだ。
 だが特殊魔法を扱うには、オドのコントロールが必須になる。それが一番の難関と言えるだろう。
 魔道具もマナを使う。簡易魔具といったところか。だが魔法の使い方を習わないと魔道具を作動させることが出来ない。魔道具にスイッチとかないからな。


 そして特殊魔法は、通常と違い人体にも作用するものだ。転移と精神は言わずもがな、飛行もだ。ぶっちゃけただ飛ぶだけなら、空飛ぶ絨毯とか箒みたいに、何かを浮かせてその上に乗ればいい。
 やってみたが、箒だけすっ飛んでって俺は落ちた。舟を浮かべてみたらひっくり返った。服を浮かしてみたら首が締まるわ、半裸になるわ。以前授業中にジル先生に持ち上げられた時は、抱きかかえられているような感じだった。
 だが特殊で俺自身を浮かせればスピードもコントロールも自由自在。慣れれば他者を浮かすことも出来るのだ。
 まあ転移に関しては物も移せるから、その辺は研究中とのこと。魔法って複雑ね。


 「ああ、今は魔法に免許が要るんだってねえ。ま、その方が安全か。は?特殊魔法?なんだい、今の若者はオドの使い方も知らないのか。…まあ、その方が平和だねえ。
 あんたらの言う所の特殊魔法、他にも色々あるんだがねえ。あんたが使ってる〈アニマル〉とかいう魔法もだ。自覚なかったのかい?自分と魔物のオドを繋げて意思疎通をとっている。もう少し使い慣れりゃ、会話も可能になるだろうよ。

 あとは身体能力強化もね。だがあれは代償が酷くてねえ。昔、こんな男がいた。戦場において、常に身体能力を2、3倍の状態であり、一騎当千の活躍をしていた男だ。
 だがその分男は、周囲の3倍以上の早さで衰えていった。その容姿もまだ20代だというのに、まるで老人のようだったよ。
 今の人間も使ってるようだが、本当に危険な時に一瞬だけ、とかみたいだね。あれなら代償はほぼ無いだろうよ。

 まあ、そんな感じでオドを使う魔法は意外と多いのさ。その中で3つだけが免許が必要な理由なんざ知らん。転移と飛行は使用頻度が高そうだから、精神は危険度が桁違いだから…とかそんなんだろうよ。」



 以前、師匠にそう言われた事があった。なるほどー、と思ったね。師匠の教えのおかげで、筆記は全問正解だったぜイエイ!



 そして実技。まあ見せるだけだな。飛行は先生が付き添いのもと、学校の敷地内を1周するだけ。その際の安定感とか疲労度、速度なんかを見られた。いやあ、しかし飛行はやっぱ楽しい。調子に乗って高く飛びすぎて怒られた。

 次、転移。まずは指定された場所に荷物を飛ばす。それを3回こなしてから自分を飛ばす。あっさりクリアー。
 余談だが、以前自分だけ移動し、服を残してしまった男子生徒がいたとかなんとか。女子じゃなくてよかったね!その事件以来、念の為女子の試験は女性の先生が見るようになったとか。ちなみにその生徒とは父さんではなかった。また伝説を知ってしまったかと思ったのにい。


 
 「ふむ…合格だな。」

 「よっしゃ!!」

 

 ジル先生に告げられ思わずガッツポーズ!これで自由に使えるぜ。あとは免許だが、カードとかではない。魔具に登録するのだ。登録された魔具を専用の魔道具にかざせば、免許の有無がわかるらしい。



 「じゃ、このまま精神操作魔法の適性をみるぞ。移動するからついてこい。」

 「はーい。ここじゃないんですね。」

 「場所は王宮だ。」

 「はあ!?」

 思わず回れ右をしたがすぐ捕まった。


 「しょうがないだろう。本当にこの魔法を取得する生徒は少ないんだ。僕のように魔法教師になるやつや、魔法師団でもトップくらいしか使えない。そもそも学生のうちに取るやつなんて、歴代でもお前を入れて片手で数えるほどだろうよ。
 適性も試験も魔法師団本部で行う。」

 「うへぇ。」

 思ってたより大事だったんだなー。話にゃ聞いてたけどさ。





 場所変わり、現在お城にいます。会議室みたいな部屋だな。魔法師団団長の王弟殿下が直々に相手するとか。まじか。
 



 「はい、じゃあ早速始めようか。君はそこに座ってるだけでいいよ。勝手に見るから。」

 「おふぅ…はい、質問です。もし俺の適性が不合格だったらどうなりますか?すでに学んでるのですが。」

 「そうだね。大賢者様が君に教えてもいいと判断したんだろうから、大丈夫とは思うけど。最悪君の記憶を消すかな?」

 「そですか…。」

 笑顔で物騒なことをおっしゃる。まあ別にいいけど。



 「では、始めます。」


 殿下…いや団長が杖を振るう。なんだか…意識が、遠く…


 



 「さてさて。君の深層心理を見せてもらおうかな。君は一体何者なんだい?」
 
 「………。」


 穏やかな笑みを浮かべる彼に対し、ジル先生は険しい顔をするのだった。

















 (どこだここ?)

