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809 慟哭の最終決戦② 閃刃
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「カレン様! これより私がその男の化けの皮を剥がして差し上げましょう!」
聖銀のロングソードを俺に突きつけ、ドヤ顔で宣言できてご満悦な様子のカルナス。
そんなカルナスを見るカレンの瞳には、哀れみと呆れと失望が色濃く宿っているように思えた。
バルバロイに神器を奪われてしまったので早いところ後を追いたいんだけど、コイツを倒してから追って来いと言われた以上は無視も出来ない。
仕方ないのでご指名通りに直接相手をしてやるとしますかぁ。
カルナスの相手をする為に、みんなを背にして前に出る。
「それじゃ始めよう、カルナス元将軍。こんな何の意味も無い勝負はさっさと終わらせよっか」
「はっ! 殊勝な心掛けだが、そういうならさっさと武器を構えるがいい! 俺とと貴様を一瞬でも早く殺してやりたいと思っているのだ! 早く構えんかぁっ!!」
「アンタ如きに俺の剣は勿体無いよ。このままでいいからかかっておいで、ピエロ君」
「……あ?」
ピエロと蔑む俺に、怒りではなく疑問を顔に浮かべるカルナス。
この様子だと本当に何も知らないらしいな。
「お前の愛するカレンは既に俺と婚姻を交した上に、もう俺の子を身篭ってるよ? 毎日毎日溢れるほどに種付けしてやってるからね」
「……………………は?」
「アンタが居なくなった後、帝国では転職魔法陣も増えて帝国民の暮らしも劇的に向上してる。もう帝国にアンタが座る椅子は無いよ?」
この世界にはピエロなんて居ないはずなので、俺の事がカルナスにはどう伝わっているんだろうなぁなんて思いながら、カレンへの種付けも帝国の発展も教えてやった。
お前なんかいなくても、ヴェルモート帝国は痛くも痒くもなかったんだよ。
「カレンの支持率も最早揺るぎないものとなって、カレンは神器への執着をさっぱりと捨ててしまったよ? そんなカレンが今更識の水晶なんて求めると思う?」
「……た、らめ……だ……!」
「アンタに付いて行ってしまった器巫女の処遇は極刑。海洋研究所もカレンに見限られて研究者たちは全員首だ。カレンにも帝国民にも迷惑をかけ続けて、バルバロイなんかに踊らされてるアンタの事をピエロと言わずになんと言えって……」
「でたらめをっ……! 並べ立てるなぁぁぁぁぁぁっ!!」
怒りの咆哮と共に、閃刃を纏った横薙ぎの一閃を放ってくるカルナス。
だけど残念ながら剣の腕も魔力制御も、以前対峙した時から殆ど成長が見られない。
辛うじて職業浸透数は増えているっぽいけど、既に俺はおろかカレンにだって大きく劣ってしまったこんな剣に、俺が剣を合わせてやる義理も無い。
フルファインダーで転移斬撃の要領で手刀を飛ばし、カルナスの持つロングソードの刀身を根元から叩き折ってやる。
以前は武器を通さないと扱えなかったアウターブレイクも、転移斬撃ならば武器を通す必要は無くなったようだ。
「はぁーーっ!! ……はぁっ!?」
燃え滾る怒りを乗せたを1撃を放ったカルナスは、剣を振り切った後に自分の愛剣の刀身が失われている事に気付いて、まるでコントのような綺麗な2度見を披露してくれた。
その卓越した芸に敬意を表して、カルナスの左頬に右拳をプレゼントする。
「ぐぺっ!?」
殴られる瞬間まで愛剣の失われた刀身しか見ていなかったカルナスは、無防備な状態で俺の右拳をまともに受けて大袈裟に吹っ飛んだ。
流石にキュアライトは纏ってないけど、アウター最深部に来れるくせに殴っただけで吹っ飛びすぎだから。
「ななっ!? なにがっ!? いったい何が……!?」
……コイツ、なんか本当に道化だな?
