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「魔物狩りと魔力量の相関関係は興味深いけど……。今重要なのは奈落の変化だね」
俺たちが収集してきたデータを確認したキュールは、意外にも興奮より警戒した様子を見せた。
俺は本日同行できなかったティムルに跨がってもらい、両側のシャロとカレンの下着の中を弄りながらキュールの話に耳を傾ける。
「奈落にはアウターエフェクトの出現が確認できていないけれど、我が家が何度か魔物を掃討しているから多少の変化はあるだろう。……でもこの数値はちょっとその範疇を超えてるね」
「ガルフェリア討伐前後で、奈落最深部の魔力が数倍になってるもんね。でもこれがガルフェリア討伐によるコラプサー襲来の予兆だとしたらさ、なんでマグナトネリコの時には同じことが起きなかったのか、それが分からないんだよ」
今回計測したデータを参考にすると、アウターの外で魔物を滅ぼしてもアウター内の魔力に影響は無いんだけど、例外的に聖域の樹海の魔力は大きく変動するのが確認されている。
そして終の神ガルフェリアと世界呪マグナトネリコを討伐した時の魔力量は、そこまで大きな開きは無いように思えた。
「神器も用いずに神と同等の存在を呼び出したのは、ガルシアさんとノーリッテという依り代の資質に差があったのかもしれないけど、少なくとも世界呪を滅ぼした後には奈落に大きな変化は無かった。なのにどうして今回だけ影響が出たんだろう?」
「確かにデータ上はほぼ同等の存在に思えるね……。というかメナス、いやノーリッテは神器も無く、本当に人の意志だけで神と呼ぶに相応しい存在を呼び出してしまっていたんだねぇ」
それを滅ぼすダンさんはいったい何なのかなぁと余計なひと言を残しつつ、考える時間が欲しいと黙り込むキュール。
俺は今日離れ離れだった3人とねっとり唾液を交換しつつ、ティムルの中に何度も興奮を解き放つ。
「ガルフェリアとマグナトネリコが同格の存在だとするなら……。前回と今回の違いはダンさんたちの方にあるんじゃない?」
「俺たちの方に? でも職業浸透は世界呪を滅ぼした時と大差ないよね?」
「職業浸透数は変わってなくても、ダンはあの時よりもずっとずっと強くなってるよ?」
「へ?」
会話するためにキスの場所を3人の乳首に変えた俺に、ニーナが当然のように言い切った。
そして俺が3人の乳首に舌を押し当ててその味と硬さに気を取られている間に、これまた自然な口調で言葉を続けるニーナ。
「世界呪を滅ぼした時は私たち6人で一緒になって戦ったの。でもガルフェリアの時、ダンはたった1人であっさりとガルフェリアを圧倒したじゃない。ホワイトラビットやマーダーグリズリーの方が、まだダンを苦戦させたと思うのー」
「うっ……。ま、まぁ確かに思ったより弱かったのは認めるけど……!」
「ダンに限った話ではないがのう。妾もヴァルゴもニーナも、マグナトネリコと戦った時よりずっと強くなっているのじゃ。ガルフェリア戦では戦闘に加わらなかったティムルも然り、なのじゃ」
「え、えぇ~……。その理屈で言っちゃうと、コラプサーを呼び寄せたのは完全に俺たちのせいになっちゃうけどぉ……?」
コラプサーの襲来が誰のせいだったとしても、迎撃し殲滅し滅ぼす覚悟は既に決まっているけれど、強さを究めたせいで究極の終焉を導く存在を呼び寄せてしまったのだとしたら笑えないんだけど?
