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820 慟哭の最終決戦⑬ 竜神。魔神。お稲荷様
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「みんなでガルシア陛下の勝利を信じて、ガルシア陛下の名前を呼んでくれぇぇぇ!!」
ユニが世界中に繋げてくれた魔力を伝って、世界中の人に訴えかける。
けれど俺の声を聞いた世界中の人々は困惑するばかりで、殆ど協力の意志を示してくれなかった。
だけど、俺の声が届かないことなんて分かりきっていたことだ。
ここからマーガレット陛下が人心を掴むまでの間、ガルフェリアの相手を頼んだよみんな!
……頼むから、こっちの話が終わる前にガルフェリアを滅ぼさないでくださいよ? ニーナ司令官殿ぉ……。
「この程度で神を名乗るなんて笑っちゃうのっ! マーダーグリズリーの方がまだ手強かったんだからっ!」
速度に特化した深獣化コンコンニーナが、一瞬たりとも止まらずに絶影の斬撃を飛ばし続ける。
深獣化が深まった影響なのか、それともリーチェを奪われた怒りが宿っているのか、ニーナは無意識に絶影を掌握し、本来斬撃を飛ばすだけのウェポンスキルに通常以上の魔力を込めて放っているようだ。
ニーナ、家族みんなのウェポンスキルを散々見せ付けられてきたからなぁ……。
そこに俺のアウターブレイクの魔力制御を取り入れて、ウェポンスキルを自分の意思で作り変えて使用しているみたいだ。
『貴様こそ、1人離れた位置で調子付くなぁ!! そこなら安心とでも思ったか!? 【奔れインドラァッ!】』
「だから遅すぎるってぇ……言ってるでしょーーーっ!!」
移動魔法を使っても避けきれないような、事実さっきの俺でさえも避け切れなかったインドラの黒い雷を、ニーナは純粋な敏捷性だけで難なく躱し続ける。
更には回避行動の中にも攻撃を織り交ぜて、黒い雷雨の中をニーナが飛ばす斬撃が瞬いている。
今のニーナのトップスピード、多分竜化ラトリアの剣の速度さえも凌駕してるなぁ……。
移動阻害の呪いを受けたニーナが世界最速を誇るなんて、世界ってのは矛盾に満ちているよねぇ。
『ちぃっ……! ならば躱す隙間さえも残さなければいいだけだぁっ! 【朽ちよアグニッ!!】』
「貴様の相手はニーナだけではないのじゃぁぁぁっ!! 喰らい尽くせっ! ドラゴンイータァァァァァッ!!!」
ガルフェリアから放たれた世界を覆うほどの黒い炎の波に、フラッタがドラゴンイーターとフレイムドラゴンブレードを叩きつける。
そしてドラゴンイーターに付与された体力吸収スキルと、フレイムドラゴンブレードに付与されている魔力吸収スキルを掌握したフラッタは、武器を通してアグニを構成しているガルフェリアの魔力を吸収し始めた。
下手するとアウラにすら匹敵するほどの才能を秘めたフラッタは、先ほど俺がガルフェリアの魔力さえも掌握してみせたことで、オーラの更に先へと進んでしまったみたいだ。
「母上もエマも、ダンもニーナもリーチェも、妾の大切なものは何も壊させぬっ! 貴様の神権、妾が喰らい尽くしてくれるわっ!! 『万象余さず呑み下せ! ブレスイータァァァァ!!』」
『なっ!? この竜人っ……我の魔力を奪うかぁぁぁっ!!』
祝福を喰らう者か。
吐息を操る竜人族のフラッタが最後に辿り着いたのは、かつて変世の3女神が残したこの世界に満ちる祝福に干渉する能力とはね。
世界を滅ぼさんと放たれたアグニの炎は喰らい尽くされ、食いしん坊のグラン・フラッタの纏う蒼き輝きはその強さを増している。
深夜という事も相俟って、今のフラッタはまるで青い太陽のようだ。
フラッタの小さな体の何処にガルフェリアから奪った魔力が収納できているのか謎で仕方が無いけれど、奪った魔力をそのままドラゴンイーターに込めて、絨毯爆撃のような連撃を浴びせ続けるフラッタ。
その地形さえも変えてしまいそうな無双っぷりは、まさに神話の中の出来事にしか見えないんだよ?
