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874 奮起
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「異界からの自立か……」
エクスペクトを後にした俺は、ニーナと手と繋いだままクラクラットに移動して、ホムンクルス計画を主導していた元アルケミストのカイメンに協力を要請した。
というのに俺の説明を聞いたカイメンときたら感心したような引いたような、半分引き攣った表情を浮かべやがったではないか。
「相変わらず貴様の考えることは凄まじいな。俺の想像など易々と飛び越えてくる」
「10歳の少女を500年間も弄り倒していたお前らアルケミストの方が凄まじいと思うけどね。で、どう? 協力はしてもらえるの?」
「ドワーフたちの悲願を変態的に言うんじゃないっ!」
間髪入れずにツッコミを入れてくるカイメンだけど、コイツが過去にアウラの外見にも拘ったって発言したのを忘れてないぞ俺は。今更掘り返す気もあんまり無いけどね。
アウラに関しては何を言っても無駄だと悟ったのか、カイメンはため息交じりに俺の質問に答えを返す。
「……協力するのは構わんが、今更俺が役に立てるとも思わんぞ?」
「知識的にはみんな大差ないと思うよ。カイメンに期待したいのは管理職としての経験かな」
「管理職? 今更俺に人を使えと?」
「最高責任者のキュールは人を使うことに慣れてなくてね。アルケミストの代表だったカイメンにサポートをお願いしたいと思ってる」
学者としてのキュールの能力に疑いは無いけど、キュールって自分勝手に興味本位で行動してきたせいで他人と共同で研究するって経験が不足してるんだよな。
ノーリッテやカレンに雇われて研究してきた実績はあるけど、最高責任者として振舞ったことは無いはずだ。サポートが必要だろう。
「組織運営に関してはロストスペクターの連中が合流すれば心配ないと思うけど、研究者の統括は研究者にやらせた方がスムーズでしょ。それにホムンクルス計画の研究経験は今回の研究に役立てられるものだと思うよ」
「……この世界の魔力の制御と、その変換についてということか。確かにインデペンデンスの研究テーマとホムンクルス計画は重なる部分が少なくないかもしれないな」
「あの1件で失われた資料も多いけど、実際に研究に携わっていたお前が居れば補足には充分すぎるでしょ。っていうかお前って俺の奴隷のままだし、問答無用で協力しやがれってんだ」
「くくっ。今の今まで忘れていたような口振りだなぁ所有者殿? 勿論協力させてもらおう」
ち、オッサンのどや顔がうっとおしい。
ルチネたちみたいな可愛い奴隷の存在なら脳に焼き付いてるけど、お前みたいなオッサン奴隷の存在なんて記憶に留めたくないんだよ俺はっ。
無事にカイメンに協力を約束させた俺たちは、少しだけクラクラットの街並みを見て回ることにした。
サーペントロードが開かれ、サーペントポーターたちが定期的に大量の物資を持ち込んできているためか、以前と比べて街全体の雰囲気が明るくなったように感じられた。
ただ、以前訪ねたティムルの実家、クラーラさんとティッタが営んでいた小さな武器屋が無くなっていた。
「へ~、ここにティムルの生家があったんだ? でも今は建物も残ってないんだねー?」
「ダンが沢山お金を渡したと言っておったからのぅ。別の場所に店を構えたのか、もしくは開かれた外の世界に飛び出したのかもしれないのじゃ」
「確か王金貨8枚も渡したんだっけ? もう一生遊んで暮らせるような額だもんね。ティムルの両親にはちょっと興味あったから会えなくて残念だったけど、引退してもおかしくないかー」
少しだけ感傷に浸っていると、俺に続いてティムルとの付き合いが長いニーナ、フラッタ、リュートがそれぞれ感想を零していた。
だけど後半は俺に対する呆れが混じっている気がするんだよ?