そんなこと言ったら。コラプサーを退けた後にも別の脅威を呼び寄せてしまいそうだしさぁ……。
微妙な気分を紛らわすためにカレンの真っ赤な乳首に歯を立てていると、俺の気分を察したヴァルゴが別の可能性を示唆してくれた。
「って、そうですよキュール。それこそ神器の有無は大きかったんじゃないですか? しかもガルフェリアは3つの神器全てを取り込んでいたのですから、その影響は大きかったでしょう」
「あっ、それに加えてガルフェリアの時はアウターが消滅してないよっ。ガルシア陛下はヴァンダライズの魔力をその身に取り入れたように見えたけど、ノーリッテはアウターそのものと同化してたよね」
「……なるほど。メナスは貪汚の呪具とアウターの両方を取り込むことで、己の内に2つの扉を開いた形になる。一方でガルシア陛下が開いた扉は呼び水の鏡だけ……。アウターを突き破ったヴァンダライズが如何に強力であっても、それは一過性の魔力に過ぎなかったと考えれば……」
ヴァルゴとリュートの意見に、これまたキュールが考え込んだ。
待っている間はキスしたりおっぱい吸ったりできるから苦じゃないんだけど、流石にティムルに注ぎ込みすぎたのでカレンと位置を交換して……っと。
「そう言えばガルシア陛下はノーリッテと違い、ダンに首を刎ねられるまでは魔物化しなかったのじゃ。ノーリッテは始めから魔物化しておったのも違うと言えば違うのじゃ」
「ヴァンダライズの魔力は異界の魔力ともこの世界の魔力とも微妙に違う、もっと純粋な『力』と呼ぶに相応しいエネルギーなんだと思う。で、バルバロイは識の水晶によって、そのエネルギーを魔法強化に転化する術を知ったんだろうね」
「魔法強化とはなんじゃ?」
「職業浸透と同じだと思っていいよフラッタ。職業による制限や浸透の上限が無いってだけで」
……ふと、識の水晶さえあれば魔法強化の真似事が可能なら、かつての王と呼ばれた原初のエルフがどうして同じことをしなかったのか気になった。
しなかったのではなく、出来なかったのかもしれないな。
職業補正の恩恵無くして強力な魔物を倒すことは難しいし、職業の祝福が無かった時代は魔物を倒しても浸透は進まない。ドロップアイテムを加工することも出来ない。
ヴァンダライズに匹敵する魔力なんて神器でも使わなきゃ用意できなかっただろうし、それで用意した魔力も結局異界の魔力だから魔法強化には使えなかったわけだ。無理に取り込んだら魔物化しちゃうから。
そもそもあの時のガルシアさんの超強化が永続的なものだったのかも怪しいしな。
ヴァンダライズの魔力を取り込んだことで魔法強化が一気に進んだけれど、魔物化していなかったことを考えると呼び水の鏡は動いていなかったわけで、魔力を消費しきったら終わるような一時的な強化だったと考えるのが妥当だ。
「ガルシアさんが人の姿だったときは、俺たちが放ったヴァンダライズの魔力を行使していた。それが死をきっかけに呼び水の鏡が発動し異界の扉が開いたんだ。思い返してみればノーリッテも同じで、1度マグナトネリコを滅ぼしたことをトリガーに世界呪に成長したんだっけ」
「ふむ。ならばそこは逆に共通点ということかの?」
「ん~……ちょっと埒が明かないわねぇ。ねぇダン。こういう疑問こそルーラーズコアで解消できないのかしらぁ?」
「推論や予測は識の水晶の役割なんだよお姉さん。ただコラプサーに関しては最優先かつ緊急性のある情報として一方的に警告されたんだ」
休憩中のティムルの乳首をシコシコと扱きながら、ルーラーズコアは俺たちの疑問に答えてくれないことを説明する。
ルーラーズコアの機能は基本的にこの世界の管理、データ収集、そして記録なのだ。そのデータを基に推論を生み出すには、使用者の疑問に答えてくれるという識の水晶が必要だった。
「ルーラーズコアは基本的に全自動で動いていて、過去の情報を基に現在の世界を管理する機能に振り切ってる神器なんだ。記録の改竄は不可能だし、管理に干渉するのもかなり難しい。それこそコラプサーが襲来するクラスじゃないと管理システムに干渉することは出来ないっぽいね」