言動もリアクションもどこか大袈裟で、理想の自分を演じて悦に浸ってるような雰囲気を感じる。
「……残念だよカルナス。閃刃を編み出すのは並大抵の努力じゃなかっただろうに、剣の腕も魔力制御もそこで満足してしまうなんてさ。お前が求めたのは強さじゃなくて、帝国最強という肩書きだったんだな」
確かに閃刃を自在に扱えるようになれば、守人やラトリアクラスの達人でなければ種族関係なく無双出来てしまうだろう。
だからそこが到達点だと勘違いしてもおかしくはないかもしれないけどさぁ。
王国最強の竜爵家と手を合わせてみるとか、前人未到の狂乱の渓谷の最深部を目指してみるとか、やれる事はいっぱいあっただろうに……。
そこで研鑽を止めてしまうから道化に成り下がるんだよ、馬鹿野郎。
「お前が剥がすべき化けの皮なんてないよカルナス。単純にお前は俺より遥かに弱くて、俺の動きについてこれなかっただけだ」
「ひぃっ!? く、来るなぁっ……!」
派手に吹っ飛んだカルナスと会話を続ける為にゆっくり歩み寄っただけで、来るな来るなと取り乱すカルナス。
そのあまりにも無様な姿に、哀れみを通り越して悲しみすら覚えてしまう。
「……その様子じゃもう戦意もなさそうだけど、悪いけど容赦はしてやれないよ。バルバロイに与して俺と敵対した以上、お前の死はぜった……」
「済まないダン。時間が無いのは分かっているが、私に話をさせてもらえないだろうか?」
「カレン? 別に構わないけど……」
これ以上は時間の無駄かなと止めを刺そうとした時、落ち着いた口調でカレンが会話を申し出てくる。
優しいカレンのことだから、散々カレンに楯突いたカルナスのことですら死なせたくなかったかな?
と思ったら、カレンは意外な事を要求してくる。
「重ね重ね済まないダン。カルナスを治療して、奴に新しい剣をひと振り用意してもらえないだろうか?」
「へ? なんで? 可愛いカレンのおねだりは勿論聞くけど、理由は教えてもらえる?」
「無論だ。……だが貴様に何も言わずにこんな事をする身勝手な妻をどうか許して欲しい」
おねだりの理由ではなく懺悔のように呟いたカレンは、未だ座り込んだままバタバタともがいているカルナスに声をかける。
「私と勝負しろカルナス! 貴様が勝ったら貴様の妻でも性奴隷でも、私のこの身を好きに扱うがいい!」
「なっ!? カレン、何を言って……!」
「だが私が勝った暁には、この場で私に生涯絶対服従を誓ってもらい、更には従属魔法で隷属してもらう! 生涯をこの帝国の発展と私の生活の為に捧げてもらうぞ!」
勝っても負けてもお互いの命を保証するようなカレンの宣言に、明らかに安堵したような表情を浮かべるカルナス。
そして次の瞬間一瞬だけ欲情した表情を浮かべ、しかし直ぐに取り繕った。
「そ、そんな約束をしていいのですかカレン様……?
「御託はいいっ! 受けるかどうか今すぐ決めよ!」
「ふ、ふふ……。確かにカレン様の剣の腕は認めますが、閃刃を操る俺に勝てるとお思いで……?」
「……貴様は本当に私の話を聞かん奴だなぁ?」
イエスかノーかを聞いているだけなのに、それすらなかなか答えないカルナスに大きくため息をつくカレン。
傍から2人のやり取りを見ているだけでもイライラさせられちゃうなぁ。
「結局貴様は、心の奥では私の下に見ていたんだろう? 剣の腕でいつか力ずくでものにしてみせるとでも思っていたか?」
「なっ!? 私は決してそのような……」
「受けるかどうかすぐ答えよ。……そうだなぁ。次にひと言でも余計な事を喋ったら、我が愛する夫に殺してもらうとしようか」
「……っ。う、受けます! 受けない理由がありませんっ!」
完全に俺抜きで、カレンとカルナスの互いの生涯を賭けた1戦が成立してしまった模様。
勿論カレンがカルナスに負けるとは思ってないけど、やっぱり気分はよくないなぁ。
カルナスにキュアライトをかけつつ聖銀のロングソードを作り出し、カルナスの目の前に放り投げてやる。
慌ててその剣を拾い俺から距離を取るカルナスは無視して、集中を深めているカレンにひと言クレームを入れておこう。
「負けちゃダメだよカレン。俺はもうお前の意思すら無視してお前を生涯愛すると決めたんだから、お前が負けた瞬間にカルナスを躊躇くなく殺しちゃうからね。カルナスを死なせたくないなら絶対に勝って」