 気がつけば真っ暗な空間。亜空間を思い出すわ。ここは足場もしっかりしてるけど。てか俺、何してたんだっけ?
 

 「さあ、君の目の前にいるのは誰かな?」

 目の前?誰もいな…

 (国王陛下。)

 が、いきなり斬りかかってきた。なんで!?しかも速ええ!



 (げえっ!!ちょちょちょお待ちくださいって!父と間違えてんじゃないですか!?やばいやばい!反撃…していいのか!?とにかく逃げーる!!)

 脱兎の如く。逃げるが勝ち!!


 「なるほど。じゃあ次は?」

 
 ん?セイルだ。俺に魔法を放ってきた。当たったら怪我じゃすまなそうなやつを。
 ささっと躱し、ぶん殴って気絶させとく。



 「おや。容赦無いね。」

 (まっさかー。手加減したし。)



 「よし、次。」

 
 あれは…いつかのデブ騎士。名前は忘れた。どうやらマルを人質にし、俺を害そうとしているらしい。
 俺は短剣で奴の首を落とす。もちろん、マルには見えないように視界を隠してから。あれ、俺短剣なんて持ってたっけ?

 「…容赦無いね。」

 (当然だ。)


 「じゃあこっち。」


 ジル先生が母さんの首元に短剣を突きつけている。


 (先生…どういうつもりですか?そのまま母さんを刺すというのなら、先生だって容赦しません。)

 だが先生は、無情にも母さんを殺そうとする。

 (チッ…!させるか!!)

 先生を糸で拘束し、母さんを救う。先生は…とりあえず吊るしとこう。話が聞きたい。


 「…なんだい、その糸は。」

 (俺にしか使えないとっておき。誰にも教えてあげないよーだ。)

 「すごいな…この世界でもそんな意思を持てるとは。よっぽど他人に知られたくないらしいね。なら仕方ない。じゃあ、次で最後。」



 理事長が…父さんと殴り合ってる。


 「何故!?貴方達はただのイメージ体でも喧嘩するのかい!?」

 (あっはははは!見物見物。いけ!そこだ!おお~…理事長年の割にやるう。でも父さんの勝ち!さっすが!!)


 どうやら父さんの勝利で終わったようだ。つーかさっきから俺に話しかけてんの誰よ?なんか聞き覚えはあるようなないような。



 「はあ…最後は想定外だが、大体分かった。では、試験を終了するよ。」




 んん?試験?そういえば…今俺は魔法の適性を…





 「はっ!!?あれ、ここは…さっきの部屋?」

 「シャル、大丈夫か?」

 「ジル先生…?はっ!」

 「うおわっ!!?」

 思わず先生を簀巻きにしてしまった。なんで?つか俺何してたっけ?



 「おいこら!!なんだこれ、解け!」

 「あ、すいません。つい。」

 「つい!?」


 「まあまあ、しょうがないよ。2人には訳が分からないだろうけど。」

 「「はあ…。」」


 しゅるしゅると糸を解く。いや、本当についなんだよなあ。先生の顔見た途端に、吊るさねば!と思っちゃって。


 「さて、君の適性は合格だ。面白いものを見せてもらったよ。」

 「俺なんかしましたっけ!?」

 「まあね。教えられないけど、君の人間性を試させてもらったんだよ。
 精神操作魔法は悪用される可能性が大いにある。反魔法を習うとはいえ、相手の力量次第ではまるで意味がないからね。
 例えば国王を操る事が出来たら、もう我々にはどうしようもないだろう?この国を滅ぼす事だって出来てしまうんだよ。」

 (実を言うとこの試験、最初の国王陛下…兄上に対する反応だけで良かったんだけどね。あそこで逃げるか軽く相手するなら合格。もし殺そうとしたら不合格。嘘も誤魔化しも出来ない状態だったしね。
 この国に対する忠誠心や判断力なんかを見たかっただけなんだけど…ついやり過ぎてしまった。おかげで面白いものが見れたけど。)




 「…はい。つまり俺は、この国に無害だと認められたんでしょうか?」

 「そうだよ。あと先に言っておくけど、免許を取れたら10年に一度更新が必要だから。今は良くても、人間なんて変わるものだからね。」

 「まあ、そうですよね。」

 
 俺にそのつもりは無いが、10年後の俺はこの国に牙を剥いているかもしれないって事ね。うん、更新は大事だ。

 しかし疲れた。大した事はしてないはずなんだが、寮に帰った俺はとっとと眠りについた。これから本格的に精神魔法の勉強、頑張ろう…。
 ついでに、本来なら王宮で授業を受けるらしいのだが、俺はこのまま師匠に教わる事を許された。流石大賢者様。まあ試験はちゃんと受けるし。





 この1ヶ月後、俺は見事合格するのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

処理中です...