俺も様子を見れなかったのは残念だけど、ティッタさんたちがこの場で店を続ける意味って無かったもんな。まとまったお金が入ったら、この地を捨てて新天地を目指すのも自然か。
息子のティモシーは魔物狩りを生業としていたくらいだから、恐らく戦えるんだろうし。
「それじゃまた移動しようか。せっかくだからこのまま他の場所にも顔を出しておこう。俺が直接出向くと喜ばれるみたいだしな」
「それはそうですよ。旦那様ったら用事が無いと寝室から出てこないですからね。皆さんが敬愛する旦那様とお会いできる貴重な機会に興奮するのは無理ないです」
「俺が寝室に籠ってる原因の一端は、ヴァルゴを始め俺の奥さんがみんな魅力的だからなんだけど? というか俺の方が寝室に引きずり込まれてると言えなくもないんじゃないかなぁ?」
「ふふ。それこそ仕方ありません。私たちの愛する旦那様が魅力的過ぎますからね。他の皆さんには申し訳ありませんが旦那様を独占したくなるんですよ」
ニコニコしながら真っすぐに好意を返してくれるヴァルゴに、お手上げの意味を込めてほっぺにチュッとキスをする。するとヴァルゴも自然な流れで俺の頬にチュッと口付けしてくれるので本当に堪らない。
魔人族の集落にやってきても俺とイチャつくことをやめないヴァルゴは、バカップルとして立派に成長してくれたようだ。
「がははははっ! ダン様に嫁いでしまった時点でヴァルゴの子の顔を見るのは諦めていたんだがなぁっ! これは世界の滅びに屈している場合ではないなっ!」
「ふふっ。その頃には師匠にも槍を手放していただいて、是非とも旦那様と私の子を抱いて頂きたいですね。我ら守人たちにも槍を置く時間があっても良いと思いますから」
「神をも滅ぼす槍使いとなったお前が、お前の背を追う我らに槍を置けとはなんとも笑えるなっ! ……だが、だからこそお前はそこまで槍を究めることが出来たのかもしれん」
元々俺への忠誠心がカンストしている魔人族の皆さんには状況の説明も非常にスムーズに進み、最終的にはヴァルゴの師匠であるカランさんに妊娠の報告に来ただけのようになってしまった。
ヴァルゴとの間に授かった命を祝福してくれるのは良いんだけど、俺が来た意味が特に無かった気がして仕方ないんだよ?
建設中の集落中にヴァルゴとイチャつく姿をお見せしてから、我に返って真っ赤になっているヴァルゴを抱き締めてスペルディアに転移した。
「中立地域エクスペクトと研究機関インデペンデンスですか。私たちがどの程度ダンさんのお力になれるかは分かりませんが、我がトライラム教会の信徒は全力でダンさんに協力させていただきます」
「勿論我がサーディユニオム教も同じです。無理のない範囲で出来ることをさせていただきましょう」
スペルディアのトライラム教会に顔を出すと、ちょうどイザベルさんとサルワさんが互いの活動の打ち合わせをしていた。
……トライラム教会とサーディユニオム教というこの世界の2大宗教の協力が得られるのは嬉しいんだけど、その2人が俺に跪くのは流石にやめてもらっていいですか?
「いやいや。教主様たちの反応は無理もねーだろ……」
「シーズ? 自分よりもずっと年上の相手に跪かれる俺の身になって考えて……」
「前に説明しただろ? 俺たちの信仰の根源は実績だってよ。お前、トライラム教会とサーディユニオム教にどれだけの実績を残したかもう少し自覚しろっ」
「しかも今回の話は、トライラム様と変世の女神様たちですら成しえなかったことを成功させようって話でしょー? こう言っちゃ悪いけど、ダンを信仰するなって方が無理だと思う」
シーズとチャールが呆れるように俺を諭してくるけど、言われた俺は納得できない。だって俺がこの両者にしてきたことって、結局は資金的な援助だけだったじゃないか。
トライラム教会もサーディユニオム教も、最も辛かった冬の時代にもめげずに折れずに汚れずに、ただ高潔に教義を貫いてきたからこそ今があるはずだ。
「ダンさんは愛情は受け取ってくれるのに、信仰心は受け取ってくれないんですよねっ。だってダンさん、どこまでも私たちと自分を対等だとしか思ってないんですもんっ」
「いやいやムーリ。俺はムーリたちと同じように女神様たちのことを心から信仰してるだけだよ?」
「あははっ。ダンさんが女神様たちを信仰しているよりもずっと強く、私たちはダンさんを信仰しているんですよーだっ」
教主であるイザベルさんの前なのに俺に抱き着いて、楽しそうに俺と唾液を交換し始めるムーリ。
だがなムーリ。お前がこうやってえっちなことをすればするほど、俺の信仰心はぐんぐんと上昇し続けているのだよっ。
こんなにえっちなシスターを独り占めさせてくれてありがとうございますってトライラム様への感謝の気持ちは、教主のイザベルさんにだって負けない自信があるねっ。
イザベルさんとサルワさんはエクスペクトに同規模の拠点を作り、両方の協議を対等に広めていきたいと提案してきた。
うん。この人たち全然滅びる気が無いらしいよ。頼もしいな?
