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817 慟哭の最終決戦⑩ 覆水を盆に返す為に
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「リーチェを取り戻す為に、そいつを殺しちゃダメなのよーっ!!」
「リュートを取り戻す為に、そいつを殺しちゃダメだってばーっ!!」
閉ざされていた俺の意識に届けられた、ティムルとアウラの必死な声。
その声で我に返った俺はその代償に魔力制御をしくじり、双剣に込めていた魔力を花火のように炸裂させて空中で吹き飛ばされてしまった。
だけど、そんなことはどうでもいい!
リーチェとリュートを取り戻せるなら、他の全てはどうだっていい!
「『青き揺り篭。秘色の檻。汝、凍てつく終焉たる者よ。アイスコフィン』!」
高速で詠唱したアイスコフィンを足場にして無詠唱で発動したポータルに飛び込み、ティムルとアウラの反応目指して転移する。
しかし2人の元に転移した瞬間、2人ではなくニーナとフラッタが抱きついてきた。
「……良かった。戻ってこれたんだね……。お帰り、ダン……」
「まったく、リーチェ1人でこの様子では、妾たちはオチオチ死んでもいられるのじゃ……。ダンに世界を滅ぼさせぬ為に、家族全員死ぬまで幸せでいねばならぬのう……」
「ニ、ニーナ!? フラッタ!? 俺だって2人の事は抱き締めてあげたいけど、今はそんなことしてる場合じゃ……!」
胸に飛び込んできた好色家姉妹を抱き締めつつ、魔力の炸裂に巻き込まれた身体をキュアライトで癒す。
危ない危ない。
敵の攻撃なんて貰ってないのに、もう少しで自分が掻き集めた魔力の暴発で死ぬところだったよ……。
「安心してください旦那様。話をする時間は充分にありそうですよ。ほら」
こっそり冷や汗をかく俺を追い越して、話の邪魔はさせませんとばかりに俺たちを背に庇って前に出るヴァルゴ。
そんなヴァルゴがクイッと顎を振って指し示した方向には、ボロボロになって跪いているガルフェリアの姿があった。
3対6枚の翼は全て根元から千切り取られ、6本あった腕も1本を残して全て根元から消失しているようだ?
「どうやら回復も出来るようですが、流石にあの傷を一瞬で修復するのは無理のようです。ここは私が警戒しておりますので、旦那様はティムルの話を聞いてください」
「そ、そんなっ……! ヴァルゴ1人にそんなことさせるわけには……!」
「ふふっ。すっかりいつもの旦那様ですねっ。ではいつもの私たちの日常を取り戻す為にティムルの話を聞いて、リーチェのことも無事に救い出してくださいね?」
「あっ! そ、そうだった……! ティムルっ……!」
槍を構えて集中しながらも穏やかな雰囲気のヴァルゴに促され、本来の目的であったティムルの方を振り返る。
すると柔らかな雰囲気のヴァルゴとは対照的に、どこまでも厳しい表情を浮かべているティムルお姉さん。
「どういうことティムル!? ここからリーチェとリュートを助ける方法って何!? 早く教えてっ!!」
「……自分で出した結論だけどね。はっきり言ってお姉さん、こんなこと出来るとは自分でも……」
「いいから早く話してティムル! アイディアさえ聞ければ、後は俺が無理矢理にでも実現して見せるからっ!」
「ダン……。貴方って人はぁ……」
嘘でもチートでもご都合主義でもいいから、リーチェを取り戻す為ならなんだって実現してみせる。
そう宣言する俺の言葉に、今まで見たことがないくらいに険しい表情をしていたティムルは、突然気が抜けたように泣きそうな笑顔を浮かべてくれた。
「あ、はぁ……! 貴方ったら、本当にニーナちゃんの言った通りなんだからぁっ……! 不安を感じてたお姉さんが馬鹿みたいじゃないのぉっ……!」
「俺がニーナの言う通りに行動しちゃうのは今に始まった事じゃないでしょっ! そんな事よりお姉さんっ、早く話してっ!」
「勿論話してあげるわよーっ! 話してあげるから、絶対にリーチェを取り戻してねぇ?」
「それこそ勿論だよお姉さんっ! 今夜はリーチェと一緒にいっぱい可愛がってあげちゃうよっ」
楽しみだわーっと、ようやくいつもの笑顔を見せてくれるティムル。
いつだってティムルは俺とニーナを正しい道へと導いてくれた。
そんなお姉さんが笑って提案してくれるアイディアなら、きっとリーチェもリュートも連れ戻せるはずだっ!