「ふふ。敵対者の命を脅しに使うなど、本当に貴様と一緒だと飽きないな」
静かに集中していたカレンだったけど、俺が声をかけると嬉しそうに微笑を浮かべてくれた。
うん。カルナスなんかに渡すわけにはいかないよ。カレンは生涯俺だけの女だ。
「安心してくれダン。私とて愛する貴様と気兼ねなく生涯を共にする為、こんなところで陰りを残す気は無いからな」
「信じてるよカレン。2度と悪さ出来ないようにしっかり折ってあげて。お前とカルナスの間にどんな事情があるかは分からないけど、そいつを死なせたくないならね」
「……!」
いやいや、何でそれを!? みたいな顔されて困るよ。
当てずっぽうで言ってみただけで、詳しい事情は何も知らないんだからさ。
けど、いくら優しいカレンでもカルナスの事は優遇しすぎているとは思ってた。
海洋研究所の研究員や器巫女に対しても極刑を避ける為に色々と便宜を図っていたけれど、それでも必要に迫られれば処断する非情さがカレンにはあるはずだ。
しかし度重なる命令違反に国家反逆罪、それどころか人類に敵対しそうなバルバロイに与してなお、カレンはこの男を死なせたくないと思っているように見えて仕方が無い。
もしかして男女間の感情によって不合理にカルナスを庇っている可能性も考えたけど、カレンからはカルナスに対する恋愛感情のようなものは感じない。
むしろ嫌だけど仕方なく、といった感情が強そうなカレンの態度。
それはまるで、仲が悪い家族に対する態度のように――――。
「体にも剣にも不安は無いか? これから敗北する貴様に言い訳を許す気は無い。存分に検分しろ」
俺から視線を切ったカレンは、決意に満ちた表情を浮かべながらゆっくりとカルナスに歩み寄る。
俺からは無様に距離を取ったカルナスも、流石にカレンの接近から逃げ出すような真似はしなかった。
「不安が無ければ早速始めるぞ。お仲間のバルバロイのせいで時間が無いからな。それとも時間稼ぎに命乞いでもしてみるか?」
「勝負が終われば俺のモノになるのに随分急ぎますねぇ? 実は本音ではその男から離れたがっているんですかぁ?」
「下らん。貴様の自己中心的な考えに付き合う気は無い」
下卑た笑顔を浮かべるカルナスを一蹴し、更に1段階集中を深くするカレン。
静かに呼吸を繰り返しながら、閃刃の白い魔力をその身に纏う。
「その調子なら気を遣うのも馬鹿らしいな。構えろ」
「なっ!? そ、それは閃刃……!? なんでカレン様が……」
「3秒後に切りかかる。敗北したいならそのまま馬鹿面のままでいるんだな」
「ちっ……! なっ、舐めるなぁーーっ!」
カレンの静かな宣言を3秒間は攻撃されないと捉えたカルナスは、一瞬で閃刃を纏って躊躇なくカレンに斬りかかってくる。
しかし同じ閃刃を身に纏ったカレンはカルナスの1撃を難なく掻い潜り、そして相手の首元にピタリと剣の刃を当ててみせた。
自分が切りかかったはずなのになぜか剣を突きつけられている状況に、カルナスが首元に視線を落としながら困惑している。
「……え?」
「これで勝負アリだが……。互いの生涯を賭けた1戦がこれでは笑い話にもならんなぁ……」
カルナスの首筋に当てていた己の剣を溜め息混じりに外し、やれやれとゆっくり後ずさって距離を取るカレン。
そんなカレンを、カルナスは1撃を放ったままの格好のままで見送っている。
「仕切り直しだカルナス。次は一合くらいは打ち合ってくれ。元とは言え、帝国最強の肩書きが泣いているぞ?」
「……っ! 確かに腕を上げられたようですが、今ので勝負を決めなかった事を後悔させてやりますよっ! 今のは間もなく俺のものとなるその身体に傷をつけないように手加減しただけですからね……!」
「言い訳ばかりだなカルナス。私にも責任の一端はあるのかもしれないが、実力で最強にまで成り上がった貴様の変わり果てた姿、ただただ哀れだ」
「その減らず口、今すぐ黙らせてやりますよぉーーっ!!」
怒りに身を任せてカレンに切りかかるカルナス。
しかし最早勝利後の報酬も忘れたように容赦なく繰り出される閃刃の連撃を、ひらりひらりと難なく躱すカレン。