これ以上ここに留まっても俺への信仰心が強まるばかりに思えたので、さっさと別の場所に移動させていただいた。
「恐らく皆さん、ダンさんと一緒に悩めるのが嬉しいんだと思いますよ。その気持ちは私も理解できますから」
スペルディアに来たついでに夢の一夜亭の本店に顔を出すと、運よく居合わせたカラソルさんとお話をすることが出来た。
しっかし我ながら、家族と一緒に夢の一夜亭に来たのにえっちに直行しなかったことを褒めたい気分だよ。
「ダンさんのおかげで職業浸透も進み、戦闘力も資金力も以前とは比べ物になりません。そうして成長した自分たちがダンさんのお力になれることが嬉しくて仕方ないんです」
「えー。今までも俺、周りの人たちに頼りっぱなしだったよ? 特にカラソルさんには迷惑をかけた記憶があるけど」
「多分ダンさんが思っている以上の負担をかけられましたけどね?」
笑いながら、だけど確かに瞳に恨みつらみを滲ませるカラソルさん。
半分冗談だけど半分は本気の発言っぽいですね。毎度ご迷惑をおかけしてます?
「でも今までの協力はほとんど全て、ダンさんからのトップダウンによるものだったと思っています。何かを強制されたことなどありませんが、私たちは実力不足でダンさんと同じ目線には立てていなかった……」
……まるで懺悔するようなカラソルさんには悪いけど、正直何を言われているのかピンと来ない。実力不足も何も、俺に出来ないことを代わりにやってもらっていたはずなんだけどな?
俺は愛する家族を始め、本当に様々な人に支えられて今日まで生きてこれたのだ。誰か1人とでも出会わなければ死んでいたかもしれないほど、俺の歩んできた道はギリギリの日々だったと思う。
「カラソルさんの考え方に口を挟む気は無いけど、俺はみんなを実力不足だと思ったことは無いよ? 俺が実力不足だと思ったのは、むしろ俺自身の方で……」
「そんな風に思っているのは貴方だけですよダンさん。ダンさんの考え方についてはもう皆諦めてますけどね?」
俺の言葉を遮って、俺の言葉をそっくりそのまま返してくるカラソルさん。
口を挟む気は無いと言った手前、俺には自分の言葉を飲み込むことしかできない。
「別にダンさんを責めるつもりも、自分たちを卑下しているつもりも無いんです。むしろ逆です。私たちは間違いなく成長したんです。ダンさんと問題を共有できるくらいにっ」
カラソルさんは喋りながら自身の言葉に高揚感を得ているのか、段々と興奮して語気を強めていく。
瞳には強い意志の炎が宿り、決意を感じる強いまなざしを俺に向けてくる。
「今まではダンさんに言われたことを理解も出来ずになぞることしかできなかった! 言われた通りに協力することしかできなかった! だけど今回は違います! 状況を共有し問題を共有し、一緒に解決策を探って欲しいと言われたんです! これはもはや協力ではなく共闘です! あのダンさんと一緒に戦えるんですよっ!?」
「あ、あの~カラソルさん……? ちょ、ちょっと落ち着いて……」
「力を貸して欲しいですって!? そんなの断るわけないじゃないですか! 商売だけじゃない、職業浸透の知識も異種族で手を取り合うことも全て貴方が教えてくれたんです! 国も種族も超えた先に、女神様たちが本当に願った異界からの独立を目指すなんて、そんなの心躍るに決まってるじゃないですかぁっ!!」
「そう言えばこの人もドワーフだった! 未知に挑戦するって分野が琴線に触れちゃった!?」
カラソルさんが燃え上がるほど興奮してしまい、これ以上の会話は不可能だと判断して夢の一夜亭を脱出する。
