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第2章 アカデミー1年生
26 sideアルト
しおりを挟むさっきのシャルはどうしてしまったんだろう。ニンフ様に話しかけられた途端に顔を蒼くして、汗をかいていた。
どうにも様子がおかしいから、セイルと一緒に前に出ようとした。なのにシャルは僕達を手で制して前に出る。そしてニンフ様を軽くあしらって足早に去る。僕もセイルも急いで後を追っていく。
その時僕は、ちらりとニンフ様を見てみた。すぐ後悔した。その表情はさっきまでの可愛らしいものとは違い、虚ろな目をしてシャルを見つめていた。
教室に入ると、ライミリウム様がシャルに声をかける。彼は高位貴族で、本来なら僕ら平民が気軽に会話できるような人物ではない。
だがシャルは気軽に「ファル」と呼び、僕らに対するのと同じように接する。以前はもう少し丁寧に話していたが、最近はすっかりフランクだ。そして僕は知らなかったが、シャルはライミリウム様と従兄弟らしい。
じゃあシャルも貴族じゃないの!?と聞いたことがあるけど、ちげ~よ~と軽く返された。それにシャルは、他の貴族には丁寧に接する。
それに貴族の方々もシャルのことを様付けで呼び、尊重しているようだ。詳しく知らないが、お父様が凄い人らしい。今度聞いてみよう。
話が逸れたが、ライミリウム様が状況を尋ねてくるので僕が答える。まだ貴族と会話をするのは怖いが、セイルには任せられない。
簡単に説明するが、伝わったようで良かった。
「そうか...ありがとう。しかしヘレナ嬢か。気弱な印象しかないな...。それだけで君がこんな風になるなんて。」
僕もそう思います。
ヘレナ・ニンフ様。下位貴族で気が弱く、自分に自信がないようなイメージだ。外見は派手さは無いが可愛らしい方だと思う。それにしても、さっきの表情が気になるな...。
シャルはニンフ様が苦手のようだ。さっきまではそんな感じしてなかったのに、あのやり取りの中で何があったんだろう?
いつも女性に対しては平民であろうと紳士に対応するシャルには珍しく、嫌悪感を露わにしていた。実は、シャルの女性の扱い方を僕とセイルは参考にしている。ものすごく勉強させてもらっています。
セイルがシャルを連れて医務室に行く。足取りは覚束ないが、セイルが支えているから大丈夫だろう。僕とライミリウム様が残される。
しししししまった!!!僕はこの後どうすればいいんだ!?シャルが心配すぎて、自分のことを考えてなかった!
僕は動揺を顔に出さないように頑張った。以前の僕なら、顔どころか態度も目に見えて不審になっていただろう。
だがシャルが、「お前家継いで商人になるのか?そうだったら貴族との会話に慣れとけよー。言葉遣いもそうだが、最初は態度から直してみろ。常に余裕を見せて、動揺を悟られるな。まあ難しいと思うけどさ。」と教えてくれた。頑張るぞ!
「...そこまで緊張しなくていい。」
無理でした!バレてますねこれは!
「君はシャルの友人でもあるし、弁えているようだからな。気軽に、とは言えないが、僕に対してはもう少し砕けてくれても構わない。さっきのセイルにもそう伝えておいてくれ。
何か用事がある時も、そっちから声をかけてくれていい。特に今は、なんだかシャルが大変な事になっているようだし。」
ライミリウム様が平民を差別しない人で良かった...。でももしそうなら、例え従兄弟でもシャルは親しくしない気がするな。
「わかりました。では何かありましたら、すぐに報告します!」
「ああ、頼む。」
ライミリウム様はそう言って席に戻る。僕は次の算術の先生に、シャルが医務室にいる事を伝えて席に着く。
この授業が終わったら昼休みだから、シャルの様子を見に行こう。
......。授業中、視線を感じる。この方向は、ニンフ様か...。ちょっとシャルの気持ちがわかる。あの人怖い...。
授業が終わると、すぐにニンフ様が僕に声をかけてきた。怖い。
「アルトさん、少しいいかしら?」
「はい、なんでしょうか?」
シャルを思い出せ!柔らかい言葉で、微笑みを絶やさず!下を向かない!
「気になったのですけど、シャルトルーズ様はどちらへ?」
「...彼は少々具合が悪いようで、医務室で休んでおります。セイルが付き添っていますから、ご心配なく。」
ここで嘘をつくのは悪手だ。直感的に判断した。
「まあ...そうは言っても心配だわ。私、ちょっとお見舞いに行ってきますね。」
行かないでください悪化してしまいます!とは言えない!...いや、僕は友人としてシャルを守らないといけない!えーい、もう!
「その必要はないよ、ヘレナ嬢。僕が見てくるから。さあアルト、行くよ。」
「!はい。ではニンフ様、失礼いたします。」
「え?え?」
救世主だ!ライミリウム様は神か!?2人で教室を出る。ナイスタイミングで来てくれて助かった。いや本当に。
「ライミリウム様...ありがとうございました。本当に、助かりました...。」
「そこまでだったのか。まあ助けになれたなら良かったよ。」
ライミリウム様は苦笑しながら言った。
その後は特に会話もなく、医務室に向かう。前ならこの沈黙に耐えられなかったかもしれないが、不思議と気まずさはない。
医務室に着くと、ノーイット先生がちょうど出てきた。
「ノーイット先生。シャルの具合はどうですか?」
ライミリウム様が尋ねる。
「ああ、貴方達彼のお見舞いね。ぐっすり寝ているわ。...ちょっとぐっすり過ぎるけど。」
「どうしました?」
「付き添いのセイル君が言うには、全く動かないんですって。寝返りどころか首や手を動かすこともないらしいの。
私、ちょっと担任の先生に報告してくるわ。」
先生が去っていく。
「「......。」」
「...行きましょうか。」
「そうだな...。」
大丈夫かな...。
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