カルナスは閃刃の速度でもカレンに後れを取っているけれど、それ以上に制御性で大きく水を開けられているな。
カルナスは自身の閃刃の動きに五感が追いついていないけれど、既にカレンは閃刃の速度域で思考し、反応することが出来るようになっているのだ。
職業の祝福は感情の昂りによって励起するものでもあるので、激情のままに剣を振るうカルナスの判断も間違いだとは言えない。
しかし今のカルナスはエロ集中を覚える前の俺のような状態で、自身の感情を制御する術を持っていない。
そんな剣では閃刃を完璧に制御しているカレンを倒すことなど出来るはずはない。
「ひっ……! く、くそっ! くっそぉ! なんで……なんでだぁぁぁっ!!」
自身の剣はあっさりといなされ、合間合間に何度も首筋に剣を当てられるカルナス。
その度に冷たい目をしたカレンに剣を引かれるのが屈辱で仕方ないらしい。
そうやって2分程度の攻防が繰り返されたあと、息1つ乱さず静かに閃刃を解いたカレンの前には、魔力枯渇を起こして這い蹲るカルナスの姿があった。
「……勝負有りだ、カルナス」
カルナスの眼前に、愛剣の切っ先を突きつけるカレン。
しかしカルナスは己の眼前に突きつけられた現実から目を逸らすように項垂れたまま、顔をあげることはなかった。
「これ以上は時間の無駄だな。3秒以内に降伏を認めれば私の奴隷に、認めなければ私の剣の錆にしてやる。いち……。に……。さ……」
「……れの、負け……です……」
「聞こえん。そのまま震える声で死ぬがいいカルナス。せめて私が引導を渡して……」
「はいはい分かりましたぁっ! 分かりましたよっ! 俺の負けです! 負けましたよ! これで満足ですか陛下ぁっ!?」
握っていたミスリルの剣をカレンに向かって投げつけながら、自暴自棄になったような敗北宣言をするカルナス。
投げつけられたロングソードを涼しい顔で俺に向かって弾いたカレンは、最早カルナスには何の感情も抱いていないように無表情だった。
この剣は中古品として市場に流通させることにして……と。
それじゃまずは、この逆ギレ男をさっさと隷属させちゃいましょうねー?
聖銀のロングソードを俺に突きつけ、ドヤ顔で宣言できてご満悦な様子のカルナス。
そんなカルナスを見るカレンの瞳には、哀れみと呆れと失望が色濃く宿っているように思えた。
バルバロイに神器を奪われてしまったので早いところ後を追いたいんだけど、コイツを倒してから追って来いと言われた以上は無視も出来ない。
仕方ないのでご指名通りに直接相手をしてやるとしますかぁ。
カルナスの相手をする為に、みんなを背にして前に出る。
「それじゃ始めよう、カルナス元将軍。こんな何の意味も無い勝負はさっさと終わらせよっか」
「はっ! 殊勝な心掛けだが、そういうならさっさと武器を構えるがいい! 俺とと貴様を一瞬でも早く殺してやりたいと思っているのだ! 早く構えんかぁっ!!」
「アンタ如きに俺の剣は勿体無いよ。このままでいいからかかっておいで、ピエロ君」
「……あ?」
ピエロと蔑む俺に、怒りではなく疑問を顔に浮かべるカルナス。
この様子だと本当に何も知らないらしいな。
「お前の愛するカレンは既に俺と婚姻を交した上に、もう俺の子を身篭ってるよ? 毎日毎日溢れるほどに種付けしてやってるからね」
「……………………は?」
「アンタが居なくなった後、帝国では転職魔法陣も増えて帝国民の暮らしも劇的に向上してる。もう帝国にアンタが座る椅子は無いよ?」
この世界にはピエロなんて居ないはずなので、俺の事がカルナスにはどう伝わっているんだろうなぁなんて思いながら、カレンへの種付けも帝国の発展も教えてやった。
お前なんかいなくても、ヴェルモート帝国は痛くも痒くもなかったんだよ。
「カレンの支持率も最早揺るぎないものとなって、カレンは神器への執着をさっぱりと捨ててしまったよ? そんなカレンが今更識の水晶なんて求めると思う?」
「……た、らめ……だ……!」
「アンタに付いて行ってしまった器巫女の処遇は極刑。海洋研究所もカレンに見限られて研究者たちは全員首だ。カレンにも帝国民にも迷惑をかけ続けて、バルバロイなんかに踊らされてるアンタの事をピエロと言わずになんと言えって……」