「あはーっ。世界が滅亡するレベルの事態が起こらないと干渉できないわけねぇ。ダンは既に何度か解決してる気がするけどっ」
「ん~。なら一ヵ月単位じゃなくて、世界呪を滅ぼした瞬間とガルフェリアを滅ぼした瞬間の魔力のデータをもう少し細かく引き出せるかい? 焦点を狭めた方が違いは見つけやすいと思うんだ」
「ちょっと待ってねキュール……」
1度足を運んだおかげか、家に居てカレンの中にたっぷりと出しながらでも聖域の樹海のデータを引き出せるようだ。
恐らくこれは元々何処からでも情報を引きだせたんだろうけど、俺のイメージとルーラーズコアが上手くリンクしていないと機能しないのだろう。
今日足を運んだアウターの情報は引き出せるけど、まだ改めて足を運んでいないアウターの情報は引き出せなかった。
「ええっと……。ルーラーズコアの機能的には、俺が知覚できないほどの一瞬一瞬のデータすら切り取ることが出来るようではあるよ。意味無いとは思うけど」
「えっと、そうだね……。それなら出現1時間前から討伐後24時間後までの魔力量を、1時間単位で区切って調べて欲しい。出現と討伐、そして時間経過による魔力変化を知りたいんだ」
「それくらいなら問題なさそうだ。読み上げるから記録してねー」
キュールに言われたデータを引き出してみると、魔物を討伐したことで大気に還元された魔力は、3時間もしないうちに平時の数値に戻っていることが分かった。
しかし両者を比べてみると、ガルフェリアを滅ぼした後の方が数値は大きいのに、格段に速いペースで平時の値に戻っていることが判明した。
「月単位で切り取ると差異が見つけられなかったけど、細かく切り取ってみたら両者には明確に差があるね……」
「むー? ガルフェリアを倒した時の魔力の方が遥かに大きいのに、その魔力が失われるのも早かったってこと? でもどうしてかなぁ……?」
「く~っ! 『万象儀』のデータも欲しいなぁ!」
「ばんしょうぎ?」
「フラグニークに設置してある、大気中の魔力量を測定するマジックアイテムだよ!」
聞き慣れないキュールの言葉に首を傾げてみせると、ちょっともどかしそうにしながら答えてくれるキュール。
フラグニークの最奥の間近くに設置してある大型マジックアイテムらしく、スペルディアなんかにもちゃんと設置してあるそうだ。
その主な用途は魔力異常による災害の予測、アウターの異変やアウターエフェクトの出現感知などらしい。
アウターエフェクトはアウターの境界壁を通過してくるためか、大気中の魔力に微妙な変化が現れるそうだ。そして造魔アウターエフェクトにはそれが無いわけね。
「陛下っ、ガルフェリアを倒した時の魔力量って記録されてますよねっ!? 今から取ってきていいですか!?」
「……済まんがキュール。確かめていないから確証はないが、多分あの時のデータは残ってないと思うぞ?」
「は、はぁっ!? 終の神を滅ぼした瞬間のデータなんて研究者が見逃すはずが……」
「世界の終焉を予感してまでデータ収集を続けられる者などそうはいないだろう。特にあの時は世界中の意識がガルフェリアに向いていたからな」
「くっ……! それじゃ王国にも残ってないのか……!?」
貴重なデータが記録されていない可能性に、ワナワナと震えるキュール。
けれどそんなキュールに、チャールが冷静にツッコミを入れる。
「ちょっと待ってキュールさん。悔しそうにしてるけど……それってダンの引き出した情報で事足りない?」
「そうかもしれないけどぉ! 情報は多いに越したことはないじゃないかっ!」
「それには同意すっけど、同じ情報を複数並べても意味ねぇだろまったく……」
「ぐぐっ……! シーズまでそんなこと言わないでくれたまえよぉ……!」
冷静なパーティメンバーの様子に、自分が興奮しすぎていたことに気付いて赤面するキュール。