チラリとガルフェリアの方を一瞥すると、欠損していたはずの部位の復元も進み、既に戦闘が可能な状態まで回復しているように思える。
しかしその表情は苦痛に歪み、まだ動き出す気配は無かった。
どうやらガルフェリアは今のうちに完全回復して、更にはより多くの魔力を蓄えてから反撃する算段のようだ。
回復する敵なんていつもなら面倒臭いとか煩わしいとかウザったいとしか思えないんだけど、リーチェを救うためにはガルフェリアを殺してはいけないそうなので、今の状況を考えると回復してくれるのはありがたい。
多少乱暴に扱っても壊れる心配は無さそうなので、どんなアイディアだって無理矢理成立させてみせるよーっ。
「さぁダン。私の語る夢物語、実現してもらうわよぉ?」
「任せてよ。あの日ニーナと出会った瞬間以降は、ずっと夢みたいな日々を過ごしてきたからさ」
「まずは大前提。ステータスプレートの繋がりが絶たれていないことから、リーチェの魂がまだ健在であるのは間違いないわ。けれど世界呪くらい大きなガルフェリアの全体に広まったリーチェの魂は、肉体という器を失っているというのも間違いないと思うの」
「……うん。そこは認めるよ。事実を否定したって意味が無いから」
世界からリーチェの肉体が喪われてしまった。
エロス大明神の俺専用極上エロボディが損失してしまったなんて気が狂いそうだ。
……けれど、もしもあのエロスを具現化させたような至上の女体を失ってしまったとしても……。
リーチェ本人を取り戻せるなら、怒りに我を忘れている場合ではない。
「ガルフェリアが言っていた通り、リーチェはガルフェリアの膨大な魔力を受け入れる器とされてしまっているわ。おかげで肉体が消失しても、辛うじてアイツの器として魂がこの世に繋ぎ止められている状態だと思うの」
「……つまり、もうリーチェとガルフェリアは一心同体。ガルフェリアを滅ぼせばリーチェも死んでしまうわけだね?」
「縛鎖のペンデュラムをイメージすると分かりやすいかもね。リーチェとガルフェリアは魂が繋がった状態だから、片方の魂が傷つけばもう一方も壊れてしまうと思うべきだわ」
改めてティムルに現状を解説されて、今更ながらにゾクリと竦んでしまう。
あと半歩で俺、自分の手でリーチェを殺してしまうところだった……!
……だけど、それを悔やむのは後だ。
リーチェを殺しかけたこの両手で、さっきは掴めなかった助けを求める彼女の手を今度こそ手繰り寄せるんだっ!
「いくら魂は残っていると言っても、その魂を入れる器が失われている今、どうしたらリーチェを救えるのか分からなかったけど……。貴方を見ていて思いついたのよっ、ダンっ!」
「俺を見て? ……って、どういうこと?」
「魔力制御を極めた貴方の手で、ガルフェリアの内部からリーチェの魂を1つ残らず掻き集めるのっ!」
……つまり、魂で繋がったガルフェリあとリーチェを引き剥がして、俺の元に奪い返すってこと?
そんなことが本当に出来るなら苦労はしないんだけど、仮に出来たとしてもそれじゃ何も解決しないんじゃ……?
「完全に混ざり合ったガルフェリアとリーチェの魂を分離して、リーチェの魂だけ集めるなんて奇跡みたいな神業、貴方にしか出来ないわっ! お願いダン! リーチェの魂を取り返してっ!」
「待ったティムル。たった今ティムルが言ったばかりでしょ? 仮に魂が残っていても、その魂を収める器である肉体が失われてしまっているって。魔力だけを余さず集めきったとして、その先は一体……」
「あはーっ! そんなの決まってるでしょ! ソレも貴方が用意するのよーっ!」
「へ?」
ティムルの言っている事が理解できず、極限の戦闘状態でいる事も忘れて素で聞き返してしまう。
魔力制御を使って肉体を用意するってなに……?