「ニーナさんとフラッタが神権魔法を掻き消してくれるわっ! だからエマ! 私たちは何も考えず、ただ攻撃だけに集中するわよっ!!」
「心得ましたラトリア様! 皆様の実力にはまだまだ遠く及びませんが、それでも微力を尽くさせていただきましょう!!」
竜化したラトリアとエマもガルフェリアに張り付き、神権魔法を無視してひたすらガルフェリアを切りつけていく。
かつては造魔アウターエフェクトに後れを取ってしまったラトリアだけど、今では古の邪神を越える存在にすら真っ向から立ち向かえるほどの強さを手に入れてくれたのだ。
エマとコンビを組んで終の神ガルフェリアに果敢に挑むその姿は、剣の腕以上の強さを感じさせる。
『矮小な者共が調子に乗るなぁぁ!! 【閉ざせニュクス!】【殺せタナトス!!】』
「雷はニーナに躱され、炎はフラッタに喰らわれたから、今度は実体の無い全周囲攻撃を仕掛けてきましたか? ですが認識が甘すぎますよ。……『拒みなさい。ダークリベレイター』」
ヴァルゴが槍の切っ先に集中させた魔力を爆発させるように拡散すると、周囲に迫っていたニュクスとタナトスの圧迫感が霧散する。
どうやらヴァルゴの魔力に触れたガルフェリアの神権魔法は、ガルフェリアの意思に逆らうように効力を失ってしまったみたいだ。
元々魔力制御が得意で、村人の状態から種族特性を駆使するほどの使い手だったヴァルゴが最後に辿り着いたのは、相手の構築した魔法をキャンセルする能力か。
魔力が世界の全てを構成する世界において、その構成を否定する能力だなんてとんでもないな。
理論上の話をすれば、ヴァルゴのダークリベレイターに対抗する術はありえないってことになってしまいそうだ。
『くそっ! くそっ! くっそぉぉぉ!! 神殺しですらない貴様らに、何故我がここまで追い詰められるのだっ!? 【タルタロス!】【羅睺!】【シャイターン!】 この者たちを滅ぼすのだぁぁぁっ!!』
「フラッタはタルタロスを! ヴァルゴはシャイターンをお願いなのっ! ラトリアとエマは落石注意、私は全ての元凶の馬鹿男をひたすら切り刻んでやるのーっ!」
「妾の分まで頼むのじゃニーナ! ガルフェリアを滅ぼす前に、憎きバルバロイを塵も残さず切り刻むのじゃーーっ!!」
「羨ましいですがここは譲りますよニーナ! 私は終の神と名乗る相手を、魔力制御で真っ向から捻じ伏せてやらねばなりませんからねぇっ!」
一瞬で出されたニーナの指示の下、フラッタとヴァルゴがそれぞれの武器に魔力を込めていく。
確かにダメージ反射がある羅睺を攻撃力の高いフラッタとヴァルゴが相手にするのは危険だし、実体の無いシャイターンに対処できるのもヴァルゴしかいない。
そしてタルタロスで生み出される山脈のような物量に真っ向から対抗できるのは、我等が無双将軍グラン・フラッタだけだろう。
「今回は魔物では無く、実体を持った岩石を砕かねばならぬ。内側で魔力を炸裂させるアズールブラスターでは悪戯に破片を撒き散らしてしまいかねんのじゃ。となると……」
ドラゴンイーターでガルフェリアを切り裂き、相手の魔力を奪いながら上空に駆け上がっていくフラッタ。
奪った魔力もオーラの魔力も全てドラゴンイーターに込めながらも、物体破壊に特化した技を編み出す為に集中力を深くしていく。
そして誰よりも先に岩の発生口であるガルフェリアが背負う巨大魔法陣に辿り着いたフラッタは、勢いそのままに岩の発生源に向かってドラゴンイーターを叩き付けた。
「妾こそは竜王グラン・フラッタなのじゃーっ!! 貴様が終の神を名乗るなら、妾の愛する夫のように竜王の本気の想いを受け止めてみせよぉぉ!! 『グランブルー……バスタァァァァァッ!!』」
『ごあああっ!!? なん……だ、この1撃はぁぁぁぁぁ!?』
ドラゴンイーターがタルタロスで生み出された岩石に触れた瞬間、闇夜に鮮やかな蒼穹が爆発する。
それ自体はアズールブラスターと同じだけど、フラッタの新技グランブルーバスターはアズールブラスターのようなタイムラグが一切無いようだ。
ドラゴンイーターが触れた瞬間、タルタロスを跡形も無く吹き飛ばしながら、ガルフェリアの巨体も一緒に吹き飛ばし……って、ええええええっ!?