帝国に居た頃はキュールが観測データを記録していたらしく、何か起こった時はとりあえず万象儀のデータを確認する癖がついていたそうだ。
「キュールさんが落ち着いてくれたのは良いとして……。なんでガルフェリアの方はこんなに急速に魔力が戻ってるんだろうね? それとも世界呪の方が留まりすぎてるの? う~ん……」
「何かに魔力が消費された? だけどどっちの場合もその後に目立った事件や騒動は起こってねぇよなぁ?」
「むぅ……。残念だけどこれは調査が必要そうだね。研究所に持ち帰って検討しようか。明日以降、別のアウターのデータも増えるわけだしさ」
この場で結論を出すことが難しいと判断したのか、キュールは一旦この問題を持ち帰ることにしたようだ。
データが増えれば新しい見方が思いつくかもしれないしな。任せておこう。
「ん~……。そんなことよりさダン……」
「ニーナ?」
「全然違うことだけど、どうしても確認したいことがあるんだー……」
悩んでいる風だったから一緒に考えていてくれたと思ってたんだけど、どうやらニーナは全く別のことを考えていたようだ。
けれど彼女の様子は真剣で、そしてちょっと青褪めているように見えるのが気になった。
「……今更って思うかもしれないけど、コラプサーについて改めて確認させて欲しいの」
「勿論いいよ。ちょうど話もひと段落したところだし」
「じゃあ聞くけど……」
マイペースなニーナにしては珍しく、なんだかかなり聞き辛そうにしているな?
確かにコラプサーの存在は脅威だけど、まだ現れてもいない相手の情報を確認するだけでなんでこんなに怯えてるんだ?
「女神様たちの世界を滅ぼしたコラプサーには、女神様たちの世界の魔力の根源が取り込まれてるんだよね?」
「うんうん。半永久的に魔力を生み出し続けるという夢のマジックアイテム『デウス・エクス・マキナ』。魔力を取り込む性質があるコラプサーは、デウス・エクス・マキナに反応して女神様の世界に現れたと想定されてるね」
「つまり、この世界に流れ込んでいる異界の魔力って、そのデウス・エクス・マキナから発生したものなんじゃないの?」
「うんうん、そうだね……って、あれ?」
「……ねぇダン。コラプサーが居なくなった後、この世界って存続できるのかなぁ?」
…………………………あ。
俺たちが収集してきたデータを確認したキュールは、意外にも興奮より警戒した様子を見せた。
俺は本日同行できなかったティムルに跨がってもらい、両側のシャロとカレンの下着の中を弄りながらキュールの話に耳を傾ける。
「奈落にはアウターエフェクトの出現が確認できていないけれど、我が家が何度か魔物を掃討しているから多少の変化はあるだろう。……でもこの数値はちょっとその範疇を超えてるね」
「ガルフェリア討伐前後で、奈落最深部の魔力が数倍になってるもんね。でもこれがガルフェリア討伐によるコラプサー襲来の予兆だとしたらさ、なんでマグナトネリコの時には同じことが起きなかったのか、それが分からないんだよ」
今回計測したデータを参考にすると、アウターの外で魔物を滅ぼしてもアウター内の魔力に影響は無いんだけど、例外的に聖域の樹海の魔力は大きく変動するのが確認されている。
そして終の神ガルフェリアと世界呪マグナトネリコを討伐した時の魔力量は、そこまで大きな開きは無いように思えた。
「神器も用いずに神と同等の存在を呼び出したのは、ガルシアさんとノーリッテという依り代の資質に差があったのかもしれないけど、少なくとも世界呪を滅ぼした後には奈落に大きな変化は無かった。なのにどうして今回だけ影響が出たんだろう?」
「確かにデータ上はほぼ同等の存在に思えるね……。というかメナス、いやノーリッテは神器も無く、本当に人の意志だけで神と呼ぶに相応しい存在を呼び出してしまっていたんだねぇ」
それを滅ぼすダンさんはいったい何なのかなぁと余計なひと言を残しつつ、考える時間が欲しいと黙り込むキュール。