ドロップアイテムならまだしも、魔力やスキルで物質を生み出すことなんて……。
「なに言ってるのよぉダン。ユニの事を忘れたとは言わせないわよぉ?」
「……あ。っていやいや、あれはマジックアイテムの仲介があって初めて出来たことで……」
「じゃあエーテルジェネレイターはどう説明するのぉ? もうとっくに貴方は証明してるのよぉ、魔力で物質を生み出すことは可能だって!」
世界を支える大樹ユニ、虚無空間に生み出した大地。
ティムルが言う通り、確かにその両方が俺が魔力から生み出した物質であると言っていいかもしれない。
……そもそも変世神話で語られるように、この世界自体が魔力で生み出された世界なのだから、魔力から物質が生み出せないはずはないのか……?
「これはこの世界の誰より……リーチェ本人よりもリーチェの肉体を知り尽くした貴方にしか出来ないことよ、ダン」
「た、確かにリーチェのエロボディのことは俺が1番知ってるというか、俺以外に知らせる気は無いけど……」
「造魔召喚スキル、世界樹の創造、虚無空間での創世、ガルフェリアが呼び込む魔力を自分の物にしてしまう圧倒的な魔力制御技術。経験も能力も充分よっ。貴方とリーチェが過ごした日々が、きっと貴方に応えてくれるわっ!」
「俺達が過ごした日々が……」
ティムルの言葉に、またしてもリーチェと歩んできた日々が思い起こされる。
けれど今度は、失ってしまった日々を嘆く走馬灯なんかじゃない。
取り戻すべき日々を思い起こす、これからやるべき事の確認作業だっ!
「……ははっ。流石はお姉さんだ。俺とリーチェの人生が試されるって言うなら、失敗するわけにはいかないねぇ?」
「あはーっ。どうせ失敗なんてしない癖にかっこつけなくていいわよぉっ」
「ソレどんなツッコミだよっ!? べべっ、別にかっこつけてもいないしっ!?」
「それにちょうどさっきまで、肉体の創造の参考に出来そうなマジックアイテムを使ってきた馬鹿が居たでしょ? 私には無理だけど、きっとダンになら応用できるんじゃないかしらぁ?」
「……な、るほど……!?」
他人をバルバロイに作り変えるマジックアイテム、ドミネーター。
もしかしたらドミネイターは周囲の認識を阻害して、全然違う人間をバルバロイに見せていただけかもしれないけれど、そんな事は関係ない。
今ここで重要なのは、それが出来ると俺が納得する材料を増やすことだ。
「……支配と言えば、竜爵家で滅ぼしたマインドロードも、始めはゴルディアさんの姿をしてたっけなぁ……!」
荒唐無稽でも屁理屈でもなんでもいい。
今まで俺が歩んできた人生から、肉体の練成に使えそうな知識を掻き集めるんだ!
思い起こされるのがたとえ関係のない体験と経験だったとしても、俺が肉体の創造が可能だと信じる材料の1つになってくれれば充分だ。
魔力は万能で全能のエネルギーだ。
発想と魔力制御能力次第で奇跡だろうがどんでん返しだろうがリセットだろうが、リーチェを取り戻す為ならなんだって引き起こしてみせるっ!
「ダメ押しにこれを貴方に託すわ、ダン」
そう言ってティムルが差し出したのは、リーチェが見につけていた2つの世界樹の護りだった。
リーチェの半身であるその美しい腕輪はほのめくような淡い翠の魔力光を放ちながら、まるで自分も戦わせてくれと俺に懇願しているかのようだ。
ティムルから2人の世界樹の護りを受け取り、先ほどまでリーチェがそうしていた通り、両方の手首に1つずつ装着する。
「……完璧だよティムル。リーチェとリュートの半身があるなら、アイツの情報には事欠かない……! これで俺は間違いなく、リーチェとリュートを取り戻し、て……」
その時、俺の頭に1つの可能性が示された。
視界の片隅に映る、ガルシアさんの生首を抱いて蹲るマーガレット陛下。
世界樹の護りがリーチェの魂の情報を持っているとしたら、ガルシアさんはどうだ?