そう言えばカラソルさんは、かつて奴隷落ちするドワーフを救おうと手を尽くしていたんだっけ。そんな人に実力不足は禁止ワードだったかもしれないな。
かつては同族すら助けることが出来なかった自分が、みんなと一緒にこの世界を救うことが出来る。これだけで興奮する要素満載だったわ。
ドワーフ族は興奮するほどモノ作りに奮起してくれるから、カラソルさんのやる気に水を差すのも良くないよなぁ。
「あははっ! ダンが宿に入ってえっちしないで出てくるなんて、明日世界が滅んでもおかしくないのーっ!」
「洒落にならないことを口走らないでニーナァァァ!? 大体今まで何度もあったってば―っ!?」
「うむ。口は災いの元とも言うしの。ニーナの言葉が現実のものとならぬよう宿に戻るぞダン。今すぐ妾と宿でえっちするのじゃ」
「真剣な顔でなんてこと言うのフラッターーーっ!? えっちするのは大歓迎だけど、お前マジで危機感抱いてえっちのお誘いしてるだろーーっ!?」
「あははっ。ティムルが居ないとまとまらないね。ダンとニーナの手綱を握るのはぼくにはまだ難しいよっ」
「ささ旦那さまっ。ニーナとフラッタの言う通りですっ。夢の一夜亭でなくも構いませんからっ」
様々な理由から宿に連れ込まれた俺は、その後めくるめく家族の時間を過ごしてしまった。
うん。やっぱり俺が寝室に籠るのは、大好きなみんながえっちすぎるのが悪いと思うんだよ?
エクスペクトを後にした俺は、ニーナと手と繋いだままクラクラットに移動して、ホムンクルス計画を主導していた元アルケミストのカイメンに協力を要請した。
というのに俺の説明を聞いたカイメンときたら感心したような引いたような、半分引き攣った表情を浮かべやがったではないか。
「相変わらず貴様の考えることは凄まじいな。俺の想像など易々と飛び越えてくる」
「10歳の少女を500年間も弄り倒していたお前らアルケミストの方が凄まじいと思うけどね。で、どう? 協力はしてもらえるの?」
「ドワーフたちの悲願を変態的に言うんじゃないっ!」
間髪入れずにツッコミを入れてくるカイメンだけど、コイツが過去にアウラの外見にも拘ったって発言したのを忘れてないぞ俺は。今更掘り返す気もあんまり無いけどね。
アウラに関しては何を言っても無駄だと悟ったのか、カイメンはため息交じりに俺の質問に答えを返す。
「……協力するのは構わんが、今更俺が役に立てるとも思わんぞ?」
「知識的にはみんな大差ないと思うよ。カイメンに期待したいのは管理職としての経験かな」
「管理職? 今更俺に人を使えと?」
「最高責任者のキュールは人を使うことに慣れてなくてね。アルケミストの代表だったカイメンにサポートをお願いしたいと思ってる」
学者としてのキュールの能力に疑いは無いけど、キュールって自分勝手に興味本位で行動してきたせいで他人と共同で研究するって経験が不足してるんだよな。
ノーリッテやカレンに雇われて研究してきた実績はあるけど、最高責任者として振舞ったことは無いはずだ。サポートが必要だろう。
「組織運営に関してはロストスペクターの連中が合流すれば心配ないと思うけど、研究者の統括は研究者にやらせた方がスムーズでしょ。それにホムンクルス計画の研究経験は今回の研究に役立てられるものだと思うよ」
「……この世界の魔力の制御と、その変換についてということか。確かにインデペンデンスの研究テーマとホムンクルス計画は重なる部分が少なくないかもしれないな」
「あの1件で失われた資料も多いけど、実際に研究に携わっていたお前が居れば補足には充分すぎるでしょ。っていうかお前って俺の奴隷のままだし、問答無用で協力しやがれってんだ」
