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第2章 アカデミー1年生
42 sideゼルブルーク
しおりを挟む俺は今、かつて通っていたアカデミーにいる。だが懐かしんでる場合ではない。急いで理事長を探す。
俺が今回の騒動を知ったのはついさっき。理事長から電話があった。
「シャルトルーズ君と友人達が誘拐された。現在友人達は発見、保護されたがシャルトルーズ君は行方不明だ。
目撃した者の話を聞くに、犯人に転移させられたと思われる。これから説明があるからお前も今すぐアカデミーに...。」
「すぐ行く。」
ブツッ。俺は早足でマリーの元に向かう。
「マリー。シャルが王都で事件に巻き込まれて行方不明らしい。俺は今すぐアカデミーに行ってくる。」
マリーは俺の言葉に顔の色を失くし、動揺している。いつもの騒ぎだったら「あらま。心配だわ」とか言いつつも冷静だからな。
町で年上の兄ちゃんと取っ組み合いになった時も(シャルが勝った)。親子喧嘩してシャルが家出した時も(屋根の上で寝てた)。同年代の子供達を集めて『死矢流斗琉飢頭隊』と書かれた旗を持ち、町内をオラオラー!と叫びながら疾走していた時も(シャルトルーズ隊と読むらしい)。...我が子だなと実感するばかりだ。
いつも必要なら叱り、その後褒めたり仲直りしたりしていたマリー。
「だ、だいじょうぶ、なの!?」
持っていた籠を落とし、俺に駆け寄ってくる。いつもの冷静さは無い。俺はそっと彼女を抱き寄せる。
「わからない。だから、行ってくる。不安かもしれないが、待っててくれ。マルを頼むぞ。」
何も分からない状況で、大丈夫だなんて言えない。彼女もそれを理解しているようだ。
「...わかったわ。行ってきて。
シャルは貴方の息子だものね...自分から何か首を突っ込んだ可能性が高いわ。」
「何も言い返せないが...お前の息子でもあるからな?」
「そうね。だからこそじゃない?」
「そうだな...じゃあ、行ってくる。」
「ええ。行ってらっしゃい。」
そして俺はアカデミーに移動した。
「理事長!!」
「ゼルブルークか。お前いきなり電話切るな。」
早速理事長を見つけたので詰め寄った。
「なんでもっと早く連絡寄越さないんすか!?いつ誘拐された!」
「落ち着け、阿呆!こちとらもう若くないんだよ!!年寄りを労らんかい!」
「20年前も同じ事言ってたじゃねーかこのボケ老人!」
「喧しいわ!!」
っと、やべえ。昔のノリで言い合いしてる場合じゃなかった。ゴホンと咳払いし、切り替える。
「あー。すいません。で?なんで連絡遅かったんですか。」
「ふむ。全員揃う前に説明しておく。会議室に行くぞ。」
そして、会議室。
「つまり友人が昨夜、シャルがいなくなったのは今日の昼だったって事か。」
「そうだ。彼がいなくなったと分かった直後に、その...居場所が分かると言う者に私も連れていかれてな...。お前に連絡する暇は無かった。
そしてその者が今から詳しく説明するという。」
「そう...ですか。その者ってのは信頼できるんですか?」
「うむ。どうやらシャルトルーズ君と知り合いのようだ。なんの魔法かは判らないが、彼らは記憶を共有出来ると言っていた。
今回シャルトルーズ君が見聞きした物事を説明してくれるらしい。
ただ...人間ではない、と思う。」
「はあ?...ついにボケ」
「てないわ!!お前も見りゃ分かるわっ!」
理事長の言葉に首を傾げながらも、全員揃うのを待つ。シャルの担任とも挨拶していたら、最後に入ってきた奴に目を奪われた。
...確かにあれは、人間とは思えない。赤黒い肌の細身の男と体格のいい男。2人は頭に角を生やしている。そして更に異形なのが下半身がまるで魚の女。肌も青い。そして3人共恐ろしく容姿が整っている。
だがそんな事はどうでもいい。...なんだ、こいつら。底がまるで見えない強さを感じる...!
俺もそこそこ魔法や武術には自信があったが、今砕かれた気分だ。勝てる気がしねえ...!シャル、どこでこんな奴らと知り合った?