言うまでもなく頭部には脳が、その人間の情報が詰まっているはず……。
ならば世界中の誰よりもリーチェと肌を重ねてきた俺が世界樹の護りからリーチェの肉体を復元するように、恐らくガルシアさんと肉体関係があって、魂でも結びついているマーガレット陛下なら、ガルシアさんの頭部を用いてガルシアさんを取り戻すことも出来るんじゃ……!?
「シャローーーっ!! 今すぐマーガレット陛下を呼んでくれぇっ! もしかしたら……もしかしたらガルシアさんを取り戻せるかも知れない!」
「は、はいーーっ! まったくお話が見えませんが、すぐに呼んで参りますーっ!」
「ガルシアさんの首も忘れずに持って来させてね! その首を触媒にガルフェリアの膨大な魔力からガルシアさんを復活させようって話だからさっ!」
「そうやって説明されても何1つ理解できませんが、ガルシア様の首を持って来ればガルシア様を助けられるかもしれないとだけ伝えてきますねーっ!?」
未だに泣き崩れるマーガレット陛下に、大急ぎで駆け寄っていくシャロ。
肉体の創造、人間を生み出すなんて神の所業もいいところだけど、俺はたとえ人を止めたとしてもバルバロイの生み出した悲劇を拭い去りたいんだ。
「へ……? ガルが……。ガルが、助かるかもっ……って!?」
「しっかりしなさいマギー! ご主人様が諦めていない限り、ご主人様が出来ると確信している限り可能性は残されているんです! みんなで幸せになる為に、歯を食い縛ってても立ち上がりなさいっ!」
少しずつ目の焦点が合い始めたマーガレット陛下に肩を貸して、陛下と一緒にシャロがこちらに向かってくる。
俺が諦めない限り可能性は残されている、か。随分と買い被られてしまったもんだ。
だけどシャロの信じる俺じゃないとバルバロイが零した命を取り返すことが出来ないのなら、四の五の言ってられないよなぁ!?
みんなで幸せになる為に! 今こそ魂を燃やす時だぁぁぁっ!
「リュートを取り戻す為に、そいつを殺しちゃダメだってばーっ!!」
閉ざされていた俺の意識に届けられた、ティムルとアウラの必死な声。
その声で我に返った俺はその代償に魔力制御をしくじり、双剣に込めていた魔力を花火のように炸裂させて空中で吹き飛ばされてしまった。
だけど、そんなことはどうでもいい!
リーチェとリュートを取り戻せるなら、他の全てはどうだっていい!
「『青き揺り篭。秘色の檻。汝、凍てつく終焉たる者よ。アイスコフィン』!」
高速で詠唱したアイスコフィンを足場にして無詠唱で発動したポータルに飛び込み、ティムルとアウラの反応目指して転移する。
しかし2人の元に転移した瞬間、2人ではなくニーナとフラッタが抱きついてきた。
「……良かった。戻ってこれたんだね……。お帰り、ダン……」
「まったく、リーチェ1人でこの様子では、妾たちはオチオチ死んでもいられるのじゃ……。ダンに世界を滅ぼさせぬ為に、家族全員死ぬまで幸せでいねばならぬのう……」
「ニ、ニーナ!? フラッタ!? 俺だって2人の事は抱き締めてあげたいけど、今はそんなことしてる場合じゃ……!」
胸に飛び込んできた好色家姉妹を抱き締めつつ、魔力の炸裂に巻き込まれた身体をキュアライトで癒す。
危ない危ない。
敵の攻撃なんて貰ってないのに、もう少しで自分が掻き集めた魔力の暴発で死ぬところだったよ……。
「安心してください旦那様。話をする時間は充分にありそうですよ。ほら」
こっそり冷や汗をかく俺を追い越して、話の邪魔はさせませんとばかりに俺たちを背に庇って前に出るヴァルゴ。
そんなヴァルゴがクイッと顎を振って指し示した方向には、ボロボロになって跪いているガルフェリアの姿があった。
3対6枚の翼は全て根元から千切り取られ、6本あった腕も1本を残して全て根元から消失しているようだ?