「くくっ。今の今まで忘れていたような口振りだなぁ所有者殿? 勿論協力させてもらおう」
ち、オッサンのどや顔がうっとおしい。
ルチネたちみたいな可愛い奴隷の存在なら脳に焼き付いてるけど、お前みたいなオッサン奴隷の存在なんて記憶に留めたくないんだよ俺はっ。
無事にカイメンに協力を約束させた俺たちは、少しだけクラクラットの街並みを見て回ることにした。
サーペントロードが開かれ、サーペントポーターたちが定期的に大量の物資を持ち込んできているためか、以前と比べて街全体の雰囲気が明るくなったように感じられた。
ただ、以前訪ねたティムルの実家、クラーラさんとティッタが営んでいた小さな武器屋が無くなっていた。
「へ~、ここにティムルの生家があったんだ? でも今は建物も残ってないんだねー?」
「ダンが沢山お金を渡したと言っておったからのぅ。別の場所に店を構えたのか、もしくは開かれた外の世界に飛び出したのかもしれないのじゃ」
「確か王金貨8枚も渡したんだっけ? もう一生遊んで暮らせるような額だもんね。ティムルの両親にはちょっと興味あったから会えなくて残念だったけど、引退してもおかしくないかー」
少しだけ感傷に浸っていると、俺に続いてティムルとの付き合いが長いニーナ、フラッタ、リュートがそれぞれ感想を零していた。
だけど後半は俺に対する呆れが混じっている気がするんだよ?
俺も様子を見れなかったのは残念だけど、ティッタさんたちがこの場で店を続ける意味って無かったもんな。まとまったお金が入ったら、この地を捨てて新天地を目指すのも自然か。
息子のティモシーは魔物狩りを生業としていたくらいだから、恐らく戦えるんだろうし。
「それじゃまた移動しようか。せっかくだからこのまま他の場所にも顔を出しておこう。俺が直接出向くと喜ばれるみたいだしな」
「それはそうですよ。旦那様ったら用事が無いと寝室から出てこないですからね。皆さんが敬愛する旦那様とお会いできる貴重な機会に興奮するのは無理ないです」
「俺が寝室に籠ってる原因の一端は、ヴァルゴを始め俺の奥さんがみんな魅力的だからなんだけど? というか俺の方が寝室に引きずり込まれてると言えなくもないんじゃないかなぁ?」
「ふふ。それこそ仕方ありません。私たちの愛する旦那様が魅力的過ぎますからね。他の皆さんには申し訳ありませんが旦那様を独占したくなるんですよ」
ニコニコしながら真っすぐに好意を返してくれるヴァルゴに、お手上げの意味を込めてほっぺにチュッとキスをする。するとヴァルゴも自然な流れで俺の頬にチュッと口付けしてくれるので本当に堪らない。
魔人族の集落にやってきても俺とイチャつくことをやめないヴァルゴは、バカップルとして立派に成長してくれたようだ。
「がははははっ! ダン様に嫁いでしまった時点でヴァルゴの子の顔を見るのは諦めていたんだがなぁっ! これは世界の滅びに屈している場合ではないなっ!」
「ふふっ。その頃には師匠にも槍を手放していただいて、是非とも旦那様と私の子を抱いて頂きたいですね。我ら守人たちにも槍を置く時間があっても良いと思いますから」
「神をも滅ぼす槍使いとなったお前が、お前の背を追う我らに槍を置けとはなんとも笑えるなっ! ……だが、だからこそお前はそこまで槍を究めることが出来たのかもしれん」
元々俺への忠誠心がカンストしている魔人族の皆さんには状況の説明も非常にスムーズに進み、最終的にはヴァルゴの師匠であるカランさんに妊娠の報告に来ただけのようになってしまった。
ヴァルゴとの間に授かった命を祝福してくれるのは良いんだけど、俺が来た意味が特に無かった気がして仕方ないんだよ?