50メートルを超える巨人のはずのガルフェリアは、我が家でも最小クラスのグラン・フラッタに無様にぶっ飛ばされて、まだ開拓が行われていない荒れた土地をゴロゴロと無様に転がった。
フ、フラッタヤバぁ……。
マジでフラッタとだけは喧嘩出来ないな……。可愛すぎて普通に喧嘩出来ないけど。
流石にこの1撃は、俺だって正面から受け止められないんだよ?
「まったく何処までも強くなるのに、それ以上に可愛いから困ってしまいますよ。これだからフラッタは……」
フラッタが吹き飛ばしたガルフェリアに一瞬で追いついたヴァルゴは魔法陣のある背中側に回って、なにかを振り払うように静かに槍を振った。
そのたった1動作で、みんなに影響しようとしていたシャイターンの魔法構築を完全にキャンセルしてしまったようだ。
「貴方の方は神を名乗りながらも随分な体たらくですね? 私如きのダークリベレイターを破れないなど、神の名が泣いていますよ?」
『馬鹿なぁっ!? 神殺しですらシャイターンを無効化などしていなかった!! なのになぜ神殺しでないお前が、神殺しでも出来ない事をやってのけるのだぁぁぁっ!!』
「仕方ないでしょう? 私はその神殺しにも、神をも吹き飛ばす可憐な竜王にも最強を求められているのですから。終の神程度簡単に圧倒出来ないと、あの2人の隣りに立つ資格は無いんですよ。私はね?」
何度も成立させようと再構築されるシャイターンをあっさりと無効化しながら、羅睺の構築だけはそのままにしてあげますよと終の神を嗤うヴァルゴ。
這い蹲る終の神の背中に立ち、その神権魔法を完全に封じるヴァルゴの姿は、世界中の誰が見ても最強の槍使いの姿に他ならない。
フラッタが物理的に、ヴァルゴが魔法的にガルフェリアを完全に圧倒する中、ニーナはヒールライトとキュアライトを連射して痛みに耐えながら、自身の周囲に浮かぶバルバロイの顔を凄まじい速度で切り裂き続けている。
「どうして貴方みたいな人が居るのっ! ダンみたいにティムルみたいに、フラッタみたいにリーチェみたいにヴァルゴみたいに、ムーリみたいに母さんみたいに、どこまでも誰かの幸せを願う人が居る一方で、どうして貴方みたいに気軽に人の幸せを踏み躙れる人が許されてるのーっ!!」
バルバロイの眼孔から放たれる無数の呪いも、反射される斬撃の痛みも意に介さずに、深獣化で黄金に輝く瞳から滂沱の涙を流しながらバルバロイに向かって吼えるニーナ。
その動作は既に俺ですら肉眼で追うことは出来ず、アウラどころかフラッタでさえも驚愕の表情を浮かべている。
「いくら呪われたってなんともないのっ! 私のとっての呪いはダンと家族と繋いだ絆で、私と共に戦ってきた相棒なんだからっ! だから呪われるのは平気だけど、貴方なんかが得意げに呪いを操るのは我慢できないのーっ!!」
何処までも加速し、無限に浮かび上がるバルバロイを果てしなく切り刻むニーナ。
ニーナの職業補正が狐の深獣化によって更に高められて、俺達なんかよりも高い敏捷性補正を獲得しているのか?