「どうやら回復も出来るようですが、流石にあの傷を一瞬で修復するのは無理のようです。ここは私が警戒しておりますので、旦那様はティムルの話を聞いてください」
「そ、そんなっ……! ヴァルゴ1人にそんなことさせるわけには……!」
「ふふっ。すっかりいつもの旦那様ですねっ。ではいつもの私たちの日常を取り戻す為にティムルの話を聞いて、リーチェのことも無事に救い出してくださいね?」
「あっ! そ、そうだった……! ティムルっ……!」
槍を構えて集中しながらも穏やかな雰囲気のヴァルゴに促され、本来の目的であったティムルの方を振り返る。
すると柔らかな雰囲気のヴァルゴとは対照的に、どこまでも厳しい表情を浮かべているティムルお姉さん。
「どういうことティムル!? ここからリーチェとリュートを助ける方法って何!? 早く教えてっ!!」
「……自分で出した結論だけどね。はっきり言ってお姉さん、こんなこと出来るとは自分でも……」
「いいから早く話してティムル! アイディアさえ聞ければ、後は俺が無理矢理にでも実現して見せるからっ!」
「ダン……。貴方って人はぁ……」
嘘でもチートでもご都合主義でもいいから、リーチェを取り戻す為ならなんだって実現してみせる。
そう宣言する俺の言葉に、今まで見たことがないくらいに険しい表情をしていたティムルは、突然気が抜けたように泣きそうな笑顔を浮かべてくれた。
「あ、はぁ……! 貴方ったら、本当にニーナちゃんの言った通りなんだからぁっ……! 不安を感じてたお姉さんが馬鹿みたいじゃないのぉっ……!」
「俺がニーナの言う通りに行動しちゃうのは今に始まった事じゃないでしょっ! そんな事よりお姉さんっ、早く話してっ!」
「勿論話してあげるわよーっ! 話してあげるから、絶対にリーチェを取り戻してねぇ?」
「それこそ勿論だよお姉さんっ! 今夜はリーチェと一緒にいっぱい可愛がってあげちゃうよっ」
楽しみだわーっと、ようやくいつもの笑顔を見せてくれるティムル。
いつだってティムルは俺とニーナを正しい道へと導いてくれた。
そんなお姉さんが笑って提案してくれるアイディアなら、きっとリーチェもリュートも連れ戻せるはずだっ!
チラリとガルフェリアの方を一瞥すると、欠損していたはずの部位の復元も進み、既に戦闘が可能な状態まで回復しているように思える。
しかしその表情は苦痛に歪み、まだ動き出す気配は無かった。
どうやらガルフェリアは今のうちに完全回復して、更にはより多くの魔力を蓄えてから反撃する算段のようだ。
回復する敵なんていつもなら面倒臭いとか煩わしいとかウザったいとしか思えないんだけど、リーチェを救うためにはガルフェリアを殺してはいけないそうなので、今の状況を考えると回復してくれるのはありがたい。
多少乱暴に扱っても壊れる心配は無さそうなので、どんなアイディアだって無理矢理成立させてみせるよーっ。
「さぁダン。私の語る夢物語、実現してもらうわよぉ?」
「任せてよ。あの日ニーナと出会った瞬間以降は、ずっと夢みたいな日々を過ごしてきたからさ」
「まずは大前提。ステータスプレートの繋がりが絶たれていないことから、リーチェの魂がまだ健在であるのは間違いないわ。けれど世界呪くらい大きなガルフェリアの全体に広まったリーチェの魂は、肉体という器を失っているというのも間違いないと思うの」
「……うん。そこは認めるよ。事実を否定したって意味が無いから」
世界からリーチェの肉体が喪われてしまった。
エロス大明神の俺専用極上エロボディが損失してしまったなんて気が狂いそうだ。
……けれど、もしもあのエロスを具現化させたような至上の女体を失ってしまったとしても……。
リーチェ本人を取り戻せるなら、怒りに我を忘れている場合ではない。
「ガルフェリアが言っていた通り、リーチェはガルフェリアの膨大な魔力を受け入れる器とされてしまっているわ。おかげで肉体が消失しても、辛うじてアイツの器として魂がこの世に繋ぎ止められている状態だと思うの」
「……つまり、もうリーチェとガルフェリアは一心同体。ガルフェリアを滅ぼせばリーチェも死んでしまうわけだね?」
「縛鎖のペンデュラムをイメージすると分かりやすいかもね。リーチェとガルフェリアは魂が繋がった状態だから、片方の魂が傷つけばもう一方も壊れてしまうと思うべきだわ」
改めてティムルに現状を解説されて、今更ながらにゾクリと竦んでしまう。
あと半歩で俺、自分の手でリーチェを殺してしまうところだった……!