建設中の集落中にヴァルゴとイチャつく姿をお見せしてから、我に返って真っ赤になっているヴァルゴを抱き締めてスペルディアに転移した。
「中立地域エクスペクトと研究機関インデペンデンスですか。私たちがどの程度ダンさんのお力になれるかは分かりませんが、我がトライラム教会の信徒は全力でダンさんに協力させていただきます」
「勿論我がサーディユニオム教も同じです。無理のない範囲で出来ることをさせていただきましょう」
スペルディアのトライラム教会に顔を出すと、ちょうどイザベルさんとサルワさんが互いの活動の打ち合わせをしていた。
……トライラム教会とサーディユニオム教というこの世界の2大宗教の協力が得られるのは嬉しいんだけど、その2人が俺に跪くのは流石にやめてもらっていいですか?
「いやいや。教主様たちの反応は無理もねーだろ……」
「シーズ? 自分よりもずっと年上の相手に跪かれる俺の身になって考えて……」
「前に説明しただろ? 俺たちの信仰の根源は実績だってよ。お前、トライラム教会とサーディユニオム教にどれだけの実績を残したかもう少し自覚しろっ」
「しかも今回の話は、トライラム様と変世の女神様たちですら成しえなかったことを成功させようって話でしょー? こう言っちゃ悪いけど、ダンを信仰するなって方が無理だと思う」
シーズとチャールが呆れるように俺を諭してくるけど、言われた俺は納得できない。だって俺がこの両者にしてきたことって、結局は資金的な援助だけだったじゃないか。
トライラム教会もサーディユニオム教も、最も辛かった冬の時代にもめげずに折れずに汚れずに、ただ高潔に教義を貫いてきたからこそ今があるはずだ。
「ダンさんは愛情は受け取ってくれるのに、信仰心は受け取ってくれないんですよねっ。だってダンさん、どこまでも私たちと自分を対等だとしか思ってないんですもんっ」
「いやいやムーリ。俺はムーリたちと同じように女神様たちのことを心から信仰してるだけだよ?」
「あははっ。ダンさんが女神様たちを信仰しているよりもずっと強く、私たちはダンさんを信仰しているんですよーだっ」
教主であるイザベルさんの前なのに俺に抱き着いて、楽しそうに俺と唾液を交換し始めるムーリ。
だがなムーリ。お前がこうやってえっちなことをすればするほど、俺の信仰心はぐんぐんと上昇し続けているのだよっ。
こんなにえっちなシスターを独り占めさせてくれてありがとうございますってトライラム様への感謝の気持ちは、教主のイザベルさんにだって負けない自信があるねっ。
イザベルさんとサルワさんはエクスペクトに同規模の拠点を作り、両方の協議を対等に広めていきたいと提案してきた。
うん。この人たち全然滅びる気が無いらしいよ。頼もしいな?
これ以上ここに留まっても俺への信仰心が強まるばかりに思えたので、さっさと別の場所に移動させていただいた。
「恐らく皆さん、ダンさんと一緒に悩めるのが嬉しいんだと思いますよ。その気持ちは私も理解できますから」
スペルディアに来たついでに夢の一夜亭の本店に顔を出すと、運よく居合わせたカラソルさんとお話をすることが出来た。
しっかし我ながら、家族と一緒に夢の一夜亭に来たのにえっちに直行しなかったことを褒めたい気分だよ。
「ダンさんのおかげで職業浸透も進み、戦闘力も資金力も以前とは比べ物になりません。そうして成長した自分たちがダンさんのお力になれることが嬉しくて仕方ないんです」
「えー。今までも俺、周りの人たちに頼りっぱなしだったよ? 特にカラソルさんには迷惑をかけた記憶があるけど」
「多分ダンさんが思っている以上の負担をかけられましたけどね?」
笑いながら、だけど確かに瞳に恨みつらみを滲ませるカラソルさん。
半分冗談だけど半分は本気の発言っぽいですね。毎度ご迷惑をおかけしてます?