次第に俺の視力ですらブレる様にしか見えなくなって来たニーナの速度に、なんと羅睺によるバルバロイのポップアップが間に合わなくなってくる。
ニーナは動作の速度以上に神がかり的な先読みすら発揮し始めていて、段々とニーナが斬撃を放った場所にバルバロイの頭部が出現するというアベコベな状況が生み出されていく。
「呪いは人の一生を左右する力なのっ! おかげで苦しむことばかりだけど、乗り越えれば誰よりも幸せになれる試練なのっ! 貴方みたいに人の人生を軽々しく扱う人が、振るっていい力じゃないんだからーっ!!」
あ、あの~ニーナさん……!?
ひょ、ひょっとしてまだガルフェリアを滅ぼしちゃいけないの、お忘れでないですよね……!?
ヤ、ヤバいっすよマーガレット陛下!! ニーナ完全にキレちゃってるから!! もうチンタラ演説してる余裕とか皆無っすから!!
なんでもいいから今すぐ世界中の人の心を1つにしてくださらないと、ガルシアさんの救出が間に合いませんてばーーーっ!?
「私の呪いはダンのおかげで黄金色に輝いたのっ! 家族のおかげで私の呪いは宝物になったのっ!! 貴方なんかに呪いを玩具にされて、黙っていられるわけないのーっ!!」
「ま、待ってニーナ!! こっちの準備がまだ整って……」
「黄昏に沈みなさいっ、終の神ガルフェリアッ!! 『ゴールドアポカリプスーっ!!』」
もはやバルバロイなどお構いなしに、絶影の無限射程斬撃をガルフェリアに向かって放つニーナ。
まるで黄昏時に滲むシルエットのように輪郭がぼやけるほどの速度のニーナが、深獣化で強化された魔力を纏って放った黄金色の刃線は、ガルフェリアを細切れにする様に切り刻む。
『か、体が保てな……! こんなっ……! こんな馬鹿……なぁぁぁぁっ!?』
「……あ。ごめんダン。すっかり我を忘れちゃってたの~……」
「ごめんじゃないよニーナァァァァ!? 気持ちは分かりすぎるけど何してんだよーーーっ!?」
やっちまった~って顔をしながら、心底申し訳無さそうな表情で俺に頭を下げるニーナ。
そんな彼女の背後では終の神ガルフェリアが黄金色の終末に飲まれ、その肉体を崩壊させて行くのだった。
ユニが世界中に繋げてくれた魔力を伝って、世界中の人に訴えかける。
けれど俺の声を聞いた世界中の人々は困惑するばかりで、殆ど協力の意志を示してくれなかった。
だけど、俺の声が届かないことなんて分かりきっていたことだ。
ここからマーガレット陛下が人心を掴むまでの間、ガルフェリアの相手を頼んだよみんな!
……頼むから、こっちの話が終わる前にガルフェリアを滅ぼさないでくださいよ? ニーナ司令官殿ぉ……。
「この程度で神を名乗るなんて笑っちゃうのっ! マーダーグリズリーの方がまだ手強かったんだからっ!」
速度に特化した深獣化コンコンニーナが、一瞬たりとも止まらずに絶影の斬撃を飛ばし続ける。
深獣化が深まった影響なのか、それともリーチェを奪われた怒りが宿っているのか、ニーナは無意識に絶影を掌握し、本来斬撃を飛ばすだけのウェポンスキルに通常以上の魔力を込めて放っているようだ。
ニーナ、家族みんなのウェポンスキルを散々見せ付けられてきたからなぁ……。
そこに俺のアウターブレイクの魔力制御を取り入れて、ウェポンスキルを自分の意思で作り変えて使用しているみたいだ。
『貴様こそ、1人離れた位置で調子付くなぁ!! そこなら安心とでも思ったか!? 【奔れインドラァッ!】』