俺は今日離れ離れだった3人とねっとり唾液を交換しつつ、ティムルの中に何度も興奮を解き放つ。
「ガルフェリアとマグナトネリコが同格の存在だとするなら……。前回と今回の違いはダンさんたちの方にあるんじゃない?」
「俺たちの方に? でも職業浸透は世界呪を滅ぼした時と大差ないよね?」
「職業浸透数は変わってなくても、ダンはあの時よりもずっとずっと強くなってるよ?」
「へ?」
会話するためにキスの場所を3人の乳首に変えた俺に、ニーナが当然のように言い切った。
そして俺が3人の乳首に舌を押し当ててその味と硬さに気を取られている間に、これまた自然な口調で言葉を続けるニーナ。
「世界呪を滅ぼした時は私たち6人で一緒になって戦ったの。でもガルフェリアの時、ダンはたった1人であっさりとガルフェリアを圧倒したじゃない。ホワイトラビットやマーダーグリズリーの方が、まだダンを苦戦させたと思うのー」
「うっ……。ま、まぁ確かに思ったより弱かったのは認めるけど……!」
「ダンに限った話ではないがのう。妾もヴァルゴもニーナも、マグナトネリコと戦った時よりずっと強くなっているのじゃ。ガルフェリア戦では戦闘に加わらなかったティムルも然り、なのじゃ」
「え、えぇ~……。その理屈で言っちゃうと、コラプサーを呼び寄せたのは完全に俺たちのせいになっちゃうけどぉ……?」
コラプサーの襲来が誰のせいだったとしても、迎撃し殲滅し滅ぼす覚悟は既に決まっているけれど、強さを究めたせいで究極の終焉を導く存在を呼び寄せてしまったのだとしたら笑えないんだけど?
そんなこと言ったら。コラプサーを退けた後にも別の脅威を呼び寄せてしまいそうだしさぁ……。
微妙な気分を紛らわすためにカレンの真っ赤な乳首に歯を立てていると、俺の気分を察したヴァルゴが別の可能性を示唆してくれた。
「って、そうですよキュール。それこそ神器の有無は大きかったんじゃないですか? しかもガルフェリアは3つの神器全てを取り込んでいたのですから、その影響は大きかったでしょう」
「あっ、それに加えてガルフェリアの時はアウターが消滅してないよっ。ガルシア陛下はヴァンダライズの魔力をその身に取り入れたように見えたけど、ノーリッテはアウターそのものと同化してたよね」
「……なるほど。メナスは貪汚の呪具とアウターの両方を取り込むことで、己の内に2つの扉を開いた形になる。一方でガルシア陛下が開いた扉は呼び水の鏡だけ……。アウターを突き破ったヴァンダライズが如何に強力であっても、それは一過性の魔力に過ぎなかったと考えれば……」
ヴァルゴとリュートの意見に、これまたキュールが考え込んだ。
待っている間はキスしたりおっぱい吸ったりできるから苦じゃないんだけど、流石にティムルに注ぎ込みすぎたのでカレンと位置を交換して……っと。
「そう言えばガルシア陛下はノーリッテと違い、ダンに首を刎ねられるまでは魔物化しなかったのじゃ。ノーリッテは始めから魔物化しておったのも違うと言えば違うのじゃ」
「ヴァンダライズの魔力は異界の魔力ともこの世界の魔力とも微妙に違う、もっと純粋な『力』と呼ぶに相応しいエネルギーなんだと思う。で、バルバロイは識の水晶によって、そのエネルギーを魔法強化に転化する術を知ったんだろうね」
「魔法強化とはなんじゃ?」
「職業浸透と同じだと思っていいよフラッタ。職業による制限や浸透の上限が無いってだけで」
……ふと、識の水晶さえあれば魔法強化の真似事が可能なら、かつての王と呼ばれた原初のエルフがどうして同じことをしなかったのか気になった。
しなかったのではなく、出来なかったのかもしれないな。
職業補正の恩恵無くして強力な魔物を倒すことは難しいし、職業の祝福が無かった時代は魔物を倒しても浸透は進まない。ドロップアイテムを加工することも出来ない。
ヴァンダライズに匹敵する魔力なんて神器でも使わなきゃ用意できなかっただろうし、それで用意した魔力も結局異界の魔力だから魔法強化には使えなかったわけだ。無理に取り込んだら魔物化しちゃうから。