「でたらめをっ……! 並べ立てるなぁぁぁぁぁぁっ!!」
怒りの咆哮と共に、閃刃を纏った横薙ぎの一閃を放ってくるカルナス。
だけど残念ながら剣の腕も魔力制御も、以前対峙した時から殆ど成長が見られない。
辛うじて職業浸透数は増えているっぽいけど、既に俺はおろかカレンにだって大きく劣ってしまったこんな剣に、俺が剣を合わせてやる義理も無い。
フルファインダーで転移斬撃の要領で手刀を飛ばし、カルナスの持つロングソードの刀身を根元から叩き折ってやる。
以前は武器を通さないと扱えなかったアウターブレイクも、転移斬撃ならば武器を通す必要は無くなったようだ。
「はぁーーっ!! ……はぁっ!?」
燃え滾る怒りを乗せたを1撃を放ったカルナスは、剣を振り切った後に自分の愛剣の刀身が失われている事に気付いて、まるでコントのような綺麗な2度見を披露してくれた。
その卓越した芸に敬意を表して、カルナスの左頬に右拳をプレゼントする。
「ぐぺっ!?」
殴られる瞬間まで愛剣の失われた刀身しか見ていなかったカルナスは、無防備な状態で俺の右拳をまともに受けて大袈裟に吹っ飛んだ。
流石にキュアライトは纏ってないけど、アウター最深部に来れるくせに殴っただけで吹っ飛びすぎだから。
「ななっ!? なにがっ!? いったい何が……!?」
……コイツ、なんか本当に道化だな?
言動もリアクションもどこか大袈裟で、理想の自分を演じて悦に浸ってるような雰囲気を感じる。
「……残念だよカルナス。閃刃を編み出すのは並大抵の努力じゃなかっただろうに、剣の腕も魔力制御もそこで満足してしまうなんてさ。お前が求めたのは強さじゃなくて、帝国最強という肩書きだったんだな」
確かに閃刃を自在に扱えるようになれば、守人やラトリアクラスの達人でなければ種族関係なく無双出来てしまうだろう。
だからそこが到達点だと勘違いしてもおかしくはないかもしれないけどさぁ。
王国最強の竜爵家と手を合わせてみるとか、前人未到の狂乱の渓谷の最深部を目指してみるとか、やれる事はいっぱいあっただろうに……。
そこで研鑽を止めてしまうから道化に成り下がるんだよ、馬鹿野郎。
「お前が剥がすべき化けの皮なんてないよカルナス。単純にお前は俺より遥かに弱くて、俺の動きについてこれなかっただけだ」
「ひぃっ!? く、来るなぁっ……!」
派手に吹っ飛んだカルナスと会話を続ける為にゆっくり歩み寄っただけで、来るな来るなと取り乱すカルナス。
そのあまりにも無様な姿に、哀れみを通り越して悲しみすら覚えてしまう。
「……その様子じゃもう戦意もなさそうだけど、悪いけど容赦はしてやれないよ。バルバロイに与して俺と敵対した以上、お前の死はぜった……」
「済まないダン。時間が無いのは分かっているが、私に話をさせてもらえないだろうか?」
「カレン? 別に構わないけど……」
これ以上は時間の無駄かなと止めを刺そうとした時、落ち着いた口調でカレンが会話を申し出てくる。
優しいカレンのことだから、散々カレンに楯突いたカルナスのことですら死なせたくなかったかな?
と思ったら、カレンは意外な事を要求してくる。
「重ね重ね済まないダン。カルナスを治療して、奴に新しい剣をひと振り用意してもらえないだろうか?」
「へ? なんで? 可愛いカレンのおねだりは勿論聞くけど、理由は教えてもらえる?」
「無論だ。……だが貴様に何も言わずにこんな事をする身勝手な妻をどうか許して欲しい」
おねだりの理由ではなく懺悔のように呟いたカレンは、未だ座り込んだままバタバタともがいているカルナスに声をかける。
「私と勝負しろカルナス! 貴様が勝ったら貴様の妻でも性奴隷でも、私のこの身を好きに扱うがいい!」
「なっ!? カレン、何を言って……!」
「だが私が勝った暁には、この場で私に生涯絶対服従を誓ってもらい、更には従属魔法で隷属してもらう! 生涯をこの帝国の発展と私の生活の為に捧げてもらうぞ!」
勝っても負けてもお互いの命を保証するようなカレンの宣言に、明らかに安堵したような表情を浮かべるカルナス。
そして次の瞬間一瞬だけ欲情した表情を浮かべ、しかし直ぐに取り繕った。
「そ、そんな約束をしていいのですかカレン様……?