「だから遅すぎるってぇ……言ってるでしょーーーっ!!」
移動魔法を使っても避けきれないような、事実さっきの俺でさえも避け切れなかったインドラの黒い雷を、ニーナは純粋な敏捷性だけで難なく躱し続ける。
更には回避行動の中にも攻撃を織り交ぜて、黒い雷雨の中をニーナが飛ばす斬撃が瞬いている。
今のニーナのトップスピード、多分竜化ラトリアの剣の速度さえも凌駕してるなぁ……。
移動阻害の呪いを受けたニーナが世界最速を誇るなんて、世界ってのは矛盾に満ちているよねぇ。
『ちぃっ……! ならば躱す隙間さえも残さなければいいだけだぁっ! 【朽ちよアグニッ!!】』
「貴様の相手はニーナだけではないのじゃぁぁぁっ!! 喰らい尽くせっ! ドラゴンイータァァァァァッ!!!」
ガルフェリアから放たれた世界を覆うほどの黒い炎の波に、フラッタがドラゴンイーターとフレイムドラゴンブレードを叩きつける。
そしてドラゴンイーターに付与された体力吸収スキルと、フレイムドラゴンブレードに付与されている魔力吸収スキルを掌握したフラッタは、武器を通してアグニを構成しているガルフェリアの魔力を吸収し始めた。
下手するとアウラにすら匹敵するほどの才能を秘めたフラッタは、先ほど俺がガルフェリアの魔力さえも掌握してみせたことで、オーラの更に先へと進んでしまったみたいだ。
「母上もエマも、ダンもニーナもリーチェも、妾の大切なものは何も壊させぬっ! 貴様の神権、妾が喰らい尽くしてくれるわっ!! 『万象余さず呑み下せ! ブレスイータァァァァ!!』」
『なっ!? この竜人っ……我の魔力を奪うかぁぁぁっ!!』
祝福を喰らう者か。
吐息を操る竜人族のフラッタが最後に辿り着いたのは、かつて変世の3女神が残したこの世界に満ちる祝福に干渉する能力とはね。
世界を滅ぼさんと放たれたアグニの炎は喰らい尽くされ、食いしん坊のグラン・フラッタの纏う蒼き輝きはその強さを増している。
深夜という事も相俟って、今のフラッタはまるで青い太陽のようだ。
フラッタの小さな体の何処にガルフェリアから奪った魔力が収納できているのか謎で仕方が無いけれど、奪った魔力をそのままドラゴンイーターに込めて、絨毯爆撃のような連撃を浴びせ続けるフラッタ。
その地形さえも変えてしまいそうな無双っぷりは、まさに神話の中の出来事にしか見えないんだよ?
「ニーナさんとフラッタが神権魔法を掻き消してくれるわっ! だからエマ! 私たちは何も考えず、ただ攻撃だけに集中するわよっ!!」
「心得ましたラトリア様! 皆様の実力にはまだまだ遠く及びませんが、それでも微力を尽くさせていただきましょう!!」
竜化したラトリアとエマもガルフェリアに張り付き、神権魔法を無視してひたすらガルフェリアを切りつけていく。
かつては造魔アウターエフェクトに後れを取ってしまったラトリアだけど、今では古の邪神を越える存在にすら真っ向から立ち向かえるほどの強さを手に入れてくれたのだ。
エマとコンビを組んで終の神ガルフェリアに果敢に挑むその姿は、剣の腕以上の強さを感じさせる。
『矮小な者共が調子に乗るなぁぁ!! 【閉ざせニュクス!】【殺せタナトス!!】』
「雷はニーナに躱され、炎はフラッタに喰らわれたから、今度は実体の無い全周囲攻撃を仕掛けてきましたか? ですが認識が甘すぎますよ。……『拒みなさい。ダークリベレイター』」
ヴァルゴが槍の切っ先に集中させた魔力を爆発させるように拡散すると、周囲に迫っていたニュクスとタナトスの圧迫感が霧散する。