気付くと細身の男がこっちを見ていた。そして何やらふむふむと頷いていた。なんなんだ?
彼らはセッキ、ガンキ、クキと名乗る。シャルの友人との事だが、理事長の話ではシャルの魔具から出てきたらしい。まさか魔法生物...?いや、んん?
いやいや。魔法生物っつーのは動くぬいぐるみって感じのほぼ愛玩生物だ。あんなクソ強そうな奴生み出せるか!
疑問は尽きないがセッキは質問を受け付けないと言ってたからな。相手の素性もわからんうちは従っておくべきだ。敵意も無いみたいだし。
...こいつの話通りなら、事件の元凶は俺じゃないのか?俺が昔捕まえた奴ら、もしくはその関係者が子供達を狙ったんだろ?そんな...。
俺は若い頃の行動を後悔してはいない。あの時はあれが最善だと思ってたし、今だってそうだ。特に父親が主犯だったから、長男の俺がやらないとって思ってた。
でもそれが、こんな形で次の世代に影響があるなんて...!何が英雄だ!自称したことはないが、自分がそう呼ばれているのは知っている。だが俺はそんな器じゃないし、聞き流してた。好きに呼べや、と放置してた。その結果が、これか?ふざけんな!!
怪我をしたという子供達に申し訳がない。俺の...せいで...。それに、シャル。
状況を聞くに、主犯はシャルを適当に飛ばしたんだろう。それは、すごく危険な行為だ。
本来転移魔法は集中して慎重に場所を指定いなければならない。もし適当にしてしまえば、海の上、砂漠のど真ん中。どこに落ちるか分からない。それこそ...亜空間に放り出される事もあるらしい。そうなったら...見つける事は不可能だ。下手をすれば身体が分断されることもある...!
その報告は無かったが、それでもシャルは...!!
いいや。シャルは必ず見つけ出す。残りの人生全てを使って探す。だが、その前に。
「この度は、私のせいであなた方のお子さんを危険な目にあせてしまい、申し訳ありません。
...謝罪して許される事ではないと分かってはいますが、己の若い頃の罪が...我が子やその友人に...このような...。」
謝罪をしなくては。いい年して涙が出そうになる。許されなくとも、俺の罪は...
「罪なのか?」
は?いやいや、はあ?こいつは何言ってんだ?と思ったが、続く言葉に反論出来なかった。
「そんな事はないっ!!」
理事長...。庇ってくれるのはすげえ嬉しいが...微妙に褒めてない...。だがその通りだ。過去の行いを否定する事も後悔する気もない!!
...って、え?俺達は続くセッキの発言に言葉を無くした。
つまり、シャルが騎士に喧嘩を売られて買った。しかも衆人環視の中圧勝。それがプライドを傷つけられ、凶行に走った。単騎じゃ返り討ちだから仲間を集めるため、有名な父親である俺に目を付けた、と?
俺は勢いよくテーブルに頭を打ち付けた。見ると理事長とフェルト先生もやっている。
...シャル!!お前間違いなく俺達の息子だ!!売られた喧嘩は即買うのはマリーそっくりだがな!!
またくだらない言い合いを始めてしまった。言っとくけどな!銅像に落書きしたのは俺だけじゃねーぞ!カルと一緒に...!とと、言わなくていいか。
その後も子供達のご両親と話したりしつつ彼らは出て行った。俺はセッキに聞きたいことが山ほどある。ここからは個人的な用だ。しかし、彼らも出て行ってしまった。...まあいい。チャンスはまだあるはずだ。
一旦家に帰りマリーに全て報告した。そうしたら彼女もシャルの友人達と両親に謝罪したいと言う。シャルの捜索も。...しばらくこの家には帰れないだろうな。
俺達は畑の世話を近所の仲のいい人達に任せた。農家と言っても、どこかと契約している訳ではない。たまに市に出したりするが、基本的に自分達が食う分しか作ってないからな。主な収入源は別にある。ほぼカモフラージュとして農業をしていた。
なので作物は近所の皆で分け合ってくれと伝え、家族を連れ王都に発つ。
今後同じような事が起きないようにしなければ。
...いや、絶対はない。ならば、起きた時にどう対処するべきかを考えないとな。
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