そもそもあの時のガルシアさんの超強化が永続的なものだったのかも怪しいしな。
ヴァンダライズの魔力を取り込んだことで魔法強化が一気に進んだけれど、魔物化していなかったことを考えると呼び水の鏡は動いていなかったわけで、魔力を消費しきったら終わるような一時的な強化だったと考えるのが妥当だ。
「ガルシアさんが人の姿だったときは、俺たちが放ったヴァンダライズの魔力を行使していた。それが死をきっかけに呼び水の鏡が発動し異界の扉が開いたんだ。思い返してみればノーリッテも同じで、1度マグナトネリコを滅ぼしたことをトリガーに世界呪に成長したんだっけ」
「ふむ。ならばそこは逆に共通点ということかの?」
「ん~……ちょっと埒が明かないわねぇ。ねぇダン。こういう疑問こそルーラーズコアで解消できないのかしらぁ?」
「推論や予測は識の水晶の役割なんだよお姉さん。ただコラプサーに関しては最優先かつ緊急性のある情報として一方的に警告されたんだ」
休憩中のティムルの乳首をシコシコと扱きながら、ルーラーズコアは俺たちの疑問に答えてくれないことを説明する。
ルーラーズコアの機能は基本的にこの世界の管理、データ収集、そして記録なのだ。そのデータを基に推論を生み出すには、使用者の疑問に答えてくれるという識の水晶が必要だった。
「ルーラーズコアは基本的に全自動で動いていて、過去の情報を基に現在の世界を管理する機能に振り切ってる神器なんだ。記録の改竄は不可能だし、管理に干渉するのもかなり難しい。それこそコラプサーが襲来するクラスじゃないと管理システムに干渉することは出来ないっぽいね」
「あはーっ。世界が滅亡するレベルの事態が起こらないと干渉できないわけねぇ。ダンは既に何度か解決してる気がするけどっ」
「ん~。なら一ヵ月単位じゃなくて、世界呪を滅ぼした瞬間とガルフェリアを滅ぼした瞬間の魔力のデータをもう少し細かく引き出せるかい? 焦点を狭めた方が違いは見つけやすいと思うんだ」
「ちょっと待ってねキュール……」
1度足を運んだおかげか、家に居てカレンの中にたっぷりと出しながらでも聖域の樹海のデータを引き出せるようだ。
恐らくこれは元々何処からでも情報を引きだせたんだろうけど、俺のイメージとルーラーズコアが上手くリンクしていないと機能しないのだろう。
今日足を運んだアウターの情報は引き出せるけど、まだ改めて足を運んでいないアウターの情報は引き出せなかった。
「ええっと……。ルーラーズコアの機能的には、俺が知覚できないほどの一瞬一瞬のデータすら切り取ることが出来るようではあるよ。意味無いとは思うけど」
「えっと、そうだね……。それなら出現1時間前から討伐後24時間後までの魔力量を、1時間単位で区切って調べて欲しい。出現と討伐、そして時間経過による魔力変化を知りたいんだ」
「それくらいなら問題なさそうだ。読み上げるから記録してねー」
キュールに言われたデータを引き出してみると、魔物を討伐したことで大気に還元された魔力は、3時間もしないうちに平時の数値に戻っていることが分かった。
しかし両者を比べてみると、ガルフェリアを滅ぼした後の方が数値は大きいのに、格段に速いペースで平時の値に戻っていることが判明した。
「月単位で切り取ると差異が見つけられなかったけど、細かく切り取ってみたら両者には明確に差があるね……」
「むー? ガルフェリアを倒した時の魔力の方が遥かに大きいのに、その魔力が失われるのも早かったってこと? でもどうしてかなぁ……?」
「く~っ! 『万象儀』のデータも欲しいなぁ!」
「ばんしょうぎ?」
「フラグニークに設置してある、大気中の魔力量を測定するマジックアイテムだよ!」
聞き慣れないキュールの言葉に首を傾げてみせると、ちょっともどかしそうにしながら答えてくれるキュール。
フラグニークの最奥の間近くに設置してある大型マジックアイテムらしく、スペルディアなんかにもちゃんと設置してあるそうだ。