どうやらヴァルゴの魔力に触れたガルフェリアの神権魔法は、ガルフェリアの意思に逆らうように効力を失ってしまったみたいだ。
元々魔力制御が得意で、村人の状態から種族特性を駆使するほどの使い手だったヴァルゴが最後に辿り着いたのは、相手の構築した魔法をキャンセルする能力か。
魔力が世界の全てを構成する世界において、その構成を否定する能力だなんてとんでもないな。
理論上の話をすれば、ヴァルゴのダークリベレイターに対抗する術はありえないってことになってしまいそうだ。
『くそっ! くそっ! くっそぉぉぉ!! 神殺しですらない貴様らに、何故我がここまで追い詰められるのだっ!? 【タルタロス!】【羅睺!】【シャイターン!】 この者たちを滅ぼすのだぁぁぁっ!!』
「フラッタはタルタロスを! ヴァルゴはシャイターンをお願いなのっ! ラトリアとエマは落石注意、私は全ての元凶の馬鹿男をひたすら切り刻んでやるのーっ!」
「妾の分まで頼むのじゃニーナ! ガルフェリアを滅ぼす前に、憎きバルバロイを塵も残さず切り刻むのじゃーーっ!!」
「羨ましいですがここは譲りますよニーナ! 私は終の神と名乗る相手を、魔力制御で真っ向から捻じ伏せてやらねばなりませんからねぇっ!」
一瞬で出されたニーナの指示の下、フラッタとヴァルゴがそれぞれの武器に魔力を込めていく。
確かにダメージ反射がある羅睺を攻撃力の高いフラッタとヴァルゴが相手にするのは危険だし、実体の無いシャイターンに対処できるのもヴァルゴしかいない。
そしてタルタロスで生み出される山脈のような物量に真っ向から対抗できるのは、我等が無双将軍グラン・フラッタだけだろう。
「今回は魔物では無く、実体を持った岩石を砕かねばならぬ。内側で魔力を炸裂させるアズールブラスターでは悪戯に破片を撒き散らしてしまいかねんのじゃ。となると……」
ドラゴンイーターでガルフェリアを切り裂き、相手の魔力を奪いながら上空に駆け上がっていくフラッタ。
奪った魔力もオーラの魔力も全てドラゴンイーターに込めながらも、物体破壊に特化した技を編み出す為に集中力を深くしていく。
そして誰よりも先に岩の発生口であるガルフェリアが背負う巨大魔法陣に辿り着いたフラッタは、勢いそのままに岩の発生源に向かってドラゴンイーターを叩き付けた。
「妾こそは竜王グラン・フラッタなのじゃーっ!! 貴様が終の神を名乗るなら、妾の愛する夫のように竜王の本気の想いを受け止めてみせよぉぉ!! 『グランブルー……バスタァァァァァッ!!』」
『ごあああっ!!? なん……だ、この1撃はぁぁぁぁぁ!?』
ドラゴンイーターがタルタロスで生み出された岩石に触れた瞬間、闇夜に鮮やかな蒼穹が爆発する。
それ自体はアズールブラスターと同じだけど、フラッタの新技グランブルーバスターはアズールブラスターのようなタイムラグが一切無いようだ。
ドラゴンイーターが触れた瞬間、タルタロスを跡形も無く吹き飛ばしながら、ガルフェリアの巨体も一緒に吹き飛ばし……って、ええええええっ!?
50メートルを超える巨人のはずのガルフェリアは、我が家でも最小クラスのグラン・フラッタに無様にぶっ飛ばされて、まだ開拓が行われていない荒れた土地をゴロゴロと無様に転がった。
フ、フラッタヤバぁ……。
マジでフラッタとだけは喧嘩出来ないな……。可愛すぎて普通に喧嘩出来ないけど。
流石にこの1撃は、俺だって正面から受け止められないんだよ?