……だけど、それを悔やむのは後だ。
リーチェを殺しかけたこの両手で、さっきは掴めなかった助けを求める彼女の手を今度こそ手繰り寄せるんだっ!
「いくら魂は残っていると言っても、その魂を入れる器が失われている今、どうしたらリーチェを救えるのか分からなかったけど……。貴方を見ていて思いついたのよっ、ダンっ!」
「俺を見て? ……って、どういうこと?」
「魔力制御を極めた貴方の手で、ガルフェリアの内部からリーチェの魂を1つ残らず掻き集めるのっ!」
……つまり、魂で繋がったガルフェリあとリーチェを引き剥がして、俺の元に奪い返すってこと?
そんなことが本当に出来るなら苦労はしないんだけど、仮に出来たとしてもそれじゃ何も解決しないんじゃ……?
「完全に混ざり合ったガルフェリアとリーチェの魂を分離して、リーチェの魂だけ集めるなんて奇跡みたいな神業、貴方にしか出来ないわっ! お願いダン! リーチェの魂を取り返してっ!」
「待ったティムル。たった今ティムルが言ったばかりでしょ? 仮に魂が残っていても、その魂を収める器である肉体が失われてしまっているって。魔力だけを余さず集めきったとして、その先は一体……」
「あはーっ! そんなの決まってるでしょ! ソレも貴方が用意するのよーっ!」
「へ?」
ティムルの言っている事が理解できず、極限の戦闘状態でいる事も忘れて素で聞き返してしまう。
魔力制御を使って肉体を用意するってなに……?
ドロップアイテムならまだしも、魔力やスキルで物質を生み出すことなんて……。
「なに言ってるのよぉダン。ユニの事を忘れたとは言わせないわよぉ?」
「……あ。っていやいや、あれはマジックアイテムの仲介があって初めて出来たことで……」
「じゃあエーテルジェネレイターはどう説明するのぉ? もうとっくに貴方は証明してるのよぉ、魔力で物質を生み出すことは可能だって!」
世界を支える大樹ユニ、虚無空間に生み出した大地。
ティムルが言う通り、確かにその両方が俺が魔力から生み出した物質であると言っていいかもしれない。
……そもそも変世神話で語られるように、この世界自体が魔力で生み出された世界なのだから、魔力から物質が生み出せないはずはないのか……?
「これはこの世界の誰より……リーチェ本人よりもリーチェの肉体を知り尽くした貴方にしか出来ないことよ、ダン」
「た、確かにリーチェのエロボディのことは俺が1番知ってるというか、俺以外に知らせる気は無いけど……」
「造魔召喚スキル、世界樹の創造、虚無空間での創世、ガルフェリアが呼び込む魔力を自分の物にしてしまう圧倒的な魔力制御技術。経験も能力も充分よっ。貴方とリーチェが過ごした日々が、きっと貴方に応えてくれるわっ!」
「俺達が過ごした日々が……」
ティムルの言葉に、またしてもリーチェと歩んできた日々が思い起こされる。
けれど今度は、失ってしまった日々を嘆く走馬灯なんかじゃない。
取り戻すべき日々を思い起こす、これからやるべき事の確認作業だっ!