その主な用途は魔力異常による災害の予測、アウターの異変やアウターエフェクトの出現感知などらしい。
アウターエフェクトはアウターの境界壁を通過してくるためか、大気中の魔力に微妙な変化が現れるそうだ。そして造魔アウターエフェクトにはそれが無いわけね。
「陛下っ、ガルフェリアを倒した時の魔力量って記録されてますよねっ!? 今から取ってきていいですか!?」
「……済まんがキュール。確かめていないから確証はないが、多分あの時のデータは残ってないと思うぞ?」
「は、はぁっ!? 終の神を滅ぼした瞬間のデータなんて研究者が見逃すはずが……」
「世界の終焉を予感してまでデータ収集を続けられる者などそうはいないだろう。特にあの時は世界中の意識がガルフェリアに向いていたからな」
「くっ……! それじゃ王国にも残ってないのか……!?」
貴重なデータが記録されていない可能性に、ワナワナと震えるキュール。
けれどそんなキュールに、チャールが冷静にツッコミを入れる。
「ちょっと待ってキュールさん。悔しそうにしてるけど……それってダンの引き出した情報で事足りない?」
「そうかもしれないけどぉ! 情報は多いに越したことはないじゃないかっ!」
「それには同意すっけど、同じ情報を複数並べても意味ねぇだろまったく……」
「ぐぐっ……! シーズまでそんなこと言わないでくれたまえよぉ……!」
冷静なパーティメンバーの様子に、自分が興奮しすぎていたことに気付いて赤面するキュール。
帝国に居た頃はキュールが観測データを記録していたらしく、何か起こった時はとりあえず万象儀のデータを確認する癖がついていたそうだ。
「キュールさんが落ち着いてくれたのは良いとして……。なんでガルフェリアの方はこんなに急速に魔力が戻ってるんだろうね? それとも世界呪の方が留まりすぎてるの? う~ん……」
「何かに魔力が消費された? だけどどっちの場合もその後に目立った事件や騒動は起こってねぇよなぁ?」
「むぅ……。残念だけどこれは調査が必要そうだね。研究所に持ち帰って検討しようか。明日以降、別のアウターのデータも増えるわけだしさ」
この場で結論を出すことが難しいと判断したのか、キュールは一旦この問題を持ち帰ることにしたようだ。
データが増えれば新しい見方が思いつくかもしれないしな。任せておこう。
「ん~……。そんなことよりさダン……」
「ニーナ?」
「全然違うことだけど、どうしても確認したいことがあるんだー……」
悩んでいる風だったから一緒に考えていてくれたと思ってたんだけど、どうやらニーナは全く別のことを考えていたようだ。
けれど彼女の様子は真剣で、そしてちょっと青褪めているように見えるのが気になった。
「……今更って思うかもしれないけど、コラプサーについて改めて確認させて欲しいの」
「勿論いいよ。ちょうど話もひと段落したところだし」
「じゃあ聞くけど……」
マイペースなニーナにしては珍しく、なんだかかなり聞き辛そうにしているな?
確かにコラプサーの存在は脅威だけど、まだ現れてもいない相手の情報を確認するだけでなんでこんなに怯えてるんだ?
「女神様たちの世界を滅ぼしたコラプサーには、女神様たちの世界の魔力の根源が取り込まれてるんだよね?」
「うんうん。半永久的に魔力を生み出し続けるという夢のマジックアイテム『デウス・エクス・マキナ』。魔力を取り込む性質があるコラプサーは、デウス・エクス・マキナに反応して女神様の世界に現れたと想定されてるね」
「つまり、この世界に流れ込んでいる異界の魔力って、そのデウス・エクス・マキナから発生したものなんじゃないの?」
「うんうん、そうだね……って、あれ?」
「……ねぇダン。コラプサーが居なくなった後、この世界って存続できるのかなぁ?」
…………………………あ。
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