「御託はいいっ! 受けるかどうか今すぐ決めよ!」
「ふ、ふふ……。確かにカレン様の剣の腕は認めますが、閃刃を操る俺に勝てるとお思いで……?」
「……貴様は本当に私の話を聞かん奴だなぁ?」
イエスかノーかを聞いているだけなのに、それすらなかなか答えないカルナスに大きくため息をつくカレン。
傍から2人のやり取りを見ているだけでもイライラさせられちゃうなぁ。
「結局貴様は、心の奥では私の下に見ていたんだろう? 剣の腕でいつか力ずくでものにしてみせるとでも思っていたか?」
「なっ!? 私は決してそのような……」
「受けるかどうかすぐ答えよ。……そうだなぁ。次にひと言でも余計な事を喋ったら、我が愛する夫に殺してもらうとしようか」
「……っ。う、受けます! 受けない理由がありませんっ!」
完全に俺抜きで、カレンとカルナスの互いの生涯を賭けた1戦が成立してしまった模様。
勿論カレンがカルナスに負けるとは思ってないけど、やっぱり気分はよくないなぁ。
カルナスにキュアライトをかけつつ聖銀のロングソードを作り出し、カルナスの目の前に放り投げてやる。
慌ててその剣を拾い俺から距離を取るカルナスは無視して、集中を深めているカレンにひと言クレームを入れておこう。
「負けちゃダメだよカレン。俺はもうお前の意思すら無視してお前を生涯愛すると決めたんだから、お前が負けた瞬間にカルナスを躊躇くなく殺しちゃうからね。カルナスを死なせたくないなら絶対に勝って」
「ふふ。敵対者の命を脅しに使うなど、本当に貴様と一緒だと飽きないな」
静かに集中していたカレンだったけど、俺が声をかけると嬉しそうに微笑を浮かべてくれた。
うん。カルナスなんかに渡すわけにはいかないよ。カレンは生涯俺だけの女だ。
「安心してくれダン。私とて愛する貴様と気兼ねなく生涯を共にする為、こんなところで陰りを残す気は無いからな」
「信じてるよカレン。2度と悪さ出来ないようにしっかり折ってあげて。お前とカルナスの間にどんな事情があるかは分からないけど、そいつを死なせたくないならね」
「……!」
いやいや、何でそれを!? みたいな顔されて困るよ。
当てずっぽうで言ってみただけで、詳しい事情は何も知らないんだからさ。
けど、いくら優しいカレンでもカルナスの事は優遇しすぎているとは思ってた。
海洋研究所の研究員や器巫女に対しても極刑を避ける為に色々と便宜を図っていたけれど、それでも必要に迫られれば処断する非情さがカレンにはあるはずだ。
しかし度重なる命令違反に国家反逆罪、それどころか人類に敵対しそうなバルバロイに与してなお、カレンはこの男を死なせたくないと思っているように見えて仕方が無い。
もしかして男女間の感情によって不合理にカルナスを庇っている可能性も考えたけど、カレンからはカルナスに対する恋愛感情のようなものは感じない。
むしろ嫌だけど仕方なく、といった感情が強そうなカレンの態度。
それはまるで、仲が悪い家族に対する態度のように――――。
「体にも剣にも不安は無いか? これから敗北する貴様に言い訳を許す気は無い。存分に検分しろ」
俺から視線を切ったカレンは、決意に満ちた表情を浮かべながらゆっくりとカルナスに歩み寄る。
俺からは無様に距離を取ったカルナスも、流石にカレンの接近から逃げ出すような真似はしなかった。
「不安が無ければ早速始めるぞ。お仲間のバルバロイのせいで時間が無いからな。それとも時間稼ぎに命乞いでもしてみるか?」
「勝負が終われば俺のモノになるのに随分急ぎますねぇ? 実は本音ではその男から離れたがっているんですかぁ?」
「下らん。貴様の自己中心的な考えに付き合う気は無い」
下卑た笑顔を浮かべるカルナスを一蹴し、更に1段階集中を深くするカレン。
静かに呼吸を繰り返しながら、閃刃の白い魔力をその身に纏う。
「その調子なら気を遣うのも馬鹿らしいな。構えろ」
「なっ!? そ、それは閃刃……!? なんでカレン様が……」
「3秒後に切りかかる。敗北したいならそのまま馬鹿面のままでいるんだな」
「ちっ……! なっ、舐めるなぁーーっ!」
カレンの静かな宣言を3秒間は攻撃されないと捉えたカルナスは、一瞬で閃刃を纏って躊躇なくカレンに斬りかかってくる。
しかし同じ閃刃を身に纏ったカレンはカルナスの1撃を難なく掻い潜り、そして相手の首元にピタリと剣の刃を当ててみせた。
自分が切りかかったはずなのになぜか剣を突きつけられている状況に、カルナスが首元に視線を落としながら困惑している。