「まったく何処までも強くなるのに、それ以上に可愛いから困ってしまいますよ。これだからフラッタは……」
フラッタが吹き飛ばしたガルフェリアに一瞬で追いついたヴァルゴは魔法陣のある背中側に回って、なにかを振り払うように静かに槍を振った。
そのたった1動作で、みんなに影響しようとしていたシャイターンの魔法構築を完全にキャンセルしてしまったようだ。
「貴方の方は神を名乗りながらも随分な体たらくですね? 私如きのダークリベレイターを破れないなど、神の名が泣いていますよ?」
『馬鹿なぁっ!? 神殺しですらシャイターンを無効化などしていなかった!! なのになぜ神殺しでないお前が、神殺しでも出来ない事をやってのけるのだぁぁぁっ!!』
「仕方ないでしょう? 私はその神殺しにも、神をも吹き飛ばす可憐な竜王にも最強を求められているのですから。終の神程度簡単に圧倒出来ないと、あの2人の隣りに立つ資格は無いんですよ。私はね?」
何度も成立させようと再構築されるシャイターンをあっさりと無効化しながら、羅睺の構築だけはそのままにしてあげますよと終の神を嗤うヴァルゴ。
這い蹲る終の神の背中に立ち、その神権魔法を完全に封じるヴァルゴの姿は、世界中の誰が見ても最強の槍使いの姿に他ならない。
フラッタが物理的に、ヴァルゴが魔法的にガルフェリアを完全に圧倒する中、ニーナはヒールライトとキュアライトを連射して痛みに耐えながら、自身の周囲に浮かぶバルバロイの顔を凄まじい速度で切り裂き続けている。
「どうして貴方みたいな人が居るのっ! ダンみたいにティムルみたいに、フラッタみたいにリーチェみたいにヴァルゴみたいに、ムーリみたいに母さんみたいに、どこまでも誰かの幸せを願う人が居る一方で、どうして貴方みたいに気軽に人の幸せを踏み躙れる人が許されてるのーっ!!」
バルバロイの眼孔から放たれる無数の呪いも、反射される斬撃の痛みも意に介さずに、深獣化で黄金に輝く瞳から滂沱の涙を流しながらバルバロイに向かって吼えるニーナ。
その動作は既に俺ですら肉眼で追うことは出来ず、アウラどころかフラッタでさえも驚愕の表情を浮かべている。
「いくら呪われたってなんともないのっ! 私のとっての呪いはダンと家族と繋いだ絆で、私と共に戦ってきた相棒なんだからっ! だから呪われるのは平気だけど、貴方なんかが得意げに呪いを操るのは我慢できないのーっ!!」
何処までも加速し、無限に浮かび上がるバルバロイを果てしなく切り刻むニーナ。
ニーナの職業補正が狐の深獣化によって更に高められて、俺達なんかよりも高い敏捷性補正を獲得しているのか?
次第に俺の視力ですらブレる様にしか見えなくなって来たニーナの速度に、なんと羅睺によるバルバロイのポップアップが間に合わなくなってくる。
ニーナは動作の速度以上に神がかり的な先読みすら発揮し始めていて、段々とニーナが斬撃を放った場所にバルバロイの頭部が出現するというアベコベな状況が生み出されていく。
「呪いは人の一生を左右する力なのっ! おかげで苦しむことばかりだけど、乗り越えれば誰よりも幸せになれる試練なのっ! 貴方みたいに人の人生を軽々しく扱う人が、振るっていい力じゃないんだからーっ!!」
あ、あの~ニーナさん……!?
ひょ、ひょっとしてまだガルフェリアを滅ぼしちゃいけないの、お忘れでないですよね……!?
ヤ、ヤバいっすよマーガレット陛下!! ニーナ完全にキレちゃってるから!! もうチンタラ演説してる余裕とか皆無っすから!!
なんでもいいから今すぐ世界中の人の心を1つにしてくださらないと、ガルシアさんの救出が間に合いませんてばーーーっ!?
「私の呪いはダンのおかげで黄金色に輝いたのっ! 家族のおかげで私の呪いは宝物になったのっ!! 貴方なんかに呪いを玩具にされて、黙っていられるわけないのーっ!!」
「ま、待ってニーナ!! こっちの準備がまだ整って……」
「黄昏に沈みなさいっ、終の神ガルフェリアッ!! 『ゴールドアポカリプスーっ!!』」
もはやバルバロイなどお構いなしに、絶影の無限射程斬撃をガルフェリアに向かって放つニーナ。
まるで黄昏時に滲むシルエットのように輪郭がぼやけるほどの速度のニーナが、深獣化で強化された魔力を纏って放った黄金色の刃線は、ガルフェリアを細切れにする様に切り刻む。
『か、体が保てな……! こんなっ……! こんな馬鹿……なぁぁぁぁっ!?』
「……あ。ごめんダン。すっかり我を忘れちゃってたの~……」
「ごめんじゃないよニーナァァァァ!? 気持ちは分かりすぎるけど何してんだよーーーっ!?」
やっちまった~って顔をしながら、心底申し訳無さそうな表情で俺に頭を下げるニーナ。
そんな彼女の背後では終の神ガルフェリアが黄金色の終末に飲まれ、その肉体を崩壊させて行くのだった。
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