「でも今までの協力はほとんど全て、ダンさんからのトップダウンによるものだったと思っています。何かを強制されたことなどありませんが、私たちは実力不足でダンさんと同じ目線には立てていなかった……」
……まるで懺悔するようなカラソルさんには悪いけど、正直何を言われているのかピンと来ない。実力不足も何も、俺に出来ないことを代わりにやってもらっていたはずなんだけどな?
俺は愛する家族を始め、本当に様々な人に支えられて今日まで生きてこれたのだ。誰か1人とでも出会わなければ死んでいたかもしれないほど、俺の歩んできた道はギリギリの日々だったと思う。
「カラソルさんの考え方に口を挟む気は無いけど、俺はみんなを実力不足だと思ったことは無いよ? 俺が実力不足だと思ったのは、むしろ俺自身の方で……」
「そんな風に思っているのは貴方だけですよダンさん。ダンさんの考え方についてはもう皆諦めてますけどね?」
俺の言葉を遮って、俺の言葉をそっくりそのまま返してくるカラソルさん。
口を挟む気は無いと言った手前、俺には自分の言葉を飲み込むことしかできない。
「別にダンさんを責めるつもりも、自分たちを卑下しているつもりも無いんです。むしろ逆です。私たちは間違いなく成長したんです。ダンさんと問題を共有できるくらいにっ」
カラソルさんは喋りながら自身の言葉に高揚感を得ているのか、段々と興奮して語気を強めていく。
瞳には強い意志の炎が宿り、決意を感じる強いまなざしを俺に向けてくる。
「今まではダンさんに言われたことを理解も出来ずになぞることしかできなかった! 言われた通りに協力することしかできなかった! だけど今回は違います! 状況を共有し問題を共有し、一緒に解決策を探って欲しいと言われたんです! これはもはや協力ではなく共闘です! あのダンさんと一緒に戦えるんですよっ!?」
「あ、あの~カラソルさん……? ちょ、ちょっと落ち着いて……」
「力を貸して欲しいですって!? そんなの断るわけないじゃないですか! 商売だけじゃない、職業浸透の知識も異種族で手を取り合うことも全て貴方が教えてくれたんです! 国も種族も超えた先に、女神様たちが本当に願った異界からの独立を目指すなんて、そんなの心躍るに決まってるじゃないですかぁっ!!」
「そう言えばこの人もドワーフだった! 未知に挑戦するって分野が琴線に触れちゃった!?」
カラソルさんが燃え上がるほど興奮してしまい、これ以上の会話は不可能だと判断して夢の一夜亭を脱出する。
そう言えばカラソルさんは、かつて奴隷落ちするドワーフを救おうと手を尽くしていたんだっけ。そんな人に実力不足は禁止ワードだったかもしれないな。
かつては同族すら助けることが出来なかった自分が、みんなと一緒にこの世界を救うことが出来る。これだけで興奮する要素満載だったわ。
ドワーフ族は興奮するほどモノ作りに奮起してくれるから、カラソルさんのやる気に水を差すのも良くないよなぁ。
「あははっ! ダンが宿に入ってえっちしないで出てくるなんて、明日世界が滅んでもおかしくないのーっ!」
「洒落にならないことを口走らないでニーナァァァ!? 大体今まで何度もあったってば―っ!?」
「うむ。口は災いの元とも言うしの。ニーナの言葉が現実のものとならぬよう宿に戻るぞダン。今すぐ妾と宿でえっちするのじゃ」
「真剣な顔でなんてこと言うのフラッターーーっ!? えっちするのは大歓迎だけど、お前マジで危機感抱いてえっちのお誘いしてるだろーーっ!?」
「あははっ。ティムルが居ないとまとまらないね。ダンとニーナの手綱を握るのはぼくにはまだ難しいよっ」
「ささ旦那さまっ。ニーナとフラッタの言う通りですっ。夢の一夜亭でなくも構いませんからっ」
様々な理由から宿に連れ込まれた俺は、その後めくるめく家族の時間を過ごしてしまった。
うん。やっぱり俺が寝室に籠るのは、大好きなみんながえっちすぎるのが悪いと思うんだよ?
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