最後の人生、最後の願い

総帥

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第2章 アカデミー1年生

16 sideサルファーロ

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 「お帰りなさいませ、お坊っちゃま。」

 「ただいま。」



 「お帰り、ファル。」

 「ただいま戻りました、兄上。」

 「今日は魔具の作成をしたんだろう?内緒だと言ってたが、見せてくれないか?」

 「ふっ、兄上。シャルのお陰で素晴らしい物が出来ました。後ほど父上と母上も交えてお披露目しましょう!」

 「そ、そうか。...なんだか最近変わったな?」

 「そうでしょうか?自分ではあまり...。いや、心当たりはありますね。」

 
 完璧にシャルの影響だな...と思う。以前の僕は、いい子であろうとしていた。
 高位貴族の子息として、尊敬する父上の顔に泥を塗ることはできない。大人しくて物を欲しがることもしない、両親にも甘えない。自分でも、可愛げのない子供だったと思ってる。
 でも、物語の冒険譚は大好きだった。
 



 父上に平民になった兄がいるのは知っていた。父上はいつも楽しそうに、そして申し訳なさそうに彼について語っている。彼の話は、僕にとって物語のようで楽しかった。ゼルブルーク卿は僕のヒーローなのだ。
 父上と母上。ゼルブルーク卿と妻であるマリー殿、彼女の双子の弟であるレスト殿。直接お会いした事はないがよく知っていた。



 シャルの事を知ったのは、入学式の前日。アカデミーの理事長から連絡があった。

 「ゼルファート君、お久しぶりですね。先程まで、兄君がご子息と来ていましたよ。彼の息子の名前はシャルトルーズ。特待生としてアカデミーに入学します。今はもう学校を出て帰「有難うございます!」え。」ブツッ

 電話を途中で切り、父上がどこかにすっ飛んで行った。理事長先生の実家、オルドー家はライミリウム家と並ぶ高位貴族だ。在学中とてもお世話になったと言っていた。
 父上はどうやらレスト殿のカフェに行ったらしい。しかしゼルブルーク卿には会えなかったようで、肩を落として帰ってきた。



 そして、夕食時。

 「ファル。明日の入学式、挨拶は考えたか?」

 「はい、父上。母上と兄上に添削されましたが...。」
 
 「あれは...ねえ、母上。」

 「そうですよ、ファル。あの挨拶は堅苦し過ぎます。そして長過ぎます。旦那様でももう少し柔らかい表現をなさいますよ?」

 結局僕が考えた文は半分以上変えられた。...そんなに駄目だったか...。


 「そして明日だが...兄上もいらっしゃるだろうな。」

 「まあ...!ゼルブルーク様が?なんてお懐かしい...。」

 「しかし父上。なぜゼルブルーク卿が...?」
 昼間屋敷にいなかった兄上が聞いた。あの時の父上の慌てようは凄まじかった...。

 「ああ。息子が特待生として入学式するらしい。しかしあの兄上の子がな...。きっとマリーのお陰だろうな。」

 「あのお方、昔から勉強はお嫌いでしたものね。武術と魔法は向かう所敵なしでしたが、座学は落第ギリギリ、下から数えた方が早かったですし。」

 母上がクスクス笑いながら語る。父上の表情も柔らかく、2人にとって大事な人なんだと分かる。



 「そしてファル、お前とは同級生になるな。どんな子かはまだ分からないが...きっと、お前にとって良い出会いになるだろう。」

 「はい。僕も、早くお話ししてみたいです。」

 「とはいえ向こうの身分は平民なのでしょう?私達があまり近付いては彼に迷惑になりませんか?」
 それもそうか...。僕はともかく、シャルトルーズは周りの貴族に目を付けられかねない。

 「それに関しては...多分、問題ないだろう。」

 「ふふ。そうですね。心配なのは下位貴族の方でしょうか?」

 「ああ。高位貴族はもちろん、中位貴族も賢い者は手を出すまい。
 それに、ファルが近くにいれば我が家の後ろ盾があると勘違いするだろう。まあ実際、何かあれば可能な限り力になるつもりだが。」

 ?どういう事だ?ゼルブルーク卿が手を回すのだろうか。兄上と顔を見合わせる。

 

 「まあ、明日を楽しみにしていなさい。」





 そして入学式。シャルトルーズはすぐ分かった。特別な腕章をしているから。


 「新入生代表挨拶。」


 僕は壇上に立つ。ここからだと全体がよく見渡せるな。挨拶の文は、あの後父上にも添削され、もはや僕の考えたものとは別物だった。悲しい。



 そして挨拶も終盤に差し掛かる頃、チラッとシャルトルーズの方を見てみた。向こうもこちらを見ているので、目が合った。
 ついつい挨拶を止めて観察してしまう。


 僕とは対照的な艶やかな黒髪。さっき見た時には周りの貴族にも負けていない立ち振る舞いに、物怖じしない態度。流石ゼルブルーク卿の息子だなと感心した。
 そして彼の顔は、恐らく母君に似たのであろうか中性的で、周りの令嬢が頬を染めてチラチラ見るほどに整っている。彼が社交界にいれば、周りには沢山の人が引き寄せられるだろう。
 しかしその黒い目だけは力強く前を見据えており、それが更に彼の魅力を引き立てているのだろうと思う。


 その後なぜか睨み合いのような時間が続き、我に返った僕は急いで挨拶を終了する。

 そして席に戻ろうとした時に強い視線を感じ、ふいっと保護者席を見てみる。思わずビクッとした。

 そこには顔を完全に隠した体格のいい男性が(恐らく)僕を見ていて、隣に座る黒髪の女性以外は皆距離を置いている。僕は確信した。
 あれがゼルブルーク卿だ...。


 式が終わった後父上に報告すると、彼の姿を確認したと思いきや「あの不審者は兄上に違いない!」と近付こうとしていた。無理だったが。
 それに父上以外にも、高位と中位(一部除く)の貴族は彼に気付いたようだ。なるほど、父上の言っていた事はこれか。

 あの不審者と一緒にいるシャルトルーズは、ゼルブルーク卿の息子だと認識されただろう。彼を知る者ならば、シャルトルーズを害そうとは考えまい。ついでにライミリウム家との関係も分かるだろうし。



 そんなこんなで出会った僕らは、今では友人と呼べる間柄になっていた。早く屋敷に招待して、両親に紹介したいものだ。
 父上は僕がゼルブルーク卿に挨拶できたと伝えると、血の涙を流さんばかりに悔しがっていた。


 






 そうして今日、夕食後のお茶をしている時に
 「ご覧ください父上、母上、兄上!これが僕の魔具です。シャルのアドバイスのもと完成しました!」

 ばばーんとお披露目した。皆驚きつつも、微笑ましく僕を見る。以前の僕だったら絶対こんな杖にしないから。
 


 これからの学園生活も、シャルがいればきっと楽しいものになる。いつも、僕に新しいことを教えてくれるから。





 そして次の日学校で、シャルが僕の両親に挨拶したいと言ってきた。
 急いで家に帰り父上に報告すると、「今すぐ連れてきなさい!!お菓子の準備と、あと飲み物は...!」と大騒ぎだった。
 母上に至っては「彼に着てもらおうと思って仕立てた服があるのよ~。きっと似合うわ。それにもっと直接本人の希望を取り入れた物も必要ね」と言って仕立て屋を呼ぼうとした。

 


 流石に今すぐは無理なので、兄上と力を合わせて両親を説得したのだった。




 
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