「……ははっ。流石はお姉さんだ。俺とリーチェの人生が試されるって言うなら、失敗するわけにはいかないねぇ?」
「あはーっ。どうせ失敗なんてしない癖にかっこつけなくていいわよぉっ」
「ソレどんなツッコミだよっ!? べべっ、別にかっこつけてもいないしっ!?」
「それにちょうどさっきまで、肉体の創造の参考に出来そうなマジックアイテムを使ってきた馬鹿が居たでしょ? 私には無理だけど、きっとダンになら応用できるんじゃないかしらぁ?」
「……な、るほど……!?」
他人をバルバロイに作り変えるマジックアイテム、ドミネーター。
もしかしたらドミネイターは周囲の認識を阻害して、全然違う人間をバルバロイに見せていただけかもしれないけれど、そんな事は関係ない。
今ここで重要なのは、それが出来ると俺が納得する材料を増やすことだ。
「……支配と言えば、竜爵家で滅ぼしたマインドロードも、始めはゴルディアさんの姿をしてたっけなぁ……!」
荒唐無稽でも屁理屈でもなんでもいい。
今まで俺が歩んできた人生から、肉体の練成に使えそうな知識を掻き集めるんだ!
思い起こされるのがたとえ関係のない体験と経験だったとしても、俺が肉体の創造が可能だと信じる材料の1つになってくれれば充分だ。
魔力は万能で全能のエネルギーだ。
発想と魔力制御能力次第で奇跡だろうがどんでん返しだろうがリセットだろうが、リーチェを取り戻す為ならなんだって引き起こしてみせるっ!
「ダメ押しにこれを貴方に託すわ、ダン」
そう言ってティムルが差し出したのは、リーチェが見につけていた2つの世界樹の護りだった。
リーチェの半身であるその美しい腕輪はほのめくような淡い翠の魔力光を放ちながら、まるで自分も戦わせてくれと俺に懇願しているかのようだ。
ティムルから2人の世界樹の護りを受け取り、先ほどまでリーチェがそうしていた通り、両方の手首に1つずつ装着する。
「……完璧だよティムル。リーチェとリュートの半身があるなら、アイツの情報には事欠かない……! これで俺は間違いなく、リーチェとリュートを取り戻し、て……」
その時、俺の頭に1つの可能性が示された。
視界の片隅に映る、ガルシアさんの生首を抱いて蹲るマーガレット陛下。
世界樹の護りがリーチェの魂の情報を持っているとしたら、ガルシアさんはどうだ?
言うまでもなく頭部には脳が、その人間の情報が詰まっているはず……。
ならば世界中の誰よりもリーチェと肌を重ねてきた俺が世界樹の護りからリーチェの肉体を復元するように、恐らくガルシアさんと肉体関係があって、魂でも結びついているマーガレット陛下なら、ガルシアさんの頭部を用いてガルシアさんを取り戻すことも出来るんじゃ……!?
「シャローーーっ!! 今すぐマーガレット陛下を呼んでくれぇっ! もしかしたら……もしかしたらガルシアさんを取り戻せるかも知れない!」
「は、はいーーっ! まったくお話が見えませんが、すぐに呼んで参りますーっ!」
「ガルシアさんの首も忘れずに持って来させてね! その首を触媒にガルフェリアの膨大な魔力からガルシアさんを復活させようって話だからさっ!」
「そうやって説明されても何1つ理解できませんが、ガルシア様の首を持って来ればガルシア様を助けられるかもしれないとだけ伝えてきますねーっ!?」
未だに泣き崩れるマーガレット陛下に、大急ぎで駆け寄っていくシャロ。
肉体の創造、人間を生み出すなんて神の所業もいいところだけど、俺はたとえ人を止めたとしてもバルバロイの生み出した悲劇を拭い去りたいんだ。
「へ……? ガルが……。ガルが、助かるかもっ……って!?」
「しっかりしなさいマギー! ご主人様が諦めていない限り、ご主人様が出来ると確信している限り可能性は残されているんです! みんなで幸せになる為に、歯を食い縛ってても立ち上がりなさいっ!」
少しずつ目の焦点が合い始めたマーガレット陛下に肩を貸して、陛下と一緒にシャロがこちらに向かってくる。
俺が諦めない限り可能性は残されている、か。随分と買い被られてしまったもんだ。
だけどシャロの信じる俺じゃないとバルバロイが零した命を取り返すことが出来ないのなら、四の五の言ってられないよなぁ!?
みんなで幸せになる為に! 今こそ魂を燃やす時だぁぁぁっ!
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