「……え?」
「これで勝負アリだが……。互いの生涯を賭けた1戦がこれでは笑い話にもならんなぁ……」
カルナスの首筋に当てていた己の剣を溜め息混じりに外し、やれやれとゆっくり後ずさって距離を取るカレン。
そんなカレンを、カルナスは1撃を放ったままの格好のままで見送っている。
「仕切り直しだカルナス。次は一合くらいは打ち合ってくれ。元とは言え、帝国最強の肩書きが泣いているぞ?」
「……っ! 確かに腕を上げられたようですが、今ので勝負を決めなかった事を後悔させてやりますよっ! 今のは間もなく俺のものとなるその身体に傷をつけないように手加減しただけですからね……!」
「言い訳ばかりだなカルナス。私にも責任の一端はあるのかもしれないが、実力で最強にまで成り上がった貴様の変わり果てた姿、ただただ哀れだ」
「その減らず口、今すぐ黙らせてやりますよぉーーっ!!」
怒りに身を任せてカレンに切りかかるカルナス。
しかし最早勝利後の報酬も忘れたように容赦なく繰り出される閃刃の連撃を、ひらりひらりと難なく躱すカレン。
カルナスは閃刃の速度でもカレンに後れを取っているけれど、それ以上に制御性で大きく水を開けられているな。
カルナスは自身の閃刃の動きに五感が追いついていないけれど、既にカレンは閃刃の速度域で思考し、反応することが出来るようになっているのだ。
職業の祝福は感情の昂りによって励起するものでもあるので、激情のままに剣を振るうカルナスの判断も間違いだとは言えない。
しかし今のカルナスはエロ集中を覚える前の俺のような状態で、自身の感情を制御する術を持っていない。
そんな剣では閃刃を完璧に制御しているカレンを倒すことなど出来るはずはない。
「ひっ……! く、くそっ! くっそぉ! なんで……なんでだぁぁぁっ!!」
自身の剣はあっさりといなされ、合間合間に何度も首筋に剣を当てられるカルナス。
その度に冷たい目をしたカレンに剣を引かれるのが屈辱で仕方ないらしい。
そうやって2分程度の攻防が繰り返されたあと、息1つ乱さず静かに閃刃を解いたカレンの前には、魔力枯渇を起こして這い蹲るカルナスの姿があった。
「……勝負有りだ、カルナス」
カルナスの眼前に、愛剣の切っ先を突きつけるカレン。
しかしカルナスは己の眼前に突きつけられた現実から目を逸らすように項垂れたまま、顔をあげることはなかった。
「これ以上は時間の無駄だな。3秒以内に降伏を認めれば私の奴隷に、認めなければ私の剣の錆にしてやる。いち……。に……。さ……」
「……れの、負け……です……」
「聞こえん。そのまま震える声で死ぬがいいカルナス。せめて私が引導を渡して……」
「はいはい分かりましたぁっ! 分かりましたよっ! 俺の負けです! 負けましたよ! これで満足ですか陛下ぁっ!?」
握っていたミスリルの剣をカレンに向かって投げつけながら、自暴自棄になったような敗北宣言をするカルナス。
投げつけられたロングソードを涼しい顔で俺に向かって弾いたカレンは、最早カルナスには何の感情も抱いていないように無表情だった。
この剣は中古品として市場に流通させることにして……と。
それじゃまずは、この逆ギレ男をさっさと隷属させちゃいましょうねー?
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※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
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自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
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この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
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しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
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